勇者の拳士様

星村直樹

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水の王女シレーヌのゆうつ

シャーク船長の依頼

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 ムーマ大陸ハフマンド王国のザンクトベルグ港は、サザン港やカモワ港とそう変わらない。人の作った港だ。ただ、サザンの港みたいに大砲が海に向かって設置されているということはない。ハフマンド王国随一の港なのに、とても穏やかな港に感じた。ここは海の王が支配する港町なのだ。

 おれたちは、3人共軽装で、船を降りた。そこに片足の男が待っていた。旅の準備は、全てアパートにされている。ここからは、馬車でイモウジ連山に向かう。

「ハイデルか」
「手紙を見せろ」
「ほら」

「・・・・船長が、お待ちだ。きなっ」

 打ち合わせだと、レインライトの町にあるアパートに行く予定だが、船長といわれて、黙ってついて行くことにした。ハイデルは、ギルドの冒険者だと聞かされていたが、それだけではないらしい。

「ユウ!」
「ご主人様」
 二人とも、入国後の流れを頭に叩き込んでいるから不安な顔をしておれを見る。二人共イレギラーが起きたと思ったからだ。
「とにかく入国できたんだ。ちょっとぐらい遠回りしても大丈夫だ」


 ハイデルは、港町のうらぶれたバーの中を素通りして裏に出て、袋小路のようなところにある立派な作りの家におれたちを連れて行った。

「船長、連れてきやしたぜ」
「おっ、聞いてたが、若いな。お嬢さん方は、綺麗な所とは言えねえが、そこのテーブルの方でくつろいでくれ。おっと、ユウだったか。お前さんは、こっちだ」

 片目が無い船長だ。ハイデルが片足ないと聞いたときに、この人物の顔が浮かんでいた。

「ハイデルの足は、サメにやられたのか」

「魚人族だ。見せしめだとよ。オリャあ目よ。お前さん、風魔法が使えるんだってな。じゃあ海中でも息ができるのか。結界も素通りできるってことだ」

「出来るぞ。ただ、海中で修行したことが無いんだ。どれぐらいのことが出来るかわからない」

「もう一つ質問だ。水魔法は使えるか?」

「全部の属性が使える。水は、水玉を出して、はじいたことしかない。でも、ここで体を覆うぐらいの水流玉は出せる」

「ここでやって見せてくれ」

 おれは、自分の体を覆うように水流を出して見せた。

「これ、触れるのか」

「ただの水だ」

 ばしゃばしゃ
「おっ、おっ。ハイデル見たか」
「へえ、船長」

 二人は、おれの前で土下座した。

「済まねえ、試すようなことをして」
「船長の話を聞いてやってくれ」

「待ってくれ。シャーク船長だろ。いざとなったら、おれたちが助けてもらう方なんじゃないのか」
「ユウ、話を聞いてあげようよ」
「ご主人様!」
「お前ら、怖がっていたくせに。とにかく、頭を上げてください。メダルさんからシャーク船長のことは聞いています。自分ができることを全部話すように言われました」

「船長」
「おおっ」

「ユウ、テーブルの方に来てもらったら?」

「シャーク船長いいですか」

「ここは、オレの別邸なんだがな。嬢ちゃんたち、肝が据わってる。そうだ、オレがシャークだ。ハイデル、酒持ってこい。嬢ちゃんたちにはジュースだ」
「へい」

 なんか面倒ごとに巻き込まれる予感。メダルさん、策士だもんなー 

「こりゃあよ、イモウジ山で取れるぶどうジュースだ。見ろ、こっちはワイン。ワインの方が色がいいだろ。時間をかけると、ぶどうジュースも美味くなる。こりゃあ、陸じゃねえと味わえねえ」

「すいません、おれ、ジュースでいいです」

「なんでぇ、げこか」

「いえ、あの小っちゃい女の子の目を見てください。昼間っからだと、後が怖いです」

「ハッ、ハハ」
「船長、あの方ぁ、ハウルカ姫ですぜ」 ハイデルが耳打ちする。
「なんだって!」
「いや、船長も聞いていたでしょう。手紙読みます?」
「見せてみろ」
 ………………………、………………………。
「こ、こりゃ済まねえことした」

「いえ、根本的に違います。分からないと思いますけど、日本女性は怖いんです。でも、まあ、同じかな。それで話と言うのは?」

「なんにせよだ。ハウルカ姫、すまねぇ」

「遥よ!」

「遥な。すまねえ、すまねえ。それでだ。オリャ人間だ」

「見ればわかるわよ」
「ごめん、話を聞こうよ」

「魚人の連中は、陸に長く上がっていられねえ。だけどよ、中にいるんだ陸も海もいける奴がよ。そいつら、ワイン好きだぜぇ。話してみろ、気のいいやつが、いっぱいだ」

「じゃあなんで、目をえぐられたんだ。ハイデルは片足がないじゃないか」

「こりゃあな。海の中しか居られねえ奴らにやられた。あいつら、偉そうなんだ。だがな、王女様は、いい人でよ。人魚族の中でも両棲だろ。人も魚人も、ないんだよ。だから、オレらは、王子さんとの仲を持ったんだ。逢引ってやつな」

