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第四章 Cross Thought
疑惑と信頼
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「……ホントに決めてきやがったぞ、アイツ……」
反チャー傭兵団のアジトである廃屋。
肉屋のセネルが、ロウソクの光に照らし出された、目の前の書状を前に呟く。その声色には、隠し切れない困惑の感情が混じっている。
「これは……真に受けていいのか……? コレを含めて、アイツが我々を一網打尽にしようとする罠なのではないか……?」
魔道具店のターナーも、胡散臭いと言わんばかりの顔で、クイッと単眼鏡を上げる。
「そ……そんな! ジャスミンさんは、そんな事はしません……多分」
「……もし、彼がその気なら、とっくの昔に私達はお縄になってると思うけど」
彼らの意見に反対の意を唱えたのは、『飛竜の泪亭』のふたり――シレネとフェーンだ。
「…………」
この場に集まった全員の視線が、テーブルの上に広げられた一通の書状に集まる。
――『招待状』
その書状の表には、そう書いてある。
その書状の文面を要約すると、
『2週間後の“蒼紅並月祭”の日、夜6時より、チャー傭兵団本部中庭にて、傭兵団とサンクトル住民の親睦を深める為の立食パーティーを執り行う。住民は競って集まるべし――』
というものだった。
「立食パーティーは結構だがよ……。会場に並べる食事や酒類は住民側が用意しろ、だとよ。招待されたのは、コッチなんじゃねえのか……?」
セネルは、苦虫を噛みつぶした顔で言う。
シレネは、皮肉げに口を歪めて嗤う。
「――チャーらしいわね。住民に費やすお金は鐚一文出したくないみたい……」
「……前から気になっていたんだが、アンタとチャーには、何があったのだ? ひとかたならない恨みを抱いているようだが……」
ターナーが単眼鏡を掛け直しながら、ジロリと彼女を睨む。
「……レディのプライバシーを詮索するのはマナー違反って、前にも言ったでしょ? これだから、チェリーは……」
「だ……誰がチェリーだ、この商売女!」
シレネの言葉に、顔を真っ赤にして怒鳴るターナー。
「ほら、ムキになって怒る。タダの自白ですねほんとうにありがとうございました」
シレネは、舌を出しながら、更に彼を挑発する。
「き……貴様!」
「止めろ! ふたりとも!」
見かねたセネルが、慌てて止めに入る。
シレネは、フンと鼻を鳴らして、そっぽを向く。
「……でもねえ、シレネちゃん」
そこへ口を挟んだのは、野菜問屋の店主、ファミルデトン婆だった。
老婆は、シレネの肩にしわくちゃの手を置いて、優しく言う。
「この前は、ジャスミンちゃんが『保証する』って言ってくれてたけど、正直なところ、アタシたちは、アナタを完全に信用できていないんだよ」
「……」
「もちろん、シレネちゃんが、あの団長に深い恨みを持っている事は疑っていないんだけどねェ……。できれば、理由も教えてもらいたいんだよ。みんなが、アナタを仲間だと思えるようにね……」
ファミルデトン婆の優しい言葉に、シレネは僅かに表情を変えた。
彼女は俯いて口を開く。
「……昔、チャーに……大切な人を奪われた……」
「――!」
その場に居た人間が、静かにどよめく。
シレネは顔を上げた。その目尻には、光るものがあった。
彼女が嘘や出鱈目でそんな事を言ったのではないという事は、その表情と涙が雄弁に物語っている。
「――そうかい。……辛い事を訊いてしまったねえ。ごめんよ」
ファミルデトン婆が、微笑んで彼女の頭を撫でた。
「……その……すまなかった……」
ターナーも気まずそうに詫びの言葉を述べる。
シレネは指先で目尻を拭うと、周囲の者たちの顔をぐるりと見回しながら、静かに言った。
「……信じて貰えたかしら?」
「――ああ。今の言葉に嘘は無え。商人の経験と勘が、そう言ってる」
「……それはどうも」
セネルが力強く頷き、シレネは素っ気ない態度で礼を述べる。
その様子を見て、慌ててフェーンが口を開く。
「あ……あのですね。――ボ……私は――」
「ああ、フェーンちゃんはいいよ。チャー傭兵団と通じてるなんて、疑うまでもない!」
「――え?」
セネルに出鼻を挫かれ、呆気に取られるフェーン。
「そうだ! フェーンちゃんの様な天使を疑う訳がない! 疑ったりでもしたら、アッザムの怒りの天罰が下ってしまう!」
「フェーンちゃんはいい子だからねえ。フェーンちゃんがアタシたちを騙してるなんて、爪の先程も思わないよ」
「……えと……その……」
ターナーやファミルデトン婆からも全幅の信頼を寄せる言葉を送られ、フェーン……パームは、困って目を白黒させる。
「よーし、スッキリしたところで、“蒼紅並月祭”パーティーを利用して、奴らを倒す作戦を考えよう!」
「うむ。このサンクトルの町を、傭兵どもから解放するのだ!」
「商人としての意地を、今こそ示す時だ!」
「待ち遠しいねえ……!」
盛り上がる場の空気に乗り切れず、アワアワするだけのパーム。
そんな彼の肩に、ポンと手を乗せ、意味深に微笑みかけるシレネ。
「良かったわねぇ~フェーンちゃん。私なんかと違って、随分みんなからの信頼が篤くって」
「……し、シレネさん――」
「――それにしても」
