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#3本家と決意
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リエンが家を訪ねてきて、かつての仲間だったエルフの姫であるノアの元へ行くことが決まった日の夜。
「リエン、そんなに機嫌を悪くしないでくれ…」
「いや…別に悪くないし…」
昔旅をしていた時にも思ったが、リエンはテンションの起伏が激しい。
先程まで明日に備えてうちに泊まるかと聞いた時は異様なほどテンションが高く、何かブツブツと呟いていたのに、リエンに俺は椅子で寝るからベットを使えと言ったあたりからやけに不機嫌だ。
「はあ…一緒に寝れるかと…あれ、もしかしてベットってシルウェの!?」
「ああ…そうだが。」
パァッと顔の曇りが晴れる。やはり起伏が激しい。
明日はリエンに案内してもらうのだし、何より女性の客人を椅子や床で寝かすわけにはいかない。
あれ、ちょっと待ってくれ。
「お、俺のベット嫌だったか…?」
こんなおっさんが寝てるベットを貸すなんてよくよく考えたらキモくないか?
イヤイヤでもうちにはベットは一つしかないし、椅子や床に寝かすくらいなら…
うーん…
「いやいや全然!むしろシルウェが使ってるなんてお金払わなくて良いのかってレベルで!」
「あー…うん、ならよかったよ。」
「流石に一緒に寝るのは早いか…でも、これはこれで…」
また何かを呟いている彼女を尻目に、俺の中の疑念は確信に変わっていた。
これはおそらく自意識過剰とかではなく事実だと思うのだが、彼女は…おそらく、俺に好意を持ってくれてると思う。しかも少し重めの。
再会する前の俺が傷心していた時に寄り添ってくれていた彼女は、今日と同じようにたまに「こういう」発言が出ていた。
その頃からもしかしたら…と思っていたが、
今日もそれが見受けられるあたり、やはりリエンは俺に好意を寄せてくれていると思う。
だがこの発言は聞かないふりをするのが一番良い。
残りの余命を考えてみて、俺に好意を寄せてくれて、俺がそれに応えたところで永遠に等しい時間を生きるエルフには…リエンには、きっと苦い思い出が残るだけだ。
だから彼女からの好意は基本スルー。これは俺なりに彼女を思っての行動なのだ。
まあ、正直いちいち反応するとめんどくさいというのもあるのだが…
そして多分、彼女は俺に好意の他に、いやそれ以上に申しなわけなさも感じているはずだ。
リエンとノアは立場こそ姫と側近だが、年が近い彼女らはまるで幼馴染のように育ってきたと聞いている。リエンはきっと主人であり幼馴染であるノアがやったことに負い目を感じて俺を気にかけてくれるのだろう。だからこそのあの提案だ。
おそらく彼女のあの少し歪んだ好意はこの申し訳なさと好意が混ざっている、あまりよくはない感情だ。
リエンにノアと会ってくれないかと言われた時は何を言ってるんだと思ったが、今冷静に考えるとむしろありがたいかも知れない。
もし何もかも上手くいくなら、俺は過ぎたこととはいえ、謝ってもらっても心の底からノアを許せるかはわからない。だが、過ぎたことは過ぎたことだ。
本当に反省してくれているなら、それ以上咎めるつもりはない。俺は貶めるためにばら撒かれた噂を取り消してもらい、育った故郷の村に帰り、そこで残りの余生をみんなと一緒に過ごせる。
リエンが言っていた通りノアが後悔していて、謝りたいと思っているのだとしたら、そのしこりも取れて、リエルの俺に対する申し訳なさから来る贖罪も終わり、俺に負い目を感じることもなくなるだろう。
何があったかはわからないが、リエンの話を聞いてる限りだと彼女らは和解してそうだった。
十年前にリエンの彼女に対する言葉を聞いて、俺のせいで邪険な関係になってしまったのではないかと密かに思い詰めていたのも、今日で解消された。
考えれば考えるだけ良い方向に進む。
もちろん全てが順調には進まないとは思うが、
このチャンスを作ってくれたリエンの提案には感謝の一言だ。
本当に、リエンには頭が上がらない。
魔王を倒すのにわずか一年しか掛からなかったのも、実戦ではほとんど俺が動いていたが、それはリエンの下調べや援護があったからだ。
昔の俺を自殺せずに生きてみようと思わせてくれたのも、リエンが寄り添ってくれたから。
そして今回、このチャンスを作ってくれたのもリエンだ。
俺は、彼女に何をしてあげられただろうか。
俺を庇ったせいで彼女の人間からの評価はかなり低くなっていた。
そして彼女のためとはいえ…いや、ためになると勝手に結論づけて何も言わずに彼女の間から去った。
彼女はそれに対して怒っていると告げてきた。
俺がなぜ好かれているのかわからないくらい、リエンは素晴らしい女性だ。
家事はできるし気遣いもできれば自分の利益など投げうって正しいことをなせる。
そしてそんな女性から好意を向けられて好きにならない男がいるだろうか?
