40 / 176
第三章 酒と泪と色事師と女将
鍵師と巨人
しおりを挟む
――「歓楽街の、『飛竜の泪亭』という名の居酒屋に、とんでもなく可愛い娘がいる」
サンクトルを占領する、ダリア傭兵団――改めチャー傭兵団に属する傭兵達の間で、そんな噂が飛び交い始めたのは、ここ数日の事だ。
「見た奴は誰でも一目惚れする」
「言葉を交わせば、生涯の忠誠を誓いたくなる」
「外見だけじゃない……あの子の性格も、天使のそれだ――」
「あの娘は、蒼月神レムの化身に違いない!」
「俺がこの世で見た最高の美人は、『銀の死神』だが、この世で見た最高の女の子は、あの娘だ。間違いない!」
と、噂の看板娘を目の当たりにした男達は、夢でも見ているかのようにうっとりとしながら、彼女の事を口々に褒めそやした。
噂が噂を呼び、『飛竜の泪亭』は、連日大繁盛しているという――。
「――と、いう事らしいぜ」
と、ジザスが、巨大な鍵穴を弄りながら言った。
「ふ――ん……」
ジザスの言葉を聞いた傷だらけの巨人は、興味薄げに耳を穿りながら、気のない様子で空返事をする。
「何だよ、興味ナシかよ、ヒース」
ジザスは苦笑して、鍵穴から目を離し、壁に凭れて暇そうにしている巨人の方を向いた。
「――俺は、女には縁が無えからなぁ……。声をかけても、女は俺の顔を見たら、腰を抜かすか、一目散に逃げていくかだからな……」
ヒースは、おどけたように肩を竦めてみせる。
「それに、俺はこの図体だ。普通の女じゃ、小さすぎるんだよ。色々とな……」
「さても、難儀な事だな……」
そう言うと、ジザスは懐からシケモクを2本取り出し、ひとつを自分の口に咥えると、もう1本をヒースに差し出す。
「ほれ、奢りだ」
「シケモク1本は、奢りとは言わねえぞ」
苦笑いしながらも、ヒースはジザスからシケモクを受け取り、灯りの松明に押しつけて火を点けた。
シケモクで、目の前に聳える金庫の分厚い扉を指して、ヒースは尋ねる。
「――で、どの位まで修復できてるんだ、この金庫……?」
「蝶番やフレームの部分はもう終わってる。物理鍵の方は、8割くらいだな。施錠呪文は、そもそも施せる術者が傭兵団の中に居ないから、修復もクソも無え。――まあ、施錠呪文無しでも、金庫としては十分すぎる堅牢さだと思うがねぇ……」
ジザスは、シケモクを吹かして、金庫の凹みを撫でながら言った。
「――まったく……。どこかの誰かさんが、コイツを腕づくで破砕してくれたモンだから、あのオカマブタ人間様の要求水準が高くなっちまって……。困ったモンよ……」
「おいおい、俺が悪いのかよ。俺は雇い主の命令に従って、金庫室の鍵を開けただけだぜ」
――ジザスは、その鍵師としての腕を買われて、以前にヒースが扉を破壊した『完全絶対無敵安全金庫室 あんしんくん』の修復を、団長のチャーから命ぜられていたのだ。
ギルド庁だった頃から金庫室に収められていた莫大な財宝に加え、先日ラバッテリア布教所から強奪――接収した神器や宝具の数々を、安全に保管する為に。
そして、ヒースはジザスの監視役兼金庫番として、連日この金庫室に詰めている、という訳だ。
「……にしても、こう連日、薄暗い金庫室に籠もって、色気もクソもねえ鍵穴を見つめ続けるなんて、ウンザリする。たまには目の保養と洒落こみたいねえ……」
「ああ、そういう話の流れに持って行きたかったのか、オマエ」
「まあな……で、どうだ?」
ジザスは、ニヤリと笑ってヒースに尋ねた。
「今日の夜、その『飛竜の泪亭』とやらに繰り出して、噂の娘ッ子を拝みに行かねえか?」
「――女はどうでもいいんだがよ……」
ヒースは、シケモクの吸い殻を投げ捨てると、ジロリと、ジザスを睨んだ。
「その店が美味い酒を出すのかどうか――それ次第だな」
その言葉に、ジザスは親指を立てて、口の端を上げる。
「安心しろ。そこら辺は折り紙付きらしい」
「何だよ、ソレを早く言えや」
ヒースは、その野趣溢れる顔に厳つい笑みを浮かべた。
「だったら、断る理由はねえわな」
サンクトルを占領する、ダリア傭兵団――改めチャー傭兵団に属する傭兵達の間で、そんな噂が飛び交い始めたのは、ここ数日の事だ。
「見た奴は誰でも一目惚れする」
「言葉を交わせば、生涯の忠誠を誓いたくなる」
「外見だけじゃない……あの子の性格も、天使のそれだ――」
「あの娘は、蒼月神レムの化身に違いない!」
「俺がこの世で見た最高の美人は、『銀の死神』だが、この世で見た最高の女の子は、あの娘だ。間違いない!」
と、噂の看板娘を目の当たりにした男達は、夢でも見ているかのようにうっとりとしながら、彼女の事を口々に褒めそやした。
噂が噂を呼び、『飛竜の泪亭』は、連日大繁盛しているという――。
「――と、いう事らしいぜ」
と、ジザスが、巨大な鍵穴を弄りながら言った。
「ふ――ん……」
ジザスの言葉を聞いた傷だらけの巨人は、興味薄げに耳を穿りながら、気のない様子で空返事をする。
「何だよ、興味ナシかよ、ヒース」
ジザスは苦笑して、鍵穴から目を離し、壁に凭れて暇そうにしている巨人の方を向いた。
「――俺は、女には縁が無えからなぁ……。声をかけても、女は俺の顔を見たら、腰を抜かすか、一目散に逃げていくかだからな……」
ヒースは、おどけたように肩を竦めてみせる。
「それに、俺はこの図体だ。普通の女じゃ、小さすぎるんだよ。色々とな……」
「さても、難儀な事だな……」
そう言うと、ジザスは懐からシケモクを2本取り出し、ひとつを自分の口に咥えると、もう1本をヒースに差し出す。
「ほれ、奢りだ」
