春は君のとなり 〜Tokyo & Seoul 〜

水無瀬 蒼

文字の大きさ
54 / 60

また会う日のために2

しおりを挟む
 昨日はイジュンをホテルまで送ったあとはまっすぐ帰ってきた。体はそうだけど、心はずっとイジュンのことを考えている。浅草でイジュンと出会ってからのこと、そしてこれからの2人の付き合いのこと。日本と韓国に離れたらどうなってしまうんだろうか。一時的に気持ちが錯覚を見せただけで、ほんとは恋になんて落ちていないかもしれない。そんなことまで考えた。だって、遠いんだ。いや、遠くても国内ならいい。気軽に行ける。だけど、韓国は外国だ。パスポートがないと行かれない。ゆえに、今現在パスポートのない自分は韓国には行かれない。いくらチケットが買えたとしても。そんな状況でうまくやっていけるのだろうか。ただ救いは時差がないことくらいだ。電話をするタイミングは気にしなくていい。だけど、イジュンは電話をくれるだろうか。起業しようかと考えているから忙しくなるかもしれない。そんなマイナスなことばかり考えてしまって夜は良く眠れなかった。
 今日は日曜日だから、このままダラダラしていられる。そう思って何気なく時計を見る。イジュンはもう空港に向かっている頃だろう。見送りに行かないと言った自分を薄情と思ってはいないだろうか。いや、そう思われたっていい。だって、見送りになんて行ったら離れがたくなってしまうじゃないか。コーヒーでも飲んで落ち着こう。そう思ってコーヒーを淹れ、ローテーブルにカップを置く。そこで目に付いてしまった、プリクラと破られた跡のある紙。そんなものを見て、心がざわつく。プリクラを見ると、格好つけているイジュンがいる。

「人のことは女みたいにしておいて、自分だけイケメンにってずるいだろ」

 しかし、このプリクラはどうしたらいいんだろうか。どこかに貼るか? いや、それじゃあ女子みたいじゃないか。男でプリクラをどこかに貼っているなんて聞いたことがない。となると、しまっておくしかない。しかし、どこに? イジュンの顔を見たいのなら目に付きやすい場所に。反対に見たくもないなら忘れちゃうくらいの場所に。なんて思うけど、見たくもない、ないてことはない。実物より若干イケメンになっているとはいえ、イジュンなんだ。見たくないなんてことはない。

「そしたら手帳にでも挟んでおくかな。確かイジュンは財布に入れてたな。見返したりとか、してくれるのかな」

 でも、俺、昨日からずっとイジュンのことばかり考えてるじゃん。なのに空港には行かないとかなんなんだよ。でも、ほんとに見送りに行かないで後悔しないだろうか。見送りに行かないのは離れるのが辛くなるから。昨日ホテルまで見送ったのは、空港まで行く代わりだった。ほんとなら原宿で別れれば良かったんだ。だって上野は自分の家とは正反対なんだから。それでも、もう会えなくなってしまうと思ったからホテルまで送った。だから空港まで行かなくたっていい。でも本当に? 行かなくて後悔しない? 今日会わなかったら、俺がほんとに韓国に行くまで会えないんだぞ? 離れがたくなるなんて言ってるけど、ほんとにいいのか? 見送りに行けば離れがたいのは確かだけど、家にいたってずっとイジュンのことを考えてたら同じなんじゃないか?
 時計を見るとちょうど昼を過ぎてて、なにか食べなきゃと思うけれど、食べる気にならない。食欲がない。明日からまた学校なんだからきちんと食べなきゃいけないのに、そんな気になれない。それよりも時計ばかり気にしてしまう。今から空港に行けばぎりぎり間に合うだろうか。

「ほんとに行かなくてあとで後悔しないか?」

 そう何度も自分に問いかけている。後悔なんて……。するに決まってる! 今から急げばなんとか会えるかもしれない。間に合わないかもしれないけど、可能性はある。

「馬鹿かよ、俺」

 椅子の背に掛けていたパーカーを掴んで家を飛び出す。なんで素直にならなかったんだよ。間に合ってくれ。そう思って駅までダッシュした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

才色兼備の幼馴染♂に振り回されるくらいなら、いっそ赤い糸で縛って欲しい。

誉コウ
BL
才色兼備で『氷の王子』と呼ばれる幼なじみ、藍と俺は気づけばいつも一緒にいた。 その関係が当たり前すぎて、壊れるなんて思ってなかった——藍が「彼女作ってもいい?」なんて言い出すまでは。 胸の奥がざわつき、藍が他の誰かに取られる想像だけで苦しくなる。 それでも「友達」のままでいられるならと思っていたのに、藍の言葉に行動に振り回されていく。 運命の赤い糸が見えていれば、この関係を紐解けるのに。

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

きみに会いたい、午前二時。

なつか
BL
「――もう一緒の電車に乗れないじゃん」 高校卒業を控えた智也は、これまでと同じように部活の後輩・晃成と毎朝同じ電車で登校する日々を過ごしていた。 しかし、卒業が近づくにつれ、“当たり前”だった晃成との時間に終わりが来ることを意識して眠れなくなってしまう。 この気持ちに気づいたら、今までの関係が壊れてしまうかもしれない――。 逃げるように学校に行かなくなった智也に、ある日の深夜、智也から電話がかかってくる。 眠れない冬の夜。会いたい気持ちがあふれ出す――。 まっすぐな後輩×臆病な先輩の青春ピュアBL。 ☆8話完結の短編になります。

【完結】アイドルは親友への片思いを卒業し、イケメン俳優に溺愛され本当の笑顔になる <TOMARIGIシリーズ>

はなたろう
BL
TOMARIGIシリーズ② 人気アイドル、片倉理久は、同じグループの伊勢に片思いしている。高校生の頃に事務所に入所してからずっと、2人で切磋琢磨し念願のデビュー。苦楽を共にしたが、いつしか友情以上になっていった。 そんな伊勢は、マネージャーの湊とラブラブで、幸せを喜んであげたいが複雑で苦しい毎日。 そんなとき、俳優の桐生が現れる。飄々とした桐生の存在に戸惑いながらも、片倉は次第に彼の魅力に引き寄せられていく。 友情と恋心の狭間で揺れる心――片倉は新しい関係に踏み出せるのか。 人気アイドル<TOMARIGI>シリーズ新章、開幕!

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話

日向汐
BL
「好きです」 「…手離せよ」 「いやだ、」 じっと見つめてくる眼力に気圧される。 ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26) 閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、 一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨ 短期でサクッと読める完結作です♡ ぜひぜひ ゆるりとお楽しみください☻* ・───────────・ 🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧 ❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21 ・───────────・ 応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪) なにとぞ、よしなに♡ ・───────────・

【連載版あり】「頭をなでてほしい」と、部下に要求された騎士団長の苦悩

ゆらり
BL
「頭をなでてほしい」と、人外レベルに強い無表情な新人騎士に要求されて、断り切れずに頭を撫で回したあげくに、深淵にはまり込んでしまう騎士団長のお話。リハビリ自家発電小説。一話完結です。 ※加筆修正が加えられています。投稿初日とは誤差があります。ご了承ください。

処理中です...