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冒険者学校編
ユウ、サザンの港町に行く
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シラサギ・ユウは、サザン王国の首都に来ていた。村長が言うように、城下町には直ぐに入らないで、港町に宿をとって、その部屋から海を見ていた。
あの時、遥は、神と名乗る存在に、このイスカという世界に召喚される条件として、おれを転移させてほしいと言った。村長の話もそうだが、風竜のシップウの話と合わせると、神とかいうあいつは、食わせ物だ。
おれは、この世界の人間の倍の魔力しか与えられず、何の恩恵もなく、ここに放り出された。
魔法を与えてやるから感謝しろ?
イスカで、魔法を使えるのは、当たり前の事じゃないか。おれたちの世界で言う気が、魔力になっている異世界。それがイスカだ。そういう理が違う世界なだけなのだ。ここに来れば、嫌でも魔法の使用条件が身に着く。おれは、元の世界で、空手の修行の一環で気を鍛えていた。元々普通の人の倍、気が充実していただけの事だった。
おれは、気を体内に充満させたり巡らせたり発したりして、気合を入れていた。遥の剣道に対抗するには、技術や体力だけでは追いつかなかった。そこで、親父に無理言って輝玉流(きぎょくりゅう)奥義を伝授してもらった。それだけの実力があったし、白鷺家の跡取り及び、師範の跡取りだったので、親父も師範代もおれに甘かった。今は、とても感謝している。
今は、息をするだけで、魔力が充実しているのが分かる。
輝玉流(きぎょくりゅう)奥義は、気を練ることだった。その気を使って、一瞬、身体能力をあげたり、逆に、敵に殴られて、痛みで一瞬、動けなくなるのを逃がしたりと、剛気功をうまく使う。普段から内陽功を練る事によって気の充実を図る。その気を自分の周囲にふくらますことによって、触角の様な絶対防衛圏を張る。また、鋭気功を使うことによって、加速された刃を見切る。これらを合わせて、真剣白刃取りを確立していた。
実は、高校に入って、真剣白刃取りができるようになっていた。でも、遥は、全くおれと違う所で、価値観を共有していた。遥の剛毅琉(ごうきりゅう)剣術は、守りの剣術だ。おれは、遥から見ると雑魚だったから、防戦一方だった。だが、防戦一方のおれが、遥にとって素晴らしい対戦相手だったなどと、考えてもみなかった。
真剣白刃取りより、受け流しの技術や、合わせ〈カウンター〉、そこからの流れるような攻防に、一目置いていたのだ。
この世界に来て、魔力を実感することによって、剣に匹敵する光刃を自らの手から発するようになった。初めて、剣を持つ遥と同じ、土俵に立った気がする。それで、遥が、おれに追いつこうと、必死で修業をしていたのではないかと思えるようになった。剣道三倍段は、武器の強さでしかない。勝ったことこそないが、中学に上がって最後に戦った時、おれは、遥といい勝負をしていた。でも、現実負けていたので、全くその発想に至らなかった。遥かにとって、おれは、小さいころ彼女を守っていた英雄だった。それは、大きくなっても何ら変わることがなかったのだ。
「おい、起きているのか」
― まあな、人の世界を人の目線で見るのは新鮮だ。やっと、魔法を覚える気になったか
「無詠唱で、無属性の魔法を拳法という形で、発動していたから、おれの拳は、シップウに届いたんだろ。こっちを伸ばしたほうがいいと思うじゃないか」
― ふん、それはそれで違いない。だがな、それでは、この世界を破壊するだけだぞ。例えばだ、水の結界で守られた水彩都市があるとする。
「あるのか」
― ムーマ大陸にな。お前が、ここに無理やり入るとき、今だと、この水の結界を破壊して入ることになるぞ。水魔法を覚えると、同属性だから、すり抜けられる。破壊とすり抜け、どっちがいい。
「そんな大きな結界を壊せるというなら、それはそれで凄いことだけど、結界を張っているのは、それなりの理由があるからなんだろ。そんなことしたら大惨事になる。忍び込むこともできないしな。答えは、『すり抜ける』だろ」
