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また会う日のために4
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イジュンが帰国して10日ほどがたった。俺は馬鹿みたいに毎日ポストを眺めてはため息をついている。イジュンが手紙をくれると言った。写真とともに。だから手紙を今か今かと待っている。写真の現像に時間がかかっているんだろうか。今時、フイルムで撮ることなんて少ないから、扱っているところが少ないのかもしれない。それとも、ただ単に忙しいのかもしれない。将来のために。
「あ……」
学校が終わって家に帰ると、ポストに封筒が一通入っていた。宛名は俺で、差出人はハ・イジュン。急いでアパートの階段を駆け上り家へと急ぐ。家に着くと、鞄を適当に置き、ペーパーナイフで封を開ける。中には写真と便せん。まずは写真から見る。フイルムでなんて写真を撮ったことがない俺は、失敗していたらどうするんだろうと思っていたけど、意外と綺麗に撮れていた。浅草の仲見世通り、浅草寺、浅草神社、東京タワー、渋谷、谷中の夕焼け、夕焼けをバックにした猫、秋葉原、水上バスから見た東京の街、隅田公園、隅田川、俺とのツーショット。そんなイジュンとの思い出が映し出されていた。そして、写真を見終わると、同封されていた便せんを開く。
『明日海へ
韓国へ帰ってきて1週間。もう、という気もするし、まだという気もする。明日海と歩いた東京の街並みが今も鮮明に思い出せるよ。
この数日、頭の中を占めているのはこれからのことだ。明日海の部屋で話したように、就職をやめてチキン屋かクレープ屋をやろうかという将来だよ。
チキン屋は韓国人の自営業者の多くがチキン屋をやるように、韓国にはチキン屋が多い。これは明日海も実際に韓国の街を歩いたらわかると思う。仕事終わり、友人が集まったとき、作るのが面倒くさいとき、韓国人はチキンを食べる。ただ、「ここにしかない一品」を作るのは難しい。それがチキン屋の難点だと思ってる。
一方でクレープ屋は韓国では少ない。韓国で気軽に食べるおやつの中にクレープはあまり浸透してない。でも、浅草で明日海と食べた抹茶のクレープ。あれが忘れられないんだ。だから韓国の数少ないクレープ屋の中に、日本式クレープとして出したいと思う。それこそ、「ここにしかない一品」が作れると思うんだ。
でも、どちらを選ぶにしても明日海の力を借りたいことはある。経済学部で学んでいる明日海の視点があれば、夢はもっと現実に近くなると思う。明日海は数字には強そうだし、なにより冷静に物事を見る。俺はたまに感情で突っ走るときがあるから、隣に明日海がいてくれると心強い。明日海の部屋で話した将来を、おとぎ話ではなく、現実にしたいんだ。そのために力を貸してくれないだろうか。
昨日、ノートに経営計画のようなものを書いてみた。仕入れ先や初期費用の試算、立地候補……。でも、途中で手が止まってしまった。それは計算が難しかったり、面倒だったりするからじゃなくて、この話を明日海と一緒にしたいという気持ちが強くなったから。
明日海が日本で学び終えた後、何を望むか。明日海はまだ答えを決めていないかもしれない。でも、もし、俺と同じ未来を少しでも考えてくれるなら、明日海の知識と心を貸して欲しい。俺が料理を作る。だから明日海は数字を読んで欲しい。もちろん、俺も数字を読むけれど。でも、同じ経営学を学んだ2人が数字を読んだらすごいと思わないか? きっと2人だけの店ができるはずだ。
だけど、正直に言うと不安もあるよ。挑戦が必ずうまくいく保証なんてないし、俺はまだ家族に話していない。それでも、やってみたいと思う。これも、もしも俺1人だったら、ただの夢物語で終わらせていたかもしれない。でも、明日海と出会った。明日海は俺の夢を馬鹿にせず、真面目に、冷静に聞いてくれた。だから俺は、夢だけど、真剣に考えることができて、青写真も描くことができた。これは明日海のおかげなんだ。ありがとう、明日海。
次に会うのは冬だね。その頃には、もう少し大人になった俺を見せたい。そして、もう一度未来の話しの続きをしよう。どんな形であれ、明日海と一緒に笑いながら語り合える場所を俺は必ず作る。だから、待っていて欲しい。明日海の答えも、未来も俺は全て受け止める。
また会う日まで……。
イジュン』
