猫を追いかけて異世界に来たら、拾ってくれたのは優しい貴族様でした

水無瀬 蒼

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刃の夜2

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 タクヤと肩を並べて歩きながら、ぽつぽつと並ぶ街灯に目をやる。ないよりはましだけれど、安心できるほどの明るさではない。今まで庶民の生活ばかり気にしていたけれど、こういった街並みも視野にいれなければいけないと、頭の片隅で考える。明るければあの影だって誰なのかがわかるだろうに。

「夜の街は思ったよりも静かなんですね」

 タクヤがそう言って私の横顔を覗き込むように見上げた。その声には、純粋な驚きと少しの寂しさが混じっていた。私は誤魔化すように曖昧に笑い返したけれど、それがうまくいったかはわからない。視界の隅で、黒い影が動く気配がして思わずまた後ろを振り返る。タクヤが黙って私の顔を見上げる。気づかれていないと思っていたが、どうやら気づいていたようだった。

「さっきからなにか気になりますか?」
「いや。……ただの思い過ごしだ」

 そう答えながらも、心は重かった。
 改革を進める者として、どうしても敵は作ってきた。それは望まなくても、いやでも敵はできる。貴族院での議論、影のようにまとわりつく圧力。それ自体は私1人ならばどうしようもない、と思うこともできるけれど、人を巻き込むのは別だ。
 足音も会話もやけに響いて感じられた。それほど街は静かなのだ。街は夜闇に沈み、民家の窓灯りだけが点として浮かび上がる。昼間とはまるで違う街のようだった。この街自体を変えなければ。そうすれば闇に紛れることはできなくなるから。

「大丈夫です。レオニスさん」

 不意にかけられた言葉に、思わず足が止まる。タクヤの顔を見ると、笑ってはいたけれど、その笑みは震えていた。

「もしなにかあっても、俺は隣でただ震えているだけの人間にはなりたくないから。だから……」

 言葉はそこで途切れた。タクヤは真っ直ぐに私を見ていた。笑みは震えているけれど逃げるような視線ではなかった。タクヤも気がついたのだろう。その視線が胸に刺さり、私は息を飲んだ。

「大丈夫だ」

 言葉少なに返す。なにを言ったらいいのかわからなかった。誰かにこんなふうに言われたことなどないから、胸が温かくなったのだ。けれど今はそんな思いに浸っているときではない。
 角を曲がり、人気のない路地へ足を踏み入れた瞬間、数人分の重く踏みしめるような足音が聞こえた。次の角の先に黒衣の男たちが立ちはだかった。やはりか――。
 街灯の灯りに照らされた顔は覆面で隠され、目だけがギラついていた。夜中にたむろするただのチンピラたちとは違う。冷たい殺気を感じる。チンピラだったならまだ良かったかもしれない。そんなふうに思っていると、1人が前に出て薄く笑った。

「待てよ。通行料ってやつを払って貰おうか」

 言葉も声も軽い。けれど纏う雰囲気は凶暴だった。その瞬間背後でも足音が聞こえたから、恐らく退路も塞がれたのだろう。つまりは戦わなくてはいけない、というやつだ。私は無意識に、腰の剣の柄に指を添えた。

「……お前たち、ただのチンピラではないな」

 私のその言葉に男たちの空気が変わる。一番前の男が笑うのをやめ、獣のような目で私を見据えた。

「へえ……。さすがですね、アーゼンハイツ卿」

 男がその名を口にした瞬間、疑念は確信に変わった。偶然かちあったのではない。改革への反抗、もしくは警告。私をここで”消す”ために差し向けられた者たちだ。そのことに背筋が冷える。タクヤが驚愕で息を呑む気配がした。

「レオニスさん……!」

 タクヤは私の腕を掴み、震える声で囁いた。

「逃げましょう。ここは――」
「もう遅い」

 振り返ると背後には3人の男たちが立っている。完全な包囲網で、逃げ場はない。私は剣の柄を握りしめ、小さく息を吐いた。これは私の選んだ道の代償。いつか誰かが動くだろうと思っていた。それは覚悟していた。けれど、まさかタクヤを巻き込んでしまうとは思わなかった。巻き込んでしまった以上、守らなくては……。私は剣を引き抜いた。タクヤの肩が一瞬震えたのがわかったが、タクヤは逃げようとはしなかった。

「下がっていろ、タクヤ。ここは……」

 言いかけたとき、男たちの影が一斉に動いた。金属のぶつかる鈍い音がする。戦いは避けられなかった。それならこの手で守るしかない。私は足を踏み込み、剣を構えた。
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