「シケモク1本は、奢りとは言わねえぞ」
苦笑いしながらも、ヒースはジザスからシケモクを受け取り、灯りの松明に押しつけて火を点けた。
シケモクで、目の前に聳える金庫の分厚い扉を指して、ヒースは尋ねる。
「――で、どの位まで修復できてるんだ、この金庫……?」
「蝶番やフレームの部分はもう終わってる。物理鍵の方は、8割くらいだな。施錠呪文は、そもそも施せる術者が傭兵団の中に居ないから、修復もクソも無え。――まあ、施錠呪文無しでも、金庫としては十分すぎる堅牢さだと思うがねぇ……」
ジザスは、シケモクを吹かして、金庫の凹みを撫でながら言った。
「――まったく……。どこかの誰かさんが、コイツを腕づくで破砕してくれたモンだから、あのオカマブタ人間様の要求水準が高くなっちまって……。困ったモンよ……」
「おいおい、俺が悪いのかよ。俺は雇い主の命令に従って、金庫室の鍵を開けただけだぜ」
――ジザスは、その鍵師としての腕を買われて、以前にヒースが扉を破壊した『完全絶対無敵安全金庫室 あんしんくん』の修復を、団長のチャーから命ぜられていたのだ。
ギルド庁だった頃から金庫室に収められていた莫大な財宝に加え、先日ラバッテリア布教所から強奪――接収した神器や宝具の数々を、安全に保管する為に。
そして、ヒースはジザスの監視役兼金庫番として、連日この金庫室に詰めている、という訳だ。
「……にしても、こう連日、薄暗い金庫室に籠もって、色気もクソもねえ鍵穴を見つめ続けるなんて、ウンザリする。たまには目の保養と洒落こみたいねえ……」
「ああ、そういう話の流れに持って行きたかったのか、オマエ」
「まあな……で、どうだ?」
ジザスは、ニヤリと笑ってヒースに尋ねた。
「今日の夜、その『飛竜の泪亭』とやらに繰り出して、噂の娘ッ子を拝みに行かねえか?」
「――女はどうでもいいんだがよ……」
ヒースは、シケモクの吸い殻を投げ捨てると、ジロリと、ジザスを睨んだ。
「その店が美味い酒を出すのかどうか――それ次第だな」
その言葉に、ジザスは親指を立てて、口の端を上げる。
「安心しろ。そこら辺は折り紙付きらしい」
「何だよ、ソレを早く言えや」
ヒースは、その野趣溢れる顔に厳つい笑みを浮かべた。
「だったら、断る理由はねえわな」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
事務仕事しかできない無能?いいえ、空間支配スキルです。~勇者パーティの事務員として整理整頓していたら、いつの間にか銅像が立っていました~
水月
恋愛
「在庫整理しかできない無能は不要だ」
第一王子から、晩餐会の場で婚約破棄と国外追放を告げられた公爵令嬢ユズハ。
彼女のギフト【在庫整理】は、荷物の整理しかできないハズレスキルだと蔑まれていた。
だが、彼女は知っていた。
その真価は、指定空間内のあらゆる物質の最適化であることを。
追放先で出会った要領の悪い勇者パーティに対し、ユズハは事務的に、かつ冷徹に最適化を開始する。
「勇者様、右腕の筋肉配置を効率化しました」
「魔王の心臓、少し左にずらしておきましたね」
戦場を、兵站を、さらには魔王の命までをも在庫として処理し続けた結果、彼女はいつしか魔王討伐勇者パーティの一人として、威圧感溢れる銅像にまでなってしまう。
効率を愛する事務屋令嬢は、自分を捨てた国を不良債権として切り捨て、再出発する。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ジャングリラ~悪魔に屠られ魔王転生。死の森を楽園に変える物語~
とんがり頭のカモノハシ
ファンタジー
「別の世界から勇者を召喚する卑怯な手口」に業を煮やした堕天使・ルシファーにより、異世界へ魔王として転生させられた大学生・左丹龍之介。
先代・魔王が勇者により討伐されて100年――。
龍之介が見たものは、人魔戦争に敗れた魔族が、辺境の森で厳しい生活を余儀なくされている姿だった。
魔族の生活向上を目指し、龍之介は元魔王軍の四天王、悪魔公のリリス、フェンリルのロキア、妖狐の緋魅狐、古代龍のアモンを次々に配下に収めていく。
バラバラだった魔族を再び一つにした龍之介は、転生前の知識と異世界の人間の暮らしを参考に、森の中へ楽園を作るべく奔走するのだが……
~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる
静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】
【複数サイトでランキング入り】
追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語
主人公フライ。
仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。
フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。
外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。
しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。
そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。
そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる