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庶民街の灯り8
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しばらくレオニスさんは黙って歩いていた。俺はその後を黙ってついていく。さっきのパン屋さんのことがショックなんだろうな。お腹を空かせた子供が働いているなんてレオニスさんにはショックだったと思う。俺でさえショックだったから。貧困はもうすぐそこまで来ているという証だ。レオニスさんとしては保護法案をなんとしても通したいと思うだろう。
市場の中を歩きながら、たまに足を止めては店主に話を訊いていた。
「ユージン、売れ行きはどうだ?」
「伯爵さま! そうですね。そこそこ出てはいますが、肉を贅沢品としている者もいるから、少し落ちてますね」
その店主の言葉を聞いて俺はびっくりした。厳しくなってくると確かに計算しながら食料品を買うことはある。でも、肉を贅沢品と考えるなんて思いもしなかった。日本よりも状況は悪そうだ。
「そうか……。なにもできずに申し訳ない」
「そんな! 伯爵さまが俺たち庶民のために戦ってくれているのは知っています。だから謝らないでください」
そうか。みんなレオニスさんが国会で戦っているのは知っているのか。だから一目で貴族とわかる身なりをしていてもなんの被害もないのか。誰もレオニスさんに罵声を浴びせたりとかがない。それはレオニスさんが自分たちのために戦っていることを知っているからなんだ。
「しかし、売れ残った肉は処分するしかないだろう」
「確かにそうですが、今は仕方がないですよ」
「……タクヤ。和食ではどの肉をよく使う?」
「どの肉も使いますよ。でも、近々、竜田揚げを作ろうとしていたので鶏肉が欲しいです。部位はどこでもいいです。余ってる部位がいいです」
レオニスさんは自分が購入することで、ほんの少しでもお金を落とそうと考えているのだろう。それがわかるから、俺はあえて余っている部位と言った。
「あと、豚汁をもう一度飲みたいのだが、そうしたら豚肉か」
「そうです」
「ユージン、というわけで鶏肉と豚肉を貰おう。部位はどこでもいいそうだ」
「え……あの……」
「鶏肉って胸肉が一番残りませんか?」
「あぁ、はい」
「じゃあ胸肉と、豚肉は細切れで」
レオニスさんに次いで俺がそう言うと、ユージンと呼ばれた店主さんはしばらく固まっていたけれど、なにが起こったのか理解すると、慌ててお肉を包んでくれた。そしてレオニスさんがお金を払うとユージンさんはびっくりして言った。
「伯爵さま。これでは多すぎます」
「買う者が減った分すべてを補填することはできないが、少しは足しになるか?」
「そんな!」
「私は必要な肉を買った。これで、このタクヤに癒やしの料理を作って貰うのだ。その期待料だ。取っておけ」
「……ありがとうございます」
お金を大事に袋に入れる店主さんの目は潤んでいた。そうだよな。そばにいる俺までうるっとくるんだから、当人はもっとだろう。
「また屋敷からの注文を頼む」
「はい。ありがとうございます」
再度、頭を下げる店主さんにレオニスさんは微笑むと、また市場の中を歩いて行った。その背中は寂しそうだった。
次にレオニスさんが足を止めたのは魚屋さんだった。新鮮な魚が売られていて、屋敷ではもう買っているだろうけど、美味しそうな鯵を買いたくなった。鯵はルナの好物だ。ここでもレオニスさんは同じことをするだろう。それなら最初に言ってしまおう。
「レオニスさん。わがままを言ってもいいですか」
「なんだ。珍しいな」
「はい。あの、鯵が欲しいです」
「鯵?」
「はい。鯵の開きはルナの好物なんです」
