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第四章 驚天動地のアレ事件
番外編 佐紀の昔の話
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僕が生まれたのは件の大戦が始まるちょうど20年程前だった。
僕はそれなりに名のある旧家で生を受けたが、僕を身ごもった母は一向に胎動が無く腹も蹴られないのを訝しみ、伝手により政府の関係するアレ気味な研究機関にある日赴いた。
そこで僕は想像を絶する危機的な状態というのが判明し、即座に母体から摘出され常に培養液に浸されて生きる事となった。
母は僕の状態を知らされた際ショックで気を失い、しばらく心を病んでしまったそうだ。
それ以降僕の事を心配してくれてはいたらしいが、もう僕を保護管理している研究機関を訪れる事は無かった。
母以外の家族も同様だったが、それも仕方の無い事だろう、と物心がついてからは思った。
このアレな国でも僕程の症例は類を見ないらしく、この国に文字や筆記具が開発されて間もない頃に似たような状態の者が時折生まれる事はあったようだが、やはり当時の文明レベルでは生まれた直後にすぐ死んでしまったようだ。
この国は例の最高神の奥方がお怒りになってから呪いに呪われたアレな国になってしまったが、僕の状態を見て政府は彼女の呪いは治まるどころか今も強まり続けている、と確信したようだ。
政府や研究員達は僕の状態と37番目の実験体という事から、僕を御名と呼ぶようになった。
お世話になっている人達にこういう事を言いたくは無いのだが、物心がついてその名を聞かされた時そのセンスには正直相当に引いた。
僕は思考する以外何一つ出来なかったが、憐れんだ研究員達が脳波を介して出来る限りの教養を与えてくれた。
色々な物語を聞くのも好きだったが、歌を聞かせてもらうのが僕は時に好きだった。
まだ当分先になりそうとの事だったが、いつか正常な肉体を手に入れられたら自分の喉で好きな歌を歌ってみたかった。
僕のような状態の者は程度の差こそあれ異能の力を授かるとの事だったが、研究の結果僕は人の精神に働きかけ狂わせる力を秘めているとの事だった。
それから早速その能力を発現させるべく、僕は能力の開発に勤しむ事になった。
それから10年以上の歳月がかかったが、僕は一時的にだが蝶の羽の生えた人の姿になり現実世界に干渉する事が出来るようになった。
精神体のようの物なので物理的な干渉は殆ど出来ないのが残念だったが、五体満足な人の身を得られたのはとても嬉しかった。
それからは気は進まないが政府からの依頼を受け、アレな凶悪犯や不法入国者などこの国に害を及ぼす存在を狂わせ討伐して暮らすようになった。
お世話になった人達への恩義があるし生きるためには仕方ないが、この力をもっと平和な方向に使ってみたかった。
それから更に数年が経ち、件の多くの国々を巻き込んだ大戦が始まった。
僕はすぐに特殊部隊の兵士となり、敵対国家の兵隊達を狂わせ応戦する事となった。
その頃千里もその未来視の力を見込まれスカウトされ僕の部下となった。
上司と部下という立場ではあるが、似た境遇の仲間が出来るのは嬉しかった。
少し後に悪質な見世物小屋から保護された真魚都と騰蛇もやって来て、共に戦うようになった。
初めは劣悪な環境から抜け出せたのを喜んでいたが、間もなく自身の力を残酷な事に使われるのに苦しむようになり、立場上何もしてやれないのが可哀想だった。
それから更に数年が経った頃、精神世界で何度か邂逅した事のある気の毒な少年の要請を聞き、僕は彼を探し部隊に引き入れてもらうよう軍の上層部に掛け合った。
数か月かかったが秘匿されていた彼は探し出され、無事軍に引き入れられ僕の部下となった。
だがそれから間もなくその子は相当にアレだという事に気付かされた。
