雷王、大いに懊悩す~ラスボス魔王、使命を果たして元の世界に戻りたくない異世界転移チート勇者によって全力で延命させられるの巻~

朽縄咲良

文字の大きさ
270 / 423
エピソード10 魔王別姫

魔王と告白と返事

しおりを挟む
 「……っ!」

 スウィッシュが口にした、自分に対する熱い想いに、ギャレマスは呆然とした。
 下から見上げた彼女は、薄暗闇の中でもはっきりと分かるくらいに頬を紅潮させながら、その潤んだ瞳でギャレマスの顔をじっと見つめている。
 その紫水晶のように美しい瞳に、彼の意識は吸い込まれてしまいそうだった。

「……」

 床に寝そべったギャレマスは、無言のまま、彼の身体の上に乗っているスウィッシュの方に両腕を緩々と伸ばす。
 そして、その腕で彼女の背中を固く抱きしめようと――する寸前で、ハッと表情を変えた。
 彼は、きゅっと唇を噛むと、一旦はスウィッシュの背中に回そうとしていた両手を、彼女の両肩に置いた。
 そして、その金色の瞳でスウィッシュの紫瞳を真っ直ぐ見つめながら、静かな声で囁く。

「……スウィッシュ。お主の、余に対する気持ちは良く分かった」
「……」
「正直……余ごときが、お主のような若い娘に愛される程の者だとは、とても思えぬが……。それでも、こんな余の事を好きになってくれた事……とても嬉しく思う」
「陛下……」
「だ……だが――余は、お主とは齢が……」

 ギャレマスは、そこで口を噤んだ。話を続けようとしても、喉の奥が詰まったような感じで、うまく声が出てこない。
 理性は、彼女にキチンと告げねばならないと解りつつ、本能が全力でそれを拒絶しようと抗っているようだった。
 と、

「……陛下」

 スウィッシュは、何とか声を出そうと苦慮しているギャレマスに、そっと声をかける。
 そして、ハッとした顔で自分の顔を見上げる主の顔を見下ろしながら、静かな声で言った。

「……大丈夫です。ご無理をなさらなくても」
「す……スウィッ……」
「ちゃんと分かってますから。叶わぬ恋だって事は」

 スウィッシュは、今にも泣き出しそうな顔をしながら、それでも懸命に微笑みを絶やさぬよう頑張り、震える声で言葉を継ぐ。

「陛下とあたしでは……年齢も……身分も違います……。顔や身体だってパッとしませんし、優しさなんて、ルコーナ様には遠く及びません……」
「スウィッシュ……」
「……今、あたしが気持ちをお伝えしたのも、ただただ陛下にあたしの想いを知ってほしかっただけで……良い返事を頂けるなどとは、これっぽっちも思っていません」
「……」
「ですから……」

 そう言うと、彼女は目尻に涙をいっぱいに溜めながら、勇気を振り絞って言った。

「……ハッキリとおっしゃって下さい。お気持ちを包み隠さず、キッパリと断って下さい」
「……」
「あたしは……大丈夫ですから。陛下からどんな御返事を頂いたとしても、明日からもちゃんと陛下の部下として忠誠を尽くしますから」

 そう囁くと、スウィッシュは自分の肩に置かれたギャレマスの手に、自分の掌をそっと重ねる。
 そして、その温もりを愛おしみながら、言葉を継いだ。

「だから――断ち切って下さい、その声で。陛下に向けた……あたしの身の程知らずな恋心を……」
「スウィッシュ……!」

 スウィッシュの肩に置いた自分の掌に伝わる彼女の体温と、手の甲に置かれた彼女の掌の柔らかさを感じながら、ギャレマスの胸は激しく高鳴る。
 それと同時に、彼は激しい葛藤を覚えていた。

(なぜだ……なぜ、余はこんなに迷っておるのだ……?)