「そうか。それでは買って行ってやろう。以前、私にも焼いてくれたな?」
「はい。出しました」
「あれは美味しかったな。また焼いてくれ」
「もちろんです」
「リアム。鯵の開きを3枚。いや、全員分買っていくか。11枚くれ」
全員分ということは屋敷のメイドさんやニコラスさんたちの分もだ。
「アーゼンハイツ伯爵様!」
「ああ、挨拶はいらない。それより鯵をくれ」
「は、はいっ!」
声をかけられた魚屋さんは慌てて鯵を袋に入れてくれた。それを俺は受け取り、先ほどの肉と一緒に持つ。
「今は商売も厳しいだろうが、もう少し頑張ってくれ。私も頑張るから」
「伯爵様……」
レオニスさんに優しい言葉をかけられた魚屋さんは、先ほどの肉屋さんと同じように目を潤ませていた。そうなっちゃうよね。だって、優しいんだ。
「苦労をかけてすまないな」
その一言に店主さんは下を向いて完全に泣き出した。
「それより、リアム。魚をさばけるか?」
泣いていた店主さんはレオニスさんの一言に顔をあげ、不思議そうな顔を返す。ああ、これ、刺し身じゃないかな。
「はい。それは……」
「そうしたらそのうち、新鮮な魚をさばいてくれ。刺し身というのを食べてみたいのだ」
やっぱり刺し身だった。でも、ここの世界で生魚を食べる習慣がなかったら刺し身と言われてもわからないだろうに。だから俺は口を挟むことにした。
「俺の国では新鮮な魚はさばいて、生で食べる習慣があるんです。レオ……伯爵様は一度それを所望しているので」
「生で! それはどの魚でもいいんですか?」
「大体の魚はいけますが、まぐろ、サーモンなどがポピュラーです」
「どちらもさばくことはできます」
「そうか。そうしたら今度、屋敷でさばいてくれ」
「かしこまりました」
魚をさばいてくれと言われた店主さんはなにがどうなっているかわからない、という顔だった。
「それで鯵はこれで足りるか?」
「伯爵様! 多すぎます」
そう言って返そうとする店主さんにレオニスさんは言った。
「もうすぐ刺し身が食べられると思うと嬉しくてな。その分の代金だ。受け取ってくれ。タクヤ、行こうか」
「はい」
店主さんがなにか言いたそうな顔をしていたが、レオニスさんはそれに気づかないふりをして魚屋さんをあとにした。
市場の中を歩きながら、たまに足を止めては店主に話を訊いていた。
「ユージン、売れ行きはどうだ?」
「伯爵さま! そうですね。そこそこ出てはいますが、肉を贅沢品としている者もいるから、少し落ちてますね」
その店主の言葉を聞いて俺はびっくりした。厳しくなってくると確かに計算しながら食料品を買うことはある。でも、肉を贅沢品と考えるなんて思いもしなかった。日本よりも状況は悪そうだ。
「そうか……。なにもできずに申し訳ない」
「そんな! 伯爵さまが俺たち庶民のために戦ってくれているのは知っています。だから謝らないでください」
そうか。みんなレオニスさんが国会で戦っているのは知っているのか。だから一目で貴族とわかる身なりをしていてもなんの被害もないのか。誰もレオニスさんに罵声を浴びせたりとかがない。それはレオニスさんが自分たちのために戦っていることを知っているからなんだ。
「しかし、売れ残った肉は処分するしかないだろう」
「確かにそうですが、今は仕方がないですよ」
「……タクヤ。和食ではどの肉をよく使う?」
「どの肉も使いますよ。でも、近々、竜田揚げを作ろうとしていたので鶏肉が欲しいです。部位はどこでもいいです。余ってる部位がいいです」
レオニスさんは自分が購入することで、ほんの少しでもお金を落とそうと考えているのだろう。それがわかるから、俺はあえて余っている部位と言った。
「あと、豚汁をもう一度飲みたいのだが、そうしたら豚肉か」
「そうです」
「ユージン、というわけで鶏肉と豚肉を貰おう。部位はどこでもいいそうだ」
