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呪い
しおりを挟む気が付けば、わたし自身到底信じられない様な、まるで娼婦の方々の様な喘ぎ声を挙げていました。
「うぅ‥んんっ❤️ああっ❤️‥んんッ❤️」
その声色は、以前に娼館街へと赴きました時分に聞き及んだ、殿方とまぐわう折に発せられる媚びを含んだ代物に他なりません。
そしてその様にあまりにはしたない甘い声が、わたし自身の口から溢れているのです。
依然として現在のこれは、どの様な事態かを判断しかねます為に、わたしはそれを呆然とする限りに御座います。
それ故そんな有様に徹するばかりでしたわたしは、自らの身体へと襲いくる鮮明な程に感じられる変調に意識が及びます。
そうして自身の身体があまりに熱量を発している為、わたし自らでも及ぶ程に発汗している事がわかります。
その為か意識を保つことすらもままならず、自身が腰を落ち着けているその場へとみを身を横たえてしまいます。
そして偶然浴場とあってか同所へと誂えられています姿見には、驚愕に値すべき光景が映し出されています。
そのわたしの身体全体を余す所なく含めてもまだ鏡面に余分があります巨大な姿見は、思わず絶句してしまうまでに衝撃的な事実を物語っていたのです。
そうです。
その様にして反射されたわたしの身体は、次第に形を変えて、まるでユキリスお母様と同様の代物へと徐々に異としていったので御座います。
先程までは些かサイズが合っていないながらも、わたしのお尻を包み込んでいましたスカート。
それからはみ出してしまう程、今現在も身体の変質を迎えているわたしの臀部は、次第にその大きさを増してゆく光景が見て取れます。
元より情けなくも色白でありましたその肌色は、これより更に初雪の如く染まり、加えてまるでお母様のお尻の様にしてわたしの臀部は柔らかにも脂肪を付けたのでした。
無論それと同様にその大きな安産型と称して差し支えありませんそのお尻に倣い、これを支えますその太腿の付け根も形状を変じて行きます。
以前までは真っ直ぐであった骨盤に対して違和感を感じたと思いました途端、気がつけばそれは内股となる様にして姿を変貌させます。
何処か熱を帯びたその脚が内へと向けて徐々に変じていく様は、酷く荒唐無稽に過ぎる光景に御座います。
それもその事象は何よりわたし自身に対して起きているのすから、特段驚愕に震える他にありませんでした。
それ故あまつさえ自身の胸部が豊満な乳房へと姿を変化させていることなど、到底信じることができません。
そんな風にあまりに唐突な一連の出来事に対して眼前の光景を受け入れることすらもままならないわたしは、ひたすらに恐れ慄いているのです。
その為青天井に膨らみ続けるわたしの二つの双丘は、以前のそれとは見る影もなく、既にユキリスお母様と同様の代物となっていました。
そしてわたしには到底不相応な程に肥大化しています乳房は、僅かながらにお母様のそれを超えた辺りにて漸く成長を静止させました。
ですから次いでその様にして肉体ばかりに視線を注いでいましたわたしは、自らの容貌全体へと眼差しを切り替えます。
そうしてその眼前にて誂えられいる鏡面へと反射している自身の映し出されている姿を目の当たりとして絶句致しました。
其処には確かにユキリスお母様と容姿、更にはこれに加えて身体さえも瓜二つのわたしが身横たえる姿がありました。
生まれてからわたしの顔立ちはユキリスお母様のまるで生き写しの様だと言われること度々でありました。
しかしながらまさかこの様な事態で実感するとは夢にも思いませんでした。
果てはユキリスお母様よりも大きく変貌を遂げました豊満な乳房が、殊更にわたしの無様に拍車を掛けて見て取れます。
そこで自らの異変を迎えた変貌を目の当たりとして、漸くレメラと言う名に心当たりを見つけます。
今にこの場へと無様にも倒れ伏すわたしの顔を覗き込む様にして伺っている女性の顔立ちには見覚えがあるのです。
先程までは夜闇に紛れた同所であった為か、その口元と、妖しく輝く瞳しか見て取れませんでした。
しかしながら、今になって眩いばかりの月明かりへと照らされたその面持ちが露わとなります。
