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エピソード10 魔王別姫
魔王と告白と返事
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「……っ!」
スウィッシュが口にした、自分に対する熱い想いに、ギャレマスは呆然とした。
下から見上げた彼女は、薄暗闇の中でもはっきりと分かるくらいに頬を紅潮させながら、その潤んだ瞳でギャレマスの顔をじっと見つめている。
その紫水晶のように美しい瞳に、彼の意識は吸い込まれてしまいそうだった。
「……」
床に寝そべったギャレマスは、無言のまま、彼の身体の上に乗っているスウィッシュの方に両腕を緩々と伸ばす。
そして、その腕で彼女の背中を固く抱きしめようと――する寸前で、ハッと表情を変えた。
彼は、きゅっと唇を噛むと、一旦はスウィッシュの背中に回そうとしていた両手を、彼女の両肩に置いた。
そして、その金色の瞳でスウィッシュの紫瞳を真っ直ぐ見つめながら、静かな声で囁く。
「……スウィッシュ。お主の、余に対する気持ちは良く分かった」
「……」
「正直……余ごときが、お主のような若い娘に愛される程の者だとは、とても思えぬが……。それでも、こんな余の事を好きになってくれた事……とても嬉しく思う」
「陛下……」
「だ……だが――余は、お主とは齢が……」
ギャレマスは、そこで口を噤んだ。話を続けようとしても、喉の奥が詰まったような感じで、うまく声が出てこない。
理性は、彼女にキチンと告げねばならないと解りつつ、本能が全力でそれを拒絶しようと抗っているようだった。
と、
「……陛下」
スウィッシュは、何とか声を出そうと苦慮しているギャレマスに、そっと声をかける。
そして、ハッとした顔で自分の顔を見上げる主の顔を見下ろしながら、静かな声で言った。
「……大丈夫です。ご無理をなさらなくても」
「す……スウィッ……」
「ちゃんと分かってますから。叶わぬ恋だって事は」
スウィッシュは、今にも泣き出しそうな顔をしながら、それでも懸命に微笑みを絶やさぬよう頑張り、震える声で言葉を継ぐ。
「陛下とあたしでは……年齢も……身分も違います……。顔や身体だってパッとしませんし、優しさなんて、ルコーナ様には遠く及びません……」
「スウィッシュ……」
「……今、あたしが気持ちをお伝えしたのも、ただただ陛下にあたしの想いを知ってほしかっただけで……良い返事を頂けるなどとは、これっぽっちも思っていません」
「……」
「ですから……」
そう言うと、彼女は目尻に涙をいっぱいに溜めながら、勇気を振り絞って言った。
「……ハッキリとおっしゃって下さい。お気持ちを包み隠さず、キッパリと断って下さい」
「……」
「あたしは……大丈夫ですから。陛下からどんな御返事を頂いたとしても、明日からもちゃんと陛下の部下として忠誠を尽くしますから」
そう囁くと、スウィッシュは自分の肩に置かれたギャレマスの手に、自分の掌をそっと重ねる。
そして、その温もりを愛おしみながら、言葉を継いだ。
「だから――断ち切って下さい、その声で。陛下に向けた……あたしの身の程知らずな恋心を……」
「スウィッシュ……!」
スウィッシュの肩に置いた自分の掌に伝わる彼女の体温と、手の甲に置かれた彼女の掌の柔らかさを感じながら、ギャレマスの胸は激しく高鳴る。
それと同時に、彼は激しい葛藤を覚えていた。
(なぜだ……なぜ、余はこんなに迷っておるのだ……?)
