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第三章 メタルギニャ・ソリッド
第四十話 紅茶と経緯
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「お待たせしました」
十分ほど経ってから、お盆を持ったかなみさんが、俺とハジさんが座るリビングに入って来た。
彼女は、ローテーブルの脇に膝をつくと、お盆に載っていた二個のティーカップのうちのひとつを俺の前に置く。
「ごめんなさい。本当はちゃんとポットで淹れたものをお出しするべきなんでしょうけど、あいにくとティーバッグの紅茶しか用意が無くって……」
「あっ! い、いえ、そんな事無いっす! 全然大丈夫!」
申し訳なさそうに謝るかなみさんに慌ててかぶりを振りながら、俺は出されたティーカップを手に持った。
「い、頂きます!」
そうかなみさんに言ってから、俺はティーカップの縁に唇をつけ、中の紅茶を一気に口の中へ流し込む。
――そして、
「あ、熱ぃっ!」
当然のように舌を火傷し、悲鳴を上げた。
「あっ! だ、大丈夫ですかっ?」
「は……はひ……ら、らいりょうるれるっ!」
ビックリした顔で心配そうに声をかけてくれたかなみさんに、火傷のせいで舌足らずになりながら答える俺。
そんな俺に、かなみさんはシュンとしながら言った。
「本当に色々とごめんなさい……。夏なんだから、熱い紅茶なんかじゃなくて、冷たい麦茶をお出しすれば良かったのに……気が利かなくって」
「い、いや! 初鹿野さんが謝る事なんかじゃ全然無いっすよ! 悪いのは俺っす!」
ペコペコと頭を下げてきたかなみさんに、俺はオタオタしながらフォローを入れる。
「ティーカップなんだから熱いに決まってるのに、それに気付かないで一気に飲み干しちゃった俺が悪いんす!」
「でも……」
「いや、マジでもう平気っすから、そんなに気にしないで下さい! ハハハ……」
本当は未だに口の中がヒリヒリしているが、かなみさんを心配させないよう虚勢を張った。
「にゃああ」
そんな俺の傍らで、ハジさんが「そうニャそうニャ! こいつの自業自得ニャ!」と言わんばかりの鳴き声を上げた。
俺は、後ろ脚で耳の後ろを掻きながら涼しい顔をしているハジさんにジト目を向けてから、
「そ……そんな事より……」
と切り出して、話題を変える。
「さっき来た男って……もしかして」
「あ……はい」
俺の問いかけに、かなみさんが明らかに表情を曇らせた。
それを見た俺は、マズいと察し、慌てて手と頭を左右に振る。
「あ、す、スミマセン! 話したくない事なら、無理に話して頂かなくても大丈夫です!」
「……いえ」
かなみさんは、俺の言葉にふるふるとかぶりを振り、更に言葉を続けた。
「私が勝手に三枝さんを巻き込んでしまったんですから、キチンと事情をお話しするべきだと思います。……あ、もちろん、三枝さんが訊きたくないのなら――」
「あ、いえ」
躊躇いがちなかなみさんの言葉に、俺はすぐ首を左右に振ってみせる。
そして、座ったまま背筋を伸ばして、彼女の顔を真っ直ぐに見つめて言葉を継いだ。
「俺なんかで良ければ、喜んでお話を聞かせて頂きます。……なんか、さっきの初鹿野さんの態度を見るに、だいぶ困っていらっしゃるようですし。何か力になれる事があるなら、喜んで協力させて頂きます。……まあ、自分なんかの協力なんかじゃ、微力もいいところかもしれませんが……」
「みゃあう!」
俺の言葉に賛同するかのように、ハジさんも鳴き声を高らかに上げる。
そんな俺たちの返事を聞いたかなみさんは、安堵の表情を浮かべた。
「ありがとうございます、三枝さん。……あと、ハジちゃんも」
