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第三章 田中天狼のシリアスな日常・奔走編
田中天狼のシリアスな家庭訪問
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「何でおんねん、……て、言ったじゃん。テスト勉強するぞーって」
矢的先輩は、涼しい顔で言う。
「何か先に帰っちゃったからさ、家までシリウスくんを迎えに来たんだよー」
「チャイムを押して、お母様に事情をお話ししたら、『じゃあ、ウチに上がってお待ちなさいな』と仰られたので、お言葉に甘えて、お邪魔してたのよ」
「……おお……もう」
頭を抱える俺。……て、待てよ?
「つ、つーか、何でみんな俺の家知ってるんですか? 俺、住所なんて言った事無いっすよね……?」
「聞くまでもないさ。尾行けたから」
「つ……尾行けたとな?」
仰天のあまり声が裏返る俺。あんなに必死の思いで撒いて、背後に気をつけて、慎重にここまで来たのに、まんまと尾行されてたのか、俺?
「あ、お前を尾行けたのは、結構前の事な。ほら、確か、最初のリレー練習の後」
矢的先輩は、そう言って、マグカップをぐびりと呷る。……つか、ソレ俺のマグカップ! 勝手に使うなし!
「あの時、お前フラフラで、チャリ押してトロトロ歩いてたからさ、普通に後尾けて、この場所確認した、ってワ・ケ♪」
「って、ワ・ケ♪ ――じゃねえよ!」
俺は激怒した。他人のプライベートを何だと思ってるんだ、この野郎!
「もう、帰って下さい! 他人ん家に勝手に入り込んで、迷惑――!」
「こら! しーくん! 部活のお仲間にそんな言い方、失礼でしょう!」
「――――!」
背後からかけられた叱責の声に、俺は頭を抱えた。――まーた、面倒くさい人が……!
「はーい、みんなお待たせ~! 買ってきたよ~」
そう言いながら、ニコニコ笑いながら、大きなケーキ箱を提げてリビングに入ってきたのは、俺の母。
「あー、お帰りなさーい、シリウスくんのおかあさーん!」
「わざわざすみません。田中くんのお母様」
「いいのいいの! ほら、色々あるから、好きなもの食べてー! ここのケーキ、本当に美味しいんだから!」
母は、満面の笑顔で、テーブルの上で箱を広げ、ケーキ皿にどんどんケーキを並べていく。……わざわざ買ってきたんかいっ! ――つか、数多いな! 何で2ダースも買ってきたん?
「どれがいいのか、迷っちゃって選べなかったから、ショーケースに並んでたケーキ全種類買ってきたの~♪」
母は、ニコニコ笑いながらとんでもない事を言い出す。合計幾らだよ、このケーキ……! 今月の食費厳しかったんじゃなかったっけ?
つーか、俺の昼食代300円なんですけど……、そっちにこの予算回して頂けませんか?
そんな、俺の心の中を知ってか知らずか……。テーブルを埋め尽くすケーキの山にテンションマックスの一同。
「待ってました~! あざーっす、おばさ……グフッ!」
矢的先輩の歓声は途中で遮られる。彼の脇腹に、撫子先輩の肘がめり込んでいた。
「が――! あ…………ありがとうございまふ……お姉様……」
悶絶しながら言い直す矢的先輩。
「本当に、色々すみません、お母様」
「ありがとうございます~!」
「いいのいいの! ウチの子が友達を家に連れてくるなんて、小学二年生の頃以来だから、おばさん嬉しくなっちゃって~。遠慮しないでどうぞどうぞ~!」
と、母は俺の方を振り返って手招きする。
「ほら、そんな所でいつまでも突っ立ってないで! しーくんも座って! お友達と一緒にケーキ食べなさい!」
はあ~……。
俺は肩を落として、テーブルの椅子に座る。
