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街角に、君と6
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仁寺洞をひやかして歩いて、益善洞韓屋村ではお店よりも建物を見て、伝統家屋でお茶をして休んだあとは鍾閣でサムギョプサルを食べた。鍾閣にもたくさんのチキン屋があって、ちらりと覗いたけれど、どのお店もサラリーマンでいっぱいだった。チキン屋はコンビニよりも多いというのが納得できた。でも、どこも人でいっぱいだったので、場所さえ選び間違えなければ人は入るということになる。もっとも鍾閣はオフィス街だから人が集まるとも言える。イジュン曰く大手企業が集まってるというから日本で言うと丸の内みたいな感じなんだろうか。だとしたら店を出すにしても場所代がかなりかかるだろうし、空いている土地もなさそうだった。まぁ韓国人のチキン好きとチキン屋の多さがわかっただけ参考になった。
夕食のサムギョプサルは美味しかった。日本の焼肉の食べ方と違うのは肉にサンチュを巻いて食べることだろうか。日本だと肉とは別に野菜を食べることになるけれど、サンチュで巻いてしまえば一口で肉と野菜を食べることができる。効率的だな、と思ったけれど、韓国人のせっかちというのも関係しているのかなと思ったりもした。
「食事してたから遅くなっちゃったね。ゆっくり見れない。ごめんね」
南山コル韓屋村に着いたときにイジュンがそう謝った。伝統韓屋5棟はどれも立派な人の家を移設してきたものだという。北村韓屋村も大きな家が多かったけれど、それとはまた違っている。ここの良さは建物の中も覗くことができることだ。
「でも、中を覗くことができるから来て良かった」
部屋にあがることはできないけれど、中を覗けるのは北村韓屋村とは違う。家具や生活道具が置いてあり、昔の生活を再現してくれているのは興味深い。家具は日本の物とは違うけれど、生活なんかは似ていたんだろうから想像することはできる。韓国と日本が違うのは、韓国は冬が来る前にキムジャンという大量にキムチを漬けることがあるくらいだ。
興味深く部屋を見ていると8時の閉館(?)の時間になった。
「寄ってくれてありがとうね。面白かった」
「そう? それならいいけど。じゃ、ソウルタワーに行こうか」
「うん」
南山の坂道をのぼっていくと、視界がぱっと開けて、塔が空に突き刺さるように建っていた。ソウルタワーだ。東京タワーより100メートル近く小さいと聞いていたけれど、確かに東京タワーより一回りほど小さかった。それでも展望台にあがり、街を見下ろすと、山の高さがあるから、それほど低さが気にならない。
「夜景が東京より少し寂しいでしょ?」
「うーん。言われてみればそうかな? でもすごく明るいじゃん」
「まぁ確かに明るいけど、東京の夜景の方が明るいし、すごく綺麗だった。だからすごく印象的だったんだ」
そういうイジュンは東京タワーにのぼったときのことを思い出しているみたいだ。確かに若干明るさはないかもしれないけれど、この夜景を見れば、ソウルだって立派な都市なのがわかる。
展望台でソウルの夜景を眺めたあと、イジュンが行きたいところがあると言って連れて行かれたのは、フェンスにすごい数の鍵が掛けられているところだった。赤、青、ピンク。鍵に文字が書かれて、絡み合うようにぶら下がっている。
「ここね、カップルが一緒に鍵をつけるんだ。それで外せないように鍵は投げ捨てるんだ。だから一緒に鍵を掛けたカップルは永遠に離れないって言うんだよ」
イジュンの言葉に俺は笑ってしまった。
「ロマンチックすぎるだろ、それ」
「なんで?」
錠前の群れを前にして俺は不思議な気持ちになった。想いを残そうとしてきた痕跡がこんなにもある。鍵に名前や日付が書いてあって、その数だけ物語がある。でも俺たちはまだなにも残してない。旅の途中に並んで歩いているだけだ。だから、そこに名前を刻むことはまだ少し早い気がした。別にイジュンが嫌いなわけではないし、少なくとも一緒に仕事をすることになるだろうけれど、先がまだわからない。
「買ってくる?」