― そういうことだ。おぬしは、10年も山籠もりしていて、自分がこの世界で、どういう人間なのか知らない。しばらく付き合ってやるから、一から勉強しろ
「そんなこと言って、シップウも、神を一発、殴りたいだけだろ」
― ワハハ違いない。奴は、ノイエ法国で大人しくしておればよいのだ。神とまで崇められているのだからそれで十分ではないか。アストラル大陸を手中に収めるような器ではないわ
「遥を召喚した理由も、そんな所なのか?」
― それだけなら、転移で十分だ。我らを害獣に見立てればいい。そして、遥をアストラル大陸の勇者に見立てて全軍で我らを攻め滅ぼせばよい。ところが、魔王討伐が、遥を転生させた理由なのだろ。理由が、気持ち悪いのだよ
「アスカ〈世界〉を見て回りたくなったのは、シップウがそう言うからさ。ムーマ大陸の魔王国を村長は、悪い国だって言っていたけど、侵略してくる魔王軍を抑えているサザ―帝国の兵士が持つ武具は、ムーマ大陸産だって言うじゃないか。五芒星の魔王全部が悪いように思えないんだが」
― ふぁあー、それは、自分の目で確かめてみよ。我は、喋りすぎた。この世界の言葉を覚えるまでサポートしてやったのだ。それで、居候代は、チャラであろう。当分起こすでないぞ
「はいはい」
つまりおれは、この世界で頑張って修行した。ただの人間に過ぎない存在だった。おれも神を一発殴りたい。遥は、現世で天寿を全うした。無理やりここで、生きなくても、おれと遥の絆は、揺るがないんじゃないかと思っている。
自信ないけど。
だから、おれは、此処でも精いっぱいやる。今度こそ、ボタンの掛け違いは無しだ。
サザンの港町にはバザールがある。この十年間、物々交換だったからと言って、村長から聞いてお金の価値を知らないわけじゃあない。バザールを初めて見るので、冷やかしたいというのもあるが、ようは金作だ。
この十年というもの。おれは、食料として獣を狩っていた。その毛皮を村長の所に持って行っては穀物や生活用品を分けてもらっていた。村長は公正な人だ。ノイ村に来る毛皮商人が買い取る値段の6掛けの価値で、物々交換してくれた。つまり、流通値段を全部聞いていたのだ。だが、その値段が安すぎるのだ。いくら山奥の村と言っても毛皮だ。それなりの値段がすると思っていた。だから、今回、自分が住んでいた掘っ建て小屋にある大量の毛皮を、毛皮商人に売らないでくれとお願いした。自分が直接商店に毛皮を持ち込んで売れば、仲買人を通さない分、高く売れるに決まっている。販路を作りたいのだ。
じゃないと、魔法の練習ができない。学校では、実力を隠すと村長に約束している。生活費を稼ぐ名目でする狩りの時間が本当の魔法修行の時間となる
バザールは、港町とあって、海の幸が豊富だ。他国との交易も盛んなので、何でもある。そんな中で、亜人や、魔人亜種をちらほら見かける。多分ムーマ大陸の人達だ。人に近い彼らは、それなりに、このバザールになじんでいるように見える。
「お兄さん、ちょっとお兄さん、ここでも小さな魔石なら買えるよ。どう、見て行かない」
ダークエルフの売り子が声を掛けてきた。商品を見ると、本当に小さな石粒。
魔力って、結晶化するのか。
「本当に小粒だね。何に使えるんだい」
「う~、それは、お父さんに聞いてよ。私は店番」
「じゃあお父さんに聞くからまた後でな」
「きっと来てねー」
売り子の練習に付き合わされたという感じだ。そこから、亜人や、魔人亜種の人に声を掛けられまくった。よく見ると、人間は、彼らに近づかない。偶々、彼らの店に毛皮を扱っている店が無かったので、人間の店が多いブロックに流れた。そこに入って、いきなり毛皮を扱っている店を見つけたのは、ラッキーだった。
「ご主人、毛皮を見せてください」
「お前さん、さっき、亜人の子に捕まっていただろ。難儀したな。ここは、初めてかい。あいつ等には気をつけるんだ。臭いも臭いしな」
臭い?普通だったけど
「おれ、村から出て来たばかりです。冒険者学校に入ろうと思っています」
「本気か。いきなりギルド登録すりゃあいいだろ。あそこは、貴族のボンボンばかりだぞ」
「魔法を習いたいんです」
「それじゃあ仕方ない。学費が大変だろが、確かに将来はある」
