無能扱いの聖職者は聖女代理に選ばれました

芳一

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【16】欲望*

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全身の血が沸騰したように熱い。
あれからそう何分も経っていない筈なのに酷く長い時間放置されている気分だった。ああ、早く欲しい。早く、早く、早く────


「聖職者様?」

ぽろりと無意識に涙が出ると同時、少しばかり焦ったような声が聞こえた。求めていた男の気配にドクンと心臓が跳ねる。
今すぐ飛び起きて唇に喰らい付いてしまいたかったが、実際は足を僅かにシーツの上で泳がすだけに終わった。思うように動かない身体がもどかしい。
「…っぁ、ッ…レ、レオン…ハル、ト…ッ」
「聖職者様、大丈夫か」
ぎしり、とベッドの上に手をついてレオンハルトが顔を覗き込んでくる。グリファートは堪らずごくりと生唾を飲んだ。深い水底色の瞳に見つめられただけでもう我慢が効かなくなってしまいそうだった。
「…ッ、ご…ご、めん…ッぁ、なんか…欲しく、て……っ」
「…俺の魔力がか?」
口に出すのは恥ずかしく、黙って小さく頷いた。

「俺の魔力だけに反応してるんだな」
「…ッ、?な、に…」

そうしていれば後頭部に手を差し込まれ引き寄せられる。たったそれだけの事で期待に胸が高鳴り、身を委ねるように目を閉じた。
重なった唇からにゅるりと分厚い舌が入り込んでくる。歓迎するように招き入れればレオンハルトの舌もねとりと絡み付いて来た。
慌てるなと言わんばかりに後頭部に回した掌で頸や耳裏を撫でられ、同時に舌先で上顎を擽られる。そのあまりの気持ち良さにグリファートは感じ入るように眉尻を下げた。
「んっ…ン、ぅ、んん…」
「……」
鼻から抜ける声はきっと酷く情けない。だがそんな事を気にする余裕もなくグリファートはただ貪るようにレオンハルトの唾液を啜った。ごくんと飲み込む一方で物足りなさを覚え、はしたなくもレオンハルトに縋りつこうとしてしまう。
「ん、んっ……っは、ぁッ……れ、おん…はると…ッ」
「何だグリファート」
「ひっ、…ッぁ、やだ、それ…!」
もっと欲しい、と強請ろうとしたところでぞわりとした快感が駆け抜ける。腹の奥がじんと熱くなっておかしくなりそうだった。
「呼ばれたから呼び返しただけだ」
「いじ、が…わるい…!」
恨めしそうに睨んだつもりだが果たして効いているだろうか。レオンハルトは相変わらず興奮の灯らぬ瞳でこちらを覗き込んでくる。

「もしかしてアンタ、魔力に飢えてるんじゃないか」
「…っ?飢え、って……」
「魔力の『溜まり』が遅いから本能で魔力を欲してるんだ」
「なん、で…そんなこと今まで……」
「まだ足りないんだろ」

言われ、ぎくりとする。
レオンハルトが言うように、たった一回の口付けでは到底足りないとグリファートも感じていた。唾液によって確かに魔力を注がれてる筈なのに、前の時よりも『溜まる』感覚が少ないのである。
おかしい、どうしてと動揺している間にも身体は絶えず乾きを訴える。グリファートは熱い息を吐きながら無意識に潤んだ瞳でレオンハルトを見上げた。
もっと、たくさん。直接、中に、注いで欲しい。

「…ッ、ぁ…れ、レオンッぁ、レオンハルト…っほ、しぃッ、おねが」

止めどない願望は熱い唇によって途中で塞がれた。
滑る舌同士の心地に安堵を覚える。グリファートの要求に応えてくれたのだから、今は、今だけはオルフィスの人々に慕われ求められているこの男を独占しても許される筈だ。
それからは唇も舌の感覚も麻痺してしまうくらいに触れ合い、絡め合い、舐め尽くした。
どれだけ時間が経ったのかもわからない。口端から溢れないようぴったりと唇同士を塞いで何度も唾液を飲み込んだ。
それなのに。

「…っ、ぁ、はあッ、あ、レ、オン…っ、ぁ、ま、まだ…ぁッ」
「…ッは、唾液これだけじゃ足りないのか」

一度唇同士を離し二人で息を荒げながら向かい合う。
レオンハルトの親指でついと下唇を撫でられ、グリファートは無意識に薄く唇を開いた。興奮と渇望のまま親指をしゃぶろうとしたが、その前に指は離れていってしまう。

「参ったな…魔力は充分注いでるんだが……」

そう言って思案するレオンハルトにもどかしさを覚え、グリファートはグッと彼の服の裾を握り込んだ。
「聖職者様…?」
「ベッド、寝て…っ、ここ、から…貰う、から」
「は?おい聖職者様……ッ」
何とか身体を起こしベッドの上に座り込むと「ここ」と言ってレオンハルトの足の間に顔を寄せる。グリファートはレオンハルトの戸惑う声を無視し、ごそごそと探った先の下穿きに手をかけた。
そのまま脱がそうとすれば流石に腕を取られてしまったが、構わず顔を埋めて布の上から口付ける。
「…ッ、おい!」
「ん、ん…っむ、」
柔らかく食むように、僅かに熱持つレオンハルトのそれを横からはぷりと唇で咥える。自分と同じ男の象徴を咥えるなど普通であればあり得ない筈なのに、間近にレオンハルトの匂いと質量を感じてむしろ余計に欲しくなった。
触れるたびビクビクと脈打つそれに煽られる。
レオンハルトの瞳に興奮の色は見えずとも、ここはしっかりと反応してくれているのだ。
布の上からでも充分その昂りは感じ取れているが、どうせなら直で感じたい。
手が取られているなら口でするまで、とグリファートは慎重に布だけを歯で噛んでずりずりと邪魔な下穿きを下ろした。
「……ッ」
グリファートがよもやそんな痴態を晒すとは思わなかったのだろう、頭上のレオンハルトが明らかに動揺している気配がする。これ幸いと下穿きを下ろしきってしまえば、ぶるんっと勢いよくレオンハルトのものが飛び出した。
グリファートの眼前にそそり勃つ怒張に同じ雄として目を奪われる。
「っぇ、あ……すご……」
そのあまりの雄々しさに口を半開きにしたまま眺めていれば、今までにない深いため息がレオンハルトの口から吐き出された。

「……アンタ、飢えてるせいで自分がいま何をしてるか理解してないだろ」

呆れと苛立ちの混じる声色で言われグリファートも動揺する。
酩酊したようにくらくらと揺れる頭で思うのはこの男が欲しい、嫌わないで欲しい、という子供のような願望だけだ。
だからだろう、グリファートの腕を捕まえるレオンハルトの力が緩んだ隙にするりとそこから手を引き抜く。そのままグリファートはレオンハルトの熱り立つそれを両手で支え、先端にちゅうと吸い付いた。まるで乞うように。

「…ッ、後で文句は言うなよ聖職者様」

そんなレオンハルトの唸りは正しく獅子のようだったが、グリファートの髪を掻き上げるように後ろに撫でつける掌は酷く優しかった。
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