あっぱれ!拙者、戦国配信者なり~どうも皆の衆、生きた化石系配信者である~

龍威ユウ

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第二章:生きた化石系配信者、爆誕!

第11話:配信の方向性って大事

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 一カ月が経った。

 この頃になるとようやく雷志も未来の生活に馴染みつつあった。

 とはいえ、学ぶべきことは絶え間なくやってくる。

 その都度うんうんと頭を悩ませてはどうにか我が物にしていく。

 そうした日々がしばし続いた、ある日のことである。

「――、それでライシさん。私に相談というのは?」

「あぁ、学院長であるあんたにしか頼めないことだ」

 本日は休日で、学校は休みだった。

 いつもはあるはずの生徒たちによる活気も、今やしんとして学院全体はとても静かだった。

 各々が好きなように時間を費やす中、雷志は学院長室へと訪れた。

「わたくしに頼み、ですか。それは果たして、わたくしで解決できそうなことなのでしょうか?」

「どうだろうなぁ。だが、こんなことはあんたにしか頼めそうにないしな」

「……ま、まさか」と、突然顔を赤らめるヒメコ。

 途端に目線が右往左往として、歯切れも悪くなる。

 用件はまだ伝えていない。だが現時点でなにか大きな勘違いをされている。雷志は容易に察した。

「あ~先に言っておくがあんたが想像しているようなことじゃないと思うぞ?」

「そ、そうなんですか?」

「……なんだと思ったんだ?」と、雷志は意地悪っぽく尋ねた。

「な、なんでもありません!」と、わざとらしくせき込むヒメコ。

 彼女は未婚者だという。歳の頃から考えればもう、恋人がいてもなんらおかしくない。

 出会いをきっと求めているのだろう。雷志はなんとなく、そう思った。

「――、俺があんたに頼みたいのは、なにかこう手頃な仕事はないかって話だ」

「仕事、ですか?」

 雷志は古代人という、いわば生きた情報だ。

 情報を提供する代わりに今の環境がある。

 単純に生きる、それだけならば現状について文句の付け所は一切ない。

 とはいえ、いつまでもこうしていることを雷志は良しとしない。

 知識についてならばもうあらかた学んだ。後は実践でこつこつと経験を積み重ねていくのみ。

(それに、訳の分からない実験に付き合わされることももうないからな)

 カナエの姿が、ふと脳裏によぎる。想像上であるのに、そこでもカナエは邪悪な笑みを浮かべている。

 あの配信から時置かずして、カナエからの実験要請の頻度がぐんと上がった。

(鍛造方法を伝えたのがまずかったか……)

 驚くことに、この世界には鍛屋がいない。

 すべて科学という文明の利器によって簡単に作られる。

 それはきっと、とても便利なのだろう。手間暇もかからず、人員にかかる負担も少ない。

 刀には刀匠の魂が宿る。真打ならば特に、そこに込められた魂は熱い。

 カナエの野太刀には、それがまるで感じられなかった。

 雷志はそこで刀の製造方法を伝えた。むろんれっきとした鍛屋ではないから技術を比較されると雲泥の差であるが。

「お金が必要ならばある程度、こちらで用意させていただきますよ」

 それはとてつもなく甘い誘惑だ。

 働かずして金銭を得る。正に夢のような出来事だろう。

 雷志は「いやそれはいい」と、きっぱりと断った。

「さすがにそこまで世話になるつもりはない。そうした生き方は、俺は好かん」

 他人の力に依存する生き方をしては、それはもう侍ではない。

 元々百姓の生まれでこそあった雷志だったが、その在り方は誰よりも侍らしかった。

「自分の食い扶持は自分で稼ぐ。それが満足にいけば、世話になった分も返すしここも出ていく」 

「けど……」

「あんたの気持ちだけは有難く受け取っておく。だが、俺はそうするって決めているんだよ」

 しばらくして「……わかりました」と、ヒメコが折れた。

 説得しても徒労に終わる。そう判断したようだ。

 雷志は「なにからなにまでこっちの都合ですまんな」と、謝った。

「いいえ、それがあなたが決めた道ならわたくしにはそれを止める権利はありませんから」

「……それで、なにかいい仕事はないか? できればこう、その日に報酬が得られるような」

「では、学院内の清掃とかはどうでしょう? 実はつい最近、用務員の方が体調を崩されてしまってしばらくの間復帰できそうにないんです。日雇いという形なら条件としてはいいと思いますが」

