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第1話 「個性〈ティア〉」
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〈Login completed.〉
〈Connected with Another Eve Online.〉
気がつくと俺は上下左右真っ白の正方形の部屋に居た。大体人一人分がやっとな広さで特に物もなく殺風景な場所だ。
服はよくゲームに出てくる村人みたいな格好を着せられている。
「ここが仮想世界...」
何よりもまずダイヴするのが今回初めてで人によっては体に異常をきたしたりうまくダイヴできないケースもあるのだがそういった心配は要らないようである。
「......ふむ」
手を握ったり広げたり皮膚をつねったりはたまた軽く走ったりもしてみたが痛覚以外は現実と遜色ない感覚で痛覚の感度は事故防止のためやはり下がっているようだった。
走っても走ってもあまり苦しくはならないのはどこか変な感じがしたがそれも直に慣れていくだろう。
そんな仮想世界自体のチュートリアルを自主的に学んでいると部屋の中央に可愛げな女の子がいることに気がついた。
「ようこそ!もうひとつの世界、Another Eve Onlineへ。私はチュートリアルNPCのミゼラと申します。」
「ど、どうも...」
重厚な装甲を身に纏うミゼラと思しき少女は、はきはきとアナウンサーのような滑舌の良さで話す。
「ではまずあなたのプレイヤー名を教えてください」
虚空からウィンドウが出現するやいなや俺はタイピングを始めた。
予めidは決めてあるのだ。
〈"Iamanother"〉
もう1人の自分。
使用可能です、と少女は言うと今度は承認を求めるウィンドウが立ち上がった。
俺は指で承認の欄に触れた。
「次にこのゲームの2つの基本的なシステムはご存知でしょうか?」
「あー、えっとプレイヤーの個性によって能力が決まるやつと...ゲーム内のアイテムを現実に持ち帰れる...でしたっけ?」
「正解です。お見事! 前者は〈ティア〉後者は〈ヴィラ〉と呼ばれるシステムです。前者はプレイヤーが何時どこでも使用可能なスキルだと思ってください。同じ能力は存在せず世界にひとつだけ、あなただけの能力を保証致します。しかし優劣に限っては保証しかねます、個性にも優劣はあるのですから。各プレイヤーはその能力の欠点を補ったりまたそうしたデメリットを裏手に取ることが求められます。一言で言えばどんな能力でも使い方次第ということです。強いスキルを弱く使えば弱いですし弱いスキルでも強い使い方をすれば決して劣ることはありません。」
「な、なるほど.. 」
NPCだから淡々としているのかと思ったがかなりフレンドリーな感じで驚いた。
個性から得た異能力でプレイヤーとpvpを繰り広げていくことが大まかな流れとなるのだろう。
ワクワクするのもつかの間、俺はある事が気になって仕方がなかった。
「ミゼラさん、個性のない人間はどうなるんでしょうか?」
そうだ。幼い頃から親に進路を決められ恵まれた環境で育った俺は自分というものを見いだせたことがないと言える。
更には親の期待にも応えようとせず、諦めた親は俺に取って代わる優秀な養子を引き取った、それが妹の水亜だった。
今でも俺は勉強と生活をこなすだけで将来の夢だとか以前に、肝心の自分すら上手く認識できていないのだ。
そんな、そんな俺に個性などあるのだろうか。
「な、なかなか複雑な問題を抱えていらっしゃるのですね。親の期待から始まった確執と自分自身すらもよく分からないということですか。」
「え、えっ?」
「こほん...ほ、本機はゲーム内におけるプレイヤーの心情的ケアサポートも行っておりますのである程度の心境だったり考えは読めてしまうのです。要らぬことでしたらすみません。」
ミゼラさんは俯く俺の肩に手を置くと、ですがと続けた。