手紙には、2人で話した将来の夢が書かれていた。俺は1社から内定を貰っているし、試験に受かれば公認会計士になりたいと思っていた。でも、イジュンが起業をするというのなら、そこ専属の公認会計士になることも悪くないと思ってる。もちろん、イジュン1人でも出来るだろうけれど、それこそ2人の将来だから。まだ会ってそんなにたたないのに将来の話しをするのなんて早すぎるのかもしれない。でも、今、イジュンしかいないって思うんだ。だから、真剣に考えよう。そう思った。
「あ……」
学校が終わって家に帰ると、ポストに封筒が一通入っていた。宛名は俺で、差出人はハ・イジュン。急いでアパートの階段を駆け上り家へと急ぐ。家に着くと、鞄を適当に置き、ペーパーナイフで封を開ける。中には写真と便せん。まずは写真から見る。フイルムでなんて写真を撮ったことがない俺は、失敗していたらどうするんだろうと思っていたけど、意外と綺麗に撮れていた。浅草の仲見世通り、浅草寺、浅草神社、東京タワー、渋谷、谷中の夕焼け、夕焼けをバックにした猫、秋葉原、水上バスから見た東京の街、隅田公園、隅田川、俺とのツーショット。そんなイジュンとの思い出が映し出されていた。そして、写真を見終わると、同封されていた便せんを開く。
『明日海へ
韓国へ帰ってきて1週間。もう、という気もするし、まだという気もする。明日海と歩いた東京の街並みが今も鮮明に思い出せるよ。
この数日、頭の中を占めているのはこれからのことだ。明日海の部屋で話したように、就職をやめてチキン屋かクレープ屋をやろうかという将来だよ。
チキン屋は韓国人の自営業者の多くがチキン屋をやるように、韓国にはチキン屋が多い。これは明日海も実際に韓国の街を歩いたらわかると思う。仕事終わり、友人が集まったとき、作るのが面倒くさいとき、韓国人はチキンを食べる。ただ、「ここにしかない一品」を作るのは難しい。それがチキン屋の難点だと思ってる。
一方でクレープ屋は韓国では少ない。韓国で気軽に食べるおやつの中にクレープはあまり浸透してない。でも、浅草で明日海と食べた抹茶のクレープ。あれが忘れられないんだ。だから韓国の数少ないクレープ屋の中に、日本式クレープとして出したいと思う。それこそ、「ここにしかない一品」が作れると思うんだ。
でも、どちらを選ぶにしても明日海の力を借りたいことはある。経済学部で学んでいる明日海の視点があれば、夢はもっと現実に近くなると思う。明日海は数字には強そうだし、なにより冷静に物事を見る。俺はたまに感情で突っ走るときがあるから、隣に明日海がいてくれると心強い。明日海の部屋で話した将来を、おとぎ話ではなく、現実にしたいんだ。そのために力を貸してくれないだろうか。
昨日、ノートに経営計画のようなものを書いてみた。仕入れ先や初期費用の試算、立地候補……。でも、途中で手が止まってしまった。それは計算が難しかったり、面倒だったりするからじゃなくて、この話を明日海と一緒にしたいという気持ちが強くなったから。
明日海が日本で学び終えた後、何を望むか。明日海はまだ答えを決めていないかもしれない。でも、もし、俺と同じ未来を少しでも考えてくれるなら、明日海の知識と心を貸して欲しい。俺が料理を作る。だから明日海は数字を読んで欲しい。もちろん、俺も数字を読むけれど。でも、同じ経営学を学んだ2人が数字を読んだらすごいと思わないか? きっと2人だけの店ができるはずだ。
だけど、正直に言うと不安もあるよ。挑戦が必ずうまくいく保証なんてないし、俺はまだ家族に話していない。それでも、やってみたいと思う。これも、もしも俺1人だったら、ただの夢物語で終わらせていたかもしれない。でも、明日海と出会った。明日海は俺の夢を馬鹿にせず、真面目に、冷静に聞いてくれた。だから俺は、夢だけど、真剣に考えることができて、青写真も描くことができた。これは明日海のおかげなんだ。ありがとう、明日海。
次に会うのは冬だね。その頃には、もう少し大人になった俺を見せたい。そして、もう一度未来の話しの続きをしよう。どんな形であれ、明日海と一緒に笑いながら語り合える場所を俺は必ず作る。だから、待っていて欲しい。明日海の答えも、未来も俺は全て受け止める。
また会う日まで……。
イジュン』
手紙には、2人で話した将来の夢が書かれていた。俺は1社から内定を貰っているし、試験に受かれば公認会計士になりたいと思っていた。でも、イジュンが起業をするというのなら、そこ専属の公認会計士になることも悪くないと思ってる。もちろん、イジュン1人でも出来るだろうけれど、それこそ2人の将来だから。まだ会ってそんなにたたないのに将来の話しをするのなんて早すぎるのかもしれない。でも、今、イジュンしかいないって思うんだ。だから、真剣に考えよう。そう思った。
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