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第三章 メタルギニャ・ソリッド
第四十一話 原因と責任
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「……でも」
かなみさんは、ふと表情を曇らせ、少し項垂れた。
「今考えると、タクミが浮気しちゃったのは、私のせいなのかもしれないです……」
「え?」
突然のかなみさんの言葉に、俺は困惑の声を上げる。
「ど……どうしてですか? だって……浮気したのは、あの元カレの方なんでしょ? だったら、かなみさんには何の責任も無いと思いますけど……」
「でも……やっぱり、受験の忙しさのせいで、私がタクミに対して恋人らしい事が全然出来なかったからかもしれないなって……」
「いや……でもそれは、向こう――元カレさんも受験生なんだから、お互い様じゃないんですかね……?」
俺は、眉間に皺を寄せながら首を傾げた。
『お互い様なんだから、先に浮気した方が悪いに決まってる』……俺はそう思うんだけど。
いかんせん、付き合うどころか、仕事場以外では女性とほとんど接触する機会も無い哀しきモンスターである俺には、そういう男女の心の機微というやつは良く分からない……。
「……あの」
俺は、躊躇いがちにかなみさんへ尋ねた。
「もし……もし宜しければ、あの元カレさんとの事をもっと詳しく訊いてもいいですか? ……あ、もちろん、嫌ならいいですから!」
「あ……いえ」
俺の言葉に、かなみさんは少し躊躇いながらも、コクンと頷く。
「私の都合に巻き込んでしまいましたから、三枝さんにはキチンとお話ししなきゃダメですよね」
そう答えた彼女は、ティーカップを手に取って一口啜ると、再び口を開いた。
「実は……タクミは、高校三年生の時に、同じ塾だった他校の女の子――確か、レイナとかいう名前の娘と親しくなったらしくて……バレンタインくらいの時期から付き合ってたみたいなんです」
「ば、バレンタイン?」
かなみさんの話に、俺は思わず首を傾げる。
――『私たち、二か月前に別れたじゃない! 忘れたのっ?』
さっき、あのタクミとかいうなんちゃってイケメンと口論していた時に、かなみさんは確かにそう叫んでいた。
今は七月だから、“今から二か月前”という事は、ふたりが別れたのは五月のはずだ。
……でも、バレンタインは二月のイベントだ。
と、いう事は……。
「じゃ、じゃあ……。あなたの元カレは、三ヶ月くらいの間、別の女と浮気してたって事ですか?」
「……はい」
俺の問いかけに、かなみさんは困り笑いのような表情で、ぎこちなく頷いた。
「……情けない話ですけど、私は四月くらいまで、タクミが浮気してる事に全然気付いてませんでした。確かに、今思い返せば、色々と思い当たる節はあったんですけど……まさか、二股をかけられてたなんて。鈍感ですよね、私って……」
そう自嘲するように言って、かなみさんは力無く微笑む。
でも、その笑みは無理やりこしらえたものである事は見え見えで、それを見た俺の心はずきりと痛んだ。
「そ……そんな、鈍感だなんて……そんな事無いですよ!」
俺は、思わず強い口調でそう言うと、激しく首を左右に振る。
そして、頭の中に浮かんだ言葉を、そのまま口に出した。
「ぶ、ぶっちゃけ、俺は女性と付き合った事なんか無いから良く分からないんですけど……多分、それは鈍感だったんじゃなくって、初鹿野さんが元カレの事を心の底から信頼してたからだったんだと思います! だ、だから、相手が自分を裏切って他の女と浮気してるなんて、微塵も疑わなかった……そういう事だったんだと……!」
「……そう……なのかな……?」
「そうですよ、絶対!」
自信無さげに首を傾げるかなみさんに向かって、俺は力強く頷いてみせる。
そして、ビックリした顔で目をパチクリさせている彼女をじっと見つめて、「――だったら」と、更に言葉を続けた。
「だったら、やっぱりかなみさんは悪くなんかありませんよ! そこまで深い信頼を寄せてくれている相手がいるっていうのに、隠れて他の女とも付き合ってるだなんて……どう考えても元カレが悪いでしょ、それは!」
「三枝さん……!」
「よって、かなみさんが罪悪感を持つ必要なんて全然これっぽっちもありません! 他ならぬこの俺が保証します、ハイ!」
一瞬、『俺ごときが保証するって言っても、なんの効力も無えだろ……』という的確で冷静なセルフツッコミが脳裏を過ぎるが、全力で無視する。
……と、それまでじっと俺の言葉を聞いていたかなみさんが、ぺこりと頭を下げた。
「……ありがとうございます、三枝さん。男の人からもそう言ってもらえて嬉しいです」
「あ、い、いえ……」
お礼の言葉と共に、零れるような微笑みを向けられた俺は、さっきまでが嘘のようにあたふたとキョドる。
「お、俺なんかが言っても気休めにもならないかもしれませんが……」
「ふふ……そんな事は無いです。正直、結構落ち込んでたんですけど、今の一言でかなり元気が出ました」
「そ……それなら良かったです、はい……」
俺は、かなみさんの笑顔に心臓が高鳴るのを感じながら、それを誤魔化すようにティーカップを持ち上げ、口に付けて傾けた。
……が、
「……あ。そういえば、さっき飲み干しちゃってたんだっけか……」
「あ! すみません! 今、おかわりをお持ちしますね!」
空になったティーカップを手に思わず苦笑した俺に、慌てて声をかけながらかなみさんが立ち上がる。
そして、そそくさと台所へ向かうかなみさんが俺の横を通り過ぎた。
その瞬間、彼女が何か呟いたのが耳に入る。