相当なアレっぷりに僕及び軍関係者一同引いたが、間違いなく彼も可哀想な子だし助け出してくれた僕をとても慕ってくれていたので、正常な愛情を受けていればいつかは素直な良い子に更生してくれると信じて僕は根気強く接していた。
そんなある日、彼から恋人になって欲しいと告白された。
相当なアレ具合に引きつつも根は良い子だと僕は感じていたので、少し悩んだが僕は承諾した。
これで彼もきっと素直になってくれるだろう、そう信じて。
だがそれから更に少し経ったある日、その思いは打ち砕かれた。
使用人や家族もろとも生家を焼き払った彼に、僕は苦しみつつも恋人関係の解消を告げた。
彼の信じられないような物を見る目は、半世紀以上経った今も忘れられない。
それからという物彼は更に輪をかけてアレな子になり、重要な戦力なので邪険にも出来ないが僕等や軍の関係者一同は腫れ物に触るような扱いで接していた。
そんな時、白紙の彼が鹵獲され僕達の部隊に引き入れられる事となった。
白紙の彼改めクロ(やはり例の彼含む関係者一同そのセンスには引いた)は残酷な洗脳をされていたもののとても心優しい少年で、アレな彼もすぐに懐き恋仲となった。
悲惨な過去を改竄されやはり残酷な仕事を強いられるのは気の毒だったが、彼も幸せそうだったのできっとこれは良い事なのだと僕達は思った。
あの、凄惨な事件が起こるまでは。
僕達は彼のアレさを見誤っていた。
あの事件の直後、軍の関係者一同皆そう思った。
千里は大半の物を見通せる自分が、何故こうも酷い事を予知できなかったのかととても悔いていた。
おそらく世界中の人間、神様さえもここまでアレな所業は思いつかなかっただろうし仕方ないと僕達は励ました。
軍上層部も流石にアレ過ぎるという事で彼を解雇し再び幽閉しようかとかなり審議したようだが、大怪我を負ったクロはしばらく戦えないし戦線も激化していたためそうも行かず、大幅な降格と数か月の謹慎処分に留められた。
強制アレされた事や全ての生い立ちを改竄させられ、幻肢痛に苦しみながらあの子の名を呼ぶクロは本当に可哀想だった。
何度も僕はあの子の隔離部屋に行き、この上なく残酷な仕打ちをしてやろうと思ったがやはり彼の部屋の扉を開ける事は一度も出来なかった。
それから数月後、謹慎が解けクロと再会し無邪気な笑みを浮かべる悪魔のようなあの子を殺してやりたいと僕達は皆思った。
そして更に月日は流れ、件の恐ろしい爆弾の投下を千里が予知し僕が操縦士を狂わせ彼の母国に投下させ、数日後に戦争は終結した。
とても強く狂わせた為すでに廃人のような状態となっていたがその操縦士は大戦犯となり、即刻処刑され一族郎党も相当な処罰を受けたようだ。
その機体に付けられた名は、今でも彼の国では忌み名となっているそうだ。
戦争のため仕方ないとはいえ、僕はとても辛かった。
それから僕達は救国の現人神として祀り上げられ毎日豪華な暮らしをさせられる事となったが、例の彼以外皆そのような扱いは望んでいなかった。
例の彼を除いた皆で終戦直後に服毒し自死しようかとも話し合ったが、やはり悲しくてそれも実行には至れなかった。
それに、いつかは必ず例の彼に天誅を加えてやりたかった。
自分の命に代えても、彼は地獄に落としてやりたかった。
何も知らないクロ以外の仲間は皆そう思っていた。
それから更に月日は流れ僕達は正常な肉体を得られたが、やはりまだ神としての扱いのためほとんど自由は無く、アレ過ぎる彼を宥めるため例の子とクロと引き離され生活していたので彼に制裁を与えるチャンスは巡って来なかった。
そして更に長い月日が流れ、まだまだ別格の待遇であるもののある程度の人権と平等は認められるようになった頃。
僕達は歌って踊るのが好きだったので、表世界で身分を隠しアイドルになろうと皆で話し合い流れ星学園に入学する事にした。