簡単な話では無いか。
――スウィッシュと自分では、あまりに年齢が離れすぎている。
若く美しいスウィッシュには、若くて前途有望な若い男と知り合う機会が、これからいくらでも訪れよう。
だが……もし、既に人生の半ばを過ぎている自分がスウィッシュの想いを受け入れてしまえば、これからの彼女が持っている無限の可能性をむざむざと摘んでしまう事になるのだ。
彼女の未来を台無しにしないためにも、ここはキッパリと彼女の想いを拒絶するべき――。
――でも、
どうしても、ギャレマスはそうしたくなかった。
むしろ、スウィッシュの愛を受け入れて、彼女の身体を思いきり抱き締めたい――そんな欲求が、彼の心の中でムクムクと頭をもたげ始めているのをひしひしと感じている。
「……っ」
彼は苦悶に満ちた表情を浮かべると、ぎゅっと目を瞑った。
そして、自分自身に問いかける。
スウィッシュの想いを受け入れるか、それとも拒絶するか――。
魔王という立場から離れた、イラ・ギャレマス個人としての自分がどちらを望んでいるのか……それを見極める為、自らの心と今一度向き合う。
「……」
――数分の時を置いて、彼はついに決断し、ゆっくりと目を開いた。
そして、横になった体勢で、自分の身体の上に乗ったままのスウィッシュの顔を見上げる。
「す……スウィッ……どうした?」
……が、彼女の名を呼ぶ彼の声は途中で途切れ、代わりに労わりの言葉が吐いて出た。
「……う」
ギャレマスの問いかけにも、スウィッシュは答えなかった。
なぜか、さっきまで真っ赤だった彼女の顔が、今では真っ青になっている……。
まるで何かを耐えるようにきゅっと固く口を結んだ彼女の顔を見たギャレマスの脳裏に、何とも言えない嫌な予感が過ぎった。
「……え? ま、まさか……?」
「う……うぅ……っぷ!」
「わわッ!」
突然、スウィッシュが目を剥いて胸の間と口元を押さえたのを見たギャレマスは、自分の予感が的中してしまった事を悟り、慌てて声を上げる。
「す、スウィッシュ! ちょ、ちょっと待て! が、我慢するのだ!」
「ぅぷ……き、気持ち悪……」
ギャレマスの絶叫も聞こえない様子で、彼の上に跨ったスウィッシュが、口元を押さえながら苦しげに身を捩った。
そんな、どう見ても決壊寸前な様子の彼女に、ギャレマスは必死で懇願する。
「た、頼む! も、もう少しだけ耐えるのだ! すぐにトイレに連れて行くから、そこまで何とか……!」
「うぅ……む、ムリ……は、吐……」
「は、吐くな! 今、この位置関係で吐かれたら、余の顔面に――!」
スウィッシュの顔を見上げながら、必死で声をかけるギャレマス。
だが、彼の必死の制止も虚しく……、
「ああああああああああああああああ――っ!」
――生々しい湿った音と魔王の断末魔の絶叫が、静寂に包まれていた深夜の半人族の村に響き渡ったのだった……。
スウィッシュが口にした、自分に対する熱い想いに、ギャレマスは呆然とした。
下から見上げた彼女は、薄暗闇の中でもはっきりと分かるくらいに頬を紅潮させながら、その潤んだ瞳でギャレマスの顔をじっと見つめている。
その紫水晶のように美しい瞳に、彼の意識は吸い込まれてしまいそうだった。
「……」
床に寝そべったギャレマスは、無言のまま、彼の身体の上に乗っているスウィッシュの方に両腕を緩々と伸ばす。
そして、その腕で彼女の背中を固く抱きしめようと――する寸前で、ハッと表情を変えた。
彼は、きゅっと唇を噛むと、一旦はスウィッシュの背中に回そうとしていた両手を、彼女の両肩に置いた。
そして、その金色の瞳でスウィッシュの紫瞳を真っ直ぐ見つめながら、静かな声で囁く。
「……スウィッシュ。お主の、余に対する気持ちは良く分かった」
「……」
「正直……余ごときが、お主のような若い娘に愛される程の者だとは、とても思えぬが……。それでも、こんな余の事を好きになってくれた事……とても嬉しく思う」
「陛下……」
「だ……だが――余は、お主とは齢が……」
ギャレマスは、そこで口を噤んだ。話を続けようとしても、喉の奥が詰まったような感じで、うまく声が出てこない。
理性は、彼女にキチンと告げねばならないと解りつつ、本能が全力でそれを拒絶しようと抗っているようだった。
と、
「……陛下」
スウィッシュは、何とか声を出そうと苦慮しているギャレマスに、そっと声をかける。
そして、ハッとした顔で自分の顔を見上げる主の顔を見下ろしながら、静かな声で言った。
