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いつか君を見る7
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東京タワーから渋谷まではさほど時間はかからない。渋谷に着き、バスを降りるとイジュンが口を開けて立ち止まっていた。
「なに、この人だかりは。なにかの発売日なの? それともお祭り?」
「なにも今日発売のものはないだろ。渋谷はいつもこんなんだよ」
「いつもこんなに人多いの? 弘大も若い人が多いとは言われているけれど、こんなにひどくはない。すごいな」
「ここで驚いてたらハチ公口行かれないぞ」
「まさか、もっと多いの?」
「多い」
「すごいな東京」
そう言ってキョロキョロと辺りを見渡す。渋谷が人で溢れているのはあまりに当たり前のことすぎて驚かないけれど、なにも知らなかったら、やっぱり驚くのだろうか。
「ほら、とんかつが待ってるぞ」
「は! そうだ。とんかつ! そこ、美味しいんだよね」
「日本でも有名なチェーン店だからな。味は保証するよ」
「楽しみ」
「とんかつって韓国にもあるの?」
「あるよ。韓国でも人気がある。でも、日本で食べるのとは味が違うって言うから本場で食べてみたくて」
エスカレーターでお店の入っている階まで行くと、夕食時なのもあり、結構人がいた。列で待っていたけれど、さほど待つこともなく席に案内される。
メニューを見て翻訳してやると、オーソドックスにロースかつにしていた。俺は他のにしようかなと思ったけれど、俺自身もここで食べるのは久しぶりなのでイジュンと同じくロースかつにした。
「わぁ。本場のとんかつだよ。ドキドキする」
「韓国で食べてるなら、そんなに驚くこともないんじゃないか?」
もちろん、その国の人に合うように味も多少アレンジはしているかもしれなけれど、そんなに変わるだろうか? ただ、ひとつ変わることがあるとすれば、それは衣だ。天ぷらを食べたとき、イジュンは油っこくないと言っていた。韓国のは油っこいと。でも、あのそば屋だけでなく、日本ではあまり油っこいと感じるものはない。それは油をそんなに使い回さないからだ。だから、衣はちょっと違うかもしれないけれど、肉はそんなに変わらないだろう。
「そうとは限らないよ。韓国で食べた日本食をこっちで食べてるけど、味が全然違うんだ。日本で食べるのはほんとになんでもおいしい。だから、とんかつだって全然違うはずだ」
「そうなのか。韓国人向けにしてある方が口に合っていいんじゃん?」
「それはない。本場の日本で食べる方がきっと美味しいよ」
韓国に限らず、海外に行ったことがないから、味がどれだけ違うかわからないけれど、作っているのは日本人ではないのだろうか。だとしたら、味は再現できないかもしれない。
「あと日本で食べたい料理は? だいぶ食べた?」
「食べてないのは寿司と肉じゃが。他にも食べたいものはあるけど、優先順位としてはそのふたつ」
「寿司は回転寿司でよければ今度行こう。肉じゃがはなぁ。食堂探さないと無理だろうなぁ」
そんなふうに韓国でも日本食と、イジュンが食べたいものを聞いていたら、とんかつが運ばれてきた。ここの衣はすごくサクサクしているんだけど、それは見た目からもわかる。俺はここのとんかつが好きだ。
「美味しそう! やっぱり本場は違うよね」
「って、食べてから言え」
「だって見た目からして違うもん」
「いいから食べろ」
「はーい。いただきます!」
そう言うとイジュンは大きな口を開けてかつにかじりついていた。そして、かじりついた直後、目を大きく開けて、身もだえしている。
「どうした?」
俺が声をかけると、イジュンは咀嚼して飲み込んでから口を開けた。
「なにこれ。すっごい柔らかい。厚みはこんなにあるのに、お肉は柔らかくて噛むのに力がいらない。韓国のは薄いけど、固いんだ」
固い肉……。それは肉をきちんと選んでいないんじゃないかと思った。
「そんなに固い?」
「お世辞にも柔らかいとは言えないよ。ほんと美味しいな。いいな明日海は。毎日美味しいもの食べられるんだ」
「でも、毎日毎日外食するわけじゃないからな。コンビニ弁当やパンっていうこと多いし」
「コンビニ弁当だって美味しそうじゃないか。種類もいろいろあるし。そうか、帰国するまでにコンビニ弁当食べよう」
「なんで美味しいもの食べれるのに、わざわざコンビニ弁当食べるんだよ」
「だって、コンビニ弁当だって韓国のより美味しそうだから。そっか、朝食にすればいいんだ。今晩、買って帰ろう」
にこにこととんかつを食べながらコンビニ弁当へと意識は向かっている。
「それはいいから、今はとんかつを食べることに集中しろ」
「そうだ! せっかくの美味しいとんかつなんだから。でも、明日海が韓国で日本食食べたら、きっとダメ出しすると思うよ」
「そんなに? じゃあそのうち韓国行ってみるかな」
「うん。大学の休みのときならゆっくりできていいんじゃない? 韓国に来たら案内するよ」
「ありがとう」
大学のうちなら、時間も取りやすいから、卒業前にでも行こうか。イジュンが案内してくれるなら、言葉も困らないだろうし、いいかもしれない。
そんなことを考えながら食べていて、ふとイジュンの方を見ると、幸せそうな顔をしてとんかつを食べている。そんなに美味しいんだな。
