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第十三章 無数の糸は、如何にして絡まり合うのか
第十三章其の肆 倫理
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「か……会談?」
ハヤテは、斗真の口から出た意外な言葉に、思わず目を丸くする。
斗真は、そんな彼の様子に一瞬だけ口元を緩め、静かに頷いた。
「そう。オリジンは、焔良疾風――アンタと直接会いたいと、強く希望している」
「俺と……直接会いたい……だと?」
斗真の答えに、思わず唖然とするハヤテ。そう、わざわざ斗真に言付けまでして、自分に伝えてきたオリジンの真意が解らず、当惑を隠せない。
と、
「……ていうか、それって――」
碧が、訝しげな表情を浮かべながら言った。
「少なくとも、この人を敵として見ている感じじゃないわよね? 直接話し合って、意見を聞きたいっていうなら――」
「ま、そうだろうね。今のところは」
「……何よ、『今のところは』って? 何だか引っ掛かる言い方するわね」
「引っ掛かるも何も、そのままの意味だけど?」
斗真は、憮然とする碧に向けてニヒルな笑みを向けると、わざとらしく肩を竦めてみせる。
「キミの言う通り、今のところオリジンは、お兄さん――焔良さんの事を敵対視していないよ。――でも」
斗真はそこで意味深に言葉を止めると、探るような目でハヤテを一瞥し、それから再び口を開いた。
「それは、まだ焔良さんと直接会って、その為人を見極めていないからに過ぎない。アンタとオリジンの会談が実現し、その結果、オリジンがアンタを“悪”――」
そこで斗真は言い淀む。
そして、「……いや」と口中で呟くと、改めて言い直した。
「――アンタを“自分の正義とは相容れない正義”を持つ者だと見なした瞬間、オリジンは一切の躊躇いもなくアンタを敵と見なし、その心の中に宿す“正義”ごと、アンタの命を奪う事を選ぶだろう」
「……!」
斗真が吐いた言葉の持つ重さを敏感に感じ取ったハヤテは、顔を僅かに強張らせる。
「な――何よそれ!」
一方、彼の傍らで斗真の話を聞いていた碧は、その眉を吊り上げ、顔を紅潮させながら叫んだ。
「自分の正義と合わないから殺すだなんて……! そんな事、もったいぶって言ってても、結局はタダのゴーマンなワガママじゃない!」
「ぷっ! 確かにそうかもな」
斗真は、碧の言葉に思わず噴き出しながら、大きく頷く。
「――でも、それが赦されるんだよ。他のオチビトならいざ知らず、あの方――アームドファイターオリジンなら、な」
「な……何でよ!」
「簡単な事さ。――強いからだよ」
そう答えた斗真の声は、僅かに震えていた。
「……どんなに傲慢で理不尽で強引であっても、あらゆる不平不満を圧し潰せる強い力があれば赦される。――それが、この世界に堕とされ、必死に生きるオチビトの間で共有された倫理ってヤツなんだよ」
「……ッ」
静かに紡がれながらも、有無を言わせぬ圧を伴った斗真の言葉の前に、碧は返す言葉を喪い、ただ唇を噛む事しか出来ない。
――その時、それまで、ふたりのやり取りを聞いているだけだったハヤテが、おもむろに口を開いた。
「そもそも……その、アームドファイターオリジンとは、一体どういう人物なんだ?」
「へぇ……興味あるのかい?」
ハヤテの問いかけに、斗真はからかう様な口調で問い返す。
「……ああ」
それに対して、ハヤテは素直に首肯した。それを見た斗真は、愉快そうに薄笑みを浮かべながら答える。
「……なかなか変わった人だよ、あの方は」
「変わった人……?」
「そ」
斗真は、聞き返したハヤテに頷きつつも、今度は首を横に振った。
「まあ――とはいっても、あの人に関しては、分からない事が殆どなんだけどね。本名はもちろん、年齢や素顔……それどころか、性別すらね」
「え……? どういう事?」
斗真の答えに、碧は当惑に満ちた声を上げる。
それに対し、斗真は愉快そうに答えた。
「それはね……オリジンが人前に出る時は、常に装甲を纏っているからさ。彼の生身の姿を見た者は、今まで誰ひとりとして居ない」
「な……」
「だから、オリジンが若いのか年老いているのかも、どんな顔をしているのかも、オチビトの中で知る者は誰もいない。それどころか、男か女かなのかすらも、ハッキリと言えないんだ。――その立ち居振る舞いから、おそらく男なんだろうという仮定で、己たちはオリジンの事を“彼”と呼んでいるがね」
「――何で、常に装甲を纏うなんて事をしているんだ? オリジンは……」
「さあね」
ハヤテが口にした、当然すぎる疑問に対し、斗真は苦笑いを浮かべ、首を傾げてみせる。
「正直、あの方が何を考えているのかは、近くに居る己たちにも計り切れなくてね。――何もかもがミステリアスな御仁なんだよ、彼は」
「分からないのは、アナタ達の方もよ」
斗真の言葉に異論を挟んだのは、碧だった。
「何で、そんな怪しい奴に、素直に従ってるのよ?」
「――さっきも言っただろ? “強いから”だよ」
と、碧の問いかけに、あっさりと答える斗真。
「不明な点が多いオリジンだけど、彼についてハッキリと分かっている事が二つある。そのひとつが『強い』だ。今現在、この世界に存在する全ての装甲戦士の中ではずば抜けて、ね」
「……」
「そして、己たちオチビトの間では『強い』という事実こそが、全てを肯定する。それが、己たちがオリジンに従っている、唯一にして絶対の理由だよ」
「……」
「……」
