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第二章 サンクトルまで何ケイム?
罠と餌
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「う……う~ん――!」
パームは、何ともいえない違和感を感じながら、目を覚ました。――いつもは、目覚めと同時に意識もハッキリとするのに、今朝は、頭に濃い霧がかかっているかのように、ぼんやりしてしまっている。
霞む眼で、辺りを見回してみる。
……たが、目に映る光景は、ひたすら、木・木・木――。
(ああ……僕たちは今、果無の樹海にいるんだった――)
そんな分かり切った事を思い出す事にすら、若干の時間を掛けなければならない程、彼の意識は混濁……平たく言えば、寝惚けていた。
パームは、視線を上空に移す。木の枝の間から僅かに覗く空の色は、透き通るような青だった。
(……もう、日が昇っているんだ――)
おかしい。パームには、どんな事があっても日の出前には目を覚ます体内時計が、神殿での修行でたたき込まれている――はずだ。こんなに日が高く昇る時間まで寝坊する事など、神官になって以来無かった。
――と、その時、
(…………あれ?)
彼は、もっとハッキリした“違和感”に気が付いた。
(……何で僕は、立ったまま寝ていたんだろう――?)
「って、ええっ!」
そこに思考が辿り着いた瞬間、彼の目はハッキリと覚めた。慌てて動こうとして――
彼はさらなる違和感に気付く。
「う……動け……ないっ――!」
混乱しながら視線を下に移すと、彼の身体は、木の幹に太いロープでグルグル巻きにされていた。どおりで、立ったまま寝ていたワケだし、腕一本動かせなかったワケだ……。
「お! 起きたか、パームっ! 大分ぐっすりとお眠りだったな」
その時、声が聞こえた。奇妙な事に、足元から。
何で? と、思う間もなく、眼前の地面から、見慣れた黒髪の青年の顔が生えてきた。
「ぅわあッ!」
想定外の場所からの不意打ちに、パームは思わず驚きの声を上げる。
「あははは。何だ、その裏返った声は?」
ジャスミンは、その様子に爆笑しながら、地面からもぞもぞと這い出してきた。
パームは、頬を膨らませる。
「そ、そりゃ、そんなところから顔を出されて、ビックリしない方がおかしいですよ……って、何ですか、コレ! ジャスミンさんですか、コレをやったのは?」
「そのとーりだよ、パーム君」
ジャスミンは、額に浮かぶ汗を、袖口で拭き取ってから答えた。
「『そのとーり』じゃないですよ! 何なんですか、コレは?」
「何なんですか……って、見りゃ分かるだろ? タダの罠だよ」
「ああ、ただの罠ですかそうですか……って! わ……罠?」
パームは、ジャスミンの言葉に、呆気にとられた。
そんなパームに、満面の笑みを向けて、ジャスミンは「うん、罠!」と頷いた。
「ほら、回りを囲むように、穴を掘ってるだろ? これ、落とし穴」
ジャスミンは、手にした即席のスコップで、地面を指し示す。
見れば確かに、膝上ぐらいまでの深さの壕のような穴が、パームの縛り付けられている木を囲むように、U字型に掘られていた。
「つまりだね……“餌”におびき寄せられた獲物が、足を取られて落とし穴にストーン! で、穴に潜んだ俺が素早くトドメを刺して、『食材ッ、ゲットだぜィ!』……ていう、正にカンペキな計画なワケよ、君ぃ!」