そこで気づく。
「ああ…俺は、リエンのことが好きなんだな…」
やっと自覚した。俺の好意。
だが…俺が彼女に想いを伝えることは彼女を苦しめることと同義。
ツウ、と頰を伝う涙。
人間のために働き、裏切られ、故郷の人間からも誰からも見捨てられ、身を粉にして動いた代償として寿命が縮み、そのせいで好きな女性に思いを伝えることも、結ばれることもできない。
腕で涙を拭う。残りの時間が少ないからと言って、彼女に報いなくていいわけではない。
ノアとの蟠りを解消して、きたる大厄災に向けての準備、どこかから俺の後継者を見つけて、五年で大厄災に対抗できるほどに育て上げる。
それが俺ができる、唯一の報い方だろう。
リエンが将来、俺以外の素敵な人と結ばれて幸せに過ごせるように…
その決意を胸に、俺は眠りに落ちた…
ドクン、ドクンと心臓が脈打つ。
あまりに早くて、大きいその音は私の動揺をそのまま表していた。
夜に目が覚めて夜風にでもあたろうと思ったら、彼、シルウェの声がしたので少し様子を見ていた。
「ああ…俺は…」
フー…フー…
息が荒い。
まさか彼に私への好意があるなんて、夢にも思わなかった。割と露骨な態度を取っていたつもりだったのだが、彼は全くと言って良い程反応を示さなかったからだ。
暖簾に腕押しといった感じで、てっきり他の思い人がいるか、もしくは他人に関する感情を消失してるかと思うほどだった。
それに、なぜ彼は泣いているんだろう?
泣きながら私の名前を呟いていた彼は少しすると腕を枕にして机におき、スーッと寝息を立てて寝ていた。彼の頭の近くには何やらキャベツ吉なる生き物…魔物…野菜…いや、あれは何なんだ…?
昼の会話でこの突然変異を見て大厄災の前触れと推測していた彼は流石だなと思い、彼は大厄災に対して何かするつもりはないとわかった。
当然だ。権力に目が眩んだクズや彼を危険視する無能、後先考えずに口車に乗せられたバカどもによって彼の努力は全て仇となって彼に帰ってきた。
手に持っている小型の水晶に魔力を通す。
魔力を通している間に拾った音が一方的に届く優れた代物だ。
「ノア…明日彼を連れていくね。彼は最初は嫌がってたけど、私が説得したら来てくれるって言ってくれたよ…やっぱり信用されてるのかな、ノアと違ってさ。」
彼女からこの話を聞いた時はついに頭がおかしくなったのかと思った。
だが、私にとっても好都合なことがあったし、何より彼に申し訳ないと思っていた最後の良心は、さっきの言葉を聞いてもうなくなった。
「あと、大厄災に関しては気づいてたけど彼は特に何もするつもりはないみたいだよ。当然だよね?だってノア達が悪いんだもん。」
彼女はどんな気持ちなのだろうか。絶望か、はたまた焦燥か、怒りか。
「しかも、私のことが好きみたい…計画には乗ってあげるけど、その後どうするかは彼次第だもんね…?あは、じゃあまた明日ね、おやすみ。」
体が熱い。彼の好意を知ったり、ノアを罵倒したりしていたら体温が上がり、鼓動は酷く大きい。
「…夜の散歩って何だかワクワクするな。」
今日は眠れそうになく、私は彼の家を離れ、近くの山に入って行った。
「リエン、そんなに機嫌を悪くしないでくれ…」
「いや…別に悪くないし…」
昔旅をしていた時にも思ったが、リエンはテンションの起伏が激しい。
先程まで明日に備えてうちに泊まるかと聞いた時は異様なほどテンションが高く、何かブツブツと呟いていたのに、リエンに俺は椅子で寝るからベットを使えと言ったあたりからやけに不機嫌だ。
「はあ…一緒に寝れるかと…あれ、もしかしてベットってシルウェの!?」
「ああ…そうだが。」
パァッと顔の曇りが晴れる。やはり起伏が激しい。
明日はリエンに案内してもらうのだし、何より女性の客人を椅子や床で寝かすわけにはいかない。
あれ、ちょっと待ってくれ。
「お、俺のベット嫌だったか…?」
こんなおっさんが寝てるベットを貸すなんてよくよく考えたらキモくないか?
