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エピソード2 魔王はつらいよ
勇者と古龍とぺっちゃんこ
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ズウウウウウウウウウウッンッ!
突然空から降ってきた巨大な古龍の身体がヴァンゲリン砦の主郭に落ちると同時に、地面はまるで嵐の海に浮く小舟のように激しく揺れた。
主郭に居合わせた者たちは、そのあまりの衝撃に、思わず尻餅をつく。
そして、地面に激突した古龍の身体が夥しい土砂を巻き上げ、たちまちあたりは濃密な砂埃に包まれた。
砦の兵たちは、固く目を瞑り、腕で顔を覆って、朦々と立ち込める砂埃を凌ごうとする。
ギャレマスもまた、咄嗟に背中の翼を身体の前に広げて、砂礫の直撃から身体を守った。だが、
「ゴホッ! ゴホッ!」
細かい砂埃は黒翼の隙間から容赦なく入り込み、ギャレマスは激しく咳き込んだ。
それでも――、
「ゴホッ……さ、サリア! サリアァーッ、無事か!」
彼は、口の中に砂礫が入るのも構わず、愛娘の名を絶叫する。
サリアは、古龍が降ってきた時、シュータの一番近くに立っていた。砂埃の直撃くらいならともかく、古龍の身体の下敷きになってしまっていたら、華奢な彼女の身体はひとたまりも無いだろう……!
「さ……サリア! どこだ! 返事をせよ、サリア――ッ!」
最悪の想像をしてしまったギャレマスは、更に焦燥を募らせ、声を張り上げる。
「さ……サリアぁ! サリ――」
「――お、お父様……!」
「ッ! サリアッ!」
自分の必死な呼びかけに応えた微かな声を耳聡く聞きつけたギャレマスは、ハッとして周囲を見回した。
ようやく晴れつつあった砂埃の中、蹲る影を見付けたギャレマスは、慌ててその元へと駆け寄る。
「――サリア!」
「お父様!」
果たしてその影はサリアだった。
彼女は、古龍が墜落した際に直撃は免れたものの、その身体が巻き起こした衝撃波と砂塵によって、かなり離れた草地まで吹き飛ばされていた。
だが、生い茂る草や枝がクッションとなって、彼女の身体を優しく受け止めた為、彼女は埃まみれにはなったものの、かすり傷ひとつ負っていないようだ。
「よ、良かった……」
ギャレマスは、埃まみれながらもピンピンしているサリアの姿を見て、ホッと安堵の息を漏らす。
――と、
「ッ! そ、そうだ……! あやつ……シュータは――?」
この場に居る中で一番厄介な存在を思い出し、ギャレマスは顔を引き攣らせた。
そして、サリアの身を己の背に隠し、周囲を警戒する。
「ど……どこにおる? どこから来る――」
「……お父様」
鋭い目で辺りを見回すギャレマスのローブの袖を遠慮がちに引っ張ったのは、背後のサリアだった。
彼女は、おずおずと腕を上げると、一点を指さす。
「シュータは……あそこです」
「あそ……こ?」
サリアが指さした先に視線を向けたギャレマスは、思わず絶句した。
彼女が指したのは、目を回したまま、大の字の格好で地面にめり込む巨大な古龍の腹だったからだ。
「あそこって……あの下、か?」
「……はい」
口をあんぐりと開けて尋ねるギャレマスに、サリアは小さく頷いた。
「私……一番近くで見ていましたから。さすがの勇者シュータも、あのタイミングでは、落ちてくる古龍のお腹からは逃げられなかったと思います。だから……シュータは、あの古龍のお腹の下でぺっちゃんこに……」
「ま……まことか?」
サリアの言葉に驚きつつ、慌ててもう一度辺りを見回すギャレマス。
――だが、見た限り、不遜で尊大で嫌味たらしい薄笑みを浮かべた黒髪の少年の姿はどこにも無かった。
その時、
「う……ウソ? あのシュータ様が……」
ふたりから離れた所から、上ずった声が聞こえてきた。
見ると、頭から血を流して倒れ込んでいたファミィが、ヨロヨロと起き上がりながら、呆然とした表情をしていた。
彼女は、激しく狼狽しながら、フルフルとかぶりを振る。
「そんな……シュータ様……古龍の下敷きになって死んでしまったというの……?」
「……」
悲痛な表情で項垂れるファミィの哀れな様子を目にして、ギャレマスは思わず表情を曇らせた。
(……どうやら、あんなに性格がねじ曲がった鬼畜男にも、聖女とは違って、本気で慕ってくれる女がおったのだな――)
「なんて事なの……? 私はまだ、シュータ様に――」
(まさか……あのエルフは、秘かにシュータを想っていたのに、その事を告げられず――というやつか?)
