雷王、大いに懊悩す~ラスボス魔王、使命を果たして元の世界に戻りたくない異世界転移チート勇者によって全力で延命させられるの巻~

朽縄咲良

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エピソード16 魔王と円卓の勇士たち

眠り姫と接吻と根拠

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 「は……?」
「キ……」
「キッ……?」

 ヴァートスの言葉を聞いた一同は、呆気に取られた様子で、目を点にした。

「き、きききキッスウウウウウウウゥゥゥッ?」

 その中でも一際顕著な反応を見せたのは、言うまでもなくギャレマス実の父親である。
 彼は、顎が外れそうな勢いで口をあんぐりを開け、それから首を千切れそうになる程の勢いで激しく左右に振りながら、素っ頓狂な声で叫んだ。

「な……ななななな何を言っておるのだ、ヴァートス殿っ? さ、サリアにキッスって……そ、そんな事をしたくらいで、昏睡しているサリアが目を覚ます訳が無かろうが!」
「何でそう言い切れるんじゃ?」

 頭ごなしにギャレマスから否定されたヴァートスは、ムッとしながら言い返す。

「どうやってもお嬢ちゃんが目を覚まさないのなら、少しでも可能性がありそうな事は一通り試してみるべきじゃろうが」
「そ、それは確かに一理あるが……でも、き、キスをしたくらいでサリアが目を覚ますとはとても……」
「もちろん、根拠が全く無い訳では無い」

 顎髭をしごきながら自信ありげに言ったヴァートスは、おもむろに人差し指を立てた。

「まず一点目。さっきも言ったように、『深い眠りについた女子おなごが、ハンサムな若い男にキスされて目覚める』という展開は、『おとぎ話テンプレ』の一つじゃ。それこそ、種族や世代どころか、世界をも越えて、そういう筋の話が伝わっておる。そうじゃろ?」
「ま、まあ……確かに、魔族の伝承にも、そういう系の話はあるけど……」
「エルフ族に伝わる『みにくい妖精の姫』が、正にそういう話だったな、言われてみれば……」
狼獣人族アタシたちにもあるよ!」
「……『白雪姫』――」

 ヴァートスの言葉に、一同はハッとした表情を浮かべて頷く。
 その様子を見て満足げに口元を綻ばせた老エルフは、更に言葉を続けた。

「――そこまで普遍的に広まっておるという事は、タダの空想ではなく、『ある程度の事実的根拠を有しておる』という事を示唆しておるのではないかの?」
「そ、そう言われれば……そうかも……」

 妙な説得力を帯びたヴァートスの説に、スウィッシュたちは思わず頷く。
 そんな彼女たちに向けて大仰に頷き返しながら、老エルフは指をもう一本立てた。

「二点目として、一種のショック療法としての効果が期待できる可能性がある。いきなり唇や口の中に妙な違和感を感じてビックリしたり、息が出来ず苦しくなったりして目を覚ますんじゃないかという――」
「い、いやいやいや! それは別にキスじゃなくてもいいんじゃないのかっ?」

 ヴァートスの説明に、ギャレマスは目を剥きながら反駁する。

「息苦しくさせるだけなら、キスではなく、口を手で塞げば良かろうが! ……と、というかッ! く……唇だけならともかく、『口の中に違和感』ってどどどどういう事だっ?」
「そりゃあ……もちろん、ねっとり濃厚なでぃーぷきっ――」
「許さああああああんッ!」

 ギャレマスは、飛び出さんばかりに剥いた眼球を血走らせながら大音声だいおんじょうで怒鳴った。

「許さんッ、断じて許さんぞッ! 無垢で清らかな我が娘に、でぃ……でぃー……でぃーぷき……き、き……むにゃむにゃをするなどッ! 絶っっっ対に許さぬっ!」
「あぁ、分かった分かった。でぃーぷきっすは絶対にダメだけど、普通のキッスならオッケーって事じゃな♪」
「いやなんでそんな解釈にな……ガガガガガがぁっ!」

 わざとらしくトボけたヴァートスの言葉に、ギャレマスが更に激しく激昂しながら上げた怒声は、途中で断末魔のような悲鳴に変わる。

「ぐ、ぐぎぎぎ……い、今ので、更に腰ががががががぁッ!」
「へ、陛下……どうかご安静に……!」
「まったく……」

 あまりの痛みに自立する事も出来ない魔王の身体を、スウィッシュとアルトゥーが慌てて両脇から支えた。
 そんな彼を尻目に、ヴァートスが話を続ける。

「……って事で、口やかましい過保護頑固オヤジが動けないうちに、ちゃっちゃと済ませてしまう事にするかの」

 そう言いながら、おもむろに眠っているサリアの傍らに膝をついたヴァートスは、おもむろにその口元をタコのように伸ばし、彼女の顔に近付けた。

「では……いただきま――」
「ちょちょちょっ! 待てええええい!」

 老エルフのやろうとしている事に気付いたファミィが、すんでのところで彼の顎髭を引っ掴んで、思い切り引っ張った。

「あ痛だだっだだだだだッ! ちょ、ちょ、ファミィさんや! いきなり何をするんじゃ!」
「『何をするんだ』は、こっちのセリフだ! この色ボケ老害スケベ妖怪ジジイっ!」

 ファミィは、抗議の声を上げるヴァートスの事を憤怒の形相で怒鳴りつける。

「何しれっとキスしようとしているんだッ! 確かに、貴方の言う通り、『キスされたら起きる』が正解なのかもしれないけど、それは絶対に貴方じゃないぞ!」
「何を言うんじゃ! ワシだって、れっきとした男じゃぞい!」
「さっき、『ハンサムな若い男』って、自分で言ってたでしょうがっ! まるで当てはまってないでしょう、ヴァートス様はっ!」

 不満を露わにするヴァートスの禿げ上がった頭にビシッと指を突きつけながら、ファミィが声を荒げた。
 そんな彼女の指摘に、ヴァートスは不満げに口を尖らせる。

「フンッ、何じゃ、そんな細かい事を! まあ……確かに、実年齢は若いとは言えぬが、心はピチピチの思春期男子のそれじゃぞい! 顔だって、“枯れ系男子”にしてはそれなりに整って……」
「“枯れ系”っていうより、むしろ“ミイラ系”だろうが、貴方はッ!」

 ヴァートスの厚顔無恥な反論に呆れながら、ファミィは断固とした口調で言い放った。

「と・に・か・くッ! ヴァートス様は却下!」
「何じゃ、ケチ」
「ケチじゃない!」
「……ちぇっ」

 納得し難い様子で舌打ちするヴァートスだったが、彼女が頑として承知しないであろう事を悟り、諦めた様子でしぶしぶ頷く。
 ――そして、おもむろに頭を巡らし、それまで呆れ顔でふたりのやり取りを傍観していた男の肩を叩いた。

「――って事で。勇者の兄ちゃん、お前さんの熱い接吻ヴェーゼでお嬢ちゃんを起こしてやりんさい!」
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