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キセル屋と狸の大工
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キセル屋
煙管を作って売っている兎。キセルの他に刻み煙草や香炉、お香を作っている。
煙管の修繕や掃除も受ける職人。
人望が厚く、世話焼き。べらんめぇ調でしゃべる、喧嘩っ早い江戸っ子。
狸の大工
皮肉屋で物事を斜めから見る狸の大工。口数は少なく、開けば皮肉が飛ぶ。
鬼の師匠から大工のイロハを習ったことで鬼の顧客が多い。
人付き合いは面倒なこと、と思っている節がある。
+++
『』←心の声
キセル屋「おーい?お前さんが天狗の旦那の紹介にあった狸の大工殿かい?」
狸の大工「天狗の旦那の名前…てぇこたぁ、あんたがキセル屋か。確かにあっしで間違いねぇ、荷車を作ってほしいんだったか?」
キセル屋「ああ、手頃で軽いものをひとつ」
狸の大工「あいよ。…なぜ天狗の旦那はあっしなんかを勧めたのか、甚だ疑問だねぇ」
キセル屋「あ?なんか言ったかい?」
狸の大工「いいや、何も。さて、荷車についてだが、完成まで七日ほどかかる。七日後、またここにきておくれ」
キセル屋「七日!?そんな短期間で作れるもんなのかい!?」
狸の大工「お前さんみたいな背丈の小さな奴の荷車だ。バカみたいにデケェ大鬼のもんとは訳がちげぇよ」
キセル屋「へ、へぇ…そんなもんかい」
狸の大工「そんなもんさ。では七日後」
狸の大工が立ち去る
キセル屋「お、おう。よろしく頼む。『無口な大工だねぇ。あっしの知っている大工とまるで違う。職人気質って奴かね?まぁ、でもこいつはいい荷車を期待できそうだ』」
数日後
キセル屋「いやぁ~、ありがとよ!大工殿!おかげでまたキセルを売ることができる!ああ、そうだ。お礼と言っちゃなんだが…」
狸の大工「礼?そんなもんいらん。代金は天狗の旦那に請求するからな。お前さんからはとらんよ」
キセル屋「しかし、こんなに軽くていい荷車を作ってもらったんだ。何かしねぇとあっしの気がすまん」
狸の大工「気にしなさんな。それに、お前さんキセル売りだろう?あっしは煙草は吸わねぇ。気なんて遣いなさんな」
キセル屋「うーん…そうかい…。ああ!じゃあ、こいつを貰ってくれ!」
狸の大工「なんだい、こいつぁ?置物かい?」
キセル屋「香炉さ。もちろん、置物にしてもらっても構わない」
狸の大工「…どうせ、いらんといっても貰えとひかない気だろう?」
キセル屋「おうとも!」
狸の大工「なら、有難く頂戴しとくかな」
後日
キセル屋「よお!大工殿!」
狸の大工「うん?…なんだ、また来たのか」
キセル屋「おう、きてやったぜ!お前さんに作ってもらった荷車だが、軽いし丈夫で砂利道や足場の悪い道でもびくともしねぇ!本当にいいものをありがとよ!」
狸の大工「…再三来たかと思えば、礼の言葉とはね…。使い手に取って一番いいものを作るのが職人ってもんだ。こんなことでいちいち礼を言うこたぁねぇよ」
キセル屋「お前さんは相変わらずだな!ところで、また何か作ってるのかい?」
狸の大工「ああ、これは昨日きた注文の品さ」
キセル屋「随分でかい臼だなぁ…。あっしの背丈よりも…」
狸の大工「まぁ、そうだろうな。ざっと兎十匹は余裕で入る。で、そのまま杵(きね)で突けるな」
キセル屋「ちょ、ちょいと、なぜそこで兎が出てくるんだい?」
狸の大工「今あっしの目の前に兎がいるからね」
キセル屋「よしとくれよ…。肝が冷える…。しかし、こんなバカでけぇ臼、一体誰が使うんだい?」
狸の大工「こいつか?こいつぁ…バカみてぇにデケェ大鬼が注文してきたんだ」
キセル屋「…は?鬼??」
狸の大工「おうよ」
キセル屋「鬼が顧客なのかい?」
狸の大工「おうとも」
キセル屋「食われたりしねぇのかい?」