斗真の言葉だけで、まだ見ぬアームドファイターオリジンという男の存在の巨大さをまざまざと感じたハヤテと碧は、暫しの間言葉を喪うのだった。
ハヤテは、斗真の口から出た意外な言葉に、思わず目を丸くする。
斗真は、そんな彼の様子に一瞬だけ口元を緩め、静かに頷いた。
「そう。オリジンは、焔良疾風――アンタと直接会いたいと、強く希望している」
「俺と……直接会いたい……だと?」
斗真の答えに、思わず唖然とするハヤテ。そう、わざわざ斗真に言付けまでして、自分に伝えてきたオリジンの真意が解らず、当惑を隠せない。
と、
「……ていうか、それって――」
碧が、訝しげな表情を浮かべながら言った。
「少なくとも、この人を敵として見ている感じじゃないわよね? 直接話し合って、意見を聞きたいっていうなら――」
「ま、そうだろうね。今のところは」
「……何よ、『今のところは』って? 何だか引っ掛かる言い方するわね」
「引っ掛かるも何も、そのままの意味だけど?」
斗真は、憮然とする碧に向けてニヒルな笑みを向けると、わざとらしく肩を竦めてみせる。
「キミの言う通り、今のところオリジンは、お兄さん――焔良さんの事を敵対視していないよ。――でも」
斗真はそこで意味深に言葉を止めると、探るような目でハヤテを一瞥し、それから再び口を開いた。
「それは、まだ焔良さんと直接会って、その為人を見極めていないからに過ぎない。アンタとオリジンの会談が実現し、その結果、オリジンがアンタを“悪”――」
そこで斗真は言い淀む。
そして、「……いや」と口中で呟くと、改めて言い直した。
「――アンタを“自分の正義とは相容れない正義”を持つ者だと見なした瞬間、オリジンは一切の躊躇いもなくアンタを敵と見なし、その心の中に宿す“正義”ごと、アンタの命を奪う事を選ぶだろう」
「……!」
斗真が吐いた言葉の持つ重さを敏感に感じ取ったハヤテは、顔を僅かに強張らせる。
「な――何よそれ!」
一方、彼の傍らで斗真の話を聞いていた碧は、その眉を吊り上げ、顔を紅潮させながら叫んだ。
「自分の正義と合わないから殺すだなんて……! そんな事、もったいぶって言ってても、結局はタダのゴーマンなワガママじゃない!」
「ぷっ! 確かにそうかもな」
斗真は、碧の言葉に思わず噴き出しながら、大きく頷く。
「――でも、それが赦されるんだよ。他のオチビトならいざ知らず、あの方――アームドファイターオリジンなら、な」
「な……何でよ!」
「簡単な事さ。――強いからだよ」
そう答えた斗真の声は、僅かに震えていた。
「……どんなに傲慢で理不尽で強引であっても、あらゆる不平不満を圧し潰せる強い力があれば赦される。――それが、この世界に堕とされ、必死に生きるオチビトの間で共有された倫理ってヤツなんだよ」
「……ッ」
静かに紡がれながらも、有無を言わせぬ圧を伴った斗真の言葉の前に、碧は返す言葉を喪い、ただ唇を噛む事しか出来ない。
――その時、それまで、ふたりのやり取りを聞いているだけだったハヤテが、おもむろに口を開いた。
「そもそも……その、アームドファイターオリジンとは、一体どういう人物なんだ?」
「へぇ……興味あるのかい?」
ハヤテの問いかけに、斗真はからかう様な口調で問い返す。
「……ああ」
それに対して、ハヤテは素直に首肯した。それを見た斗真は、愉快そうに薄笑みを浮かべながら答える。
「……なかなか変わった人だよ、あの方は」
「変わった人……?」
「そ」
斗真は、聞き返したハヤテに頷きつつも、今度は首を横に振った。
「まあ――とはいっても、あの人に関しては、分からない事が殆どなんだけどね。本名はもちろん、年齢や素顔……それどころか、性別すらね」
「え……? どういう事?」
斗真の答えに、碧は当惑に満ちた声を上げる。
それに対し、斗真は愉快そうに答えた。
「それはね……オリジンが人前に出る時は、常に装甲を纏っているからさ。彼の生身の姿を見た者は、今まで誰ひとりとして居ない」
「な……」
「だから、オリジンが若いのか年老いているのかも、どんな顔をしているのかも、オチビトの中で知る者は誰もいない。それどころか、男か女かなのかすらも、ハッキリと言えないんだ。――その立ち居振る舞いから、おそらく男なんだろうという仮定で、己たちはオリジンの事を“彼”と呼んでいるがね」
「――何で、常に装甲を纏うなんて事をしているんだ? オリジンは……」
「さあね」
ハヤテが口にした、当然すぎる疑問に対し、斗真は苦笑いを浮かべ、首を傾げてみせる。
「正直、あの方が何を考えているのかは、近くに居る己たちにも計り切れなくてね。――何もかもがミステリアスな御仁なんだよ、彼は」
「分からないのは、アナタ達の方もよ」
斗真の言葉に異論を挟んだのは、碧だった。
「何で、そんな怪しい奴に、素直に従ってるのよ?」
「――さっきも言っただろ? “強いから”だよ」
と、碧の問いかけに、あっさりと答える斗真。
「不明な点が多いオリジンだけど、彼についてハッキリと分かっている事が二つある。そのひとつが『強い』だ。今現在、この世界に存在する全ての装甲戦士の中ではずば抜けて、ね」
「……」
「そして、己たちオチビトの間では『強い』という事実こそが、全てを肯定する。それが、己たちがオリジンに従っている、唯一にして絶対の理由だよ」
「……」
「……」
斗真の言葉だけで、まだ見ぬアームドファイターオリジンという男の存在の巨大さをまざまざと感じたハヤテと碧は、暫しの間言葉を喪うのだった。
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