イジュンは無邪気に訊いてくる。それに対し、俺は首を横に振った。
「いや、今はいいよ」
「どうして?」
「……まだそこまでのこと、できない」
そう言葉にすると、自分が言ったのにも関わらず胸が痛む。そして、イジュンを見ると、イジュンの顔には少し影が落ちた。そんな顔をさせたのは俺だ。なにか言おうとしたらイジュンはすぐに笑った。
「じゃあ今度来たときだね」
と軽く言った。傷つけた。わかってる。それでも、今はまだ少し早いと思ったんだ。だけど、もう少し待って欲しい。そうしたらそのときは一緒に鍵を掛けるから。
夕食のサムギョプサルは美味しかった。日本の焼肉の食べ方と違うのは肉にサンチュを巻いて食べることだろうか。日本だと肉とは別に野菜を食べることになるけれど、サンチュで巻いてしまえば一口で肉と野菜を食べることができる。効率的だな、と思ったけれど、韓国人のせっかちというのも関係しているのかなと思ったりもした。
「食事してたから遅くなっちゃったね。ゆっくり見れない。ごめんね」
南山コル韓屋村に着いたときにイジュンがそう謝った。伝統韓屋5棟はどれも立派な人の家を移設してきたものだという。北村韓屋村も大きな家が多かったけれど、それとはまた違っている。ここの良さは建物の中も覗くことができることだ。
「でも、中を覗くことができるから来て良かった」
部屋にあがることはできないけれど、中を覗けるのは北村韓屋村とは違う。家具や生活道具が置いてあり、昔の生活を再現してくれているのは興味深い。家具は日本の物とは違うけれど、生活なんかは似ていたんだろうから想像することはできる。韓国と日本が違うのは、韓国は冬が来る前にキムジャンという大量にキムチを漬けることがあるくらいだ。
興味深く部屋を見ていると8時の閉館(?)の時間になった。
「寄ってくれてありがとうね。面白かった」
「そう? それならいいけど。じゃ、ソウルタワーに行こうか」
「うん」
南山の坂道をのぼっていくと、視界がぱっと開けて、塔が空に突き刺さるように建っていた。ソウルタワーだ。東京タワーより100メートル近く小さいと聞いていたけれど、確かに東京タワーより一回りほど小さかった。それでも展望台にあがり、街を見下ろすと、山の高さがあるから、それほど低さが気にならない。
「夜景が東京より少し寂しいでしょ?」
「うーん。言われてみればそうかな? でもすごく明るいじゃん」
「まぁ確かに明るいけど、東京の夜景の方が明るいし、すごく綺麗だった。だからすごく印象的だったんだ」
そういうイジュンは東京タワーにのぼったときのことを思い出しているみたいだ。確かに若干明るさはないかもしれないけれど、この夜景を見れば、ソウルだって立派な都市なのがわかる。
展望台でソウルの夜景を眺めたあと、イジュンが行きたいところがあると言って連れて行かれたのは、フェンスにすごい数の鍵が掛けられているところだった。赤、青、ピンク。鍵に文字が書かれて、絡み合うようにぶら下がっている。
「ここね、カップルが一緒に鍵をつけるんだ。それで外せないように鍵は投げ捨てるんだ。だから一緒に鍵を掛けたカップルは永遠に離れないって言うんだよ」
イジュンの言葉に俺は笑ってしまった。
「ロマンチックすぎるだろ、それ」
「なんで?」
錠前の群れを前にして俺は不思議な気持ちになった。想いを残そうとしてきた痕跡がこんなにもある。鍵に名前や日付が書いてあって、その数だけ物語がある。でも俺たちはまだなにも残してない。旅の途中に並んで歩いているだけだ。だから、そこに名前を刻むことはまだ少し早い気がした。別にイジュンが嫌いなわけではないし、少なくとも一緒に仕事をすることになるだろうけれど、先がまだわからない。
「買ってくる?」
イジュンは無邪気に訊いてくる。それに対し、俺は首を横に振った。
「いや、今はいいよ」
「どうして?」
「……まだそこまでのこと、できない」
そう言葉にすると、自分が言ったのにも関わらず胸が痛む。そして、イジュンを見ると、イジュンの顔には少し影が落ちた。そんな顔をさせたのは俺だ。なにか言おうとしたらイジュンはすぐに笑った。
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