シレネは、ジト目でセネルたちを睥睨し、皮肉満点に言った。
「随分大したものねぇ……商人の経験と勘って――」
反チャー傭兵団のアジトである廃屋。
肉屋のセネルが、ロウソクの光に照らし出された、目の前の書状を前に呟く。その声色には、隠し切れない困惑の感情が混じっている。
「これは……真に受けていいのか……? コレを含めて、アイツが我々を一網打尽にしようとする罠なのではないか……?」
魔道具店のターナーも、胡散臭いと言わんばかりの顔で、クイッと単眼鏡を上げる。
「そ……そんな! ジャスミンさんは、そんな事はしません……多分」
「……もし、彼がその気なら、とっくの昔に私達はお縄になってると思うけど」
彼らの意見に反対の意を唱えたのは、『飛竜の泪亭』のふたり――シレネとフェーンだ。
「…………」
この場に集まった全員の視線が、テーブルの上に広げられた一通の書状に集まる。
――『招待状』
その書状の表には、そう書いてある。
その書状の文面を要約すると、
『2週間後の“蒼紅並月祭”の日、夜6時より、チャー傭兵団本部中庭にて、傭兵団とサンクトル住民の親睦を深める為の立食パーティーを執り行う。住民は競って集まるべし――』
というものだった。
「立食パーティーは結構だがよ……。会場に並べる食事や酒類は住民側が用意しろ、だとよ。招待されたのは、コッチなんじゃねえのか……?」
セネルは、苦虫を噛みつぶした顔で言う。
シレネは、皮肉げに口を歪めて嗤う。
「――チャーらしいわね。住民に費やすお金は鐚一文出したくないみたい……」
「……前から気になっていたんだが、アンタとチャーには、何があったのだ? ひとかたならない恨みを抱いているようだが……」
ターナーが単眼鏡を掛け直しながら、ジロリと彼女を睨む。
「……レディのプライバシーを詮索するのはマナー違反って、前にも言ったでしょ? これだから、チェリーは……」
「だ……誰がチェリーだ、この商売女!」
シレネの言葉に、顔を真っ赤にして怒鳴るターナー。
「ほら、ムキになって怒る。タダの自白ですねほんとうにありがとうございました」
シレネは、舌を出しながら、更に彼を挑発する。
「き……貴様!」
「止めろ! ふたりとも!」
見かねたセネルが、慌てて止めに入る。
シレネは、フンと鼻を鳴らして、そっぽを向く。
「……でもねえ、シレネちゃん」
そこへ口を挟んだのは、野菜問屋の店主、ファミルデトン婆だった。
老婆は、シレネの肩にしわくちゃの手を置いて、優しく言う。
「この前は、ジャスミンちゃんが『保証する』って言ってくれてたけど、正直なところ、アタシたちは、アナタを完全に信用できていないんだよ」
「……」
「もちろん、シレネちゃんが、あの団長に深い恨みを持っている事は疑っていないんだけどねェ……。できれば、理由も教えてもらいたいんだよ。みんなが、アナタを仲間だと思えるようにね……」
ファミルデトン婆の優しい言葉に、シレネは僅かに表情を変えた。
彼女は俯いて口を開く。
「……昔、チャーに……大切な人を奪われた……」
「――!」
その場に居た人間が、静かにどよめく。
シレネは顔を上げた。その目尻には、光るものがあった。
彼女が嘘や出鱈目でそんな事を言ったのではないという事は、その表情と涙が雄弁に物語っている。
「――そうかい。……辛い事を訊いてしまったねえ。ごめんよ」
ファミルデトン婆が、微笑んで彼女の頭を撫でた。
「……その……すまなかった……」
ターナーも気まずそうに詫びの言葉を述べる。
シレネは指先で目尻を拭うと、周囲の者たちの顔をぐるりと見回しながら、静かに言った。
「……信じて貰えたかしら?」
「――ああ。今の言葉に嘘は無え。商人の経験と勘が、そう言ってる」
「……それはどうも」
セネルが力強く頷き、シレネは素っ気ない態度で礼を述べる。
その様子を見て、慌ててフェーンが口を開く。
「あ……あのですね。――ボ……私は――」
「ああ、フェーンちゃんはいいよ。チャー傭兵団と通じてるなんて、疑うまでもない!」
「――え?」
セネルに出鼻を挫かれ、呆気に取られるフェーン。
「そうだ! フェーンちゃんの様な天使を疑う訳がない! 疑ったりでもしたら、アッザムの怒りの天罰が下ってしまう!」
「フェーンちゃんはいい子だからねえ。フェーンちゃんがアタシたちを騙してるなんて、爪の先程も思わないよ」
「……えと……その……」
ターナーやファミルデトン婆からも全幅の信頼を寄せる言葉を送られ、フェーン……パームは、困って目を白黒させる。
「よーし、スッキリしたところで、“蒼紅並月祭”パーティーを利用して、奴らを倒す作戦を考えよう!」
「うむ。このサンクトルの町を、傭兵どもから解放するのだ!」
「商人としての意地を、今こそ示す時だ!」
「待ち遠しいねえ……!」
盛り上がる場の空気に乗り切れず、アワアワするだけのパーム。
そんな彼の肩に、ポンと手を乗せ、意味深に微笑みかけるシレネ。
「良かったわねぇ~フェーンちゃん。私なんかと違って、随分みんなからの信頼が篤くって」
「……し、シレネさん――」
「――それにしても」
シレネは、ジト目でセネルたちを睥睨し、皮肉満点に言った。
「随分大したものねぇ……商人の経験と勘って――」
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