「……大丈夫です。ご無理をなさらなくても」
「す……スウィッ……」
「ちゃんと分かってますから。叶わぬ恋だって事は」
スウィッシュは、今にも泣き出しそうな顔をしながら、それでも懸命に微笑みを絶やさぬよう頑張り、震える声で言葉を継ぐ。
「陛下とあたしでは……年齢も……身分も違います……。顔や身体だってパッとしませんし、優しさなんて、ルコーナ様には遠く及びません……」
「スウィッシュ……」
「……今、あたしが気持ちをお伝えしたのも、ただただ陛下にあたしの想いを知ってほしかっただけで……良い返事を頂けるなどとは、これっぽっちも思っていません」
「……」
「ですから……」
そう言うと、彼女は目尻に涙をいっぱいに溜めながら、勇気を振り絞って言った。
「……ハッキリとおっしゃって下さい。お気持ちを包み隠さず、キッパリと断って下さい」
「……」
「あたしは……大丈夫ですから。陛下からどんな御返事を頂いたとしても、明日からもちゃんと陛下の部下として忠誠を尽くしますから」
そう囁くと、スウィッシュは自分の肩に置かれたギャレマスの手に、自分の掌をそっと重ねる。
そして、その温もりを愛おしみながら、言葉を継いだ。
「だから――断ち切って下さい、その声で。陛下に向けた……あたしの身の程知らずな恋心を……」
「スウィッシュ……!」
スウィッシュの肩に置いた自分の掌に伝わる彼女の体温と、手の甲に置かれた彼女の掌の柔らかさを感じながら、ギャレマスの胸は激しく高鳴る。
それと同時に、彼は激しい葛藤を覚えていた。
(なぜだ……なぜ、余はこんなに迷っておるのだ……?)
簡単な話では無いか。
――スウィッシュと自分では、あまりに年齢が離れすぎている。
若く美しいスウィッシュには、若くて前途有望な若い男と知り合う機会が、これからいくらでも訪れよう。
だが……もし、既に人生の半ばを過ぎている自分がスウィッシュの想いを受け入れてしまえば、これからの彼女が持っている無限の可能性をむざむざと摘んでしまう事になるのだ。
彼女の未来を台無しにしないためにも、ここはキッパリと彼女の想いを拒絶するべき――。
――でも、
どうしても、ギャレマスはそうしたくなかった。
むしろ、スウィッシュの愛を受け入れて、彼女の身体を思いきり抱き締めたい――そんな欲求が、彼の心の中でムクムクと頭をもたげ始めているのをひしひしと感じている。
「……っ」
彼は苦悶に満ちた表情を浮かべると、ぎゅっと目を瞑った。
そして、自分自身に問いかける。
スウィッシュの想いを受け入れるか、それとも拒絶するか――。
魔王という立場から離れた、イラ・ギャレマス個人としての自分がどちらを望んでいるのか……それを見極める為、自らの心と今一度向き合う。
「……」
――数分の時を置いて、彼はついに決断し、ゆっくりと目を開いた。
そして、横になった体勢で、自分の身体の上に乗ったままのスウィッシュの顔を見上げる。
「す……スウィッ……どうした?」
……が、彼女の名を呼ぶ彼の声は途中で途切れ、代わりに労わりの言葉が吐いて出た。
「……う」
ギャレマスの問いかけにも、スウィッシュは答えなかった。
なぜか、さっきまで真っ赤だった彼女の顔が、今では真っ青になっている……。
まるで何かを耐えるようにきゅっと固く口を結んだ彼女の顔を見たギャレマスの脳裏に、何とも言えない嫌な予感が過ぎった。
「……え? ま、まさか……?」
「う……うぅ……っぷ!」
「わわッ!」
突然、スウィッシュが目を剥いて胸の間と口元を押さえたのを見たギャレマスは、自分の予感が的中してしまった事を悟り、慌てて声を上げる。
「す、スウィッシュ! ちょ、ちょっと待て! が、我慢するのだ!」
「ぅぷ……き、気持ち悪……」
ギャレマスの絶叫も聞こえない様子で、彼の上に跨ったスウィッシュが、口元を押さえながら苦しげに身を捩った。
そんな、どう見ても決壊寸前な様子の彼女に、ギャレマスは必死で懇願する。
「た、頼む! も、もう少しだけ耐えるのだ! すぐにトイレに連れて行くから、そこまで何とか……!」
「うぅ……む、ムリ……は、吐……」
「は、吐くな! 今、この位置関係で吐かれたら、余の顔面に――!」
スウィッシュの顔を見上げながら、必死で声をかけるギャレマス。
だが、彼の必死の制止も虚しく……、
「ああああああああああああああああ――っ!」
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