勇者の拳士様

星村直樹

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ハウルカ姫の目覚め

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 サザン王城 客の間
 あれから、4日後
 リリーが、カーテンを開けて太陽の光を、この部屋に入れた。

「遥さまー、朝ですよ」

 昨日は、サザン王国の魔力の強い人に訪問されたし、明け方までリリーと話して起きていたから眠い。

「リリーおはよ」

「みなさん、遥さまに近づけないんですから、ここで朝食とってくださいね。城の外に出るのも厳禁です。ここには、イスタル王国の人が、いっぱいいます」

 そうなのだ、あの日ユウに、ずっと剛毅琉の神事で神社で奉納演舞するときに使う、殻気功〈かくきこう〉をずっとやっていろと言われて、そうしているので、神様の恩恵である光属性の気が発散され続けていて、並大抵の人は、私に近づいただけで、威圧されて、足はがくがく震え、涙を流して、そこにへたり込んでしまう。

 殻気功は、隙間きなく気を埋め尽くす呼吸法。間がないので、ロトが入り込む隙が無い。そうしないと、簡単に、ロトに居場所を感知されるぞと、ユウに言われてずっとやっている。

 私に近づくことが出来るのは、魔導士クラスや将軍クラスだけ。それなのに、メアリー姫は、平気で私の部屋に入ってきた。

「ハウルカ姫、おはようございます。お加減はいかがですか」

「メアリー様、おはようございます」

 高貴で、私と同格の姫なのに、なんだか、お母様みたいな人。私は、スカートを少し上げて、あいさつした。

「ごめんなさいね。城お抱えの魔導士のプレイルーム〈祈り部屋〉を庭の外に建設中です。お昼には完成しますから、それまで、この部屋だけで我慢してくださいね」

 私の強すぎる威圧を、今は、宮廷魔導士が4人がかりの結界で、抑え込んでくれている。ただ、急なことだったので、範囲が狭い。これだと、庭に出ることもできない。

「ご厚情、恐れ入ります」

「気遣いは無用ですよ。ハウルカは、10歳なのです。大人には、甘えていいのですよ。それでは、朝食を持ってきますね。話したいこともありますし、一緒に取りましょう。リリーはどうします」

「私もご一緒していいですか。ご主人様に遥さまから離れるなと言われています」

「じゃあ一緒に食事ね。私が戻ってくるまで、ハウルカの相手をしてやってね」

「はーい。ご主人様の事を話しています」

「では、後ほど」


 実は、一番嫌っていたリリーが、私の中では、一番頼れる人になっている。彼女が、私を守ってくれた。

 風竜とリリーに会った時、ユウと風竜は、私に恩恵を与えている大天使ロトの追跡を振り切るため、風竜の霊的なエネルギーの塊、龍玉を無理やり私の中に入れて、ロトの恩恵を追い出すことにした。私の体は、光属性の魔力で満ちている。そこに、無理やり、風属性の龍玉を入れるというのだ。痛くて、無理だと言っているのに、ユウに抑え込まれ、風竜に力技で、龍玉を押し込まれた。

「ぐっ、ぎゃーーー」

 私は、ここで死んだと思った。それをリリーが回復して、私の魂を、私の体にとどめてくれた。

「鬼、悪魔!」

「我慢しろ。しばらく面倒を見てくれるんだ。むしろ風竜に感謝しろ」
― まだ器が小さすぎる。入るには入ったが、ぎりぎりだ。魔力の器を広げるぞ。常人ぐらいの魔力量は、必要だろ

「痛い痛い。止めて、お願い」
「遥さま、私の手を握ってください。今は、私が、遥さまの命の循環を肩代わりします」

 リリーが詠唱を始めた。
「最初に言葉があった。言葉は、神と共にあった。神は光あれと言った。光はこの世を照らしたが、闇も同時に産んだ。生命は、風が運び、土がそれを育てた。土は、大樹の源なり。水を運び、栄養を与え。人を成長させる。ああ世界樹よ。この小さな魂を受け入れたまえ。そして共に育ち、栄えよ・・・・」

 暖かい

 リリーを通して、温かいものが流れ始める。私は、リリーに癒し続けてもらった。それでも気絶。私は3日間も起きることが無かった。

 あれから、4日経った。今は、サザン王国王城のゲストルームにいる。急な訪問、そして滞在なのに、全く落ち度のない部屋。サザン王国の気づかいに感謝した。



「ハウルカ様、ずいぶん顔色が良くなりましたね」

「リリーは、命の恩人だよ。リリーが助けてくれなかったら、ユウたちに酷い目に合ってた。あの生命の循環魔法を覚えたいわ」

「あの時の魔法は、永続詠唱ですから、急には無理です。じゃあ、風の基礎魔法、ホバーを一緒に覚えます?。お買い物するとき便利ですよー」

「うんうん、覚えたい」

 リリーは、私のハンカチをふよふよ浮かせて見せた。
 私は、今まで、剣の修行ばかりしていて、魔法をさぼってばかり。光の魔法は、そこそこ使えていたので、魔導士ヨナ先生も、厳しくなかった。風魔法は、風を起こせる程度。リリーのホバリング魔法が、とても新鮮に見えた。

