好色一代勇者 〜ナンパ師勇者は、ハッタリと機転で窮地を切り抜ける!〜(アルファポリス版)

朽縄咲良

文字の大きさ
54 / 176
第四章 Cross Thought

疑惑と信頼

しおりを挟む
 「……ホントに決めてきやがったぞ、アイツ……」

 反チャー傭兵団のアジトである廃屋。
 肉屋のセネルが、ロウソクの光に照らし出された、目の前の書状を前に呟く。その声色には、隠し切れない困惑の感情が混じっている。

「これは……真に受けていいのか……? コレを含めて、アイツが我々を一網打尽にしようとする罠なのではないか……?」

 魔道具店のターナーも、胡散臭いと言わんばかりの顔で、クイッと単眼鏡モノクルを上げる。

「そ……そんな! ジャスミンさんは、そんな事はしません……多分」
「……もし、彼がその気なら、とっくの昔に私達はお縄になってると思うけど」

 彼らの意見に反対の意を唱えたのは、『飛竜の泪亭』のふたり――シレネとフェーンだ。

「…………」

 この場に集まった全員の視線が、テーブルの上に広げられた一通の書状に集まる。
 ――『招待状』
 その書状の表には、そう書いてある。
 その書状の文面を要約すると、

『2週間後の“蒼紅並月祭”の日、夜6時より、チャー傭兵団本部中庭にて、傭兵団とサンクトル住民の親睦を深める為の立食パーティーを執り行う。住民は競って集まるべし――』

 というものだった。

「立食パーティーは結構だがよ……。会場に並べる食事や酒類は住民側オレらが用意しろ、だとよ。招待されたのは、コッチなんじゃねえのか……?」

 セネルは、苦虫を噛みつぶした顔で言う。
 シレネは、皮肉げに口を歪めて嗤う。

「――チャーアイツらしいわね。住民に費やすお金はびた一文出したくないみたい……」
「……前から気になっていたんだが、アンタとチャーには、何があったのだ? ひとかたならない恨みを抱いているようだが……」

 ターナーが単眼鏡モノクルを掛け直しながら、ジロリと彼女を睨む。

「……レディのプライバシーを詮索するのはマナー違反って、前にも言ったでしょ? これだから、チェリーは……」
「だ……誰がチェリーだ、この商売女!」

 シレネの言葉に、顔を真っ赤にして怒鳴るターナー。

「ほら、ムキになって怒る。タダの自白ですねほんとうにありがとうございました」

 シレネは、舌を出しながら、更に彼を挑発する。

「き……貴様!」
「止めろ! ふたりとも!」

 見かねたセネルが、慌てて止めに入る。
 シレネは、フンと鼻を鳴らして、そっぽを向く。

「……でもねえ、シレネちゃん」

 そこへ口を挟んだのは、野菜問屋の店主、ファミルデトン婆だった。
 老婆は、シレネの肩にしわくちゃの手を置いて、優しく言う。

「この前は、ジャスミンちゃんが『保証する』って言ってくれてたけど、正直なところ、アタシたちは、アナタを完全に信用できていないんだよ」
「……」
「もちろん、シレネちゃんが、あの団長に深い恨みを持っている事は疑っていないんだけどねェ……。できれば、理由も教えてもらいたいんだよ。みんなが、アナタを仲間だと思えるようにね……」

 ファミルデトン婆の優しい言葉に、シレネは僅かに表情を変えた。
 彼女は俯いて口を開く。

「……昔、チャーに……大切な人を……」
「――!」

 その場に居た人間が、静かにどよめく。
 シレネは顔を上げた。その目尻には、光るものがあった。
 彼女が嘘や出鱈目でそんな事を言ったのではないという事は、その表情と涙が雄弁に物語っている。