「じゃ、私は、2階でさっき言ってたアレを探してくるから。皆、遠慮なく食べててね~」
「あ! お願いしまーす!」
……アレ? その単語と、意味ありげに目配せをし合う母と春夏秋冬の様子に、何とも言えない嫌な予感を感じたが、
「田中くんは、どれにするの?」
撫子先輩が、そう尋ねてきて、思考を断たれた。
俺は、テーブルの上に所狭しと並べられたケーキを見る。
うーん、こうして見ると、壮観だな……食べる前から胃もたれを感じる……。
「シリウスくんは、コレが好きなんだよね?」
そう言って春夏秋冬が白いクリームに真っ赤なイチゴが載ったショートケーキを一皿、俺の前に置いた。
俺は驚きながら頷く。
「う、うん。当たり……でも、何で知ってるの?」
「えへへー。さっきシリウスくんのお母さんと話した時に言ってたんだよー。『しーくんは、昔っからいちごショートが好きだったのよ~』って!」
「ってかさ、シリウス、お前……」
俺と春夏秋冬の会話に、矢的先輩が割り込んでくる。その顔に浮かぶニヤニヤ笑い……嫌な予感。
「お前、かーちゃんから、『しーくん』て呼ばれてんのな!」
「う、うるさい!」
ああ……また、この男に見せたくもない弱みを見られてしまった……。
と、撫子先輩が口を開く。
「あら、私は良いと思うわ。可愛らしい呼び方で。田中くんに合ってるわ」
「……か、可愛らしいって……」
「あたしもそう思うよ! ねぇ、これからシリウスくんの事、しーくんって呼んでもいい?」
「春夏秋冬さん……ちょっとそれはマジで勘弁して……」
同級生の女の子にしーくんなんて愛称で呼ばれる……正直、悪くはない……いや! 今ですら突き刺さる視線が痛いのに、学校で『しーくん』呼びなんかされた日には、物理的な何かが、四方八方から飛んでくる事になりかねない……!
「えー……可愛いのに……」
春夏秋冬は、不満そうだが、本当に勘弁してほしい……。
「アクアちゃん、お・ま・た・せ~!」
と、母の声と同時に、リビングのドアが開いた。2階で探していたものを見つかったらしいな。
俺は、扉の母を見て…………固まった。
母は満面の笑顔で、大きな段ボール箱を抱えて立っていた。
――――側面に大きく『炎★極』と書かれた、見覚えのある……そして二度と見たくなかった、忌まわしき段ボール箱を持って……!
矢的先輩は、涼しい顔で言う。
「何か先に帰っちゃったからさ、家までシリウスくんを迎えに来たんだよー」
「チャイムを押して、お母様に事情をお話ししたら、『じゃあ、ウチに上がってお待ちなさいな』と仰られたので、お言葉に甘えて、お邪魔してたのよ」
「……おお……もう」
頭を抱える俺。……て、待てよ?
「つ、つーか、何でみんな俺の家知ってるんですか? 俺、住所なんて言った事無いっすよね……?」
「聞くまでもないさ。尾行けたから」
「つ……尾行けたとな?」
仰天のあまり声が裏返る俺。あんなに必死の思いで撒いて、背後に気をつけて、慎重にここまで来たのに、まんまと尾行されてたのか、俺?
「あ、お前を尾行けたのは、結構前の事な。ほら、確か、最初のリレー練習の後」
矢的先輩は、そう言って、マグカップをぐびりと呷る。……つか、ソレ俺のマグカップ! 勝手に使うなし!
「あの時、お前フラフラで、チャリ押してトロトロ歩いてたからさ、普通に後尾けて、この場所確認した、ってワ・ケ♪」
「って、ワ・ケ♪ ――じゃねえよ!」
俺は激怒した。他人のプライベートを何だと思ってるんだ、この野郎!
「もう、帰って下さい! 他人ん家に勝手に入り込んで、迷惑――!」
「こら! しーくん! 部活のお仲間にそんな言い方、失礼でしょう!」
「――――!」
背後からかけられた叱責の声に、俺は頭を抱えた。――まーた、面倒くさい人が……!