イヤイヤでもうちにはベットは一つしかないし、椅子や床に寝かすくらいなら…
うーん…
「いやいや全然!むしろシルウェが使ってるなんてお金払わなくて良いのかってレベルで!」
「あー…うん、ならよかったよ。」
「流石に一緒に寝るのは早いか…でも、これはこれで…」
また何かを呟いている彼女を尻目に、俺の中の疑念は確信に変わっていた。
これはおそらく自意識過剰とかではなく事実だと思うのだが、彼女は…おそらく、俺に好意を持ってくれてると思う。しかも少し重めの。
再会する前の俺が傷心していた時に寄り添ってくれていた彼女は、今日と同じようにたまに「こういう」発言が出ていた。
その頃からもしかしたら…と思っていたが、
今日もそれが見受けられるあたり、やはりリエンは俺に好意を寄せてくれていると思う。
だがこの発言は聞かないふりをするのが一番良い。
残りの余命を考えてみて、俺に好意を寄せてくれて、俺がそれに応えたところで永遠に等しい時間を生きるエルフには…リエンには、きっと苦い思い出が残るだけだ。
だから彼女からの好意は基本スルー。これは俺なりに彼女を思っての行動なのだ。
まあ、正直いちいち反応するとめんどくさいというのもあるのだが…
そして多分、彼女は俺に好意の他に、いやそれ以上に申しなわけなさも感じているはずだ。
リエンとノアは立場こそ姫と側近だが、年が近い彼女らはまるで幼馴染のように育ってきたと聞いている。リエンはきっと主人であり幼馴染であるノアがやったことに負い目を感じて俺を気にかけてくれるのだろう。だからこそのあの提案だ。
おそらく彼女のあの少し歪んだ好意はこの申し訳なさと好意が混ざっている、あまりよくはない感情だ。
リエンにノアと会ってくれないかと言われた時は何を言ってるんだと思ったが、今冷静に考えるとむしろありがたいかも知れない。
もし何もかも上手くいくなら、俺は過ぎたこととはいえ、謝ってもらっても心の底からノアを許せるかはわからない。だが、過ぎたことは過ぎたことだ。
本当に反省してくれているなら、それ以上咎めるつもりはない。俺は貶めるためにばら撒かれた噂を取り消してもらい、育った故郷の村に帰り、そこで残りの余生をみんなと一緒に過ごせる。
リエンが言っていた通りノアが後悔していて、謝りたいと思っているのだとしたら、そのしこりも取れて、リエルの俺に対する申し訳なさから来る贖罪も終わり、俺に負い目を感じることもなくなるだろう。
何があったかはわからないが、リエンの話を聞いてる限りだと彼女らは和解してそうだった。
十年前にリエンの彼女に対する言葉を聞いて、俺のせいで邪険な関係になってしまったのではないかと密かに思い詰めていたのも、今日で解消された。
考えれば考えるだけ良い方向に進む。
もちろん全てが順調には進まないとは思うが、
このチャンスを作ってくれたリエンの提案には感謝の一言だ。
本当に、リエンには頭が上がらない。
魔王を倒すのにわずか一年しか掛からなかったのも、実戦ではほとんど俺が動いていたが、それはリエンの下調べや援護があったからだ。
昔の俺を自殺せずに生きてみようと思わせてくれたのも、リエンが寄り添ってくれたから。
そして今回、このチャンスを作ってくれたのもリエンだ。
俺は、彼女に何をしてあげられただろうか。
俺を庇ったせいで彼女の人間からの評価はかなり低くなっていた。
そして彼女のためとはいえ…いや、ためになると勝手に結論づけて何も言わずに彼女の間から去った。
彼女はそれに対して怒っていると告げてきた。
俺がなぜ好かれているのかわからないくらい、リエンは素晴らしい女性だ。
家事はできるし気遣いもできれば自分の利益など投げうって正しいことをなせる。
そしてそんな女性から好意を向けられて好きにならない男がいるだろうか?
