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街角に、君と4
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英語ツアーの集合場所に立っていると、どこにいたんだという感じにぞろぞろと観光客が集まってくる。みんな欧米人ばかりでアジア人は俺とイジュンだけだった。そうだよな。日本語ツアーも韓国語ツアーもあるから、普通はそっちに参加するよな。でも、俺とイジュンの共通語は英語なんだ。だから2人でツアーに乗るならどうしても英語ツアーになってしまうんだ。でも、なんだか居心地が悪くて一番後ろに行こうとすると、「明日海、こっち」って俺の腕を引いて一番前に出されてしまう。こういうときイジュンはすごいと思う。俺にはできない。
ツアーガイドが英語で挨拶をして、列が動き出す。秘苑ツアーの始まりだ。
秘苑へ続く門をくぐると、空気が変わった。宮殿の整然とした石畳から土の小道へ。そして緑に覆われている。気のせいか宮殿よりも気温が低く感じる。はっきり言って寒い。まぁ、歩いてるうちに温かくなるだろう。
「This is Huwon, or the Secret Garden…」
ガイドさんの声が響く。俺は聞きながらも、周囲の景色に目をやっていた。鬱蒼とした森が広がり、そこに石段や東屋が点在している。
「Secret Garden……秘密の庭園か」
そう小さく呟くと、イジュンには聞こえたようで、笑っている。そしてガイドさんが「It’s about 32 hectares」と言う。32ヘクタール? どれぐらいの広さだ? ピンと来なくて考えていると、イジュンが横から言う。
「東京ドーム70個分くらい」
「いや。全然わかんないよ。32ヘクタールも東京ドーム70個分も、ただ広いとしかわかんない」
「日本人は東京ドームって言えばわかるんじゃないの?」
「2個、3個ならわかるけど、70個なんてわかるわけないだろ」
俺がそう言うと、イジュンは肩をすくめて笑った。その笑顔が男の色気を孕んでいて、俺はドキリとした。
やがて視界が開け、小さな池が現れた。水面に木々の影が揺れている。
「This pond was used for studying and poetry gatherings」
とガイドが説明する。え? 勉強? ここで? 宮殿ですればいいじゃん。そう思っていると、
「明日海もここで勉強する?」
「しねーよ!」
イジュンはさっきから茶化してくる。軽く睨むけれど、どこ吹く風で辺りを見渡している。
さらに奥に進むと東屋があった。木陰にひっそりと建っていて、冬の今は寒さしか感じないけれど、春とかは花も咲いてるし、涼しくて居心地良さそうだ。
「春や秋にはいいだろうな。いや、冬以外って言った方がいいか。夏も涼しそうだし」
「そうだな」
「きっとさ、王様たちも、ここで風にあたりながら考え事とかしてたんじゃないかな」
「考え事か。国のことがあるもんな」
「うん。あとは好きな人のこととか」
流し目で意味深にそんなことを言ってくるから、俺は赤くなってしまった。
「ふざけんなよ」
「えー。ふざけてないよー。だってさ、王様だって恋愛するじゃん」
確かに間違えてはいない。でも意味深にそんなことを急に言われたら、なんだか恥ずかしい。なんだかイジュンに振り回されててちょっと面白くない。でも、おかしなことは言ってない。
その後も秘苑ツアーは続き、イジュンはたまに茶々を入れてきながら、それでもガイドを聞きながら先へと進んでいく。でも、イジュンは聞かなくても覚えているだろうけれど。でも俺は初めてなので、真面目にガイドさんの話を聞いて、たまにイジュンにも聞いたりした。
秘苑はイジュンが言っていた通り坂道が多く、アップダウンを繰り返し、結構体力を消耗してきた。疲れてきた。
「疲れたでしょ。でも、もうあと少しで終わりだから頑張って」
「うん。コーヒー飲んで休みたい」
「近くのカフェに行こう。普通のカフェだけど」
「休めるなら普通のカフェだろうと構わないよ。思ったより体力持って行かれた」
そんな風に話しているうちにツアーは終わった。
「Thank you……]
とあちこちから聞こえ、俺は「疲れたー」と日本語で言ってしまった。
「疲れたね」
「あれ? 日本語……」
「うん。少し勉強した。会話はいいけど、読み書きが難しいね。漢字、ひらがな、カタカナって3つの文字を使い分けてるんだもん。意味がわからない」
「俺はハングル、読めるようにはなったけど、意味がわからない」
どうも俺たちはお互いの母国語を勉強していたみたいだ。
「でも、字が読めるようになればあとは単語を覚えるだけだから明日海の方が習得するの早いと思う。俺は3つの文字を覚えて、かつ、どう使い分けるのかを覚えなきゃいけない」