「はーい、みんなお待たせ~! 買ってきたよ~」
そう言いながら、ニコニコ笑いながら、大きなケーキ箱を提げてリビングに入ってきたのは、俺の母。
「あー、お帰りなさーい、シリウスくんのおかあさーん!」
「わざわざすみません。田中くんのお母様」
「いいのいいの! ほら、色々あるから、好きなもの食べてー! ここのケーキ、本当に美味しいんだから!」
母は、満面の笑顔で、テーブルの上で箱を広げ、ケーキ皿にどんどんケーキを並べていく。……わざわざ買ってきたんかいっ! ――つか、数多いな! 何で2ダースも買ってきたん?
「どれがいいのか、迷っちゃって選べなかったから、ショーケースに並んでたケーキ全種類買ってきたの~♪」
母は、ニコニコ笑いながらとんでもない事を言い出す。合計幾らだよ、このケーキ……! 今月の食費厳しかったんじゃなかったっけ?
つーか、俺の昼食代300円なんですけど……、そっちにこの予算回して頂けませんか?
そんな、俺の心の中を知ってか知らずか……。テーブルを埋め尽くすケーキの山にテンションマックスの一同。
「待ってました~! あざーっす、おばさ……グフッ!」
矢的先輩の歓声は途中で遮られる。彼の脇腹に、撫子先輩の肘がめり込んでいた。
「が――! あ…………ありがとうございまふ……お姉様……」
悶絶しながら言い直す矢的先輩。
「本当に、色々すみません、お母様」
「ありがとうございます~!」
「いいのいいの! ウチの子が友達を家に連れてくるなんて、小学二年生の頃以来だから、おばさん嬉しくなっちゃって~。遠慮しないでどうぞどうぞ~!」
と、母は俺の方を振り返って手招きする。
「ほら、そんな所でいつまでも突っ立ってないで! しーくんも座って! お友達と一緒にケーキ食べなさい!」
はあ~……。
俺は肩を落として、テーブルの椅子に座る。
「じゃ、私は、2階でさっき言ってたアレを探してくるから。皆、遠慮なく食べててね~」
「あ! お願いしまーす!」
……アレ? その単語と、意味ありげに目配せをし合う母と春夏秋冬の様子に、何とも言えない嫌な予感を感じたが、
「田中くんは、どれにするの?」
撫子先輩が、そう尋ねてきて、思考を断たれた。
俺は、テーブルの上に所狭しと並べられたケーキを見る。
うーん、こうして見ると、壮観だな……食べる前から胃もたれを感じる……。
「シリウスくんは、コレが好きなんだよね?」
そう言って春夏秋冬が白いクリームに真っ赤なイチゴが載ったショートケーキを一皿、俺の前に置いた。
俺は驚きながら頷く。
「う、うん。当たり……でも、何で知ってるの?」
「えへへー。さっきシリウスくんのお母さんと話した時に言ってたんだよー。『しーくんは、昔っからいちごショートが好きだったのよ~』って!」
「ってかさ、シリウス、お前……」
俺と春夏秋冬の会話に、矢的先輩が割り込んでくる。その顔に浮かぶニヤニヤ笑い……嫌な予感。
「お前、かーちゃんから、『しーくん』て呼ばれてんのな!」
「う、うるさい!」
ああ……また、この男に見せたくもない弱みを見られてしまった……。
と、撫子先輩が口を開く。
「あら、私は良いと思うわ。可愛らしい呼び方で。田中くんに合ってるわ」
「……か、可愛らしいって……」
「あたしもそう思うよ! ねぇ、これからシリウスくんの事、しーくんって呼んでもいい?」
「春夏秋冬さん……ちょっとそれはマジで勘弁して……」
同級生の女の子にしーくんなんて愛称で呼ばれる……正直、悪くはない……いや! 今ですら突き刺さる視線が痛いのに、学校で『しーくん』呼びなんかされた日には、物理的な何かが、四方八方から飛んでくる事になりかねない……!
「えー……可愛いのに……」
春夏秋冬は、不満そうだが、本当に勘弁してほしい……。
「アクアちゃん、お・ま・た・せ~!」
と、母の声と同時に、リビングのドアが開いた。2階で探していたものを見つかったらしいな。
俺は、扉の母を見て…………固まった。
母は満面の笑顔で、大きな段ボール箱を抱えて立っていた。
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