狸の大工「今はとんと無くなったが…駆け出しのころは両の指じゃぁ数え切れねぇな」
キセル屋「…あんた見かけによらず、強い狸なんだね。鬼なんて、力は強いわ、加減は知らないわで、あっしら動物系の妖はみんな遠巻きにするのに…」
狸の大工「いや、あっしの場合はお師匠のせいもあるな」
キセル屋「お師匠?あんたのお師匠も鬼を相手に商売をしていたのか!師弟そろってすごい狸だな…」
狸の大工「お師匠は狸じゃねぇよ?」
キセル屋「あん?狸じゃねぇ?」
狸の大工「あっしのお師匠は大鬼だったんだ」
キセル屋「…あんた、お師匠に食われそうにならなかったのかい?」
狸の大工「お師匠じゃなくて、兄弟子らに食われそうになったことは何度か」
キセル屋「よく生き延びたな」
狸の大工「まぁ、そうだな。あっしが一番驚いてるよ」
キセル屋「食われそうになっても、弟子入りするなんて…よっぽどそのお師匠の腕がいいんだろうね」
狸の大工「あっしから志願したんじゃねぇよ。成り行きで弟子入りしたみたいなもんだ」
キセル屋「成り行き?」
狸の大工「ずいぶん昔に、人間に見つかって体の皮、剥がされそうになってな。文字通り、命からがら逃げてきて、匿ってくれたのが大鬼の大工…あっしのお師匠だったのさ」
キセル屋「へぇ!お師匠が命の恩人ってわけか!」
狸の大工「まぁ、そうだな。ほとぼりが冷めるまで森に帰らず、鬼の住処にいるといい、とお師匠が勧めてくれてよ。で、あっしの手先の器用さをかってくれて、弟子にしてくれたんだ」
キセル屋「はぁ~…なんともいい話じゃねぇか!で、それから鬼の大工殿のとこで修業を積んで、鬼を相手に商売してるってことかい?」
狸の大工「ざっくり言うとそうだな」
キセル屋「へえ…。いいねぇ。そういうの。お前さんのお師匠にあってみてぇなぁ。そんで酒の一杯でも酌み交わしてみたいねぇ」
狸の大工「…んなことしたら、お前さん。酔って正体失ったお師匠に踏みつぶされるか、食い殺されるぞ?」
キセル屋「だから!恐ろしいことをいいなさんな!」
煙管を作って売っている兎。キセルの他に刻み煙草や香炉、お香を作っている。
煙管の修繕や掃除も受ける職人。
人望が厚く、世話焼き。べらんめぇ調でしゃべる、喧嘩っ早い江戸っ子。
狸の大工
皮肉屋で物事を斜めから見る狸の大工。口数は少なく、開けば皮肉が飛ぶ。
鬼の師匠から大工のイロハを習ったことで鬼の顧客が多い。
人付き合いは面倒なこと、と思っている節がある。
+++
『』←心の声
キセル屋「おーい?お前さんが天狗の旦那の紹介にあった狸の大工殿かい?」
狸の大工「天狗の旦那の名前…てぇこたぁ、あんたがキセル屋か。確かにあっしで間違いねぇ、荷車を作ってほしいんだったか?」
キセル屋「ああ、手頃で軽いものをひとつ」
狸の大工「あいよ。…なぜ天狗の旦那はあっしなんかを勧めたのか、甚だ疑問だねぇ」
キセル屋「あ?なんか言ったかい?」
狸の大工「いいや、何も。さて、荷車についてだが、完成まで七日ほどかかる。七日後、またここにきておくれ」
キセル屋「七日!?そんな短期間で作れるもんなのかい!?」
狸の大工「お前さんみたいな背丈の小さな奴の荷車だ。バカみたいにデケェ大鬼のもんとは訳がちげぇよ」
キセル屋「へ、へぇ…そんなもんかい」
狸の大工「そんなもんさ。では七日後」
狸の大工が立ち去る
キセル屋「お、おう。よろしく頼む。『無口な大工だねぇ。あっしの知っている大工とまるで違う。職人気質って奴かね?まぁ、でもこいつはいい荷車を期待できそうだ』」
数日後
キセル屋「いやぁ~、ありがとよ!大工殿!おかげでまたキセルを売ることができる!ああ、そうだ。お礼と言っちゃなんだが…」
狸の大工「礼?そんなもんいらん。代金は天狗の旦那に請求するからな。お前さんからはとらんよ」
キセル屋「しかし、こんなに軽くていい荷車を作ってもらったんだ。何かしねぇとあっしの気がすまん」
