はーとふるクインテット

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番外編集 アレな世界のいろいろな話

転校生くんちゃんの転校前夜

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「あー、明日から新生活か。不安だけど楽しみだな。半分だけど学園初の女生徒って事だし」


「うん、このアレな国の中でも一際濃くてアレな子達が集まってるって話だもんね。頑張ってね」
「あ、お姉ちゃん。うん、私も割と普通じゃないけど私以上にアレな子揃いって聞いてるからちょっと怖いけど、頑張るよ」

「まああなたこの国としては常識人寄りだけど割と順応性あるし大丈夫だよ。メタい事言うと一応主人公だし死ぬ事もそうそうないだろうしさ」
「…ほ、本当いきなりメタい事言わないで」

「あと聞いた話だと、この国な時点でアレだけどあの学園周辺特に治安が終わっててアレな殺人鬼とか変態とかゴロゴロしてるらしいから気を付けてね。普段から持ち歩いてるだろうけど催涙スプレーとかは絶対携帯しときな。あとアレ殺人鬼データベースアプリも入れておきなね」
「…う、うんそうする。かなり怖いけど」

「で、そういうアレ過ぎる地域だし学園の生徒でもかなり腕に覚えのある仕事人やってる子とかも結構いるらしいから、自衛のためにも早い所そういう強い子と仲良くなっておきな。プロデューサーとしてもコミュ力と人脈は大事でしょ」
「…そ、そうだね。そんなアレな下心で仲良くなるのもなんか嫌だけど」

「まあ、主人公だからそういう物だろうけどあなた何だかんだで悪運は強いしコミュ力は結構あるし、こんなアレな世界とはいえ最終的に何だかんだで良い子は幸せになれるだろうから大丈夫だよ。気を抜いたら殺られるから油断は禁物だけど気楽に行きな」
「…い、いや殺される危険性がある時点で気楽には行けないと思う…でもありがと、頑張るね」


「…あー、でさ。気楽に行けって言った直後でアレだけど。…あなたには、絶対に後悔の無い学生生活を送って欲しいんだ」
「…え、後悔の無いって?」

「…うん、今までしんどくて話して来なかったけど。中学上がりたてくらいの頃私のクラスメイトに、要するに昔の敵国捕虜の子孫の女の子がいたんだけどさ」
「あー、そういう子時々いるもんね。私は一緒になった事無かったけど」

「そう、昔は更に差別されてこの国の人とほぼ同じ教室になる事は無かったんだけど、数十年前くらいから少しずつ平等にしようって一緒のクラスになる事もあったんだよね。…とはいえ、裏ではやっぱり相当差別されちゃったりしてたけどさ。その子、例のアレ落とそうとした国の子だったし」

「あー、例のアレね。急に操縦してた人がおかしくなって何故か自国に落としちゃって、それで戦争終わったんだよね。本当何があったのかなあ」
「うーん、プレッシャーや罪悪感に耐えられなくてアレなお薬キメちゃってたとかかもね。何か聞いた話だと自国に引き返す直前にその人、綺麗な蝶々がとか叫んでたらしいし」
「うわー、そうかもね。でもよりにもよって自国の中枢部に落とさなくても良いのにね。お薬怖いなー」


「で、話を戻すけど。…それでやっぱり表立ってはやらないもののその子陰ではかなりいじめられたり、酷い話だけど一部の先生からもきつく当たられたりしてたの。まだやってない範囲から問題出したり、一人だけ宿題増やしたりとか」
「…アレな国とはいえひどいね。もう何十年も前の話だし、その子は何も関係無いのに」

「…そうだよね。で、ある時可哀想な子達の暮らす施設に募金しようって話が出て、教室に募金箱置いて有志が小銭入れたりしてたんだけどさ。この国その女の子みたいな一部貧困層を除いて全体的に裕福だから、子供の小銭募金とはいえ数か月したら結構な額貯まったんだよね」
「うん、それでどうしたの?」

「…それがある日急に募金箱の中身が空になってて、すぐに学級会が開かれて誰が盗んだかって話になったんだけど。…やっぱり、かなり貧乏だからその子が疑われちゃったんだ。何も証拠も無いのに、担任の先生ですら早く白状しなさい、今すぐ返せば怒らないからって決めつけてかかる始末でさ。でもその子、自分はやってないってずっと言ってて。すごく可哀想だった」
「…そうなんだ。それで、その子どうなったの?」

「…結局証拠は出ないでその子も認めないままその日は終わって、彼女泣きながら帰って行って。…それっきりもう、その子学校に来なかったんだ」
「…本当、可哀想だね」


「…うん、それでね。しかもその犯人、実はうちのクラスの担任だったんだ」
「…え」

「うん、アレなギャンブルに給料注ぎ込んで生活費苦しくなったからって、つい募金箱のお金に手出しちゃったんだって。その子の親が教育委員会に訴えて、調査が入って判明したんだけどね。それで流石に問題になって担任はすぐクビになったけど。…もう、それからもその子はずっと学校に来なかった」

「…本当、ひどいね」

「…それでその後聞いた話だと、その子の親もかなり理不尽にリストラされたらしくて。生活さらに苦しくなって、そういう元捕虜の子孫達が暮らすような地区に引っ越して行ったみたい。…やっぱりそういう人達が集まるから貧民街みたいな感じで、アレな国の中でもかなり治安悪い方らしいからすごく心配なんだけどね。難しいだろうけど、幸せになってて欲しいな」
「…うん、そうだね。その子本当に何も悪くないのに、あんまりだよね」

「…それでね。その学級会でもう吊るし上げみたいになってた時、私その子が可哀想と思いつつ、味方したら自分もどんな扱い受けるかと思うと怖くて何も言えなかったんだ。…今思うと、何もしなかったけどそれって結局私もその子をいじめたのと同じじゃないかって、ずっと罪悪感抱いて、味方してあげられなかったの後悔してるんだ」
「…そっか、うん。私も同じ状況になったらそう思うかもしれない」


「…そんな訳でさ。色々難しいし辛い事もあるだろうけどこんなアレな世界でも、あなたにはしっかり自分の正しいと思う事を貫いて、後悔しない生き方をして欲しいんだ」

「…うん、分かった。難しいだろうけど、後悔しないよう頑張ってみるよ」


「うん、転校前夜だってのに重い話しちゃってごめんね。私もずっと胸につかえてた事話せて良かった。…今更あなたに話した所で、もう何か変わるものでも無いけどね」

「…でも、そう思ってるだけでもその子少しは救われるんじゃないかな。私も同じような思いしないよう、気を付けるよ」

「うん、ありがと。あなたは私の自慢の妹兼弟だよ。じゃあもう遅いし、今夜はもうおやすみ」
「うん、おやすみ。お姉ちゃん」


そうしてお姉ちゃんはアレな強盗や空き巣対策でそれなりの強化処置が施された私の部屋のドアを閉め去って行った。

「…自分の正しいと思う事を貫いて、後悔しない生き方かあ。色々あるだろうけどそんな機会、学園生活中に来るのかな。このアレな国だからどんな状況か考えると怖いんだけど。まあでもやっぱり楽しみかな」


「よーし、じゃあ寝坊しないよう今日はもう寝よう。明日が楽しみだね、改造ハムスターのネズ太郎!」
「ヂュー!」
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