それに千里の予知で例の子とクロもほぼ同時期に入学しアイドルとなる事が分かったので、今度こそアイドルとして彼をこの上なく叩きのめし絶望を味わわせてやりたかった。
だから今も、僕達の戦争はステージの上で続いている。
僕はそれなりに名のある旧家で生を受けたが、僕を身ごもった母は一向に胎動が無く腹も蹴られないのを訝しみ、伝手により政府の関係するアレ気味な研究機関にある日赴いた。
そこで僕は想像を絶する危機的な状態というのが判明し、即座に母体から摘出され常に培養液に浸されて生きる事となった。
母は僕の状態を知らされた際ショックで気を失い、しばらく心を病んでしまったそうだ。
それ以降僕の事を心配してくれてはいたらしいが、もう僕を保護管理している研究機関を訪れる事は無かった。
母以外の家族も同様だったが、それも仕方の無い事だろう、と物心がついてからは思った。
このアレな国でも僕程の症例は類を見ないらしく、この国に文字や筆記具が開発されて間もない頃に似たような状態の者が時折生まれる事はあったようだが、やはり当時の文明レベルでは生まれた直後にすぐ死んでしまったようだ。
この国は例の最高神の奥方がお怒りになってから呪いに呪われたアレな国になってしまったが、僕の状態を見て政府は彼女の呪いは治まるどころか今も強まり続けている、と確信したようだ。
政府や研究員達は僕の状態と37番目の実験体という事から、僕を御名と呼ぶようになった。
お世話になっている人達にこういう事を言いたくは無いのだが、物心がついてその名を聞かされた時そのセンスには正直相当に引いた。
僕は思考する以外何一つ出来なかったが、憐れんだ研究員達が脳波を介して出来る限りの教養を与えてくれた。
色々な物語を聞くのも好きだったが、歌を聞かせてもらうのが僕は時に好きだった。
まだ当分先になりそうとの事だったが、いつか正常な肉体を手に入れられたら自分の喉で好きな歌を歌ってみたかった。
僕のような状態の者は程度の差こそあれ異能の力を授かるとの事だったが、研究の結果僕は人の精神に働きかけ狂わせる力を秘めているとの事だった。
それから早速その能力を発現させるべく、僕は能力の開発に勤しむ事になった。
それから10年以上の歳月がかかったが、僕は一時的にだが蝶の羽の生えた人の姿になり現実世界に干渉する事が出来るようになった。
精神体のようの物なので物理的な干渉は殆ど出来ないのが残念だったが、五体満足な人の身を得られたのはとても嬉しかった。
それからは気は進まないが政府からの依頼を受け、アレな凶悪犯や不法入国者などこの国に害を及ぼす存在を狂わせ討伐して暮らすようになった。
お世話になった人達への恩義があるし生きるためには仕方ないが、この力をもっと平和な方向に使ってみたかった。
それから更に数年が経ち、件の多くの国々を巻き込んだ大戦が始まった。
僕はすぐに特殊部隊の兵士となり、敵対国家の兵隊達を狂わせ応戦する事となった。
その頃千里もその未来視の力を見込まれスカウトされ僕の部下となった。
上司と部下という立場ではあるが、似た境遇の仲間が出来るのは嬉しかった。
少し後に悪質な見世物小屋から保護された真魚都と騰蛇もやって来て、共に戦うようになった。
初めは劣悪な環境から抜け出せたのを喜んでいたが、間もなく自身の力を残酷な事に使われるのに苦しむようになり、立場上何もしてやれないのが可哀想だった。
それから更に数年が経った頃、精神世界で何度か邂逅した事のある気の毒な少年の要請を聞き、僕は彼を探し部隊に引き入れてもらうよう軍の上層部に掛け合った。
数か月かかったが秘匿されていた彼は探し出され、無事軍に引き入れられ僕の部下となった。
だがそれから間もなくその子は相当にアレだという事に気付かされた。
相当なアレっぷりに僕及び軍関係者一同引いたが、間違いなく彼も可哀想な子だし助け出してくれた僕をとても慕ってくれていたので、正常な愛情を受けていればいつかは素直な良い子に更生してくれると信じて僕は根気強く接していた。