「ユウ様の話は、いいんですか」

「いいの、後で本人に聞く。それよりホバーよ」

 風竜が言っていた。私が殻気功〈かくきこう〉をずっとやっているから、ロトの恩寵は、後、2~3日で抜けるそうだ。そうなっても、しばらくは、風竜が私を守ってくれる。わたしって、ずっと、殻気功をやっていられるから、問題ないと思うけどな。本当の自由を得られるのは、もう少し先。今は、王城なので、暫くは、今までとあまり変わらない生活を送ることになった。


 遥が寝ている間、おれは、大忙しだった。

 おれが、遥を奪還したので、イスタル王国から2国もはさんだサザン王国でさえ、イスタル王国の間者が、なりふり構わず活動している。イスタル王国が、ハウルカ姫の不在を公表しないものだから、余計暗躍度が増していた。 

 遥奪還当日の朝「なぜ、イスタル王国は、遥が誘拐されたって騒がないんだ」と、遥が気絶している部屋で、遥を通してシップウと話した。

― まだ、ハウルカ姫を奪還できると思っているからであろう。ロトが諦めたら、この件は、国王の権限に変わる。分かりやすくていいではないか

 シップウの助言とメアリー姫の計らいで遥は、サザン王城に匿われている。ロトの遥かに対する執念がすさまじかったからだ。それでも6年後には、魔王国と戦争がある。ロトは、次の勇者を立てるために、遥を諦めなくてはいけない。

 遥は、3日も気絶していた後、目覚めた。その時、とんでもない光の気を発したが、シップウの助言の通り、遥の周りに結界を張っていたので、事なきを得た。しかし、その結界は、張り続けなければいけない。宮廷魔導士は、最初2交代で、結界を張っていたが、あまりの重労働。何気なく、冒険者学校のポール校長やジョナサン魔法部長が王城に来て結界を手伝っていた。他にも、魔法省やら、貴族お抱え魔導士が、そうしてくれた。

 奪還当初は、シップウに、おれたちをムーマ大陸に送って貰えないかと話していたが、竜の旅では遥が、その旅に耐えられない。従来通り、船で出発することになった。さて、そこで、十歳の女の子をどうやって、船に乗せるか。これは、内通者に手伝ってもらわないと無理な相談である。秘密裏に遥を船に乗せるため、それがばれても、サザン王国が、これに関与していたということを漏らさないようにしなければいけない。おれは、メダル情報省大臣が策定した計画をレクチャーしてもらうために、魔法省に来ていた。

 実は、おれはもう、サザン王国の王都に居ないことになっている。住居にしていた見張り台の倉庫は、も抜けの空。荷物のほとんどは、蜘蛛のグルニの地下倉庫の隠し部屋にしまった。リリーは、遥の面倒を見るということで、お城から出していない。

 おれは、ホームラ王国のダンジョン攻略のために、ハリー将軍と雷帝のレオを引き合わせたり、雷狼やドラコ族たちのために、当面の食料の確保や、今後の開拓指導をしてもらうために産業省のお役人と、両種族の族長、ドラグナーのショー、噴雷狼のサガを引き合わせたりと、今日まで、ノイ村の村長の家を拠点に、北の山々を走り回っていた。今日久々に王都に戻ってきた。メダル長官も、打てる手を全部打って、オレとの会見に臨んでくれた。

「やあ、ユウ君会いたかったよ。君が魔力を高めている呼吸法が、我々には、ただの呼吸法でしかなかったのは、残念だった。だけど、ハウルカ姫は、凄まじいね」

 そう言って、メダル情報相長官に握手を求められた。

「遥は、あの呼吸法をずっとやっていられると思います。自分の流派ほど、呼吸法が多彩ではないのですが、それも、そのうち教えます」

「その分、二人の責任が重くなるのは、心苦しいよ。さて、ハウルカ姫には悪いが、最初、荷物になってもらう」

「問題ないです」

「航海は順調に行けば、4週間ほどだが、悪天候が続けば、もう少しかかる。もし、不測の事態が起きたら、海賊シャーク船長を頼りなさい。彼は味方だ。他の海賊がいっぱいいるとき、彼の言動が変でもシャーク船長を信じるんだ。彼と話ができる機会があったら、自分ができることは、全部話すのだよ。信頼とは、相互のものだからね」

 メダルは、彼が秘匿していた最大手駒を出してきた。おれは神妙にうなずいた。
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