おれもご主人の意見に賛成だ。
「狩りをして、学費を稼ごうと思っています。それで、毛皮の値段が知りたいんです」
「あんちゃんだったら高く買うよ。そうだな、まず売値だ・・・・・・・。・・・そして、生の毛皮の買値だ。なめしてもってくりゃあ高いが、それが一番大変だからな・・・・こうなる」
店のご主人から話を聞いて、がっかりした。生の毛皮の値段は、売り値の1/5。なめしていたら、半額から六割。ノイ村に来ていた商人に至っては、買取価格が、正価の1/10だった。
あの時おれは、更に、村長が売っていた値段の6掛けで物々交換していたことになる。
「まあ、頑張んな」
「なめしの工程が大事だってことですよね。見学したいです」
「そんなことしていたら、学業なんかできないぞ。狩りをすれば、肉だって売れるんだ。そう悪くはないさ。まあいい、ちょっと遠いが見学してきな。なめし工房に行ったら分かる。臭いし辛い職場だぞ。バザールのコモイに紹介されたと言って見学してきな」
そう言って、親切になめし皮工房の場所を教えてくれた。
「ありがとうございます」
なめし皮工房がある場所は、港町に隣接するスラム街の奥に有った。城下町から見るとサザンの港町の一番北の隅っこに当たる。ここは、衛生環境が悪い。確かに変なにおいがするし、町の人は、うつろな目をしている。その最奥に亜人や魔人亜種や獣人の人達が暮らすブロックがあった。ここに、なめし皮工房がある。皮をなめす薬品を使うので、川が汚れる。もう汚れているように見えるけど。
対応してくれたのは、ダークエルフの人。工房の職人は、ゴブリンばかりだった。確かに臭いし辛い仕事だ。
「ゴブリンって、皮なめしの技術を持っているんですね」
「生きるためですよ。彼らは、これしかできません。それでも、前の暮らしより楽なのです」
「もしかして、職長さんが、仕事を教え込んだんですか」
「成り行きです。彼らと一緒にムーマ大陸から来たものですから、放っておけなかったんですよ」
そうだろうなと思う。ダークエルフは、もっといろいろなことが出来ると思う。ここで本題を話した。
「相談なんですが、毛皮を直接工房に持ってきたら、買値はいくらになります?」
「正価の20から30%ですね。でも、スラムを通らなくてはいけないんですよ。強盗だって出ます」
バザールのおやじは、正直に、おれに値段を教えてくれていた。
「実は、おれの村に毛皮の貯蓄があるんです。村のために少しでも高く売りたい。あっ、ここに持ってくるリスクは、自己責任でやりますから」
「では、そうしてください。物を見て決めましょう。私は、森の民、アマダの森のシン・ハダーンです」
「ノイ村のシラサギ・ユウです。よろしくお願いします」
商談成立。おれたちは、固く握手した。
バザールに戻って、店のおやじに、事の経緯を話すと喜んでくれた。こう言うのは、何人もの人の手を通して商品になる。人の手を渡るのが多いほど毛皮の質が落ちる。中間が少ないならそれに越したことはないそうだ。
この後、本当に、ダークエルフの娘がやっている魔石店に戻った。娘のおやじさんは、帰っていなかったが、なんか、その娘にすごく喜ばれた。そして、屋台の声掛け。結局亜人の店で夕飯を買って食べた。
豚顔のオークおやじに、「うちのトンテキは最高だぞ」と、どや顔で言われた時は、さすがに引いた。豚が豚を・・・。でも、オークがやってるトンテキの味はどうよと、好奇心に負けた。恐る恐る食ってみたら旨かった。ちょくちょく行こうと思う。
翌日、グリズリーの毛皮を含めた何点かをなめし皮工房に持って行って、高値で買い取ってもらった。ここで、やっていけそうな気がする。荷物を全部売って身軽になったし、先行きの収入源も確保した。これで、すっきりした形で、冒険者学校の入試に臨むことになった。
あの時、遥は、神と名乗る存在に、このイスカという世界に召喚される条件として、おれを転移させてほしいと言った。村長の話もそうだが、風竜のシップウの話と合わせると、神とかいうあいつは、食わせ物だ。
おれは、この世界の人間の倍の魔力しか与えられず、何の恩恵もなく、ここに放り出された。
魔法を与えてやるから感謝しろ?