そんなある日、彼から恋人になって欲しいと告白された。
相当なアレ具合に引きつつも根は良い子だと僕は感じていたので、少し悩んだが僕は承諾した。
これで彼もきっと素直になってくれるだろう、そう信じて。
だがそれから更に少し経ったある日、その思いは打ち砕かれた。
使用人や家族もろとも生家を焼き払った彼に、僕は苦しみつつも恋人関係の解消を告げた。
彼の信じられないような物を見る目は、半世紀以上経った今も忘れられない。
それからという物彼は更に輪をかけてアレな子になり、重要な戦力なので邪険にも出来ないが僕等や軍の関係者一同は腫れ物に触るような扱いで接していた。
そんな時、白紙の彼が鹵獲され僕達の部隊に引き入れられる事となった。
白紙の彼改めクロ(やはり例の彼含む関係者一同そのセンスには引いた)は残酷な洗脳をされていたもののとても心優しい少年で、アレな彼もすぐに懐き恋仲となった。
悲惨な過去を改竄されやはり残酷な仕事を強いられるのは気の毒だったが、彼も幸せそうだったのできっとこれは良い事なのだと僕達は思った。
あの、凄惨な事件が起こるまでは。
僕達は彼のアレさを見誤っていた。
あの事件の直後、軍の関係者一同皆そう思った。
千里は大半の物を見通せる自分が、何故こうも酷い事を予知できなかったのかととても悔いていた。
おそらく世界中の人間、神様さえもここまでアレな所業は思いつかなかっただろうし仕方ないと僕達は励ました。
軍上層部も流石にアレ過ぎるという事で彼を解雇し再び幽閉しようかとかなり審議したようだが、大怪我を負ったクロはしばらく戦えないし戦線も激化していたためそうも行かず、大幅な降格と数か月の謹慎処分に留められた。
強制アレされた事や全ての生い立ちを改竄させられ、幻肢痛に苦しみながらあの子の名を呼ぶクロは本当に可哀想だった。
何度も僕はあの子の隔離部屋に行き、この上なく残酷な仕打ちをしてやろうと思ったがやはり彼の部屋の扉を開ける事は一度も出来なかった。
それから数月後、謹慎が解けクロと再会し無邪気な笑みを浮かべる悪魔のようなあの子を殺してやりたいと僕達は皆思った。
そして更に月日は流れ、件の恐ろしい爆弾の投下を千里が予知し僕が操縦士を狂わせ彼の母国に投下させ、数日後に戦争は終結した。
とても強く狂わせた為すでに廃人のような状態となっていたがその操縦士は大戦犯となり、即刻処刑され一族郎党も相当な処罰を受けたようだ。
その機体に付けられた名は、今でも彼の国では忌み名となっているそうだ。
戦争のため仕方ないとはいえ、僕はとても辛かった。
それから僕達は救国の現人神として祀り上げられ毎日豪華な暮らしをさせられる事となったが、例の彼以外皆そのような扱いは望んでいなかった。
例の彼を除いた皆で終戦直後に服毒し自死しようかとも話し合ったが、やはり悲しくてそれも実行には至れなかった。
それに、いつかは必ず例の彼に天誅を加えてやりたかった。
自分の命に代えても、彼は地獄に落としてやりたかった。
何も知らないクロ以外の仲間は皆そう思っていた。
それから更に月日は流れ僕達は正常な肉体を得られたが、やはりまだ神としての扱いのためほとんど自由は無く、アレ過ぎる彼を宥めるため例の子とクロと引き離され生活していたので彼に制裁を与えるチャンスは巡って来なかった。
そして更に長い月日が流れ、まだまだ別格の待遇であるもののある程度の人権と平等は認められるようになった頃。
僕達は歌って踊るのが好きだったので、表世界で身分を隠しアイドルになろうと皆で話し合い流れ星学園に入学する事にした。
それに千里の予知で例の子とクロもほぼ同時期に入学しアイドルとなる事が分かったので、今度こそアイドルとして彼をこの上なく叩きのめし絶望を味わわせてやりたかった。
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