「――そうかい。……辛い事を訊いてしまったねえ。ごめんよ」

 ファミルデトン婆が、微笑んで彼女の頭を撫でた。

「……その……すまなかった……」

 ターナーも気まずそうに詫びの言葉を述べる。
 シレネは指先で目尻を拭うと、周囲の者たちの顔をぐるりと見回しながら、静かに言った。

「……信じて貰えたかしら?」
「――ああ。今の言葉に嘘は無え。商人の経験と勘が、そう言ってる」
「……それはどうも」

 セネルが力強く頷き、シレネは素っ気ない態度で礼を述べる。
 その様子を見て、慌ててフェーンが口を開く。

「あ……あのですね。――ボ……私は――」
「ああ、フェーンちゃんはいいよ。チャー傭兵団と通じてるなんて、疑うまでもない!」
「――え?」

 セネルに出鼻を挫かれ、呆気に取られるフェーン。

「そうだ! フェーンちゃんの様な天使を疑う訳がない! 疑ったりでもしたら、アッザムの怒りの天罰が下ってしまう!」
「フェーンちゃんはいい子だからねえ。フェーンちゃんがアタシたちを騙してるなんて、爪の先程も思わないよ」
「……えと……その……」

 ターナーやファミルデトン婆からも全幅の信頼を寄せる言葉を送られ、フェーン……パームは、困って目を白黒させる。

「よーし、スッキリしたところで、“蒼紅並月祭”パーティーを利用して、奴らを倒す作戦を考えよう!」
「うむ。このサンクトルの町を、傭兵どもから解放するのだ!」
「商人としての意地を、今こそ示す時だ!」
「待ち遠しいねえ……!」

 盛り上がる場の空気に乗り切れず、アワアワするだけのパーム。
 そんなの肩に、ポンと手を乗せ、意味深に微笑みかけるシレネ。

「良かったわねぇ~。私なんかと違って、随分みんなからの信頼が篤くって」
「……し、シレネさん――」
「――それにしても」

 シレネは、ジト目でセネルたちを睥睨し、皮肉満点に言った。

「随分大したものねぇ……って――」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

事務仕事しかできない無能?いいえ、空間支配スキルです。~勇者パーティの事務員として整理整頓していたら、いつの間にか銅像が立っていました~

水月
恋愛
「在庫整理しかできない無能は不要だ」 第一王子から、晩餐会の場で婚約破棄と国外追放を告げられた公爵令嬢ユズハ。 彼女のギフト【在庫整理】は、荷物の整理しかできないハズレスキルだと蔑まれていた。 だが、彼女は知っていた。 その真価は、指定空間内のあらゆる物質の最適化であることを。 追放先で出会った要領の悪い勇者パーティに対し、ユズハは事務的に、かつ冷徹に最適化を開始する。 「勇者様、右腕の筋肉配置を効率化しました」 「魔王の心臓、少し左にずらしておきましたね」 戦場を、兵站を、さらには魔王の命までをも在庫として処理し続けた結果、彼女はいつしか魔王討伐勇者パーティの一人として、威圧感溢れる銅像にまでなってしまう。 効率を愛する事務屋令嬢は、自分を捨てた国を不良債権として切り捨て、再出発する。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

ジャングリラ~悪魔に屠られ魔王転生。死の森を楽園に変える物語~

とんがり頭のカモノハシ
ファンタジー
「別の世界から勇者を召喚する卑怯な手口」に業を煮やした堕天使・ルシファーにより、異世界へ魔王として転生させられた大学生・左丹龍之介。 先代・魔王が勇者により討伐されて100年――。 龍之介が見たものは、人魔戦争に敗れた魔族が、辺境の森で厳しい生活を余儀なくされている姿だった。 魔族の生活向上を目指し、龍之介は元魔王軍の四天王、悪魔公のリリス、フェンリルのロキア、妖狐の緋魅狐、古代龍のアモンを次々に配下に収めていく。 バラバラだった魔族を再び一つにした龍之介は、転生前の知識と異世界の人間の暮らしを参考に、森の中へ楽園を作るべく奔走するのだが……

処理中です...