 リリーと遥が目をキラキラさせて身を乗り出している。

「それで」
「二人はどうなんたんですか」

「姫は幽閉、王子さんは、それを知らないまま、気がめいっているそうだ。おれらは、海で荒事しかできなくなった。2カ月前の話だ」

「じゃあ、その王子様は、姫を諦めたんじゃないか」
「そんなことないわよ」
「そうですよ」
「なんでそんなことわかるんだ?」
「女の勘よ」
「そうです」

「ぶっちゃけ、それを確かめてもらいたい。ビヨンド王子に先に会って、二人にしか通じない何か印のようなものを貰ってシレーヌ王女に届ける。どっちも水の結界が邪魔で、オレらにゃあ無理だが、ユウならできる」

 メダルさん、これを知ってたな

「シャークさん、詳しく聞かせて」
「絶対二人は、思い合ってます」

 こいつらが絡む展開も想定済みかっ。信頼をつかむって、今の話だな

「済まねぇ、最初から話す。…………………………」

 シャーク船長とハイデルは、アストラル大陸とムーマ大陸の間にあるコラグ海にある島出身。元々、魚人と仲がいい。シャーク船長は、その中でも両棲の人魚と仲が良かった。本人の酒好きもあって、若い時に、ここ、ザンクトベルグの港町にバーをオープンした。たまたま扱っていたワインがヒットして、その酒を人魚の王宮にまで入れるようになった。ワインは、地上に出た人魚でないと味わえない。シャークが海王に気に入られるのが妬ましいと思った魚人は数知れず。いつか叩き落してやろうという切っ掛けが、人魚姫と王子の逢引の話だった。

「おりゃあよ。恋愛とかは、どうでもよかったんだ。姫さんが、陸のことに興味を持ってくれるのが嬉しかったんだ」
「船長もシレーヌ様に惚れてたんだ」
「バカやろう、めったなことを言うもんじゃねえ」

「うんうん」
「ふ~ん」
 こいつら身を乗り出しすぎだろ。話にのめりすぎだ。

「おれは、ワインで、ザンクトベルグ港とコラグ海の航行権を貰った。大出世だ。コラグ海の島に住んでいる両棲の人魚にワインを届ける仕事だ。みんないいやつでよ、仕事が楽しかった。その代わり、国がやってる海賊仕事も手伝わなくっちゃいけねえ。荒事だろ、身内にさせたくないから傭兵を雇った。アストラル大陸の奴らだろうとだ」

 傭兵ギルドのことだろうな。サザン王国のじゃないギルドだ。


「傭兵って言うのは、信用できないと思っていたんだ」
「もちろん傭兵たちに、王女と王子の逢引の話はしてねえ。何処で、話が漏れたんだか、魚人の知る所となった」
「でも、漏らしたのは、その傭兵たちでさ。魚人が言ってたんだ。間違いねえ」
「まあな」

「それで、二人は、どんな感じだったの?」
「そんなの、仲良かったに決まってるじゃないですか」

 おれをよそに、遥とリリーが話をどんどん進めていく。

「お、おう。なあ」
「えぇ」

「なに?、歯切れ悪い」
「大事な所じゃないですか」

「あっしにゃあ、シレーヌ様がのめり込んでいたように見えましたぜ」
「まあな、会いに行っていたのは、姫さんの方だったからな。大体、シレーヌ様の方が格上だ。城にゃあ、水の結界があるんだ。ビヨンド王子が隠密に会いに行けるわけないだろ」
「そんなの、水魔石と魔法使いが手引きすればいいんじゃないすか」
「バカ、どんだけ大きな魔石がいると思うんだ」

「ちょっと待て、水魔石がいるのか」

「用心だよ。その水魔石の元も持っているんだろ。あんたにゃあ、いらないと思が、作るかい」

「そうしたい。だったら、水の大妖精を紹介してくれ。そしたら、二人の縁を持つよ」
 そこもか、メダルさん。何処まで策士なんだ。魔石の粒は、ギルドに渡さないといけないのに。でも、この町には、サザン王国の商人が、小粒の魔石をそのうち持ってくるようになるからいいか。

「じゃあ、そうしよう。ビヨンド王子に会ってくれ。おれらはいけない」
「船長あっしが途中まで・・」
「止めとけ、もう片足無くなるぞ」

「悪いが、先にアパートに連れて行ってくれ。場所を教えてくれたら、王子に声を掛けに行くよ。バレるといろいろ面倒なんだろ。おれ一人がいい」

「私、空飛べます」
「わたしわー・・・」

「二人とも留守番してくれ。遥は、偏光魔法をリリーに、教えてもらえよ。風魔法の方な。空気レンズ系と言うか空気の偏光板だけどね。それで姿を消せる。今だと隠密行動は、無理だよ」

「光魔法の応用をちゃんと習っとけばよかった」
「遥さま」

 おれも含めて、魔法の勉強が足りないのは仕方ない。それもこの旅で、いろいろ習う予定だ。

「おい、ハイデル。ノームの所に皆さんを案内して差し上げな。ユウさん、どうせギルドにも顔を出すんだろ。そこに、ノームがいる。水魔石を作ってもらいな。代金は、わしが出す。嬢ちゃん方は、それからアパートだ。街の案内もしてやりな。そうすりゃあ、ビヨンド様の居城も案内できるってもんだ。だからって近づくなよ」

「へい!」

「うんうん」
「シャーク船長、分かってる!」

「人と魚人じゃあ魔力も体力も違うっていうのになあ、なんでこんなことに・・・」

 シャーク船長がぶつぶつ言っている。まだ何かありそうだ。とにかくおれたちは、この港近くの酒場から移動することになった。
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