勇者の拳士様

星村直樹

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プロローグ

勇者に転生する幼馴染に巻き込まれて異世界に飛ばされたんだが

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 剣道と空手だと、武器を持っている分、剣道の方が3倍強い。


 おれは、輝玉流(きぎょくりゅう)、闘拳を極めた拳士だ。だけど、あいつに勝ったことが無い。近藤遥(はるか)は、女のくせに、剛毅琉(ごうきりゅう)剣術を極めた女だ。

 おれが、遥かに勝っていたと思えるのは、本当に小さい頃だけだ。でも、あの時は、女の子を守るのは当たり前で、近所の悪ガキに、からかわれていた遥をあたり前のように守っていただけだと思う。今じゃあ、守る必要は、まったくないけどね。 

 遥かは木刀、おれは空手。空手から見て、剣道は三倍段。おれと遥の力が拮抗しているのなら、遥かの方が強いに決まっている。

 中学に入ってから、おれは、遥を避けるようになった。子供の時のように勝負も挑まなくなったし話もしなくなった。遥は、困惑していたようだったが、強さの溝が絶望的にあるのだ。そりゃ、避けたくなる。


 ある日、下校中のおれを遥が、呼び止めた。

「なぜ、私を無視するの?ユウ、こっち向いて」

「ユウじゃない勇気だろ。お互い中学になったんだ。ちゃんとした名前で呼べよ」

「ユウが私の名前をハルって呼ばなくなっただけじゃない」

 そう言われてムカッと来た。
 その後、おれは、何を言ったかよく覚えていない。多分、遥を全否定していたと思う。遥は、泣いてその場を動かなくなったので、逃げるように家に帰った。

 それから、遥とは疎遠になった。高校も違う学校になって、本当に顔も会わさなくなった。そんなある日。遥の両親が、おれの家に訪ねてきた。遥は、不治の病にかかっていた。両親は、おれに、遥の日記を見せてくれた。日記には、ずっとおれのことが書かれていた。
 ほとんどが、子供のころの楽しい思い出。疎遠になってからも、その思い出を日記にしていたなんて馬鹿だ。

 遥かの両親が訪ねてきて3日後。遥は死んだ。親父とお袋に勧められて、病室に、一度だけ行きはしたが、意識がない。ただ見守ることしかできなかった。

 あの病院に見舞いに行った日、偶々、遥の両親が、先生に呼ばれていなくなり、二人だけになった。おれは、そこで、今までのこと、剣道三倍段の溝が埋められなくて逃げたこと。遥が好きだったことを意識の無い遥にぶちまけて泣いた。
 誰かに、泣いているのを見られるのが嫌で、また、そこでも逃げるように家に帰った。

 おれは、大切なものを失った。

 遥の葬式が終わって途方に暮れたおれは、部屋に籠ってしまった。そんなおれを両親は咎めなかった。おふくろは、輝玉流道場の跡取りには、弟がいるから好きにしていいのよと言って、肩の荷を少しでも降ろそうとしてくれた。

 夜中、寝られなくて、ベットの横にうずくまった。親父が言うには、人は、動かなかったら、動かないストレスがたまるのだという。その通りだとは思うのだが・・・。

「遥、何で死んだんだ」

「びょうき?」

 おれは、ギョッてして、自分の隣に寄り添って、おれを見上げている。遥を見下ろした。顔がものすごく近い。

「おま・・、死んだんじゃあ」

「ごめんね、本当は、ユウのお嫁さんになりたかったのよ。そしたら、神様が、転生させてくれるって言うのよ。大きな国のお姫様だって。ユウが私を守ってくれるんでしょう。それを転生の条件にしちゃった」

「おれもか?」

「ユウは、転移だって。16も年下の可愛い子をお嫁さんにできるんだよ。すっごく喜んでいいから」

「はあーー、ハハッ」
 おれは、片手で、頭を抱えて失笑した。
「おれは、お前のことを避けてたんだぞ。なんで、そんなことを思ったんだ」

「結婚の事? だって、ユウって、病院で私に告白して、そんでもって泣いてたじゃない。身動きできなかったから答えられなかったけど、嬉しかったんだー」

「あれを全部聞いていたのか」

「む、ふー。私、ユウの告白だけで、この先、生きていけるよ」
 遥が、鼻息を荒くした。
「あの時、なあんだ、私と一緒だったのねって思ったわ。私の拳士になってくれるでしょう」

 あれを全部聞かれていたのかと思うと恥ずかしくてしかたない。思わず遥から目をそらした。

「わかった。好きにすればいいよ。お姫様」

「嬉しい、絶対頑張ってね」

「頑張ってって?ちょっとまて」

 そう言って、そらしていた目を遥に向けた。遥は、キラキラした目で、おれをガン見していた。そして、にっこり笑って、消えた。


「どうやら、契約が成立した様だね。白鷺勇気。汝をイスカに転移させる。心の準備はいいか」

「無理ですよ。すいません神様ですか、もう少し説明をしてください」

「難儀な。勇者を転生させるだけでも、世界に対して大きな介入だというのに」

「遥は、勇者になるんですか?」

「君は、シラサギ・ユウという名前で魔法拳士になる。今の技術が惜しいから、そのままが良いだろうと遥君が言うのだ。君は、魔法を覚えて魔法拳士に昇り詰めなさい。どうだ、夢がかなっただろう」

「いや、修行って」

「君が、遥君を無視した12歳までに、魔法拳士を会得するのです。そこからは、遥君の横に並べる様頑張りなさい」

「そこも、ですか」

「ぼくは、遥君の味方だからね」

 何言ってんだこの人

「君を魔法が使えるようにするのだよ。それだけで破格な恩恵だと思わないか。では、頑張りなさい」

「ちょ、ちょっとまて・・・」

 待てと言って手を伸ばしたところで異世界になった。はっきり言って、着の身着のままで、イスカという世界に放りだされた。靴履いてないし。それと同時に、遥は、この世界の大きな国の王家で生を受けたのだろう。こっちは、遥が、どの国で生まれたのかも、わからない。たぶん、遥が12歳になった時、勇者の資質に目覚めるのだ。その時、何処の国にいるかわかる。それまで修業しながら放浪しなさいということか。

 無茶苦茶だな

 おれは、12歳のあの時から、遥が死ぬまでの4年間も無視し続けていた。仕方ないかと思う。それにしても、一介の拳士が、どうやって、大国のお姫様と結婚できるんだ。あの無邪気で、全くおれを疑っていなかった遥の目を思い出した。

 遥には、「やるけど、期待するなよ」と、言っときゃあよかった

 満天の星空の下。遠くで狼が吠えている声が聞こえる。おれは、近くの大木によじ登って、その夜を過ごした。
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