そう言って俺たちに深々と頭を下げたかなみさんは、少し逡巡しながら、「実は……」と口を開く。
「さっきの事でお分かりだと思いますが、さっきの男性と私は、二ヶ月前までお付き合いをしていました」
「あ、はい……ですよね……」
さっきのふたりのやり取りから、そういう関係なんだろうと察していた俺だったが、本人から面と向かって肯定されると、やっぱりちょっとショックだ。
いや、今どきの女子大生なんだから、恋愛経験のひとつやふたつはあるだろうし、かなみさんは綺麗だから、周りの男が放っておくはずが無いというのは頭では理解できるんだけど……。
しかも、よりにもよって、元カレがあんな男だなんて……。
俺は、あのイケメンもどきのキノコ頭を思い出してムカムカしながらも、何とか平静を装ってかなみさんに尋ねた。
「……あの野ろ……男性とは、大学かどこかで知り合った感じなんですか?」
「あ、いえ……」
俺の質問に、かなみさんは首を横に振る。
「タクミ……あ、彼は小笠原巧己って言うんですけど……彼とは、小学校の頃からの幼馴染なんです」
「あ、幼馴染っすか……なるほど」
かなみさんの答えを聞いて、俺は納得した。
そっかぁ……幼馴染かぁ。子どもの頃からずっと一緒で、そのまま付き合っちゃったのかぁ。そんなの、ラノベやアニメでしか存在しない都市伝説だと思ってたけど、マジで実在するのね……。
……などなどという、くだらないモノローグでうわの空の俺を前に、かなみさんは更に話を続ける。
「タクミとは、高校二年生の春休みに告白されて、それから付き合う事になったんですけど……受験勉強が忙しかったせいで、なかなか彼と会う時間が取れなくて、だんだんと疎遠になっちゃって。それで……」
そこで一旦言葉を切り、自分の分のティーカップを口元に運んで一口啜ったかなみさんは、小さく溜息を吐いてから言葉を継いだ。
「……浮気されちゃったんですよね、私」
そう言うと、彼女は苦笑いを浮かべた。……その強張った笑顔に、彼女の辛い気持ちが滲んでいる事を感じ取った俺の心もずきりと痛むのだった……。
十分ほど経ってから、お盆を持ったかなみさんが、俺とハジさんが座るリビングに入って来た。
彼女は、ローテーブルの脇に膝をつくと、お盆に載っていた二個のティーカップのうちのひとつを俺の前に置く。
「ごめんなさい。本当はちゃんとポットで淹れたものをお出しするべきなんでしょうけど、あいにくとティーバッグの紅茶しか用意が無くって……」
「あっ! い、いえ、そんな事無いっす! 全然大丈夫!」
申し訳なさそうに謝るかなみさんに慌ててかぶりを振りながら、俺は出されたティーカップを手に持った。
「い、頂きます!」
そうかなみさんに言ってから、俺はティーカップの縁に唇をつけ、中の紅茶を一気に口の中へ流し込む。
――そして、
「あ、熱ぃっ!」
当然のように舌を火傷し、悲鳴を上げた。
「あっ! だ、大丈夫ですかっ?」
「は……はひ……ら、らいりょうるれるっ!」
ビックリした顔で心配そうに声をかけてくれたかなみさんに、火傷のせいで舌足らずになりながら答える俺。
そんな俺に、かなみさんはシュンとしながら言った。
「本当に色々とごめんなさい……。夏なんだから、熱い紅茶なんかじゃなくて、冷たい麦茶をお出しすれば良かったのに……気が利かなくって」
「い、いや! 初鹿野さんが謝る事なんかじゃ全然無いっすよ! 悪いのは俺っす!」
ペコペコと頭を下げてきたかなみさんに、俺はオタオタしながらフォローを入れる。
「ティーカップなんだから熱いに決まってるのに、それに気付かないで一気に飲み干しちゃった俺が悪いんす!」
「でも……」
「いや、マジでもう平気っすから、そんなに気にしないで下さい! ハハハ……」