「あらぁ‥どうかしらぁ?わたしのことちゃぁんと思い出して頂けたかしらぁ?」
そして其処に見受けられましたのは、以前に娼館街にて交戦致しました相手の魔物に御座います。
恐らくですがその種の中でも特段最上位の個体であるに相違ありません。
いいえ。
そうでなければこの様にしてわたしの身を拘束することなど、到底不可能である筈なのですから、それは敢えて確認するまでもなく自明の理であるに違いありません。
そしてその様にしてわたしの肉体をこの場へと束縛たらしめている元凶と思しき煌々と輝く双眸は、あまりに危険な色を帯びています。
その為このままでは只々いい様にされてしまうばかりであるので、打開策を試みます。
「んんっ❤️あなたはっ❤️ああんっ❤️このッ❤️」
そうです。
その身の内で弾ける様にして迸る強烈なまでの快感に喘ぎながらも、自らの切り札へと手を伸ばします。
しかしながらそんなわたしの儚い努力も虚しく、太腿へと巻き付けている筈のホルスターには届きません。
何故なら先程より変貌を遂げているわたしの胸部があまりに大きくなり過ぎた為、その柔らかな脂肪が邪魔をしたのです。
どうやらなんらかの呪いをかけられた様でいて、わたしの身体は以前のそれはとかけ離れた変貌を遂げてしまった事実へと改めて及びます。
そしてこれも眼前に場を共に致します魔物が原因であるのは、明白であるのです。
それ故如何にかして聖札符を取り出したい所存に御座いましたが、あまりに豊満な自身の突き出た胸がそれを阻害してしまいます。
「あらあらぁ‥ふふ‥どうやら貴方はとっても優秀なサキュバスになれそうねぇ」
ですがそんな風にわたしの往生際の悪い立ち振る舞いを見下ろす魔物が、唐突笑みをこぼします。
その妙齢の美貌へと浮かべられている面持ちは至極上機嫌な表情を呈して見て取れます。
更にこれに加えて一方足を振り上げました魔物は、今にも成長を続けているわたしのお胸を踏み付けます。
ぐにぐにとまるで弄ぶかの様にして足の裏で押し潰すかの如き振る舞いです。
けれどこれをする魔物の素足には特段力は込められてはなくい事だけが、不幸中の幸いに御座います。
そしてこれに際して柔らかにも形を歪ませるわたしのお乳は、無様にもされるがままなばかりに御座います。
「あんっ❤️‥くっ❤️この様な拘束、その気になればわたしでもッ」
そうしてあまりの無体を働かれてしまったことも相まって、思わず自身でも驚くべき反抗心を露わとします。
ですがその様にして自身でも信じられない程気丈に口上を述べたましたのも束の間の事。
再びすぐさまお乳をぐにぐにと踏み付けられてしまい、これに抗う術はありません。
そうなのです。
今のわたしの前方へと突き出していますお胸をその様にして足蹴にされてしまうと、この身に生じます快感により、何を語ることもできません。
ですからそれを理解してのことでしょう。
再度に渡りましてわたしの乳房をつま先にて翻弄する魔物は、極めて悪辣な微笑みを浮かべます。
「どうかしら?そのサキュバスの身体は。こんな風にされても気持ちが良いでしょう?」
そしてわたしへと見下す様にして注がれる眼差しはからさまにも喜悦を露わとしています。
その為その様なこれ以上にない屈辱を感じましたわたしは、これに抗うべくして声を挙げます。
「んんっ❤️そんなっ❤️まさかこの様に不覚を取るなどッ❤️ああんッ❤️このっ、卑怯者っ」
しかしながら、やはりそれに伴いホルスターへと伸ばした自らの五指は、あまりに豊満な自身の乳房により阻まれてしまいます。
そして如何にかしてせめて視線だけでも其方へと向けたわたしですが、案の定大きく育ってしまっていますお乳が、その視界を遮りました。
それ故屈辱にも完全に変異を果たしてしまいましたわたしの身体はそれ程までに以前と様子を違えていたのです。
ですからそれらを鑑みるに、今し方にこの魔物が言ったサキュバスの肉体との話は、どうやら真実にある様です。
ですが当然ながら、依然としてその真偽の程は定かではありませんので、それを鵜呑みにする様な愚行は冒しません。
「ふふっ❤️そうして強がっていられるのも今の内よねぇ。だって貴方はすぐに雄の精を求める様になってしまうのだからぁ。どうかしらぁ?そろそろ貴方も限界なのではなくて?」
