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第六章 Fighting Fate
憤怒と氷刃
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「じ……時間切れって、何の事よ? いいから、さっさとトドメを刺しちゃいなさい、ヒース!」
チャーは、ジャスミンの言葉の意味が解らず、喚き立てる。
一方のヒースは、大棍棒を頭上高く掲げたまま、ジッと目を瞑って微動だにしない。
重厚な鐘の音が微かに響き、そして消えた。
ヒースは、目を開くと、ニヤリと唇を歪めた。
「……確かに12回、鳴ったな。――お前は、これを待って、ずっと逃げに徹していたのかい、色男?」
「……まあな。本当にギリギリでヤバかったけどね」
ヒースの言葉に、微笑で返すジャスミン。
「ガハハハッ! 大した奴だな。運もいい」
ヒースは、呵々大笑して、振り上げていた棍棒を下ろした。
「ちょ――ちょっと! 何やってんのよ、このでくの坊!」
ヒースの態度の急変に、目を吊り上げて、ヒステリックに怒鳴るチャー。
それに対してヒースは、肩を竦めてみせる。
「おいおい、団長サンよ……。アンタは、一体何の権利があって俺に指図するんだ?」
「は――? アンタ、顔面だけじゃ無くて、遂に脳みそまで石化したの? アタシはアンタの雇い主よ! クライアントの命令は絶対だって、ついさっきも言ってたじゃないのよ!」
とぼけた調子のヒースに、顔を火炎酒のように真っ赤にし、頭から湯気を立てながらチャーは叫ぶ。
ヒースは、その様子を愉快そうに眺めながら言う。
「ああ――そういえば言ったな。そうだぜ。俺は、クライアントの命令には絶対遵守がポリシーだ。――それが何か?」
「だ……だったら、アタシの命令に絶対遵守しなさいよ! アタシは、アンタのクライアントよッ!」
「ああ……確かにな……4分前までは」
「は――? よ、4分前までは……?」
ヒースの言わんとするところが分からず、戸惑った表情を浮かべるチャー。
ようやく起き上がったジャスミンが、ニヤニヤ微笑いながら口を開いた。
「団長さん。分からないなら教えてあげよう。――さっき、鳴り響いていた鐘楼の鐘の音は12回。つまり、午前零時を知らせる鐘の音だ。つまり、今の時間は午前零時過ぎ……」
「俺とアンタとの契約は単日アルバイト契約だ。――つまり」
ヒースが言葉を継ぎ、豪快な笑みを浮かべる。
「アンタと俺の雇用契約は、鐘が鳴った時点で満了したって事だ。――今の俺は、タダの無職さ。……誰の指図も受ける必要の無い……な」
「う……うそおおおおおおんっ!」
チャーの顔が、大岩に圧し潰されたモリブタの様に歪んだ。そのまま、へなへなとその場にへたり込む。
「ま、悪く思うな、団長殿。これも契約だからな!」
「……な、何よそれ……あり得ない……あり得ない……ありえ……り…………」
呆然とした表情で俯き、同じ事を呟き続けるチャー。
「……さて、と」
ジャスミンが、ヨロヨロとよろめきながら立ち上がった。そして、へたり込んだまま身体を丸めて、地面に向かって何かブツブツ言い続けているチャーに向かって、ふらつきながら近づいていく。
「……じゃ、団長様よ。いわゆるひとつの“チェックメイト”ってヤツだ。――大人しく降伏してくれると手間が省けるけど」
「…………ざけ……ざける……ん……ふざ……ふざけ…………」
「……へ? ……何か言った――」
「ふっざけるんじゃないわよぉおおおっ!」
「うわっ!」
突然、丸まった肉団子……チャーが、絶叫と共に雄々しく、勢いよく立ち上がった。彼に近付いていたジャスミンは、驚いて思わず尻餅をつく。
「な――な、何だぁ?」
「何で、アタシが、このアタシがアンタ達下等庶民如きに、ココまでコケにされなきゃいけないのよッ!」
チャーの顔は、狂乱呪法をかけられたオークですら裸足で逃げ出しそうな醜悪さと迫力を湛えながら、怒りでプルプルと頬の肉を小刻みに震わせている。
「もう赦さないっ! 三下色事師も、ウドの大木も、死神女も、白塗り野郎も! みんなミンナ、粉々にしてやるうっ!」