「え……あの……」
「鶏肉って胸肉が一番残りませんか?」
「あぁ、はい」
「じゃあ胸肉と、豚肉は細切れで」
レオニスさんに次いで俺がそう言うと、ユージンと呼ばれた店主さんはしばらく固まっていたけれど、なにが起こったのか理解すると、慌ててお肉を包んでくれた。そしてレオニスさんがお金を払うとユージンさんはびっくりして言った。
「伯爵さま。これでは多すぎます」
「買う者が減った分すべてを補填することはできないが、少しは足しになるか?」
「そんな!」
「私は必要な肉を買った。これで、このタクヤに癒やしの料理を作って貰うのだ。その期待料だ。取っておけ」
「……ありがとうございます」
お金を大事に袋に入れる店主さんの目は潤んでいた。そうだよな。そばにいる俺までうるっとくるんだから、当人はもっとだろう。
「また屋敷からの注文を頼む」
「はい。ありがとうございます」
再度、頭を下げる店主さんにレオニスさんは微笑むと、また市場の中を歩いて行った。その背中は寂しそうだった。
次にレオニスさんが足を止めたのは魚屋さんだった。新鮮な魚が売られていて、屋敷ではもう買っているだろうけど、美味しそうな鯵を買いたくなった。鯵はルナの好物だ。ここでもレオニスさんは同じことをするだろう。それなら最初に言ってしまおう。
「レオニスさん。わがままを言ってもいいですか」
「なんだ。珍しいな」
「はい。あの、鯵が欲しいです」
「鯵?」
「はい。鯵の開きはルナの好物なんです」
「そうか。それでは買って行ってやろう。以前、私にも焼いてくれたな?」
「はい。出しました」
「あれは美味しかったな。また焼いてくれ」
「もちろんです」
「リアム。鯵の開きを3枚。いや、全員分買っていくか。11枚くれ」
全員分ということは屋敷のメイドさんやニコラスさんたちの分もだ。
「アーゼンハイツ伯爵様!」
「ああ、挨拶はいらない。それより鯵をくれ」
「は、はいっ!」
声をかけられた魚屋さんは慌てて鯵を袋に入れてくれた。それを俺は受け取り、先ほどの肉と一緒に持つ。
「今は商売も厳しいだろうが、もう少し頑張ってくれ。私も頑張るから」
「伯爵様……」
レオニスさんに優しい言葉をかけられた魚屋さんは、先ほどの肉屋さんと同じように目を潤ませていた。そうなっちゃうよね。だって、優しいんだ。
「苦労をかけてすまないな」
その一言に店主さんは下を向いて完全に泣き出した。
「それより、リアム。魚をさばけるか?」
泣いていた店主さんはレオニスさんの一言に顔をあげ、不思議そうな顔を返す。ああ、これ、刺し身じゃないかな。
「はい。それは……」
「そうしたらそのうち、新鮮な魚をさばいてくれ。刺し身というのを食べてみたいのだ」
やっぱり刺し身だった。でも、ここの世界で生魚を食べる習慣がなかったら刺し身と言われてもわからないだろうに。だから俺は口を挟むことにした。
「俺の国では新鮮な魚はさばいて、生で食べる習慣があるんです。レオ……伯爵様は一度それを所望しているので」
「生で! それはどの魚でもいいんですか?」
「大体の魚はいけますが、まぐろ、サーモンなどがポピュラーです」
「どちらもさばくことはできます」
「そうか。そうしたら今度、屋敷でさばいてくれ」
「かしこまりました」
魚をさばいてくれと言われた店主さんはなにがどうなっているかわからない、という顔だった。
「それで鯵はこれで足りるか?」
「伯爵様! 多すぎます」
そう言って返そうとする店主さんにレオニスさんは言った。
「もうすぐ刺し身が食べられると思うと嬉しくてな。その分の代金だ。受け取ってくれ。タクヤ、行こうか」
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