しかしながらその様に僅かばかり理性を残すわたしの様子を見て取ったと思しき魔物は、特段声色も勢い付いて語ります。
「んっ❤️そんなッ❤️呪いなどわたしの聖札符で‥」
ですのでこれに応じるに際しては、わたしとしても声高にも負けず劣らずに挑む様にして言い放ちます。
「ふふ‥、御生憎さまねぇ❤️これは外から干渉できる様な代物ではないの。それだから幾ら貴方が巫女としての力を行使した所でそれは無意味でしかないわよぉ」
そうして下からキッと睨み付けるわたしに際する魔物は、その様にして応じる限りに御座います。
そしてこれに加えて耳としたわたしは、仰ぎ見る様な体勢にならざるを得ない現状を甚だ憂うばかりです。
少しだけ立ち上がることさえ出来れば、わたしのホルスターへと納められている聖札符を行使できますのに。
それにも関わらず今現在に身を横たえるわたしは、湧き上がる快感に屈服して倒れ伏す他にないのです。
それ故自らの四肢に対しても力を込めることすらままならないわたしはといえば、されるがままに身を委ね、魔物を仰ぎ見る限りです。
そうして依然とわたしの変貌を遂げたわたしのお乳を踏み付ける彼女は、心底から楽しげな雰囲気を露わとして見て取れます。
「それに貴方はと~ってもサキュバスとして逸材みたいだからぁ、きっと沢山の殿方から言い寄られてしまうと思うわよぉ。ふふ、本当に重畳だわぁ。確かフウガと言ったかしらぁ?あんな化け物相手に同盟だなんて、こうして保険でも掛けておかないと、此方としても気が気ではないもの。ちなみに今貴方に掛けた呪いだけれどそれはわたしでも解けないのよねぇ。無論解呪の方法には及んでいるのだけれどぉ、それを教える程わたしは善良ではないし、愚かでもないわねぇ」
そしてそんな彼女から淀みない調子に語られたその口上の内容の程は、わたしに対して身に余る絶望をもたらします。
その意味する所には依然として明瞭ではないわたしの頭の巡りでは、未だに判然としか及びません。
ですがそれは如何にこれからわたしに待ち受ける運命が残酷であるのかを物語っている代物であるのかは、特段言及するまでもなく悟ります。
それ故今にも魔物から与えられています、お乳への辱めも、身を駆け巡る快楽により、反抗の意思が失われてゆくのがわかります。
「あんっ❤️うそっ❤️‥ですっ❤️わたしは貴方の様な邪悪には、決して屈しません。ああっ❤️そこはダメですっ❤️やめてくださいっ❤️」
ですので形だけでも自らの振る舞うべき挑む様な口調にて、自らでも理解している程の、あからさまな強がりを語ります。
しかしながらそうしたわたしの口上を受けるに際しては、魔物の足の指先が動きます。
そうして応じるに際しました五指が向かう先は、わたしの乳房の先端に御座います。
すると次いでその指先が捉えたのは、先程から与えられている刺激により僅かながらに硬くなったわたしの乳首です。
そして薄桃色のそれを器用にも足先にて摘まれてしまうわたしは、思わず甲高い嬌声を挙げてしまいます。
自ずと身悶える羽目となったわたしは、今し方にもこねくり回される其処から与えられる感覚に恍惚としてしまいます。
ですがぐにぐにと、爪の先で痛い程に弄ばれているにも関わらず只々気持ちよく感じるばかりです。
そうして至極艶かしい真っ白な脚の先端にて、わたしの薄桃色に色付いた乳首は幾度となく弄ぶかの如く弾かれてしまうのです。
そしてこれに応じる身体がわたしの意思に反して、次第にその乳頭をぷっくりと大きくしてしまうのです。
その為まるで自分ではない様に甘い声を零し、されるがままに身を委ねる他にないのです。
「あらあらぁ❤️それではこれならこういうのはどうかしらぁ?」
次いでそんな無様を晒すばかりのわたしを見下ろす彼女は、次いで唐突に動きを見せました。
「ああんっ❤️んんっ❤️その様な所っ❤️あんっ❤️いやですっ❤️こんな風にっ❤️あなたみたいな下等な魔物相手にっ❤️」
驚くべき事に、そうして足を移しました彼女は、至極上品な所作でわたしのお股の部分を、そのつま先で踏み付けたのです。
そんな彼女から与えられました何処か今までに感じたことのない違和感に、改めて視線で其処へと見遣ります。
ですがやはりわたし自身の豊満な乳房がその視線を遮りますので、案の定その部分が微塵も見えないのでした。