そこで気づく。
「ああ…俺は、リエンのことが好きなんだな…」
やっと自覚した。俺の好意。
だが…俺が彼女に想いを伝えることは彼女を苦しめることと同義。
ツウ、と頰を伝う涙。
人間のために働き、裏切られ、故郷の人間からも誰からも見捨てられ、身を粉にして動いた代償として寿命が縮み、そのせいで好きな女性に思いを伝えることも、結ばれることもできない。
腕で涙を拭う。残りの時間が少ないからと言って、彼女に報いなくていいわけではない。
ノアとの蟠りを解消して、きたる大厄災に向けての準備、どこかから俺の後継者を見つけて、五年で大厄災に対抗できるほどに育て上げる。
それが俺ができる、唯一の報い方だろう。
リエンが将来、俺以外の素敵な人と結ばれて幸せに過ごせるように…
その決意を胸に、俺は眠りに落ちた…
ドクン、ドクンと心臓が脈打つ。
あまりに早くて、大きいその音は私の動揺をそのまま表していた。
夜に目が覚めて夜風にでもあたろうと思ったら、彼、シルウェの声がしたので少し様子を見ていた。
「ああ…俺は…」
フー…フー…
息が荒い。
まさか彼に私への好意があるなんて、夢にも思わなかった。割と露骨な態度を取っていたつもりだったのだが、彼は全くと言って良い程反応を示さなかったからだ。
暖簾に腕押しといった感じで、てっきり他の思い人がいるか、もしくは他人に関する感情を消失してるかと思うほどだった。
それに、なぜ彼は泣いているんだろう?
泣きながら私の名前を呟いていた彼は少しすると腕を枕にして机におき、スーッと寝息を立てて寝ていた。彼の頭の近くには何やらキャベツ吉なる生き物…魔物…野菜…いや、あれは何なんだ…?
昼の会話でこの突然変異を見て大厄災の前触れと推測していた彼は流石だなと思い、彼は大厄災に対して何かするつもりはないとわかった。
当然だ。権力に目が眩んだクズや彼を危険視する無能、後先考えずに口車に乗せられたバカどもによって彼の努力は全て仇となって彼に帰ってきた。
手に持っている小型の水晶に魔力を通す。
魔力を通している間に拾った音が一方的に届く優れた代物だ。
「ノア…明日彼を連れていくね。彼は最初は嫌がってたけど、私が説得したら来てくれるって言ってくれたよ…やっぱり信用されてるのかな、ノアと違ってさ。」
彼女からこの話を聞いた時はついに頭がおかしくなったのかと思った。
だが、私にとっても好都合なことがあったし、何より彼に申し訳ないと思っていた最後の良心は、さっきの言葉を聞いてもうなくなった。
「あと、大厄災に関しては気づいてたけど彼は特に何もするつもりはないみたいだよ。当然だよね?だってノア達が悪いんだもん。」
彼女はどんな気持ちなのだろうか。絶望か、はたまた焦燥か、怒りか。
「しかも、私のことが好きみたい…計画には乗ってあげるけど、その後どうするかは彼次第だもんね…?あは、じゃあまた明日ね、おやすみ。」
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