「美味しい?」
「美味しい」
「満足?」
「うん」
よくわからないけど、案内して、イジュンみたいにほんとに美味しそうに食べてくれると嬉しいと思う。そう思うくらいにイジュンは美味しそうに食べていて、気持ちいいくらいだった。
「なに、この人だかりは。なにかの発売日なの? それともお祭り?」
「なにも今日発売のものはないだろ。渋谷はいつもこんなんだよ」
「いつもこんなに人多いの? 弘大も若い人が多いとは言われているけれど、こんなにひどくはない。すごいな」
「ここで驚いてたらハチ公口行かれないぞ」
「まさか、もっと多いの?」
「多い」
「すごいな東京」
そう言ってキョロキョロと辺りを見渡す。渋谷が人で溢れているのはあまりに当たり前のことすぎて驚かないけれど、なにも知らなかったら、やっぱり驚くのだろうか。
「ほら、とんかつが待ってるぞ」
「は! そうだ。とんかつ! そこ、美味しいんだよね」
「日本でも有名なチェーン店だからな。味は保証するよ」
「楽しみ」
「とんかつって韓国にもあるの?」
「あるよ。韓国でも人気がある。でも、日本で食べるのとは味が違うって言うから本場で食べてみたくて」
エスカレーターでお店の入っている階まで行くと、夕食時なのもあり、結構人がいた。列で待っていたけれど、さほど待つこともなく席に案内される。
メニューを見て翻訳してやると、オーソドックスにロースかつにしていた。俺は他のにしようかなと思ったけれど、俺自身もここで食べるのは久しぶりなのでイジュンと同じくロースかつにした。
「わぁ。本場のとんかつだよ。ドキドキする」
「韓国で食べてるなら、そんなに驚くこともないんじゃないか?」
もちろん、その国の人に合うように味も多少アレンジはしているかもしれなけれど、そんなに変わるだろうか? ただ、ひとつ変わることがあるとすれば、それは衣だ。天ぷらを食べたとき、イジュンは油っこくないと言っていた。韓国のは油っこいと。でも、あのそば屋だけでなく、日本ではあまり油っこいと感じるものはない。それは油をそんなに使い回さないからだ。だから、衣はちょっと違うかもしれないけれど、肉はそんなに変わらないだろう。
「そうとは限らないよ。韓国で食べた日本食をこっちで食べてるけど、味が全然違うんだ。日本で食べるのはほんとになんでもおいしい。だから、とんかつだって全然違うはずだ」
「そうなのか。韓国人向けにしてある方が口に合っていいんじゃん?」
「それはない。本場の日本で食べる方がきっと美味しいよ」
韓国に限らず、海外に行ったことがないから、味がどれだけ違うかわからないけれど、作っているのは日本人ではないのだろうか。だとしたら、味は再現できないかもしれない。
「あと日本で食べたい料理は? だいぶ食べた?」
「食べてないのは寿司と肉じゃが。他にも食べたいものはあるけど、優先順位としてはそのふたつ」
「寿司は回転寿司でよければ今度行こう。肉じゃがはなぁ。食堂探さないと無理だろうなぁ」
そんなふうに韓国でも日本食と、イジュンが食べたいものを聞いていたら、とんかつが運ばれてきた。ここの衣はすごくサクサクしているんだけど、それは見た目からもわかる。俺はここのとんかつが好きだ。
「美味しそう! やっぱり本場は違うよね」
「って、食べてから言え」
「だって見た目からして違うもん」
「いいから食べろ」
「はーい。いただきます!」
そう言うとイジュンは大きな口を開けてかつにかじりついていた。そして、かじりついた直後、目を大きく開けて、身もだえしている。
「どうした?」
俺が声をかけると、イジュンは咀嚼して飲み込んでから口を開けた。
「なにこれ。すっごい柔らかい。厚みはこんなにあるのに、お肉は柔らかくて噛むのに力がいらない。韓国のは薄いけど、固いんだ」
固い肉……。それは肉をきちんと選んでいないんじゃないかと思った。
「そんなに固い?」
「お世辞にも柔らかいとは言えないよ。ほんと美味しいな。いいな明日海は。毎日美味しいもの食べられるんだ」
「でも、毎日毎日外食するわけじゃないからな。コンビニ弁当やパンっていうこと多いし」
「コンビニ弁当だって美味しそうじゃないか。種類もいろいろあるし。そうか、帰国するまでにコンビニ弁当食べよう」
「なんで美味しいもの食べれるのに、わざわざコンビニ弁当食べるんだよ」
「だって、コンビニ弁当だって韓国のより美味しそうだから。そっか、朝食にすればいいんだ。今晩、買って帰ろう」
にこにこととんかつを食べながらコンビニ弁当へと意識は向かっている。
「それはいいから、今はとんかつを食べることに集中しろ」
「そうだ! せっかくの美味しいとんかつなんだから。でも、明日海が韓国で日本食食べたら、きっとダメ出しすると思うよ」
「そんなに? じゃあそのうち韓国行ってみるかな」
「うん。大学の休みのときならゆっくりできていいんじゃない? 韓国に来たら案内するよ」
「ありがとう」
大学のうちなら、時間も取りやすいから、卒業前にでも行こうか。イジュンが案内してくれるなら、言葉も困らないだろうし、いいかもしれない。
そんなことを考えながら食べていて、ふとイジュンの方を見ると、幸せそうな顔をしてとんかつを食べている。そんなに美味しいんだな。
「美味しい?」
「美味しい」
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