ですから只々ひたすらにお股の辺りを弄ばれるに徹する他にありませんわたしは、その自らの身体の中に異物が侵入する感触に思わず嬌声を挙げてしまいます。
「ああっ❤️ああっ❤️ああんっ❤️まさかあなたはっ❤️んんっ❤️」
その様にして予期しない刺激は、わたしの身体の中に直接抉るかの如き刺激を与えます。
「ええそうよぉ❤️あなたは完全に女の子になってしまったのぉ❤️うふふ❤️いいわぁ❤️どうかしらぁ?わたしが誂えてあげた女の子の身体は❤️ほらぁ❤️こうしておまんこを擦られると堪らないでしょう?」
そしてこの様に与えられる強烈な身を焦がす程の快楽に溺れるわたしを見下ろして、彼女は唄う様にして微笑んだのです。
「そんなっ❤️わけがっ❤️ありませんっ。わたしがあなたのように穢らわしい魔物などにっ❤️ああんっ❤️どうしてこんなっ❤️くっ❤️うぅっ❤️」
ですからその様に語られた意味する所へと漸く及びがついたわたしは、そのあまりに与えられた屈辱に唇を戦慄かせる他ありません。
その為この様にして働かれる無体から鑑みるに、どうやらわたしのお股は改めて確認するまでもなく変じている様です。
しかしながらわたしの豊満な乳房はそうして変貌を遂げていると思しきお股へと向けるわたしの視線をやはり妨げるのでした。
ですがそれは、自身の身体の変化を心底から厭うていますわたしにとって、至極不幸中の幸いであったのです。
あまりにその光景を目の当たりとしてしまうのは恐ろしく、やはり今それを目撃出来ないわたしの身体に心底から安堵すらも覚えてしまいました。
そうしてわたしの身体の奥底へと突き入れられる足先の感触に、身動きすらままならないのでした。
如何にして抵抗を試みようとも、わたしの身体は思う様にして動いてくれることはありませんでした。
惨めな事に自らの無様を呪いながらも、わたしの身体は只々ひたすらに与えられる快楽の虜とされていたのです。
そうして自身の身に余ります襲いくる快感に対して一切の対抗する手段がありませんわたしはといえば、身を委ねるばかりに御座います。
それ故そんな有り様へと身をやつすわたしは、お股を魔物に踏み付けられたままに、貶められる他にありませんでした。
グリグリと無様にも彼女の足先にて弄ばれるわたしは、それから与えられる快楽に翻弄されてしまったのでした。
するとそんな惨めな姿を晒すばかりのわたしを見下ろしたままの魔物は、突如として狂笑を挙げたのです。
「ふふ‥ふふ‥ふふふふふ‥。あはははははッッッッ!!!!見てみなさぁいっ!貴方の身体は内側から全て作り変えられていくのよ。そして心も例外ではないわ。少なからず抵抗はしている様だけれど、吸精衝動に抗うなんて無駄なことよ。素直になった方が貴方自身の身の為ね。だってサキュバスは本能から雄の子種を求めるのだもの。それもわたしが直々に眷属にしてあげたのだから、それは尋常ではないわね。だから貴方は大人しくあのフウガとかいう男から、お情けをもらいなさぁい。ほら、どうやら丁度気取られてしまった様だし。わたしは退散させてもらうわね。ああでも念押しだけはしておきましょうか。そして予め言っておくけれど、いずれにせよ貴方はわたしの言うことを聞き入れないといけないわ。でないと本当に狂ってしまうわよぉ?ああでも、当然その時になったらわたしの玩具として一生可愛がってあげるわ。楽しみにしていて頂戴ねぇ❤️」
そうしてそれに伴い、あまりに信じがたい内容を饒舌にも語ります彼女は、外湯の入口へと見遣ります。
そしてそれと共にわたしの身体の上より脚を退いた彼女は、すぐさま逃走を図られる様にか、後退を致します。
これに次いで次の瞬間に姿を見せたのは、息も付かせない様な身のこなしで、わたしの元へと駆け寄るフウガお兄様に他なりません。
そして流れる様な振る舞いで身を横たえて倒れ伏すわたしを抱え起こした彼は、鋭い眼差しにて魔物を捉えます。
「貴様‥所詮は魔族だと言うことか‥。まさか俺の後を付けてきたとでも言うのか?仮にも同盟を結んでいる相手に対しての振る舞いとは到底思えないな。この様な狼藉到底許されることではないぞ。即刻アイリスを元に戻すがいい。さもなければ命はないと知れ」
そうして魔物へと睥睨すると共に、まるでお腹へと響く渡る様な重苦しい声色にて言い放つフウガお兄様に御座います。
