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刃の夜5
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「んっ……」
意識がふわりと浮上する。なんだろう。薬草の匂いがする。その匂いに目を覚ます。なんで薬草なんてあるんだろう? そう思って身動ぎすると右腕に激しい痛みを感じた。
「痛っ」
「……タクヤ!」
声は左から聞こえた。その前に左手を握られていることに気づいた。左側を見ると、レオニスさんが目の下にくまを作り、心配そうな顔で俺を見ていた。
「大丈夫か? 熱はどうだ?」
そう言うと俺の額に手を当てた。
「まだ少し熱があるようだな。薬を飲もう」
そう言って俺の手を離し、ベッドの脇のテーブルに乗っていたコップを手渡される。濃い緑色をしていてちょっと怖い。薬なんていうから錠剤を思い浮かべたけど、そうだ、ここは異世界だった。濃い緑色って、もしかして薬草とか言わないよな?
「……レオニスさん。それ……なんですか?」
「薬だが……。ああ、薬草だよ。でも安心しろ。色はすごいが少し苦いだけだ」
そんな劇薬みたいな色をして少し苦いだけって本当か? でも、確かに怠くて体が熱いのは確かだ。熱があるだろうことはわかっている。
「……飲みます」
飲むのは勇気がいる。でも、きっとここで一晩座っていたのだろうレオニスさんを見ると、そんなわがままは言えないと思った。だから、どんなに苦くとも飲もうと思って腹をくくる。こういうのは一気に飲んだ方がいいんだ。そう思って一気に飲むと、とても少し苦いというよりはめちゃくちゃ苦い。きっとこっちの人で薬草を飲み慣れている人には少し苦いっていう苦さなのだろう。だが、俺は薬草なんて飲むのは初めてだから苦く感じる。そしてそれが顔に出ていたのだろう。レオニスさんが言った。
「そんなに苦かったか? これは苦みがあまりない方なのだが、これにして良かったな。他のはもっと苦いから」
これ以上苦いとか、絶対に飲めない自信がある。と、そこで昨日のことを思い出す。護衛の人たちが来てくれて、賊が逃げたところまでは意識はあるけれど、それ以降のことが意識がない。右腕は、賊に切られた。痛むのはそこだろう。
「右腕は傷が深かったから、ヨセフに裁合して貰った」
「縫った……んですか?」
「ああ。でも、命に別状がなくて良かった。私のことに巻き込んで申し訳ない」
そう言って頭を下げるレオニスさんだけど、昨日、賊の1人が”アーゼンハイツ卿”と言っていたから、やはりレオニスさんだとわかっての上で襲われたんだなとわかる。
「頭、あげてください。あなたはなにも悪いことはしていないんだから」
しばらくじっとレオニスさんを見ていると、のろのろと頭を上げた。
「しかし、私のせいで君を巻き込んだ。こんな酷い怪我までして」
きっとずっと自分を責めながら俺が目覚めるのを待っていたんだろう。
「俺を怪我させたのはあなたではなく、あの賊です。だから謝るのはあなたではなく、賊の方です。あなたはなにも悪くない」
「しかし、私が改革を進めていて敵が多いからだ」
「敵が多かろうと、人を襲うっていうのは卑怯者のやることです。暴力で全てを片付けようとするなんて。でも、レオニスさんは? あなたは怪我をしませんでしたか?」
「私は大丈夫だ。軽い切り傷があるだけだ」
「先生には診て貰いましたか?」
「ああ。薬も貰って、先ほど張り替えたばかりだ」
「それなら良かった」
あれだけの戦いで軽い切り傷だというのなら、やはり普段から剣術をやっているんだろう。昨日の構えも堂に入っていた。俺の方が情けない。子供の頃、空手を習っていたのにうまく立ち回ることができなかった。
「しかし、君の上段蹴りはすごかったな。なにかやっていたのか?」
「空手という武術を子供の頃やっていました。でも、うまく立ち回れなかったです。恥ずかしいですね」
「それは剣を使うものか?」
「いいえ。素手です」
「それなら剣に敵うはずがない。それでも、上段蹴りで相手の剣を奪ったのだから十分すごいと思うが」
「そう、でしょうか。もっとうまく立ち回れなかったのが情けないです」
それに自分が怪我するのは仕方がないとしてもレオニスさんが怪我を負ってしまったのが悔しい。もちろん多勢に無勢だ。1人でレオニスさんを守りきれないのはわかる。それでも、怪我を追わせたくはなかった。
「ところで、相手の賊に心当たりはありますか?」
「ありすぎる。でも、相手はだいたいわかっている。オマンド子爵だろう」
「オマンド子爵とは?」
「ああ、ヴァルター侯爵の腰巾着だ」
腰巾着……。どこにでもいるんだな、そんな人間は。しかし、ヴァルター侯爵自らは手を汚さないのか。
「間違いはないのですか?」
「証拠はないけれど、戦っているときの短剣にオマンド子爵の紋が入っていた。だから、間違いないと思う」
「じゃあ剣を握りしめていれば良かった」
「昨日はそれどころじゃなかっただろう。でも、私のことを”アーゼンハイツ卿”と呼ぶのだから、貴族院の誰かだということはバレバレだ」
確かに。そこまで頭は良くなかったのか。
「さて、薬も飲んだし、また少し寝た方がいい。過度なおしゃべりは良くないだろう」
「はい」
そう言われて俺は目を閉じた。体が熱くてしんどいというのがあったからだ。きっと次に目が覚めたら熱も下がっているだろう。そう期待して。
「おやすみなさい」
意識がふわりと浮上する。なんだろう。薬草の匂いがする。その匂いに目を覚ます。なんで薬草なんてあるんだろう? そう思って身動ぎすると右腕に激しい痛みを感じた。
「痛っ」
「……タクヤ!」
声は左から聞こえた。その前に左手を握られていることに気づいた。左側を見ると、レオニスさんが目の下にくまを作り、心配そうな顔で俺を見ていた。
「大丈夫か? 熱はどうだ?」
そう言うと俺の額に手を当てた。
「まだ少し熱があるようだな。薬を飲もう」
そう言って俺の手を離し、ベッドの脇のテーブルに乗っていたコップを手渡される。濃い緑色をしていてちょっと怖い。薬なんていうから錠剤を思い浮かべたけど、そうだ、ここは異世界だった。濃い緑色って、もしかして薬草とか言わないよな?
