無能扱いの聖職者は聖女代理に選ばれました

芳一

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【35】情*

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「グリファート」
「ひっ、ぁ…ッ!」

ロビンと食事を終え、簡易湯槽で湯浴みも済ませて部屋へと戻っても、グリファートの心はずっと落ち着かないままだった。
『夜にアンタの部屋にいく』
そんな言葉など無視してさっさと寝てしまえたら良かったのだが。心臓の音が嫌に耳について微睡むことさえ出来ないまま、気が付けばグリファートはレオンハルトに正面からのし掛かられていた。
魔力飢えを起こして意識が朦朧としている時とは訳が違う。グリファートの魔力を増強させるためとは言え、互いに意思を持ち性行為をしようとしているのだ。
恥ずかしい話だが、グリファートは生娘のように緊張していた。
「…っ名前を呼ぶのはやめろって、言ってるのに…ッ」
「いいのか、名前で呼んだほうが嬉しいだろ」
「い、いい…っ、なんか、こ、この辺…ぞわぞわして落ち着かないから…!」
「そうか」
下腹部あたりを摩ればレオンハルトは納得してくれたのか、名前で呼ぶのをやめてくれた。が、その代わりとばかりに至近距離で顔を覗かれ、グリファートの頬がこれでもかと赤くなる。
自分は今、男としてきっと情けない顔をしているだろう。
恥ずかしさと、居た堪れなさと、「俺相手に正気か」という動揺と。そんなどうしようもない感情に塗れた顔をじっとりと見つめられ、まるで辱めを受けているような気分だった。
そんなグリファートの思いを知ってか知らずか、レオンハルトの口元がふっと緩む。

「どうした、恥ずかしいのか?」
「そ、そりゃ恥ずかしいでしょ…」
「いいな。アンタが恥ずかしがる姿は唆るものがある」
「は、あ?……ぁッ、!ちょ、ちょっと…変な触り方するなってばッ!」

こんな事を恥ずかしげもなく言う男だっただろうか、と考えていたグリファートの腰をレオンハルトがいやらしく撫でる。衣服の上からでもわかる掌の熱が、じわじわと体温を上昇させていくようで眩暈がした。
そのまま這うように掌が上へと移動していったかと思うと、辿り着いた胸元を愛でるように柔く揉んだ。
「…ッ、!」
女性でもないのに揉み込むように刺激され、グリファートは思わず情けない声を上げそうになる。知らず胸の頂が主張する様に衣服の下でぴんと上向いた。
漏れ出そうになる甘い声を聞かれないよう必死で唇を噛み締めるが、その事にレオンハルトも気付いているのだろう。
レオンハルトはグリファートのぷくりと勃ち上がった胸の先端を親指で悪戯に押しつぶしたと思うと、淡く色づいているであろうその周りを円を描くように愛撫した。

「ぁ、あッ、れ、レオンハルト…っ、ま、って、ぁ、そん、な事…ッ」

しなくていい、これは魔力を増強するための行為であって男女の情交ではないのだから。
そう言いたいが言葉にならない。
尚もレオンハルトは器用に胸を弄っていて、すっかり敏感になった先端は衣服と擦れただけでも言い知れぬ痺れを甘受していた。それに合わせてグリファートの腰もびくついてしまう。
「聖職者様」
何とかレオンハルトの手を止めようとグリファートは視線で訴えようとしたが、軽く無視されただけだったようだ。
隙だらけの首元に唇で触れられたかと思うと、印を残すようにきつく吸われる。