「あらぁ‥それはできない相談ねぇ‥。だって此方としても貴方みたいな化け物と保険なしで同盟なんて組める筈がないもの。だからいずれにせよその子を救いたいのであれば、聖王国を打倒するその時まで、我慢して欲しいだけなのよぉ。貴方がもしも近いうちにあのリリス・スノーホワイト・フォン・レアノスティアを打ち破ってくれたのなら、すぐにでもその子を元に戻す方法を教えてあげるわよ。無論貴方が例えばこの場でわたしを殺すと言うのであれば一向にそれでも構わないのだけれど?でも仮にそうなってしまったらその子は一生そのままね。その雄に媚びるしか能のない身体を持て余して、これからずぅっと屈辱を感じて生きる羽目になるわよ。けれど仮にそれを許容する勇気があるのであれば、此方からの譲歩を切り捨てるといいわぁ」
するとこれを受けた側の魔物の特段勢いも増して、自らの思うところを語ります。
そしてその堰き止められていた濁流の如く迸る口上は、存外の事この場へと響いては聞こえたのでした。
その有無を言わせない物言いの程は、先程にも語り見せましたフウガお兄様にもまけずおとらずの強気な内容に他なりません。
恐らくそれはこの場において足手纏いであるわたしの身体を人質にとっていると称して過言ではないが所以でしょう。
そうでなければ本来、こと戦闘においては手練を誇るフウガお兄様に対して此処まで一方的に応じ見せることなど叶わないに相違ありません。
その為同所におけるお荷物と称して差し支えないわたしにも気遣ってくださるフウガお兄様は、対する相手よりも自ら格上であるにも関わらず、攻勢に回る他にない様でした。
「貴様はこの俺を脅迫しているのか?」
そしてその脅し文句を聞き届けたと思しきフウガお兄様は、先程とは一転して静かな声色にて問いを投げかけます。
しかしながらその打って変わった落ち着き払った態度からは、まるで内心が伺えません。
その様子がまた、抱き抱えられるがままとされているだけのわたしからでも、心底から恐ろしく感じられます。
ところがそんなフウガお兄様の少なからず怒りの籠った声色を聞いて尚も、受けるに際した相手は意に介した素振りも見せません。
フウガお兄様の鋭い眼光に伴い放たれた、まるで質量さえ伴って思われる様な、極めて強烈に御座います圧迫感。
更にそれを直に受けているにも関わらず、応じる魔物はといえば、粛々とした振る舞いを見せるばかりです。
「あらぁ、そんなに凄まれてはとても恐ろしいわぁ。けれど‥それは貴方の思い違いよ。まさかそんなわけがないでしょう?だってわたし達は、曲がりなりにも同盟の関係にあるのだから。仮に裏切ったのだとしても、流石に貴方は無理だとしても、この子くらいはこの場で始末してみせるわよ。でも敢えて今のわたしがそうしないことくらいは、貴方程の実力者であれば容易に及びがつくでしょう?」
その様にして語る調子も冷然と、淀みなく自らの優位性を此処ぞとばかりに示してみせる様子が見て取れます。
「‥」
これにはこの場における強者であるフウガお兄様も、自ずと口を噤み、閉口する他にない様です。
それもこれもこのわたしの身体が無様にもフウガお兄様の足手纏いになっているが所以に他ならないが為に、誠に申し訳ない限りに御座います。
しかしながらそんなわたしの心中など知ってかし知らずか、これでもかと酷薄な笑みを浮かべた魔物はそれに伴い背部から大きな翼を露出させました。
「それでは改めて貴方にも伝えておくけれど、その今にサキュバスの身体へと転換が行われている子は、天性の素質を秘めているわ。だから貴方が面倒を見てあげなさぁい。無論わたしに預けてくれるというのであれば、それも吝かではないけれど‥」
そしてその夜闇よりも黒い暗黒に染められた両翼にて虚空を撫でると共に、彼女は中空へと浮かび上がります。
そうして煌々と輝く眩いばかりの月夜を背に、妖しく光る真紅の双眸を覗かせています御姿は、正に神話に登場する悪魔と称して差し支えありませんでした。
その様にして空高く飛翔して、軽やかにも上空へと舞い上がっていく身のこなしからは、まるで淀みが感じられません。
しかしながら、そんな今までに見たこともないある種幻想的にすら思える光景とは対称的に、わたしを我に返すのも依然として艶やかに微笑む彼女でした。