「用務員……つまるところ雑用係か。わかった、それぐらいなら俺でもできるだろう」

 雷志は快く承諾した。

 清掃と一言にいっても、そう簡単なものではない。

 校舎内だけでも広く、掃除をする個所もとても多い。

 掃除だけに留まらず、備品の在庫確認からその補充まで。用務員がやるべきことは多々ある。

 休んでいる暇などどこにもない。だが、良い暇つぶしにはなる。

「えっと……確か、この道をまっすぐと進めばいいんだったよな」

 雷志は今日、人生ではじめて町へと赴いた。

(町にきたのは、あの時以来だったな)

 大陸の特色を取り入れた建物があちこちに並んでいる。

(頑張ってみれば京の町並みに見えなくもないんだが……ううん、やっぱりどこか違うな)

 雷志がそう考えていると「おい」と、不意に声をかけられた。

 若い男が二人、いつの間にか目の前にいた。

 雷志はここで「え?」と、思わず唖然としてしまった。

 それが不快と感じたのだろう。男の一人が「なんだ?」と、眼光を鋭くさせる。

(こ、これがこの時代の男……なのか?)

 なんの因果か、雷志は今日に至るまで男を目にしたことがなかった。

 未来の男の姿は、戦国の世に生きた雷志からは信じられないほどひどく脆弱だった。

 身の丈は当時の女性――その平均身長はおよそ四尺八寸約145cmで、彼らはそれと同等かあるいはもっと低い。

 肉体も華奢でそれこそ、ちょっと力を込めて押せば簡単に倒れてしまいかねない。

 にも関わらず、態度だけは大きい。ずいぶんと偉そうなやつだ、と雷志はそう思った。

「俺に何か用か?」と、雷志も負けじと眼光を鋭くさせる。

 彼らが敵意を露わにしているのは、目を見やれば一目瞭然だった。

 そこからある結論へと雷志は至る――彼らはナデプロの視聴者で違いあるまい。

「お前あれだろ。この前、ユウカちゃんとカナエちゃんの配信に出てたっていう……」

「だとしたら、どうした?」と、雷志は絶えず睨む。

 しばしの間を置いて――

「どうすればあんなに強くなれるんだよ!? 俺にも教えてくれよ!」

 と、突然土下座をされた。片方の男も同様に勢いよく土下座する。

 ここは人気の多い場所だ。そのため人も多く、視線は例外なくこのやり取りを注視する。

 あっという間に目立ってしまった状況に、雷志はひどく困惑した。

「お、おいこんなところで土下座なんかするな人が見ているだろう」

 雷志がそういっても二人は、顔を全く上げようとしない。

 きれいな土下座にやがて雷志も「……話があるのなら聞かせてくれ」と、敵意をそっと解いた。

 悪い奴ではないのかもしれない。そう思った次第である。

「俺たちはずっとユウカちゃんたちの配信を見てきた。その度に勇気ももらったし元気ももらった。けど、彼女たちが傷付く度に自分の無力さをひどく呪った……」

「どうして俺は男として生まれてきたのか。役に立てない、立たないのならいっそ肉壁でもなって守りたい。もちろん、それができれば苦労はしないんだけどさ」

「だからこそ、オレたちは知りたいんだ。レギオンやモンスターをあんなに簡単に倒せるにはどうしたらいいのか!」

「…………」

 ようやく二人が顔をあげた。

 弱々しい輝きをしている。だがそこには揺らぎない強い思いが宿っていた。

 彼らは本気だ。本気でヴァルキュリアたちのために力になりたい、とそう切実に願っている。

「なるほどな」

 雷志はふっと口角を緩めた。

 配信は自分らしさをいかに表現できるかも大切である――学院でそう学んだ。

 自分らしい配信とはなにか。その答えを得たような気がした。

「それについては悪いが、今すぐここで答えるというわけにはいかない。だが、お前たちのおかげで俺が進むべき道もなんとなくだが見えてきた」

 不敵に笑う雷志を、男たちは不可思議そうな顔で見ていた。
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