「……国王陛下宛ての、エルフ族自治領の承認口利き状を書いてもらっていないのに……! 今まで何度もお願いしてもはぐらかされ続けて、そのあげく、約束を果たす前に死なれたら、今までの私の苦労が……!」
そうブツブツと呟きながら、地面に拳を叩きつけて本気で悔しがるファミィ。
……どうやら、ファミィもエラルティスと同じように、多分に打算を含んだ動機で勇者シュータに従っていたらしい。
「……」
ギャレマスは、そんな彼女の姿から、気まずそうに目を逸らす。
そして、
「そ……それにしても……」
話題を変えようとするかのように、目の前でうつ伏せになってノビている古龍の方へと、再び視線を戻した。
そして、心からの安堵と感慨に満ちた声で呟く。
「勇者シュータ・ナカムラ……品性下劣にして性格最悪、そして傍若無人が擬人化したような男だったが、この魔王イラ・ギャレマスを脅かすほどの力を持った強敵でもあった。……それが、この様に呆気ない最期を遂げるとは――些か哀れだな」
そう言うと、ギャレマスは静かに両手を組んだ。
敵とはいえ、ニホンとかいう彼本来の世界から遠く離れたこの地で死んだシュータに、せめてこの世界なりの弔意を表そうとしたのだ。
「シュータよ。せめて、魂だけでも本来の世界へと戻るが良い……」
――と、その時、
「…………いてんじゃ……ねえよ」
「――ッ!」
微かな、くぐもった声が、ギャレマスの耳朶を打ち、その瞬間、彼の表情は凍りついた。
「な……?」
彼は、驚きで目を飛び出さんばかりに見開きながら、思わず後ずさりする。
「まさか、シュータ……生きて――?」
「……てに……ろしてんじゃ……ねえよ。クソ魔王……」
聞き覚えのある――そして、もう二度と聞きたくなかった声が、古龍の腹の下から聞こえてきた。
それと同時に、それまでピクリとも動かなかった古龍の身体がゆっくりと動き始める。
――だが、古龍が目を覚まして動き始めた訳では無く、どちらかというと、腹の下から強引に押し上げられている様な動き方だった。
「ま……まさか……」
その事に気付いた魔王が、口を戦慄かせながら上ずった声を上げる。今目の前で起こりつつある事象が、どういう原因によるものなのかが容易に想像できたからだ。
そして――、哀しい事に、彼の想像は的中していた。
「……誰が、このデカいトカゲに潰されて、哀れに死んだって? あぁオイィィィィッ?」
そんな怒声と共に、古龍の巨大な体が、手足と尻尾をだらりと垂らした状態でふわりと宙に浮かんだ。
そして、その下から――、
「――この、異世界転移チートハーレム系ファンタジーの主人公様であるこの俺が、こんな事でくたばる訳が無ぇだろうがあああああああっ!」
頭上に両手を掲げて反重力の魔法陣を展開したシュータが、悪鬼の如き形相で現れたのだった――!
突然空から降ってきた巨大な古龍の身体がヴァンゲリン砦の主郭に落ちると同時に、地面はまるで嵐の海に浮く小舟のように激しく揺れた。
主郭に居合わせた者たちは、そのあまりの衝撃に、思わず尻餅をつく。
そして、地面に激突した古龍の身体が夥しい土砂を巻き上げ、たちまちあたりは濃密な砂埃に包まれた。
砦の兵たちは、固く目を瞑り、腕で顔を覆って、朦々と立ち込める砂埃を凌ごうとする。
ギャレマスもまた、咄嗟に背中の翼を身体の前に広げて、砂礫の直撃から身体を守った。だが、
「ゴホッ! ゴホッ!」
細かい砂埃は黒翼の隙間から容赦なく入り込み、ギャレマスは激しく咳き込んだ。
それでも――、
「ゴホッ……さ、サリア! サリアァーッ、無事か!」
彼は、口の中に砂礫が入るのも構わず、愛娘の名を絶叫する。
サリアは、古龍が降ってきた時、シュータの一番近くに立っていた。砂埃の直撃くらいならともかく、古龍の身体の下敷きになってしまっていたら、華奢な彼女の身体はひとたまりも無いだろう……!