「俺にはくれないのか?聖職者様」
「ぇ、な…なに…っ、ぁッ」

胸を這っていた手は気付けばグリファートの寝衣を丁寧に肌蹴させていた。
レオンハルトは衣服の隙間から器用に手を滑り込ませると、右手は捲り上げた裾から覗く太腿を、左手はすっかり赤く熟れた胸を、直接触れてはグリファートを昂らせる。
正直レオンハルトの言葉に返事ができるほどの余裕など今のグリファートにはなかったのだが、「聖職者様」と催促するように呼びかけられてしまっては必死で思考を巡らせるしかない。
「お、俺からあげられるものなんて、ない、よ…っ君みたいに魔力も多くない、し…っ」
「違う、情だ」
「…ッ、情……っ?あっ、ぁ んッ」
情がある───そう告げられた事を思い出す。
男女の情交を思わせるような事をするのは情があるからだと、レオンハルトはそう言いたいのだろうか。そしてその情をグリファートにも求めている、と。

「アンタが気持ち良さそうだから、俺もアンタで気持ちよくさせてくれって事だ」
「っ、妙な言い方、しないでくれる…ッ?」
「妙も何もそういう意味で言ってる」

そう言いながらレオンハルトの手がグリファートの急所に触れた。突然の刺激にグリファートは「ひ、」と情けない声を漏らしながらぎくりと身を強張らせる。
レオンハルトに触れられる前からそこは既に兆しを見せていた。
殆ど胸を弄られていただけだというのに、首を擡げるほど反応させてしまうなんて。これでは妙な誤解をレオンハルトに与えてしまう。
「わ、ま…待って、ちが、ちがう…っから、!」
「何がだ」
「俺、そ…っそんなつもりだったわけじゃ…ッ、ぁ!」
すっかり反応したそこを触れられてしまったのだから弁明のしようもないというのに、これは何かの間違いだと往生際悪く言い訳してしまう。
できる事なら自分がこんなに『はしたない男』だと知りたくはなかったし、レオンハルトに知られたくもなかった。

「そういう、趣味じゃなく、て…ッ、ぁ、待ってほんとに…っ」
「俺も元々そんな趣味はない。アンタ相手だからこんな事になってる」

こんな事、と言って腰を太腿に押し付けられる。布越しに感じたレオンハルトのそこは、男の存在感を見せつけるように熱く滾っていた。
ぶわり、と噴き出た汗と共にグリファートの頬に赤みが増す。
「『そういう趣味』じゃないアンタがちゃんと俺で反応してくれてるなら、今はそれで良しとしよう」
「な、に…っひ、んッあ」
「アンタを自覚させるには時間がかかるからな」
おかげで俺も辛抱強くなった、とどこか愉しそうな顔でレオンハルトが笑う。
その顔があまりに穏やかで、しかし同時に肉食獣の獅子を思わせる獰猛さも滲み出ていて、グリファートは目を奪われたままごくりと唾を飲んだ。
その先を期待していたのかわからない。だがレオンハルトの唇が近付いてきたのをずっと待ち望んでいたように、グリファートは瞼を閉じて滑り込んでくる熱い舌を受け入れた。
口内を蹂躙するような舌の動きに息が切れる。
呼吸するように口を開けばさらに中へと押し入ってくる。

「ン、んッ…ぁ、んん……っ」

溢れた唾液をグリファートが必死で飲み込んでいる間に、太腿を撫でていたレオンハルトの指は後ろの窄まりを窺うようにつつき始めていた。
勃ち上がった陰茎から溢れた雫が後ろの方まで垂れたおかげが、窄まりは僅かに湿り気を帯びている。そのままつぷりと挿入された中指は、ゆっくりと、しかし止まる事なく奥へ奥へと着実に入り込んでいった。

