春は君のとなり 〜Tokyo & Seoul 〜

水無瀬 蒼

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はじめましての誤解から2

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「美味しそうなものいっぱいあるね」

 その男より先を歩いていると、後ろからそんな声が聞こえてくる。振り返ると、辺りをキョロキョロしている男がいる。

「ねぇ、少し食べてもいいかな」
「食べてもいいけど、そうしたら蕎麦食えなくなるんじゃないの?」
「それは多分、大丈夫。実は朝から何も食べてないんだよね」

 は? 朝からなにも食べてない? なにも食べずにこの辺をうろうろしてたというのか。馬鹿か、この男は。とちょっと呆れてしまう。

「じゃあ先に蕎麦を食べて、それで足りなかったら食べ歩きしたらいいんじゃないか? デザートになるだろ」
「デザートにも付き合ってくれる?」

 目をキラキラとさせてるけど、なにに対して目を輝かせているんだ? それはデザートと称した仲見世通りの食べ歩きか、それとも俺にか。そこまで考えてため息をつく。

「俺に買い食いに付き合えと?」

 そういうと、ダメだろうかとシュンとした顔をする。こいつは考えていることが全て顔に出るみたいだな。歳は俺より少し上だろう。そんないい年した大人がそんなに感情を表に出していいんだろうか。ま、俺には関係ないけど。それにしてもシュンとうなだれている姿が大型犬に似ている。そう思うと、つい笑ってしまった。

「いいよ。日本語できないんだろう?」
「こんにちは、とありがとうくらいしか言えない」
「まぁ、指さしでも買えるっちゃ買えるけど」

 俺のその言葉に”絶望”という表情をして見せる。その顔が面白くて、つい笑ってしまった。

「1人で来たの? それとも別行動?」
「1人で来た。1人で食事って寂しいね。韓国では外食を1人でする習慣がないから」

 それでナンパしてきたのか? それで女と間違えて俺に声をかけてきたのか。

「ダメ、かな?」

 俺よりも断然背の高い男が上目使いするって器用じゃないか? でも、なんだか。呆れるところもあるけれど、つい頷いてしまった。

「わかった。つきやってやる」

 俺のその言葉に頭をあげて、先ほどより目をキラキラと輝かせてきた。失敗、したかな? まぁそれでも今日は特に用事があるわけじゃないからいいか。そう思うと、男はにこにこし出した。そんなに嬉しいんだろうか。

「やった! じゃあ、その前に、その、天ぷら蕎麦を食べに行こう。日本のティギム、楽しみだ。お店はどっち?」
「ああ、こっち。この道をしばらくまっすぐ」
「了解」

 まるで散歩に出た犬みたいにぐんぐんと俺を引っ張って行く。いや、店の場所知らないだろうに。なにがそんなに嬉しいんだろうと思う。冷たいようだけど、ほんとに言葉がわからなくたって食べたいものを指指して1とか指で知らせれば買えるし食べれる。そうは思うんだけど、なんだかそれでは可哀想な気がした。いや、俺が同情してやる必要はないと思うんだけど。

「そこの角の左側が蕎麦屋だよ」
「おお! 見るからに日本の感性だ。入るよ?」
「日本の感性っていうのが意味不明だけど、入れよ」
「うん」

 お昼を過ぎているからか、店内はさほど混んでなかった。食事の時間帯だとたまに待っている人がいたりするけど、今日は待っている人もなく、すぐに席に案内された。
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