「結論から言うとそれすらも個性なのです。自分というものがよく分からないということだって立派な自分なのですから。あなたがこのゲームを受験シーズンにも関わらず買ってしまったことも。」
うっ、と心からうめき声が上がる。
まさかそんなことまで読まれていたとは。
しかしながら言っていることはたしかに正しく思えた。こうして話をして何かを感じている自分すらもそれは固有のものだ。
「それに個性は誰かと関わることでしか見い出すことはできません、自分の中だけで感じる個性など個性ではないのです。今ゲームはそうしたプレイヤー達の人間的な拡張も目的としています。
アバター作成がないのもそうした個性の喪失を防ぐためなのです。
ですから今のあなたからも今だけの素晴らしい能力はきっと生まれますし、より経験を積み人間性を高めることができれば能力も進化していきます。それこそが〈ティア〉の醍醐味なのですから。」
「ありがとうミゼラさん」
心のどこかで何かが外れた気がした。
俺が感じていたわだかまりも妹への気持ちも日々の喪失感もそれらは紛れもない俺〈個性〉なのだ。
このゲームを通して初めて自分というものを掴み取ろう。
〈Qualia of Player scanning is completed. 〉
〈Player gained Tia.〉
少女はどこからともなく赤茶色の本を取り出すと俺に手渡した。
「あなたの個性から得た能力〈ティア〉も無事今、完成しましたよ。あなたの能力やパラメータはこの本で何時でも参照可能です。それではチュートリアルは終了となります。お疲れさまでした」
「ミゼラさん短い間でしたがお世話になりました。また会えますか?」
ショートヘアの少女はとびきりの笑顔で
「心の鍵というアイテムで何時でもここに来れますよ。では〈初心の門〉へ転送を開始します。いってらっしゃい」
「はい!」
周りの景色が白から虹色に移り変わると一瞬にして賑やかな声が包む門前のフィールドへと転送された。
古今東西様々なプレイヤーがそこら中で話をしたり店で何かを買ったりしている。
「ここが〈初心の門〉。」
目の前には石造りの巨大な門が静かに佇んでいた。
〈Connected with Another Eve Online.〉
気がつくと俺は上下左右真っ白の正方形の部屋に居た。大体人一人分がやっとな広さで特に物もなく殺風景な場所だ。
服はよくゲームに出てくる村人みたいな格好を着せられている。
「ここが仮想世界...」
何よりもまずダイヴするのが今回初めてで人によっては体に異常をきたしたりうまくダイヴできないケースもあるのだがそういった心配は要らないようである。
「......ふむ」
手を握ったり広げたり皮膚をつねったりはたまた軽く走ったりもしてみたが痛覚以外は現実と遜色ない感覚で痛覚の感度は事故防止のためやはり下がっているようだった。
走っても走ってもあまり苦しくはならないのはどこか変な感じがしたがそれも直に慣れていくだろう。
そんな仮想世界自体のチュートリアルを自主的に学んでいると部屋の中央に可愛げな女の子がいることに気がついた。
「ようこそ!もうひとつの世界、Another Eve Onlineへ。私はチュートリアルNPCのミゼラと申します。」
「ど、どうも...」
重厚な装甲を身に纏うミゼラと思しき少女は、はきはきとアナウンサーのような滑舌の良さで話す。
「ではまずあなたのプレイヤー名を教えてください」
虚空からウィンドウが出現するやいなや俺はタイピングを始めた。
予めidは決めてあるのだ。
〈"Iamanother"〉
もう1人の自分。
使用可能です、と少女は言うと今度は承認を求めるウィンドウが立ち上がった。
俺は指で承認の欄に触れた。
「次にこのゲームの2つの基本的なシステムはご存知でしょうか?」
「あー、えっとプレイヤーの個性によって能力が決まるやつと...ゲーム内のアイテムを現実に持ち帰れる...でしたっけ?」