イスカで、魔法を使えるのは、当たり前の事じゃないか。おれたちの世界で言う気が、魔力になっている異世界。それがイスカだ。そういう理が違う世界なだけなのだ。ここに来れば、嫌でも魔法の使用条件が身に着く。おれは、元の世界で、空手の修行の一環で気を鍛えていた。元々普通の人の倍、気が充実していただけの事だった。
おれは、気を体内に充満させたり巡らせたり発したりして、気合を入れていた。遥の剣道に対抗するには、技術や体力だけでは追いつかなかった。そこで、親父に無理言って輝玉流(きぎょくりゅう)奥義を伝授してもらった。それだけの実力があったし、白鷺家の跡取り及び、師範の跡取りだったので、親父も師範代もおれに甘かった。今は、とても感謝している。
今は、息をするだけで、魔力が充実しているのが分かる。
輝玉流(きぎょくりゅう)奥義は、気を練ることだった。その気を使って、一瞬、身体能力をあげたり、逆に、敵に殴られて、痛みで一瞬、動けなくなるのを逃がしたりと、剛気功をうまく使う。普段から内陽功を練る事によって気の充実を図る。その気を自分の周囲にふくらますことによって、触角の様な絶対防衛圏を張る。また、鋭気功を使うことによって、加速された刃を見切る。これらを合わせて、真剣白刃取りを確立していた。
実は、高校に入って、真剣白刃取りができるようになっていた。でも、遥は、全くおれと違う所で、価値観を共有していた。遥の剛毅琉(ごうきりゅう)剣術は、守りの剣術だ。おれは、遥から見ると雑魚だったから、防戦一方だった。だが、防戦一方のおれが、遥にとって素晴らしい対戦相手だったなどと、考えてもみなかった。
真剣白刃取りより、受け流しの技術や、合わせ〈カウンター〉、そこからの流れるような攻防に、一目置いていたのだ。
この世界に来て、魔力を実感することによって、剣に匹敵する光刃を自らの手から発するようになった。初めて、剣を持つ遥と同じ、土俵に立った気がする。それで、遥が、おれに追いつこうと、必死で修業をしていたのではないかと思えるようになった。剣道三倍段は、武器の強さでしかない。勝ったことこそないが、中学に上がって最後に戦った時、おれは、遥といい勝負をしていた。でも、現実負けていたので、全くその発想に至らなかった。遥かにとって、おれは、小さいころ彼女を守っていた英雄だった。それは、大きくなっても何ら変わることがなかったのだ。
「おい、起きているのか」
― まあな、人の世界を人の目線で見るのは新鮮だ。やっと、魔法を覚える気になったか
「無詠唱で、無属性の魔法を拳法という形で、発動していたから、おれの拳は、シップウに届いたんだろ。こっちを伸ばしたほうがいいと思うじゃないか」
― ふん、それはそれで違いない。だがな、それでは、この世界を破壊するだけだぞ。例えばだ、水の結界で守られた水彩都市があるとする。
「あるのか」
― ムーマ大陸にな。お前が、ここに無理やり入るとき、今だと、この水の結界を破壊して入ることになるぞ。水魔法を覚えると、同属性だから、すり抜けられる。破壊とすり抜け、どっちがいい。
「そんな大きな結界を壊せるというなら、それはそれで凄いことだけど、結界を張っているのは、それなりの理由があるからなんだろ。そんなことしたら大惨事になる。忍び込むこともできないしな。答えは、『すり抜ける』だろ」
― そういうことだ。おぬしは、10年も山籠もりしていて、自分がこの世界で、どういう人間なのか知らない。しばらく付き合ってやるから、一から勉強しろ
「そんなこと言って、シップウも、神を一発、殴りたいだけだろ」
― ワハハ違いない。奴は、ノイエ法国で大人しくしておればよいのだ。神とまで崇められているのだからそれで十分ではないか。アストラル大陸を手中に収めるような器ではないわ
「遥を召喚した理由も、そんな所なのか?」