 簡単な話では無いか。
 ――スウィッシュと自分では、あまりに年齢が離れすぎている。
 若く美しいスウィッシュには、若くて前途有望な若い男と知り合う機会が、これからいくらでも訪れよう。
 だが……もし、既に人生の半ばを過ぎている自分がスウィッシュの想いを受け入れてしまえば、これからの彼女が持っている無限の可能性をむざむざと摘んでしまう事になるのだ。
 彼女の未来を台無しにしないためにも、ここはキッパリと彼女の想いを拒絶するべき――。

 ――でも、
 どうしても、ギャレマスはそうしたくなかった。
 むしろ、スウィッシュの愛を受け入れて、彼女の身体を思いきり抱き締めたい――そんな欲求が、彼の心の中でムクムクと頭をもたげ始めているのをひしひしと感じている。

「……っ」

 彼は苦悶に満ちた表情を浮かべると、ぎゅっと目を瞑った。
 そして、自分自身に問いかける。
 スウィッシュの想いを受け入れるか、それとも拒絶するか――。
 魔王という立場から離れた、イラ・ギャレマス個人としての自分がどちらを望んでいるのか……それを見極める為、自らの心と今一度向き合う。

「……」

 ――数分の時を置いて、彼はついに決断し、ゆっくりと目を開いた。
 そして、横になった体勢で、自分の身体の上に乗ったままのスウィッシュの顔を見上げる。

「す……スウィッ……どうした?」

 ……が、彼女の名を呼ぶ彼の声は途中で途切れ、代わりに労わりの言葉がいて出た。

「……う」

 ギャレマスの問いかけにも、スウィッシュは答えなかった。
 なぜか、さっきまで真っ赤だった彼女の顔が、今では真っ青になっている……。
 まるで何かを耐えるようにきゅっと固く口を結んだ彼女の顔を見たギャレマスの脳裏に、何とも言えない嫌な予感が過ぎった。

「……え? ま、まさか……?」
「う……うぅ……っぷ!」
「わわッ!」

 突然、スウィッシュが目を剥いて胸の間と口元を押さえたのを見たギャレマスは、自分の予感が的中してしまった事を悟り、慌てて声を上げる。

「す、スウィッシュ! ちょ、ちょっと待て! が、我慢するのだ!」
「ぅぷ……き、気持ぎぼち悪……」

 ギャレマスの絶叫も聞こえない様子で、彼の上に跨ったスウィッシュが、口元を押さえながら苦しげに身を捩った。
 そんな、どう見ても決壊寸前な様子の彼女に、ギャレマスは必死で懇願する。

「た、頼む! も、もう少しだけ耐えるのだ! すぐにトイレに連れて行くから、そこまで何とか……!」
「うぅ……む、ムリ……は、吐……」
「は、吐くな! 今、この位置関係で吐かれたら、余の顔面に――!」

 スウィッシュの顔を見上げながら、必死で声をかけるギャレマス。
 だが、彼の必死の制止も虚しく……、

「ああああああああああああああああ――っ!」

 ――生々しい湿った音と魔王の断末魔の絶叫が、静寂に包まれていた深夜の半人族ハーフヒューマーの村に響き渡ったのだった……。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

レベル1のフリはやめた。貸した力を全回収

ソラ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ち、ソラ。 彼はレベル1の無能として蔑まれ、魔王討伐を目前に「お前のようなゴミはいらない」と追放を言い渡される。 だが、傲慢な勇者たちは知らなかった。 自分たちが人間最高峰の力を維持できていたのは、すべてソラの規格外のステータスを『借りていた』からだということを。 「……わかった。貸していた力、すべて返してもらうよ」 契約解除。返還されたレベルは9999。 一瞬にして力を失い、ただの凡人へと転落しパニックに陥る勇者たち。 対するソラは、星を砕くほどの万能感を取り戻しながらも、淡々と宿を去る。 静かな隠居を望むソラだったが、路地裏で「才能なし」と虐げられていた少女ミィナを助けたことで、運命が変わり始める。 「借金の利息として、君を最強にしてあげよう」 これは、世界そのものにステータスを貸し付けていた最強の『貸与者』が、不条理な世界を再定義していく物語。 (本作品はAIを活用して構成・執筆しています)

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...