「さ……サリア! どこだ! 返事をせよ、サリア――ッ!」
最悪の想像をしてしまったギャレマスは、更に焦燥を募らせ、声を張り上げる。
「さ……サリアぁ! サリ――」
「――お、お父様……!」
「ッ! サリアッ!」
自分の必死な呼びかけに応えた微かな声を耳聡く聞きつけたギャレマスは、ハッとして周囲を見回した。
ようやく晴れつつあった砂埃の中、蹲る影を見付けたギャレマスは、慌ててその元へと駆け寄る。
「――サリア!」
「お父様!」
果たしてその影はサリアだった。
彼女は、古龍が墜落した際に直撃は免れたものの、その身体が巻き起こした衝撃波と砂塵によって、かなり離れた草地まで吹き飛ばされていた。
だが、生い茂る草や枝がクッションとなって、彼女の身体を優しく受け止めた為、彼女は埃まみれにはなったものの、かすり傷ひとつ負っていないようだ。
「よ、良かった……」
ギャレマスは、埃まみれながらもピンピンしているサリアの姿を見て、ホッと安堵の息を漏らす。
――と、
「ッ! そ、そうだ……! あやつ……シュータは――?」
この場に居る中で一番厄介な存在を思い出し、ギャレマスは顔を引き攣らせた。
そして、サリアの身を己の背に隠し、周囲を警戒する。
「ど……どこにおる? どこから来る――」
「……お父様」
鋭い目で辺りを見回すギャレマスのローブの袖を遠慮がちに引っ張ったのは、背後のサリアだった。
彼女は、おずおずと腕を上げると、一点を指さす。
「シュータは……あそこです」
「あそ……こ?」
サリアが指さした先に視線を向けたギャレマスは、思わず絶句した。
彼女が指したのは、目を回したまま、大の字の格好で地面にめり込む巨大な古龍の腹だったからだ。
「あそこって……あの下、か?」
「……はい」
口をあんぐりと開けて尋ねるギャレマスに、サリアは小さく頷いた。
「私……一番近くで見ていましたから。さすがの勇者シュータも、あのタイミングでは、落ちてくる古龍のお腹からは逃げられなかったと思います。だから……シュータは、あの古龍のお腹の下でぺっちゃんこに……」
「ま……まことか?」
サリアの言葉に驚きつつ、慌ててもう一度辺りを見回すギャレマス。
――だが、見た限り、不遜で尊大で嫌味たらしい薄笑みを浮かべた黒髪の少年の姿はどこにも無かった。
その時、
「う……ウソ? あのシュータ様が……」
ふたりから離れた所から、上ずった声が聞こえてきた。
見ると、頭から血を流して倒れ込んでいたファミィが、ヨロヨロと起き上がりながら、呆然とした表情をしていた。
彼女は、激しく狼狽しながら、フルフルとかぶりを振る。
「そんな……シュータ様……古龍の下敷きになって死んでしまったというの……?」
「……」
悲痛な表情で項垂れるファミィの哀れな様子を目にして、ギャレマスは思わず表情を曇らせた。
(……どうやら、あんなに性格がねじ曲がった鬼畜男にも、聖女とは違って、本気で慕ってくれる女がおったのだな――)
「なんて事なの……? 私はまだ、シュータ様に――」
(まさか……あのエルフは、秘かにシュータを想っていたのに、その事を告げられず――というやつか?)
「……国王陛下宛ての、エルフ族自治領の承認口利き状を書いてもらっていないのに……! 今まで何度もお願いしてもはぐらかされ続けて、そのあげく、約束を果たす前に死なれたら、今までの私の苦労が……!」
そうブツブツと呟きながら、地面に拳を叩きつけて本気で悔しがるファミィ。
……どうやら、ファミィもエラルティスと同じように、多分に打算を含んだ動機で勇者シュータに従っていたらしい。
「……」
ギャレマスは、そんな彼女の姿から、気まずそうに目を逸らす。
そして、
「そ……それにしても……」
話題を変えようとするかのように、目の前でうつ伏せになってノビている古龍の方へと、再び視線を戻した。
そして、心からの安堵と感慨に満ちた声で呟く。
「勇者シュータ・ナカムラ……品性下劣にして性格最悪、そして傍若無人が擬人化したような男だったが、この魔王イラ・ギャレマスを脅かすほどの力を持った強敵でもあった。……それが、この様に呆気ない最期を遂げるとは――些か哀れだな」
そう言うと、ギャレマスは静かに両手を組んだ。
敵とはいえ、ニホンとかいう彼本来の世界から遠く離れたこの地で死んだシュータに、せめてこの世界なりの弔意を表そうとしたのだ。
「シュータよ。せめて、魂だけでも本来の世界へと戻るが良い……」
――と、その時、
「…………いてんじゃ……ねえよ」
「――ッ!」
微かな、くぐもった声が、ギャレマスの耳朶を打ち、その瞬間、彼の表情は凍りついた。
「な……?」
彼は、驚きで目を飛び出さんばかりに見開きながら、思わず後ずさりする。
「まさか、シュータ……生きて――?」
「……てに……ろしてんじゃ……ねえよ。クソ魔王……」
聞き覚えのある――そして、もう二度と聞きたくなかった声が、古龍の腹の下から聞こえてきた。
それと同時に、それまでピクリとも動かなかった古龍の身体がゆっくりと動き始める。
――だが、古龍が目を覚まして動き始めた訳では無く、どちらかというと、腹の下から強引に押し上げられている様な動き方だった。
「ま……まさか……」
その事に気付いた魔王が、口を戦慄かせながら上ずった声を上げる。今目の前で起こりつつある事象が、どういう原因によるものなのかが容易に想像できたからだ。
そして――、哀しい事に、彼の想像は的中していた。
「……誰が、このデカいトカゲに潰されて、哀れに死んだって? あぁオイィィィィッ?」
そんな怒声と共に、古龍の巨大な体が、手足と尻尾をだらりと垂らした状態でふわりと宙に浮かんだ。
そして、その下から――、
「――この、異世界転移チートハーレム系ファンタジーの主人公様であるこの俺が、こんな事でくたばる訳が無ぇだろうがあああああああっ!」
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