― それだけなら、転移で十分だ。我らを害獣に見立てればいい。そして、遥をアストラル大陸の勇者に見立てて全軍で我らを攻め滅ぼせばよい。ところが、魔王討伐が、遥を転生させた理由なのだろ。理由が、気持ち悪いのだよ
「アスカ〈世界〉を見て回りたくなったのは、シップウがそう言うからさ。ムーマ大陸の魔王国を村長は、悪い国だって言っていたけど、侵略してくる魔王軍を抑えているサザ―帝国の兵士が持つ武具は、ムーマ大陸産だって言うじゃないか。五芒星の魔王全部が悪いように思えないんだが」
― ふぁあー、それは、自分の目で確かめてみよ。我は、喋りすぎた。この世界の言葉を覚えるまでサポートしてやったのだ。それで、居候代は、チャラであろう。当分起こすでないぞ
「はいはい」
つまりおれは、この世界で頑張って修行した。ただの人間に過ぎない存在だった。おれも神を一発殴りたい。遥は、現世で天寿を全うした。無理やりここで、生きなくても、おれと遥の絆は、揺るがないんじゃないかと思っている。
自信ないけど。
だから、おれは、此処でも精いっぱいやる。今度こそ、ボタンの掛け違いは無しだ。
サザンの港町にはバザールがある。この十年間、物々交換だったからと言って、村長から聞いてお金の価値を知らないわけじゃあない。バザールを初めて見るので、冷やかしたいというのもあるが、ようは金作だ。
この十年というもの。おれは、食料として獣を狩っていた。その毛皮を村長の所に持って行っては穀物や生活用品を分けてもらっていた。村長は公正な人だ。ノイ村に来る毛皮商人が買い取る値段の6掛けの価値で、物々交換してくれた。つまり、流通値段を全部聞いていたのだ。だが、その値段が安すぎるのだ。いくら山奥の村と言っても毛皮だ。それなりの値段がすると思っていた。だから、今回、自分が住んでいた掘っ建て小屋にある大量の毛皮を、毛皮商人に売らないでくれとお願いした。自分が直接商店に毛皮を持ち込んで売れば、仲買人を通さない分、高く売れるに決まっている。販路を作りたいのだ。
じゃないと、魔法の練習ができない。学校では、実力を隠すと村長に約束している。生活費を稼ぐ名目でする狩りの時間が本当の魔法修行の時間となる
バザールは、港町とあって、海の幸が豊富だ。他国との交易も盛んなので、何でもある。そんな中で、亜人や、魔人亜種をちらほら見かける。多分ムーマ大陸の人達だ。人に近い彼らは、それなりに、このバザールになじんでいるように見える。
「お兄さん、ちょっとお兄さん、ここでも小さな魔石なら買えるよ。どう、見て行かない」
ダークエルフの売り子が声を掛けてきた。商品を見ると、本当に小さな石粒。
魔力って、結晶化するのか。
「本当に小粒だね。何に使えるんだい」
「う~、それは、お父さんに聞いてよ。私は店番」
「じゃあお父さんに聞くからまた後でな」
「きっと来てねー」
売り子の練習に付き合わされたという感じだ。そこから、亜人や、魔人亜種の人に声を掛けられまくった。よく見ると、人間は、彼らに近づかない。偶々、彼らの店に毛皮を扱っている店が無かったので、人間の店が多いブロックに流れた。そこに入って、いきなり毛皮を扱っている店を見つけたのは、ラッキーだった。
「ご主人、毛皮を見せてください」
「お前さん、さっき、亜人の子に捕まっていただろ。難儀したな。ここは、初めてかい。あいつ等には気をつけるんだ。臭いも臭いしな」
臭い?普通だったけど
「おれ、村から出て来たばかりです。冒険者学校に入ろうと思っています」
「本気か。いきなりギルド登録すりゃあいいだろ。あそこは、貴族のボンボンばかりだぞ」
「魔法を習いたいんです」
「それじゃあ仕方ない。学費が大変だろが、確かに将来はある」
おれもご主人の意見に賛成だ。
「狩りをして、学費を稼ごうと思っています。それで、毛皮の値段が知りたいんです」
「あんちゃんだったら高く買うよ。そうだな、まず売値だ・・・・・・・。・・・そして、生の毛皮の買値だ。なめしてもってくりゃあ高いが、それが一番大変だからな・・・・こうなる」
