勇者の拳士様

星村直樹

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水の王女シレーヌのゆうつ

ビヨンド王子は好青年

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 ザンクトベルグ城の碧のシャトーから見るコラグ海は、とても穏やかに見える。ここは実は、海中闘技場が一番よく見えるところ。シレーヌが一度、海中闘技を見に来てくれた時は嬉しかった。シレーヌが観戦してくれるのなら、自分も出場しようと思ったほどだ。ビヨンド王子は、シャトー下の明かりを苦々しく一瞥して、テラスから、部屋の中に入った。
 あの海中の明かりは魚人たちのものだ。シレーヌが、ここに来られないように見張っている。代わりに、自分がシレーヌのところに行きたいが、海の中だと、魚人に敵わない。自分が必死になって覚えたのは蒼流剣術。でも、ポーラ族(両棲の人魚)の蒼流剣術師範代に褒められたのは、海上の蒼流剣術だけ。海中だと息が続かない。風の魔法で少しはいられるが、何もしなくて20分。戦うと10分しかいられない。海中の蒼流剣術もずいぶん練習しているが、果たして彼らに通じるのか、はなはだ疑問だ。海露石でコーティングされた蒼剣(そうけん)があるので、いいところまで行くと思うが、奴らとは、体格もスピードも違う。水の魔法だけでは太刀打ちできないのが現状だ。

「コンコン。すいません、窓が開いていたので、口でノックしました。シャーク船長の使いです」

 テラスを見ると、敵ではないとうずくまっている青年が一人。

「君、危ないから、こっちに入りたまえ。そこは魚人たちが見張っている」

「おれ、空を走れるんで」

「君は、風の魔法使いなのかい。とにかく中に。シャークの使いだと言ったね。やっと来てくれたか」

 見れば、16歳ぐらいの青年。しかし、空を走り、水の結界も抜けて来た。それなら、竜宮のパール宮まで行ける。ビヨンド王子は、希望に胸を膨らませた。

「ここに来るには、水の大きな魔石が要っただろう。シャークによくやったと伝えてくれ。魔石を見せてくれないか」

 そう言えばさっき作った。しかし使っていない。これをもって、シャーク船長の使いだと認めてくれるのだろう。
「どうぞ」

「素晴らしい、素晴らしい大きさだ。これなら私でも固い水晶壁を出せる」

 そう言って、ビヨンド王子は、水の大魔石を握って、大きな盾を出して見せた。
「クリスタルシールド」
 ユウには、これが珍しくて仕方ない。水障壁なのに、盾に模様が入っているのが新鮮だ。


「すいません王子、触ってもいいですか」

「すまない、同族じゃないか。普通に立ってくれ。まず名前から聞かせてくれないか。それから、パール宮に閉じ込められているシレーヌの話を聞かせてくれ」

 調子に乗っていた王子は、我に返って、ユウをまじまじ見た。魔法使いと言うより騎士に見える。それで、クリスタルシールドに興味を持ったのだろう。彼は、これから竜宮に行くのだ。教えてやらねば。

「シラサギ・ユウです。王子は、シレーヌ様が、幽閉されているのを知っているのですね」

「色々調べたよ。人魚の知り合いもいるしね」

「おれの‥自分の仕事は、王子に、二人にしか通じない何かを貰って、シレーヌ王女に届けることです。王女は、ビヨンド様を待っておられます」

「君、ユウ君だったよね。丁寧言葉が苦手なようだね。ここは、公の場じゃないんだ。ユウ君は、ぼくの味方なんだろ。楽にしていいよ」

「これでも随分頑張っているつもりなんですが、ダメですか。すいません」
 サザンだと、皆さん、いい加減だったからなー。
 それは、メアリー妃からのトップダウンだったからだ。普通はない。

「あははっ」いい青年だ。

「多分シレーヌ様の事は、王子と同じぐらいしか知りません。すいません」

「いいんだ。ぼくの使いになってくれるんだろ」

「そうです」

 フウと立ち上がる青年を見て感心した。隙が無い。ビヨンド王子は剣士だ。少しは相手の力量が分かる。これなら、使いを任せられる。

「えっと」

「そうだったね。これは、海露魔石でコーティングされたペーパーナイフだよ。これを持ってい行きなさい。シレーヌにもらったものだ。模様も独特だろう」

「魔石でコーティングなんかできるんですか!綺麗です」

「ノームと言う大精霊に加工してもらったものなんだそうだ。地上のギルドに分体がいるそうだよ」

 なるほど、魔石を融合できるぐらいだもんな
「お預かりします。お渡しするのは明日でいいですか。夜に王女の部屋に行くのは無理です」

「そうだね。任せるよ。さて、クリスタルシールドだったね。もう一回出すよ。大魔石を返さなかったのは、これを見せるためだよ。クリスタルシールド!」

 クリスタルシールド。それは工芸品のような透明な分厚い盾だった。


 おれは、ビヨンド王子を世間知らずのボンボンだと思っていた。2カ月もシレーヌ王女を放っていたというだけで、もうアウト、そう思っていた。しかし、会ってみると、好青年。たぶんこっちの方が年上だ。なんかこの人には、物凄く年を明かしたい。でも、クリスタルシールドか。もう少しこのままでいいか。

「どうぞ、触ってみて」

「ありがとうございます」

 ?水だよな。なんだ、この硬度。中で、対流しているから、やっぱり水だ。それにこのイギリスの騎士の家紋みたいな紋様。ちょっとヒヤッとするし。

「ビヨンド様?いったい、この硬さは。それにこの紋様、工芸品の様です」

「秘密って分けじゃないけど、ザンクトベルグ家から直々に教わる人はまれだよ。コツは、魔力が巡回するぎりぎりの水の温度をイメージすると良いよ」

「ゼロ度ってことですか」

「水は冷たくなればなるほど硬度を増す。でも、魔力の対流は起こらない。防壁の形ちはさまざまにできるんだけど、盾だから、盾のイメージだろ。うちは、家紋がそのまま盾のイメージになる。だから模様が出てくるんだよ。一番硬いのは、ゼロ度。だけど水。そのイメージを忘れずに。ユウ、決して死なずに、シレーヌに会うんだよ」

 そうか、その為に教えてくれているんだ。
「肝に銘じます」

「じゃあ、はい、大魔石。やって見せてよ」

 よっしゃー
「クリスタルシールド」

 盾のイメージはできた。でも、最近までずっとイメージトレーニングはギガントアームやギガントフットだったから、柔らかい盾になってしまった。

「う~ん、いや、初めてにしては上出来だよ。これで、硬さが上がればいいんだ」

 ふにょふにょの盾を見て王子が、苦笑いしている。でも、これ、柔らかいけど、結構強いんじゃ・・。水のギガントアームのコツをつかんだ気がする。
「慰めてくれてありがとうございます」

「敵に捕まらないようにね。ごめんね急に難しいこと言って。シレーヌの返事を持ってきたら、褒美をあげるよ。期待してる」

「がんばります。それでは王子!」

「今度来たらビヨンドでいいからねー。シャークによろしく」

 ははっ、ビヨンド王子は、友達作るのうまいや。おれは、シュタッとテラスから夜の空に消えた。
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