好色一代勇者 〜ナンパ師勇者は、ハッタリと機転で窮地を切り抜ける!〜(アルファポリス版)

朽縄咲良

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第三章 酒と泪と色事師と女将

鍵師と巨人

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 ――「歓楽街の、『飛竜の泪亭』という名の居酒屋に、とんでもなく可愛い娘がいる」

 サンクトルを占領する、ダリア傭兵団――改めチャー傭兵団に属する傭兵達の間で、そんな噂が飛び交い始めたのは、ここ数日の事だ。

「見た奴は誰でも一目惚れする」
「言葉を交わせば、生涯の忠誠を誓いたくなる」
「外見だけじゃない……あの子の性格も、天使のそれだ――」
「あの娘は、蒼月神レムの化身に違いない!」
「俺がこの世で見た最高の美人は、『しろがねの死神』だが、この世で見た最高のは、あの娘だ。間違いない!」

 と、噂の看板娘を目の当たりにした男達は、夢でも見ているかのようにうっとりとしながら、彼女の事を口々に褒めそやした。
 噂が噂を呼び、『飛竜の泪亭』は、連日大繁盛しているという――。



「――と、いう事らしいぜ」

 と、ジザスが、巨大な鍵穴を弄りながら言った。

「ふ――ん……」

 ジザスの言葉を聞いた傷だらけの巨人は、興味薄げに耳を穿ほじりながら、気のない様子で空返事をする。

「何だよ、興味ナシかよ、ヒース」

 ジザスは苦笑して、鍵穴から目を離し、壁に凭れて暇そうにしている巨人ヒースの方を向いた。

「――俺は、女には縁が無えからなぁ……。声をかけても、女は俺の顔を見たら、腰を抜かすか、一目散に逃げていくかだからな……」

 ヒースは、おどけたように肩を竦めてみせる。

「それに、俺はこの図体だ。普通の女じゃ、小さすぎるんだよ。とな……」
「さても、難儀な事だな……」

 そう言うと、ジザスは懐からシケモクを2本取り出し、ひとつを自分の口に咥えると、もう1本をヒースに差し出す。

「ほれ、奢りだ」
「シケモク1本は、奢りとは言わねえぞ」

 苦笑いしながらも、ヒースはジザスからシケモクを受け取り、灯りの松明に押しつけて火を点けた。
 シケモクで、目の前に聳える金庫の分厚い扉を指して、ヒースは尋ねる。

「――で、どの位まで修復できてるんだ、この金庫……?」
「蝶番やフレームの部分はもう終わってる。物理鍵の方は、8割くらいだな。施錠呪文は、そもそも施せる術者が傭兵団の中に居ないから、修復もクソも無え。――まあ、施錠呪文無しでも、金庫としては十分すぎる堅牢さだと思うがねぇ……」

 ジザスは、シケモクを吹かして、金庫の凹みを撫でながら言った。

「――まったく……。どこかの誰かさんが、コイツを腕づくで破砕してくれたモンだから、あのオカマブタ人間様の要求水準が高くなっちまって……。困ったモンよ……」
「おいおい、俺が悪いのかよ。俺は雇い主の命令に従って、金庫室の鍵を開けただけだぜ」


 ――ジザスは、その鍵師としての腕を買われて、以前にヒースが扉を破壊した『完全絶対無敵安全金庫室 あんしんくん』の修復を、団長のチャーから命ぜられていたのだ。
 ギルド庁だった頃から金庫室に収められていた莫大な財宝に加え、先日ラバッテリア布教所から強奪――接収した神器や宝具の数々を、安全に保管する為に。
 そして、ヒースはジザスの監視役兼金庫番として、連日この金庫室に詰めている、という訳だ。

「……にしても、こう連日、薄暗い金庫室に籠もって、色気もクソもねえ鍵穴を見つめ続けるなんて、ウンザリする。たまには目の保養と洒落こみたいねえ……」
「ああ、そういう話の流れに持って行きたかったのか、オマエ」
「まあな……で、どうだ?」

 ジザスは、ニヤリと笑ってヒースに尋ねた。

「今日の夜、その『飛竜の泪亭』とやらに繰り出して、噂の娘ッ子を拝みに行かねえか?」
「――女はどうでもいいんだがよ……」

 ヒースは、シケモクの吸い殻を投げ捨てると、ジロリと、ジザスを睨んだ。

「その店が美味い酒を出すのかどうか――それ次第だな」

 その言葉に、ジザスは親指を立てて、口の端を上げる。

「安心しろ。そこら辺は折り紙付きらしい」
「何だよ、ソレを早く言えや」

 ヒースは、その野趣溢れる顔に厳つい笑みを浮かべた。

「だったら、断る理由はねえわな」
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