「ちょ、ちょっと待って下さい……」
ジャスミンの脳天気すぎる狩猟計画の中に、ツッコみたい箇所は数知れずあったが、それよりも、気になる不穏な単語が……。
パームは、恐る恐る、自分の推測が外れている事を期待しつつ、尋ねる。
「……あの、“餌”って……何の事ですか……?」
「何だよ~。そんな事も分からないのかい、パーム君よぉ~」
ジャスミンは、ニッコリと微笑うと――パームを指さし、
「餌」
と言った。
パームは、それを聞いた瞬間、何とかロープから抜けようと激しく藻掻くが、無情にもロープはガッチリとパームを拘束し、彼を逃してはくれなかった。
「ふ、ふざけないで下さいよ! ひ、人を何だと思ってるんですか、アナタは!」
血相を変えて抗議するパーム。
「何だよ~。そんなに青筋立てて怒らなくてもええやねん」
ジャスミンはそう言いながら、パームに背を向けて、スコップで穴を掘る作業を再開する。
「つーかさ、ホントに餌にする訳じゃねえぞ。どっちかというと、囮だ」
「お、囮?」
「そ。獲物を誘い込んで、この落とし穴に落とすための、な」
そう言われて、パームは、ジャスミンが掘っている穴を見直す。
穴を掘って出た土を、穴の外周部に盛り上げて、土の壁のように仕上げている。成程、これなら向こう側から落とし穴は見えないし、盛り土を飛び越えようとすれば、距離的に落とし穴の中に転落する――確かに、果無の樹海辺縁部に生息する、ブタハナオオカミくらいの大きさの獣なら、通用しそうなくらいの深さと大きさはありそうだ。
けれど……、
「……思いっきりジャンプして、穴ごと飛び越されたら、どうするんです? ……あと、“獲物”は、地面に足をつけているとは限らない訳でしょ? 空を飛ぶ猛禽類だったり、木の枝伝いに渡ってくる蛇や猿みたいな生き物だったら……どう防ぐんですか?」
パームは、ふと気になった点を、続けて尋ねた。
それを聞き……穴を掘るジャスミンの動きが、一瞬止まる。こちらに背を向けたまま、額に手を当てたり、首を傾げてみたりして、思案を纏めている模様……。そして――、
「うーんと……そ、そうだねえ…………もしも、そんな事になったら――」
ジャスミンは、振り返って言った。顔を若干引き攣らせて――。
「――神様に祈って下さい……」
パームは、何ともいえない違和感を感じながら、目を覚ました。――いつもは、目覚めと同時に意識もハッキリとするのに、今朝は、頭に濃い霧がかかっているかのように、ぼんやりしてしまっている。
霞む眼で、辺りを見回してみる。
……たが、目に映る光景は、ひたすら、木・木・木――。
(ああ……僕たちは今、果無の樹海にいるんだった――)
そんな分かり切った事を思い出す事にすら、若干の時間を掛けなければならない程、彼の意識は混濁……平たく言えば、寝惚けていた。
パームは、視線を上空に移す。木の枝の間から僅かに覗く空の色は、透き通るような青だった。
(……もう、日が昇っているんだ――)
おかしい。パームには、どんな事があっても日の出前には目を覚ます体内時計が、神殿での修行でたたき込まれている――はずだ。こんなに日が高く昇る時間まで寝坊する事など、神官になって以来無かった。
――と、その時、
(…………あれ?)
彼は、もっとハッキリした“違和感”に気が付いた。
(……何で僕は、立ったまま寝ていたんだろう――?)