本当は未だに口の中がヒリヒリしているが、かなみさんを心配させないよう虚勢を張った。
「にゃああ」
そんな俺の傍らで、ハジさんが「そうニャそうニャ! こいつの自業自得ニャ!」と言わんばかりの鳴き声を上げた。
俺は、後ろ脚で耳の後ろを掻きながら涼しい顔をしているハジさんにジト目を向けてから、
「そ……そんな事より……」
と切り出して、話題を変える。
「さっき来た男って……もしかして」
「あ……はい」
俺の問いかけに、かなみさんが明らかに表情を曇らせた。
それを見た俺は、マズいと察し、慌てて手と頭を左右に振る。
「あ、す、スミマセン! 話したくない事なら、無理に話して頂かなくても大丈夫です!」
「……いえ」
かなみさんは、俺の言葉にふるふるとかぶりを振り、更に言葉を続けた。
「私が勝手に三枝さんを巻き込んでしまったんですから、キチンと事情をお話しするべきだと思います。……あ、もちろん、三枝さんが訊きたくないのなら――」
「あ、いえ」
躊躇いがちなかなみさんの言葉に、俺はすぐ首を左右に振ってみせる。
そして、座ったまま背筋を伸ばして、彼女の顔を真っ直ぐに見つめて言葉を継いだ。
「俺なんかで良ければ、喜んでお話を聞かせて頂きます。……なんか、さっきの初鹿野さんの態度を見るに、だいぶ困っていらっしゃるようですし。何か力になれる事があるなら、喜んで協力させて頂きます。……まあ、自分なんかの協力なんかじゃ、微力もいいところかもしれませんが……」
「みゃあう!」
俺の言葉に賛同するかのように、ハジさんも鳴き声を高らかに上げる。
そんな俺たちの返事を聞いたかなみさんは、安堵の表情を浮かべた。
「ありがとうございます、三枝さん。……あと、ハジちゃんも」
そう言って俺たちに深々と頭を下げたかなみさんは、少し逡巡しながら、「実は……」と口を開く。
「さっきの事でお分かりだと思いますが、さっきの男性と私は、二ヶ月前までお付き合いをしていました」
「あ、はい……ですよね……」
さっきのふたりのやり取りから、そういう関係なんだろうと察していた俺だったが、本人から面と向かって肯定されると、やっぱりちょっとショックだ。
いや、今どきの女子大生なんだから、恋愛経験のひとつやふたつはあるだろうし、かなみさんは綺麗だから、周りの男が放っておくはずが無いというのは頭では理解できるんだけど……。
しかも、よりにもよって、元カレがあんな男だなんて……。
俺は、あのイケメンもどきのキノコ頭を思い出してムカムカしながらも、何とか平静を装ってかなみさんに尋ねた。
「……あの野ろ……男性とは、大学かどこかで知り合った感じなんですか?」
「あ、いえ……」
俺の質問に、かなみさんは首を横に振る。
「タクミ……あ、彼は小笠原巧己って言うんですけど……彼とは、小学校の頃からの幼馴染なんです」
「あ、幼馴染っすか……なるほど」
かなみさんの答えを聞いて、俺は納得した。
そっかぁ……幼馴染かぁ。子どもの頃からずっと一緒で、そのまま付き合っちゃったのかぁ。そんなの、ラノベやアニメでしか存在しない都市伝説だと思ってたけど、マジで実在するのね……。
……などなどという、くだらないモノローグでうわの空の俺を前に、かなみさんは更に話を続ける。
「タクミとは、高校二年生の春休みに告白されて、それから付き合う事になったんですけど……受験勉強が忙しかったせいで、なかなか彼と会う時間が取れなくて、だんだんと疎遠になっちゃって。それで……」
そこで一旦言葉を切り、自分の分のティーカップを口元に運んで一口啜ったかなみさんは、小さく溜息を吐いてから言葉を継いだ。
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