狸の大工「気にしなさんな。それに、お前さんキセル売りだろう?あっしは煙草は吸わねぇ。気なんて遣いなさんな」
キセル屋「うーん…そうかい…。ああ!じゃあ、こいつを貰ってくれ!」
狸の大工「なんだい、こいつぁ?置物かい?」
キセル屋「香炉さ。もちろん、置物にしてもらっても構わない」
狸の大工「…どうせ、いらんといっても貰えとひかない気だろう?」
キセル屋「おうとも!」
狸の大工「なら、有難く頂戴しとくかな」
後日
キセル屋「よお!大工殿!」
狸の大工「うん?…なんだ、また来たのか」
キセル屋「おう、きてやったぜ!お前さんに作ってもらった荷車だが、軽いし丈夫で砂利道や足場の悪い道でもびくともしねぇ!本当にいいものをありがとよ!」
狸の大工「…再三来たかと思えば、礼の言葉とはね…。使い手に取って一番いいものを作るのが職人ってもんだ。こんなことでいちいち礼を言うこたぁねぇよ」
キセル屋「お前さんは相変わらずだな!ところで、また何か作ってるのかい?」
狸の大工「ああ、これは昨日きた注文の品さ」
キセル屋「随分でかい臼だなぁ…。あっしの背丈よりも…」
狸の大工「まぁ、そうだろうな。ざっと兎十匹は余裕で入る。で、そのまま杵(きね)で突けるな」
キセル屋「ちょ、ちょいと、なぜそこで兎が出てくるんだい?」
狸の大工「今あっしの目の前に兎がいるからね」
キセル屋「よしとくれよ…。肝が冷える…。しかし、こんなバカでけぇ臼、一体誰が使うんだい?」
狸の大工「こいつか?こいつぁ…バカみてぇにデケェ大鬼が注文してきたんだ」
キセル屋「…は?鬼??」
狸の大工「おうよ」
キセル屋「鬼が顧客なのかい?」
狸の大工「おうとも」
キセル屋「食われたりしねぇのかい?」
狸の大工「今はとんと無くなったが…駆け出しのころは両の指じゃぁ数え切れねぇな」
キセル屋「…あんた見かけによらず、強い狸なんだね。鬼なんて、力は強いわ、加減は知らないわで、あっしら動物系の妖はみんな遠巻きにするのに…」
狸の大工「いや、あっしの場合はお師匠のせいもあるな」
キセル屋「お師匠?あんたのお師匠も鬼を相手に商売をしていたのか!師弟そろってすごい狸だな…」
狸の大工「お師匠は狸じゃねぇよ?」
キセル屋「あん?狸じゃねぇ?」
狸の大工「あっしのお師匠は大鬼だったんだ」
キセル屋「…あんた、お師匠に食われそうにならなかったのかい?」
狸の大工「お師匠じゃなくて、兄弟子らに食われそうになったことは何度か」
キセル屋「よく生き延びたな」
狸の大工「まぁ、そうだな。あっしが一番驚いてるよ」
キセル屋「食われそうになっても、弟子入りするなんて…よっぽどそのお師匠の腕がいいんだろうね」
狸の大工「あっしから志願したんじゃねぇよ。成り行きで弟子入りしたみたいなもんだ」
キセル屋「成り行き?」
狸の大工「ずいぶん昔に、人間に見つかって体の皮、剥がされそうになってな。文字通り、命からがら逃げてきて、匿ってくれたのが大鬼の大工…あっしのお師匠だったのさ」
キセル屋「へぇ!お師匠が命の恩人ってわけか!」
狸の大工「まぁ、そうだな。ほとぼりが冷めるまで森に帰らず、鬼の住処にいるといい、とお師匠が勧めてくれてよ。で、あっしの手先の器用さをかってくれて、弟子にしてくれたんだ」
キセル屋「はぁ~…なんともいい話じゃねぇか!で、それから鬼の大工殿のとこで修業を積んで、鬼を相手に商売してるってことかい?」
狸の大工「ざっくり言うとそうだな」
キセル屋「へえ…。いいねぇ。そういうの。お前さんのお師匠にあってみてぇなぁ。そんで酒の一杯でも酌み交わしてみたいねぇ」
狸の大工「…んなことしたら、お前さん。酔って正体失ったお師匠に踏みつぶされるか、食い殺されるぞ?」
キセル屋「だから!恐ろしいことをいいなさんな!」
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