「……ささんだったら良かったのにな……」
「……え?」
言葉の後ろ半分しか聞き取れなかった俺は、彼女が何を呟いたのか良く分からないまま、首を傾げるのだった……。
かなみさんは、ふと表情を曇らせ、少し項垂れた。
「今考えると、タクミが浮気しちゃったのは、私のせいなのかもしれないです……」
「え?」
突然のかなみさんの言葉に、俺は困惑の声を上げる。
「ど……どうしてですか? だって……浮気したのは、あの元カレの方なんでしょ? だったら、かなみさんには何の責任も無いと思いますけど……」
「でも……やっぱり、受験の忙しさのせいで、私がタクミに対して恋人らしい事が全然出来なかったからかもしれないなって……」
「いや……でもそれは、向こう――元カレさんも受験生なんだから、お互い様じゃないんですかね……?」
俺は、眉間に皺を寄せながら首を傾げた。
『お互い様なんだから、先に浮気した方が悪いに決まってる』……俺はそう思うんだけど。
いかんせん、付き合うどころか、仕事場以外では女性とほとんど接触する機会も無い哀しきモンスターである俺には、そういう男女の心の機微というやつは良く分からない……。
「……あの」
俺は、躊躇いがちにかなみさんへ尋ねた。
「もし……もし宜しければ、あの元カレさんとの事をもっと詳しく訊いてもいいですか? ……あ、もちろん、嫌ならいいですから!」
「あ……いえ」
俺の言葉に、かなみさんは少し躊躇いながらも、コクンと頷く。
「私の都合に巻き込んでしまいましたから、三枝さんにはキチンとお話ししなきゃダメですよね」
そう答えた彼女は、ティーカップを手に取って一口啜ると、再び口を開いた。
「実は……タクミは、高校三年生の時に、同じ塾だった他校の女の子――確か、レイナとかいう名前の娘と親しくなったらしくて……バレンタインくらいの時期から付き合ってたみたいなんです」
「ば、バレンタイン?」
かなみさんの話に、俺は思わず首を傾げる。
――『私たち、二か月前に別れたじゃない! 忘れたのっ?』
さっき、あのタクミとかいうなんちゃってイケメンと口論していた時に、かなみさんは確かにそう叫んでいた。
今は七月だから、“今から二か月前”という事は、ふたりが別れたのは五月のはずだ。
……でも、バレンタインは二月のイベントだ。
と、いう事は……。
「じゃ、じゃあ……。あなたの元カレは、三ヶ月くらいの間、別の女と浮気してたって事ですか?」
「……はい」
俺の問いかけに、かなみさんは困り笑いのような表情で、ぎこちなく頷いた。
「……情けない話ですけど、私は四月くらいまで、タクミが浮気してる事に全然気付いてませんでした。確かに、今思い返せば、色々と思い当たる節はあったんですけど……まさか、二股をかけられてたなんて。鈍感ですよね、私って……」
そう自嘲するように言って、かなみさんは力無く微笑む。
でも、その笑みは無理やりこしらえたものである事は見え見えで、それを見た俺の心はずきりと痛んだ。
「そ……そんな、鈍感だなんて……そんな事無いですよ!」
俺は、思わず強い口調でそう言うと、激しく首を左右に振る。
そして、頭の中に浮かんだ言葉を、そのまま口に出した。
「ぶ、ぶっちゃけ、俺は女性と付き合った事なんか無いから良く分からないんですけど……多分、それは鈍感だったんじゃなくって、初鹿野さんが元カレの事を心の底から信頼してたからだったんだと思います! だ、だから、相手が自分を裏切って他の女と浮気してるなんて、微塵も疑わなかった……そういう事だったんだと……!」
「……そう……なのかな……?」
「そうですよ、絶対!」
自信無さげに首を傾げるかなみさんに向かって、俺は力強く頷いてみせる。
そして、ビックリした顔で目をパチクリさせている彼女をじっと見つめて、「――だったら」と、更に言葉を続けた。
「だったら、やっぱりかなみさんは悪くなんかありませんよ! そこまで深い信頼を寄せてくれている相手がいるっていうのに、隠れて他の女とも付き合ってるだなんて……どう考えても元カレが悪いでしょ、それは!」
「三枝さん……!」
「よって、かなみさんが罪悪感を持つ必要なんて全然これっぽっちもありません! 他ならぬこの俺が保証します、ハイ!」
一瞬、『俺ごときが保証するって言っても、なんの効力も無えだろ……』という的確で冷静なセルフツッコミが脳裏を過ぎるが、全力で無視する。
……と、それまでじっと俺の言葉を聞いていたかなみさんが、ぺこりと頭を下げた。
「……ありがとうございます、三枝さん。男の人からもそう言ってもらえて嬉しいです」
「あ、い、いえ……」
お礼の言葉と共に、零れるような微笑みを向けられた俺は、さっきまでが嘘のようにあたふたとキョドる。
「お、俺なんかが言っても気休めにもならないかもしれませんが……」
「ふふ……そんな事は無いです。正直、結構落ち込んでたんですけど、今の一言でかなり元気が出ました」
「そ……それなら良かったです、はい……」
俺は、かなみさんの笑顔に心臓が高鳴るのを感じながら、それを誤魔化すようにティーカップを持ち上げ、口に付けて傾けた。
……が、
「……あ。そういえば、さっき飲み干しちゃってたんだっけか……」
「あ! すみません! 今、おかわりをお持ちしますね!」
空になったティーカップを手に思わず苦笑した俺に、慌てて声をかけながらかなみさんが立ち上がる。
そして、そそくさと台所へ向かうかなみさんが俺の横を通り過ぎた。
その瞬間、彼女が何か呟いたのが耳に入る。
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