「くれぐれもわたしからの忠告を守ることねぇ。でなければその子はサキュバスの本能の赴くがままに、自らの周囲の雄と手当たり次第に見境なくまぐわってしまうと思うわよぉ。だってそれ程までにサキュバスへの変質は強烈なのだからぁ。それもその子自身の魔力の純度がなまじ高いせいよぉ。本来であれば量は質よりも勝る筈だったのだけれど、その子の場合はその限りではないわぁ。その魔力の純度は、並の魔術師を寄せ集めても遥かに凌駕しているのだもの。その子のそれは常人の比ではないわねぇ。けれどそのお陰で、身体も、果てには恐らく心までもが次第に変わっていってしまうのだから、皮肉な話よねぇ」
その様にしてこの世の理を捻じ曲げる人外足る魔物は、自らの術を利用するに伴い、上空へと浮遊しているのです。
そして今に語られましたその御言葉の内容の程とは対称的に、彼女の口元は邪悪にも吊り上がって見て取れました。
そうしてその妙齢の美貌へと浮かべました酷薄な微笑はしかし、特段麗しい容貌として見られます。
「けれどそれはその子も不本意だと思うから、ゆめゆめその事に対して気を払うといいわぁ。いずれにせよ取り返しが付かなくなることを念頭に置いておくことをおすすめするわぁ」
更にこれに加えてその艶やかな唇から言い放たれた口上は、わたしとしても聞き逃せない物言いです。
どうやら彼女の述べた意味する所を鑑みますと、わたしが今に変じています状態は一時的な代物ではい様です。
それは敢えて言及するまでもなく、この様な屈辱的な身体は、呪いを解くその時まで永続的に続くと意味に他なりません。
「いいかしらぁ?これはわたしからのせめてもの助言なのよ?だから精々覚悟しておくことねぇ。特段恨みがあるというわけではないけれど、だってその子が変わっていく様を見れば、貴方だって少なからず聖王国を妥当せしめたくなるのではなくて?」
ですがこの様な事実に及んだ瞬間に、何事か自らの思う所を一頻り語りました彼女は、唐突動きを見せます。
そうです。
わたしが彼女の宙空を舞う姿に思わず見惚れていたのも束の間の事。
今し方にフウガお兄様、或いはわたしへともたらされた言葉を最後に残し、彼女は更なる高度へと飛翔します。
「次に会う時は一体どの様な変質を迎えているのか、とぉっても、みものよねぇ。ふふ‥貴方達との再会、心底から楽しみにしているわねぇッ」
更にはこれに加えて、次第に物凄い速度となりながら、掛かる圧力をものともしない姿が見て取れます。
「逃したか‥」
ですからその一連の流れる様な立ち振る舞いを目の当たりとしては、どうやらフウガお兄様もお手上げの御様子です。
「すまない、アイリス」
肉体面において誰よりも群を抜いて優れていますフウガお兄様も、流石に翼は持ち合わせていない様でした。
「いいえ‥フウガお兄様のせいではありません。わたしが‥迂闊でしたわたしが悪いのです」
その圧倒的なまでに鍛え抜かれた肉体でもってして、類い稀なる身体能力を誇る彼なのです。
凡そわたしを遥かに超越する、まるで岩男と思しきあまりに巨大な体長は、自ずと仰ぎ見なくてはなりません。
極め付けはその弛まぬ自己鍛錬を重ねたでしょう鋼の如き密度を誇る筋肉です。
これは果てしなく彼の肉体へと作用して、その体格や横幅の程を、殊更に大柄へと見せているのでした。
ですがそんな彼であっても、あの高度まで飛び上がるのは、幾ら強靭であると言っても無理があるのは自ずとわたしにも及びが付きました。
それ程までに今も飛翔を続けている魔物の姿は、暗闇に紛れているせいも相まって、特段視界へと捉えることすらも容易ではありません。
それは遠目に見ているだけでもこれだけの速さを誇る彼女は、事戦闘においての知識に疎いわたしが思わず諦観を抱いてしまう程。
それだけ彼女が中空を駆ける姿は人外染みていて、その種に違わない身のこなしを見せたのでした。
そして遂には彼女の姿は、その容貌すらも見て取れないまでに個人の識別が叶わなくなる程の段階へと至ります。
すると遠目へと眺めては、まるで夜闇へと溶け込むかの如く、その姿は既に地平線の彼方へと果てていたのでした。
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