「……レオニスさん。それ……なんですか?」
「薬だが……。ああ、薬草だよ。でも安心しろ。色はすごいが少し苦いだけだ」
そんな劇薬みたいな色をして少し苦いだけって本当か? でも、確かに怠くて体が熱いのは確かだ。熱があるだろうことはわかっている。
「……飲みます」
飲むのは勇気がいる。でも、きっとここで一晩座っていたのだろうレオニスさんを見ると、そんなわがままは言えないと思った。だから、どんなに苦くとも飲もうと思って腹をくくる。こういうのは一気に飲んだ方がいいんだ。そう思って一気に飲むと、とても少し苦いというよりはめちゃくちゃ苦い。きっとこっちの人で薬草を飲み慣れている人には少し苦いっていう苦さなのだろう。だが、俺は薬草なんて飲むのは初めてだから苦く感じる。そしてそれが顔に出ていたのだろう。レオニスさんが言った。
「そんなに苦かったか? これは苦みがあまりない方なのだが、これにして良かったな。他のはもっと苦いから」
これ以上苦いとか、絶対に飲めない自信がある。と、そこで昨日のことを思い出す。護衛の人たちが来てくれて、賊が逃げたところまでは意識はあるけれど、それ以降のことが意識がない。右腕は、賊に切られた。痛むのはそこだろう。
「右腕は傷が深かったから、ヨセフに裁合して貰った」
「縫った……んですか?」
「ああ。でも、命に別状がなくて良かった。私のことに巻き込んで申し訳ない」
そう言って頭を下げるレオニスさんだけど、昨日、賊の1人が”アーゼンハイツ卿”と言っていたから、やはりレオニスさんだとわかっての上で襲われたんだなとわかる。
「頭、あげてください。あなたはなにも悪いことはしていないんだから」
しばらくじっとレオニスさんを見ていると、のろのろと頭を上げた。
「しかし、私のせいで君を巻き込んだ。こんな酷い怪我までして」
きっとずっと自分を責めながら俺が目覚めるのを待っていたんだろう。
「俺を怪我させたのはあなたではなく、あの賊です。だから謝るのはあなたではなく、賊の方です。あなたはなにも悪くない」
「しかし、私が改革を進めていて敵が多いからだ」
「敵が多かろうと、人を襲うっていうのは卑怯者のやることです。暴力で全てを片付けようとするなんて。でも、レオニスさんは? あなたは怪我をしませんでしたか?」
「私は大丈夫だ。軽い切り傷があるだけだ」
「先生には診て貰いましたか?」
「ああ。薬も貰って、先ほど張り替えたばかりだ」
「それなら良かった」
あれだけの戦いで軽い切り傷だというのなら、やはり普段から剣術をやっているんだろう。昨日の構えも堂に入っていた。俺の方が情けない。子供の頃、空手を習っていたのにうまく立ち回ることができなかった。
「しかし、君の上段蹴りはすごかったな。なにかやっていたのか?」
「空手という武術を子供の頃やっていました。でも、うまく立ち回れなかったです。恥ずかしいですね」
「それは剣を使うものか?」
「いいえ。素手です」
「それなら剣に敵うはずがない。それでも、上段蹴りで相手の剣を奪ったのだから十分すごいと思うが」
「そう、でしょうか。もっとうまく立ち回れなかったのが情けないです」
それに自分が怪我するのは仕方がないとしてもレオニスさんが怪我を負ってしまったのが悔しい。もちろん多勢に無勢だ。1人でレオニスさんを守りきれないのはわかる。それでも、怪我を追わせたくはなかった。
「ところで、相手の賊に心当たりはありますか?」
「ありすぎる。でも、相手はだいたいわかっている。オマンド子爵だろう」
「オマンド子爵とは?」
「ああ、ヴァルター侯爵の腰巾着だ」
腰巾着……。どこにでもいるんだな、そんな人間は。しかし、ヴァルター侯爵自らは手を汚さないのか。
「間違いはないのですか?」
「証拠はないけれど、戦っているときの短剣にオマンド子爵の紋が入っていた。だから、間違いないと思う」
「じゃあ剣を握りしめていれば良かった」
「昨日はそれどころじゃなかっただろう。でも、私のことを”アーゼンハイツ卿”と呼ぶのだから、貴族院の誰かだということはバレバレだ」
確かに。そこまで頭は良くなかったのか。
「さて、薬も飲んだし、また少し寝た方がいい。過度なおしゃべりは良くないだろう」
「はい」
そう言われて俺は目を閉じた。体が熱くてしんどいというのがあったからだ。きっと次に目が覚めたら熱も下がっているだろう。そう期待して。
「おやすみなさい」
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