「って、ええっ!」
そこに思考が辿り着いた瞬間、彼の目はハッキリと覚めた。慌てて動こうとして――
彼はさらなる違和感に気付く。
「う……動け……ないっ――!」
混乱しながら視線を下に移すと、彼の身体は、木の幹に太いロープでグルグル巻きにされていた。どおりで、立ったまま寝ていたワケだし、腕一本動かせなかったワケだ……。
「お! 起きたか、パームっ! 大分ぐっすりとお眠りだったな」
その時、声が聞こえた。奇妙な事に、足元から。
何で? と、思う間もなく、眼前の地面から、見慣れた黒髪の青年の顔が生えてきた。
「ぅわあッ!」
想定外の場所からの不意打ちに、パームは思わず驚きの声を上げる。
「あははは。何だ、その裏返った声は?」
ジャスミンは、その様子に爆笑しながら、地面からもぞもぞと這い出してきた。
パームは、頬を膨らませる。
「そ、そりゃ、そんなところから顔を出されて、ビックリしない方がおかしいですよ……って、何ですか、コレ! ジャスミンさんですか、コレをやったのは?」
「そのとーりだよ、パーム君」
ジャスミンは、額に浮かぶ汗を、袖口で拭き取ってから答えた。
「『そのとーり』じゃないですよ! 何なんですか、コレは?」
「何なんですか……って、見りゃ分かるだろ? タダの罠だよ」
「ああ、ただの罠ですかそうですか……って! わ……罠?」
パームは、ジャスミンの言葉に、呆気にとられた。
そんなパームに、満面の笑みを向けて、ジャスミンは「うん、罠!」と頷いた。
「ほら、回りを囲むように、穴を掘ってるだろ? これ、落とし穴」
ジャスミンは、手にした即席のスコップで、地面を指し示す。
見れば確かに、膝上ぐらいまでの深さの壕のような穴が、パームの縛り付けられている木を囲むように、U字型に掘られていた。
「つまりだね……“餌”におびき寄せられた獲物が、足を取られて落とし穴にストーン! で、穴に潜んだ俺が素早くトドメを刺して、『食材ッ、ゲットだぜィ!』……ていう、正にカンペキな計画なワケよ、君ぃ!」
「ちょ、ちょっと待って下さい……」
ジャスミンの脳天気すぎる狩猟計画の中に、ツッコみたい箇所は数知れずあったが、それよりも、気になる不穏な単語が……。
パームは、恐る恐る、自分の推測が外れている事を期待しつつ、尋ねる。
「……あの、“餌”って……何の事ですか……?」
「何だよ~。そんな事も分からないのかい、パーム君よぉ~」
ジャスミンは、ニッコリと微笑うと――パームを指さし、
「餌」
と言った。
パームは、それを聞いた瞬間、何とかロープから抜けようと激しく藻掻くが、無情にもロープはガッチリとパームを拘束し、彼を逃してはくれなかった。
「ふ、ふざけないで下さいよ! ひ、人を何だと思ってるんですか、アナタは!」
血相を変えて抗議するパーム。
「何だよ~。そんなに青筋立てて怒らなくてもええやねん」
ジャスミンはそう言いながら、パームに背を向けて、スコップで穴を掘る作業を再開する。
「つーかさ、ホントに餌にする訳じゃねえぞ。どっちかというと、囮だ」
「お、囮?」
「そ。獲物を誘い込んで、この落とし穴に落とすための、な」
そう言われて、パームは、ジャスミンが掘っている穴を見直す。
穴を掘って出た土を、穴の外周部に盛り上げて、土の壁のように仕上げている。成程、これなら向こう側から落とし穴は見えないし、盛り土を飛び越えようとすれば、距離的に落とし穴の中に転落する――確かに、果無の樹海辺縁部に生息する、ブタハナオオカミくらいの大きさの獣なら、通用しそうなくらいの深さと大きさはありそうだ。
けれど……、
「……思いっきりジャンプして、穴ごと飛び越されたら、どうするんです? ……あと、“獲物”は、地面に足をつけているとは限らない訳でしょ? 空を飛ぶ猛禽類だったり、木の枝伝いに渡ってくる蛇や猿みたいな生き物だったら……どう防ぐんですか?」
パームは、ふと気になった点を、続けて尋ねた。
それを聞き……穴を掘るジャスミンの動きが、一瞬止まる。こちらに背を向けたまま、額に手を当てたり、首を傾げてみたりして、思案を纏めている模様……。そして――、
「うーんと……そ、そうだねえ…………もしも、そんな事になったら――」
ジャスミンは、振り返って言った。顔を若干引き攣らせて――。
「――神様に祈って下さい……」
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