猫を追いかけて異世界に来たら、拾ってくれたのは優しい貴族様でした

水無瀬 蒼

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刃の夜6

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 次に目が覚めたときは外は真っ暗になっていた。そして手を握られている感触がないなと思って横を見ると、ベッド脇のテーブルで書き物をしていた。襲撃の報告書だろうか? 訴えることのできる場所はあるんだろうか。いや、その前に証拠がないから無理か。

「レオニスさん」

 俺が声をかけると、俺が起きたことに気づいたようだ。つまり、書くことに集中していたということだ。邪魔、しちゃったかな?

「ごめんなさい。邪魔しちゃいましたか?」
「いや、大丈夫だ。熱はどうだ?」

 そう言ってペンを置いて、俺の額に触れる。その手が少し冷りとして気持ちいい。ということはまだ熱があるんだろうか。外が暗いということは夜なんだろうし、熱が高くてもおかしくはないか。

「まだ少し熱いな。薬は昼に飲んだし、あとは朝どうなるかだな。明日またヨセフが来るから、また解熱剤を貰うか。熱以外に苦しかったり痛かったりすることはないか?」
「傷以外はありません」
「そうか。それなら寝るのが一番だな」
「ちょっとだけ起きててもいいですか? 寝すぎで眠れるかわからないので」
「無理のない範囲でなら」

 無理ならレオニスさんの方がしていると思うんだけど、それを言っても無駄だろう。きっとこの人は聞かない。

「……もう、命を賭けるようなことはしないでください」

 あのとき、1人で戦おうとしたレオニスさんを見ているのが辛かった。多分、俺を巻き込みたくなかったんだろう。それはわかる。それでも、もし目の前でレオニスさんになにかあったら俺はどうなってしまうだろう。考えるだけで怖い。

「俺のためにあなたの身になにかあったら……考えるだけでも怖いんです」
「だが、あのときはタクヤを失うのが怖かった」

 俺を失うのが怖い? そう思ってくれるのか? だから無茶をしたのか?

「俺は大丈夫です。それよりもあなたが怪我をしたり、なにかあったら大変です。屋敷の人が皆悲しみます。俺の場合はそんなことないけど」
「いや、タクヤがおびただしい量の血を流して私が抱きかかえて帰ってきたときは、ニコラスが顔色を白くしたし、アベルも心配していたようだ。クララはもちろんだが」

 ニコラスさんやアベルさんが? クララさんは俺のお付きのメイドさんだ。俺は1人でここにきた。俺を知るのはルナしかいなかった。だから俺が怪我をしたところで誰も悲しまない、そう思っていた。でも、そうじゃなかったのか? 心配してくれる人が少しでもいたのか? それはとても嬉しいことだった。

「ニコラスは表情はさすがに変えなかったが、顔色は変わったからな。アベルは厨房にいたからタクヤの姿は見ていないが、ニコラスが話したところ心配したらしい。アベルは仲がいいだろう?」
「アベルさんはよくしてくれるし、俺が厨房へ行っても嫌な顔ひとつしないし、料理も教えてくれるんです。あまりに厨房に通いすぎて、最近はあまり厨房に行かれないんですけど」
「厨房に行かれない?」
「はい。ニコラスさんが、俺は客人なんだからって言って。和食のときは行かせて貰えるけど」
「そうか。そうしたらしばらくは厨房に行かれないな。その腕では私も和食が食べたいなどとは言えない」
「でも、味噌汁と茶碗蒸しは食べられますよ。両方ともアベルさんはマスターしているので」
「しかし、メインがなくてはな。早く良くしてくれ」

 そういうレオニスさんの瞳はとても優しかった。俺にはルナだけだと思ったけれど、もう1人じゃないのかもしれない。それがただ嬉しかった。

「あれ? ルナは?」
「クッションで寝ているよ」

 そうだ。ルナはクララさんや屋敷の人にも可愛がられていて、専用のベッドを、と言って可愛いクッションと掛け布団を貰ったんだ。そうか、そこで寝ているのか。良かった。

「食事もやっているから安心するといい」
「ありがとうございます」
「黒猫を粗末にするような人間はこの屋敷にはいないから安心するといい」

 そっか。俺がこんなになってしまっても、ルナのことを気にかけてくれる人がいるのはありがたい。黒猫は神の使いだからとはいえ、猫が嫌な人もいるだろうし。それが、可愛がって貰えているなら、それは俺にとっては嬉しいことだ。

「ありがとうございます。ルナも喜んでます。ベッドまで貰って」
「猫のサイズの掛け布団を作ったのはメイドの1人だ。最も猫は自分で布団を掛けられないがな」

 そう言ってレオニスさんは小さく笑った。良かった。少しでも笑ってくれた。さっき起きたときは辛そうな顔をしていたから。多分、俺が怪我をしたからだろう。

「レオニスさん。俺は大丈夫だから、あまり自分を責めないでくださいね。熱は出ちゃったけど、明日には下がります。そしたらいつも通り起きれるから大丈夫です」
「それでも、傷が痛むうちは無理はしないでくれ」
「はい」

 俺を少しでも大切にしてくれるレオニスのことが嬉しくて、俺は笑顔で答えてしまった。それを見たレオニスさんは少し険しい顔をしたけれど、小さくため息をついてから笑ってくれた。早く怪我を良くしてまた和食を作ろう。心の中でそう思った。
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