そういえば日本語は3つの文字を使ってるんだな。普段は無意識に使っているけど、勉強するとなると難しいみたいだ。
「俺でわかることなら訊いて。答えるよ」
「うん。ありがとう。さ、寒いからカフェに行こう」
「うん」
俺たちはお互いに歩み寄ろうとしているんだな、とイジュンの横顔を見ながら思った。
ツアーガイドが英語で挨拶をして、列が動き出す。秘苑ツアーの始まりだ。
秘苑へ続く門をくぐると、空気が変わった。宮殿の整然とした石畳から土の小道へ。そして緑に覆われている。気のせいか宮殿よりも気温が低く感じる。はっきり言って寒い。まぁ、歩いてるうちに温かくなるだろう。
「This is Huwon, or the Secret Garden…」
ガイドさんの声が響く。俺は聞きながらも、周囲の景色に目をやっていた。鬱蒼とした森が広がり、そこに石段や東屋が点在している。
「Secret Garden……秘密の庭園か」
そう小さく呟くと、イジュンには聞こえたようで、笑っている。そしてガイドさんが「It’s about 32 hectares」と言う。32ヘクタール? どれぐらいの広さだ? ピンと来なくて考えていると、イジュンが横から言う。
「東京ドーム70個分くらい」
「いや。全然わかんないよ。32ヘクタールも東京ドーム70個分も、ただ広いとしかわかんない」
「日本人は東京ドームって言えばわかるんじゃないの?」
「2個、3個ならわかるけど、70個なんてわかるわけないだろ」
俺がそう言うと、イジュンは肩をすくめて笑った。その笑顔が男の色気を孕んでいて、俺はドキリとした。
やがて視界が開け、小さな池が現れた。水面に木々の影が揺れている。
「This pond was used for studying and poetry gatherings」
とガイドが説明する。え? 勉強? ここで? 宮殿ですればいいじゃん。そう思っていると、
「明日海もここで勉強する?」
「しねーよ!」
イジュンはさっきから茶化してくる。軽く睨むけれど、どこ吹く風で辺りを見渡している。
さらに奥に進むと東屋があった。木陰にひっそりと建っていて、冬の今は寒さしか感じないけれど、春とかは花も咲いてるし、涼しくて居心地良さそうだ。
「春や秋にはいいだろうな。いや、冬以外って言った方がいいか。夏も涼しそうだし」
「そうだな」
「きっとさ、王様たちも、ここで風にあたりながら考え事とかしてたんじゃないかな」
「考え事か。国のことがあるもんな」
「うん。あとは好きな人のこととか」
流し目で意味深にそんなことを言ってくるから、俺は赤くなってしまった。
「ふざけんなよ」
「えー。ふざけてないよー。だってさ、王様だって恋愛するじゃん」
確かに間違えてはいない。でも意味深にそんなことを急に言われたら、なんだか恥ずかしい。なんだかイジュンに振り回されててちょっと面白くない。でも、おかしなことは言ってない。
その後も秘苑ツアーは続き、イジュンはたまに茶々を入れてきながら、それでもガイドを聞きながら先へと進んでいく。でも、イジュンは聞かなくても覚えているだろうけれど。でも俺は初めてなので、真面目にガイドさんの話を聞いて、たまにイジュンにも聞いたりした。
秘苑はイジュンが言っていた通り坂道が多く、アップダウンを繰り返し、結構体力を消耗してきた。疲れてきた。
「疲れたでしょ。でも、もうあと少しで終わりだから頑張って」
「うん。コーヒー飲んで休みたい」
「近くのカフェに行こう。普通のカフェだけど」
「休めるなら普通のカフェだろうと構わないよ。思ったより体力持って行かれた」
そんな風に話しているうちにツアーは終わった。
「Thank you……]
とあちこちから聞こえ、俺は「疲れたー」と日本語で言ってしまった。
「疲れたね」
「あれ? 日本語……」
「うん。少し勉強した。会話はいいけど、読み書きが難しいね。漢字、ひらがな、カタカナって3つの文字を使い分けてるんだもん。意味がわからない」
「俺はハングル、読めるようにはなったけど、意味がわからない」
どうも俺たちはお互いの母国語を勉強していたみたいだ。
「でも、字が読めるようになればあとは単語を覚えるだけだから明日海の方が習得するの早いと思う。俺は3つの文字を覚えて、かつ、どう使い分けるのかを覚えなきゃいけない」
そういえば日本語は3つの文字を使ってるんだな。普段は無意識に使っているけど、勉強するとなると難しいみたいだ。
「俺でわかることなら訊いて。答えるよ」
「うん。ありがとう。さ、寒いからカフェに行こう」
「うん」
俺たちはお互いに歩み寄ろうとしているんだな、とイジュンの横顔を見ながら思った。
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