店のご主人から話を聞いて、がっかりした。生の毛皮の値段は、売り値の1/5。なめしていたら、半額から六割。ノイ村に来ていた商人に至っては、買取価格が、正価の1/10だった。
あの時おれは、更に、村長が売っていた値段の6掛けで物々交換していたことになる。
「まあ、頑張んな」
「なめしの工程が大事だってことですよね。見学したいです」
「そんなことしていたら、学業なんかできないぞ。狩りをすれば、肉だって売れるんだ。そう悪くはないさ。まあいい、ちょっと遠いが見学してきな。なめし工房に行ったら分かる。臭いし辛い職場だぞ。バザールのコモイに紹介されたと言って見学してきな」
そう言って、親切になめし皮工房の場所を教えてくれた。
「ありがとうございます」
なめし皮工房がある場所は、港町に隣接するスラム街の奥に有った。城下町から見るとサザンの港町の一番北の隅っこに当たる。ここは、衛生環境が悪い。確かに変なにおいがするし、町の人は、うつろな目をしている。その最奥に亜人や魔人亜種や獣人の人達が暮らすブロックがあった。ここに、なめし皮工房がある。皮をなめす薬品を使うので、川が汚れる。もう汚れているように見えるけど。
対応してくれたのは、ダークエルフの人。工房の職人は、ゴブリンばかりだった。確かに臭いし辛い仕事だ。
「ゴブリンって、皮なめしの技術を持っているんですね」
「生きるためですよ。彼らは、これしかできません。それでも、前の暮らしより楽なのです」
「もしかして、職長さんが、仕事を教え込んだんですか」
「成り行きです。彼らと一緒にムーマ大陸から来たものですから、放っておけなかったんですよ」
そうだろうなと思う。ダークエルフは、もっといろいろなことが出来ると思う。ここで本題を話した。
「相談なんですが、毛皮を直接工房に持ってきたら、買値はいくらになります?」
「正価の20から30%ですね。でも、スラムを通らなくてはいけないんですよ。強盗だって出ます」
バザールのおやじは、正直に、おれに値段を教えてくれていた。
「実は、おれの村に毛皮の貯蓄があるんです。村のために少しでも高く売りたい。あっ、ここに持ってくるリスクは、自己責任でやりますから」
「では、そうしてください。物を見て決めましょう。私は、森の民、アマダの森のシン・ハダーンです」
「ノイ村のシラサギ・ユウです。よろしくお願いします」
商談成立。おれたちは、固く握手した。
バザールに戻って、店のおやじに、事の経緯を話すと喜んでくれた。こう言うのは、何人もの人の手を通して商品になる。人の手を渡るのが多いほど毛皮の質が落ちる。中間が少ないならそれに越したことはないそうだ。
この後、本当に、ダークエルフの娘がやっている魔石店に戻った。娘のおやじさんは、帰っていなかったが、なんか、その娘にすごく喜ばれた。そして、屋台の声掛け。結局亜人の店で夕飯を買って食べた。
豚顔のオークおやじに、「うちのトンテキは最高だぞ」と、どや顔で言われた時は、さすがに引いた。豚が豚を・・・。でも、オークがやってるトンテキの味はどうよと、好奇心に負けた。恐る恐る食ってみたら旨かった。ちょくちょく行こうと思う。
翌日、グリズリーの毛皮を含めた何点かをなめし皮工房に持って行って、高値で買い取ってもらった。ここで、やっていけそうな気がする。荷物を全部売って身軽になったし、先行きの収入源も確保した。これで、すっきりした形で、冒険者学校の入試に臨むことになった。
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レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
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