「正解です。お見事! 前者は〈ティア〉後者は〈ヴィラ〉と呼ばれるシステムです。前者はプレイヤーが何時どこでも使用可能なスキルだと思ってください。同じ能力は存在せず世界にひとつだけ、あなただけの能力を保証致します。しかし優劣に限っては保証しかねます、個性にも優劣はあるのですから。各プレイヤーはその能力の欠点を補ったりまたそうしたデメリットを裏手に取ることが求められます。一言で言えばどんな能力でも使い方次第ということです。強いスキルを弱く使えば弱いですし弱いスキルでも強い使い方をすれば決して劣ることはありません。」
「な、なるほど.. 」
NPCだから淡々としているのかと思ったがかなりフレンドリーな感じで驚いた。
個性から得た異能力でプレイヤーとpvpを繰り広げていくことが大まかな流れとなるのだろう。
ワクワクするのもつかの間、俺はある事が気になって仕方がなかった。
「ミゼラさん、個性のない人間はどうなるんでしょうか?」
そうだ。幼い頃から親に進路を決められ恵まれた環境で育った俺は自分というものを見いだせたことがないと言える。
更には親の期待にも応えようとせず、諦めた親は俺に取って代わる優秀な養子を引き取った、それが妹の水亜だった。
今でも俺は勉強と生活をこなすだけで将来の夢だとか以前に、肝心の自分すら上手く認識できていないのだ。
そんな、そんな俺に個性などあるのだろうか。
「な、なかなか複雑な問題を抱えていらっしゃるのですね。親の期待から始まった確執と自分自身すらもよく分からないということですか。」
「え、えっ?」
「こほん...ほ、本機はゲーム内におけるプレイヤーの心情的ケアサポートも行っておりますのである程度の心境だったり考えは読めてしまうのです。要らぬことでしたらすみません。」
ミゼラさんは俯く俺の肩に手を置くと、ですがと続けた。
「結論から言うとそれすらも個性なのです。自分というものがよく分からないということだって立派な自分なのですから。あなたがこのゲームを受験シーズンにも関わらず買ってしまったことも。」
うっ、と心からうめき声が上がる。
まさかそんなことまで読まれていたとは。
しかしながら言っていることはたしかに正しく思えた。こうして話をして何かを感じている自分すらもそれは固有のものだ。
「それに個性は誰かと関わることでしか見い出すことはできません、自分の中だけで感じる個性など個性ではないのです。今ゲームはそうしたプレイヤー達の人間的な拡張も目的としています。
アバター作成がないのもそうした個性の喪失を防ぐためなのです。
ですから今のあなたからも今だけの素晴らしい能力はきっと生まれますし、より経験を積み人間性を高めることができれば能力も進化していきます。それこそが〈ティア〉の醍醐味なのですから。」
「ありがとうミゼラさん」
心のどこかで何かが外れた気がした。
俺が感じていたわだかまりも妹への気持ちも日々の喪失感もそれらは紛れもない俺〈個性〉なのだ。
このゲームを通して初めて自分というものを掴み取ろう。
〈Qualia of Player scanning is completed. 〉
〈Player gained Tia.〉
少女はどこからともなく赤茶色の本を取り出すと俺に手渡した。
「あなたの個性から得た能力〈ティア〉も無事今、完成しましたよ。あなたの能力やパラメータはこの本で何時でも参照可能です。それではチュートリアルは終了となります。お疲れさまでした」
「ミゼラさん短い間でしたがお世話になりました。また会えますか?」
ショートヘアの少女はとびきりの笑顔で
「心の鍵というアイテムで何時でもここに来れますよ。では〈初心の門〉へ転送を開始します。いってらっしゃい」
「はい!」
周りの景色が白から虹色に移り変わると一瞬にして賑やかな声が包む門前のフィールドへと転送された。
古今東西様々なプレイヤーがそこら中で話をしたり店で何かを買ったりしている。
「ここが〈初心の門〉。」
目の前には石造りの巨大な門が静かに佇んでいた。
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