「ンッんん…れ、れお…っ、あ、ッ?!ぁッ…や、やだ、あ、んッ ぁ、ああッ!」

探るように腹側を何度か行き来していた指がしこり部分を掠めた途端、グリファートは快感に背をしならせた。
「な、なに…っ、ひッ、あ、やッ、あ!あっ、ぁ!」
トントントンと容赦なくしこりを責められグリファートは身も世もなく身悶える。
そんなグリファートの反応を、何が楽しいのかレオンハルト食い入るように見つめていた。それもどこか熱を持った瞳で、瞬きも惜しいとばかりに見下ろしているのだから堪らない。
「み、見るな、よ…ッああっ!」
「どうして」
「だ、って…ッああっ、やだ、ぁ、あッこんな、の、…ん、ンあ…ッ!」
「大丈夫だ。心配しなくても俺もアンタに興奮してる」
「…ッち、が…ぁッあ、あっ、も…ッやだぁ……っ!」
何が心配しなくていい、なのか。心配をしているのはそこではない。
むしろレオンハルトの物言いはグリファートを羞恥心でさらに追い込んでいるとしか思えないのだが、これは果たして気のせいだろうか。

「あ、ぁッ…ひ、ッゃ、あ───ッ!」

気付けば人差し指、薬指と加えられ、三本もの指がグリファートの中を掻き回していた。相変わらずしこりを押し潰したり、指をばらばらに動かして押し広げたりと、これでもかと丁寧に後ろを解される。
そうしてグリファートが射精感に身を震わせたところで、ぬぽっといやらしい音を立てながら指が抜け出ていった。
思わず「あ、っ…」とグリファートの口から不満げな声が漏れてしまう。
「聖職者様、そろそろいいか?」
「え、?ぁ…、」
レオンハルトの熱い息が首筋にかかると同時、後孔に熱を纏った硬いものが押し付けられる。ひくつくそこを熱棒の先端がにゅる、にゅる…と行き来していてもどかしい。
魔力飢えを起こしていたならば、焦らすなとばかりにグリファートの方からレオンハルトを中へと導いていただろう。
だが今は、魔力の補給など関係のない行為を目の前の男としている。それをわざわざ気付かせるなんて、とグリファートは恨めしげにレオンハルトを見上げた。

「聞かなくても…っ、ぃ、いいから、そんなの…ッ」
「アンタの言葉が欲しいんだ、グリファート」
「…っ、!」

グリファートは首まで肌を真っ赤に染めて唸った。グリファートが自らの口で望めるわけもないのに、この熱を迎え入れるための言葉を寄越せとレオンハルトは言うのか。
(い、挿れてくれって…お、俺に言えって?そんな、でも…だって…ッ)
矜持も羞恥も捨ててしまえばきっと簡単だろう。それを捨てさせようとするのはどうかと思うが、とはいえグリファートとてレオンハルトが嫌なわけではない。
男の熱を拒むどころかむしろ───…

「グリファート。アンタを、俺にくれ」

レオンハルトに名前を呼ばれると身体の奥が疼く。熱が上がる。心臓が跳ねる。
自分で自分がわからなくなるのが嫌で、グリファートは「やめてくれ」と口にすると言うのに。
「…っ、レ、オン…ハルト……」
それが一体何であるのかを教えるように、レオンハルトは何度もグリファートの名前を呼ぶのだ。





「俺も……、君が欲しい、よ………」





果たして届いただろうか、というほどに小さな声だった。
しかしレオンハルトはその耳ではっきりと聞き取ったのだろう、直後に物凄い質量でもってぐぐッと中に潜り込んできたのでグリファートは息を詰めた。
動揺するグリファートに対し、動きを止める事なくレオンハルトが中へと押し入ってくる。
身体は繋げてきた筈なのに、初めてするような行為に思えてグリファートは酷く乱れた。
しこりを掠める動きも、奥へと目指す熱の大きさも、恐ろしいほど気持ちが良くて愛おしい。
こんなに善がってしまうなんて、どうかしている。
レオンハルトが触れればグリファートの身体が反応して。他でもないこの男に触られて気持ちがいいのだと、口にせずとも伝えてしまう。
だがこれが情の交わし合いだと言うのならなんて事はないのかもしれない。

魔力など関係なしに互いを求めている。

その日グリファートはレオンハルトの情というものを嫌というほど思い知らされた。
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