チャーは、口から泡を吹きながら、その短い腕を高く掲げ、
『アイサムの 息吹以て大気 凍て尽くし 我が手の元にて 刃と為さん!』
厳かに聖句を唱えた。
すると、チャーの掌からみるみる白い冷気が吹き出し、空気中の水分を冷却させ、冷やされた水分は凍り付きながら凝集し、みるみる氷の刀を形作り始める。
「な――何だ、それはぁっ?」
今度は、ジャスミンが驚愕する番だった。本能的に危険を察し、素早く後ろに跳んで距離を取る。
そうしている間にも、チャーの手元で氷の刀はどんどん巨大になっていく。遂には、キラキラと輝く透明な氷で出来た、刃渡り1エイム程の巨大な大刀となった。
「……覚悟はいいかしら、ジャスミンちゃぁん?」
右手でしかと握りしめた氷の大刀をブンブンと振り回し、口の端を醜悪に歪ませながら、憎々しげにチャーは叫んだ。
「ちゃ、チャー……アンタ……そんな体格のクセして、氷術士なのかよぉっ! イメージが違い過ぎるだろうがっ!」
ジャスミンが絶叫する。
「……いや、ツッコむところ、そこかい……?」
ヒースが、思わずズッコケる。
「何よぉおんっ! アタシみたいなクールビューティー……氷術士にピッタリでしょうがあああああっ!」
チャーが猪のような濁声で吼えながら、大刀を腰だめに構えながら突貫してきた。――その図体に似合わず……速い!
「うおっ! マジでか!」
ジャスミンは、そのスピードに驚愕しながら、横っ飛びに跳んで、チャーの突進を避ける。
「――甘いわよんっ! 『アイサムの 涙集めし 氷の矢 弾雨となりて 敵を射通す』っ!」
避けたジャスミンを横目で捉えつつ、左手を掲げて、新たな聖句を唱える。
彼の左手から白い冷気が吹き出し、瞬時に、キラキラと光を反射する無数の小さな氷の矢が生成された。チャーが左腕を振ると、その矢は一斉にジャスミン目がけて飛ぶ。
「う――ああああっ!」
ジャスミンは、咄嗟に背中を向けて丸くなる。次の瞬間、氷の矢はジャスミンの背中に次々と突き立ち、彼の顔は苦痛で歪む。
チャーは、ジャスミンの苦痛に耐える声を聞いて、恍惚の表情を浮かべた。
「――ふふん、いいザマねん、ジャスミンちゃん。……でもね、アタシをコケにした罪は、これしきじゃ晴れないのよん! ジリジリ嬲り殺してあげるから……楽しみにしてねえん♪」
チャーは、ジャスミンの言葉の意味が解らず、喚き立てる。
一方のヒースは、大棍棒を頭上高く掲げたまま、ジッと目を瞑って微動だにしない。
重厚な鐘の音が微かに響き、そして消えた。
ヒースは、目を開くと、ニヤリと唇を歪めた。
「……確かに12回、鳴ったな。――お前は、これを待って、ずっと逃げに徹していたのかい、色男?」
「……まあな。本当にギリギリでヤバかったけどね」
ヒースの言葉に、微笑で返すジャスミン。
「ガハハハッ! 大した奴だな。運もいい」
ヒースは、呵々大笑して、振り上げていた棍棒を下ろした。
「ちょ――ちょっと! 何やってんのよ、このでくの坊!」
ヒースの態度の急変に、目を吊り上げて、ヒステリックに怒鳴るチャー。
それに対してヒースは、肩を竦めてみせる。
「おいおい、団長サンよ……。アンタは、一体何の権利があって俺に指図するんだ?」
「は――? アンタ、顔面だけじゃ無くて、遂に脳みそまで石化したの? アタシはアンタの雇い主よ! クライアントの命令は絶対だって、ついさっきも言ってたじゃないのよ!」
とぼけた調子のヒースに、顔を火炎酒のように真っ赤にし、頭から湯気を立てながらチャーは叫ぶ。
ヒースは、その様子を愉快そうに眺めながら言う。
「ああ――そういえば言ったな。そうだぜ。俺は、クライアントの命令には絶対遵守がポリシーだ。――それが何か?」
「だ……だったら、アタシの命令に絶対遵守しなさいよ! アタシは、アンタのクライアントよッ!」
「ああ……確かにな……4分前までは」
「は――? よ、4分前までは……?」
ヒースの言わんとするところが分からず、戸惑った表情を浮かべるチャー。
ようやく起き上がったジャスミンが、ニヤニヤ微笑いながら口を開いた。
「団長さん。分からないなら教えてあげよう。――さっき、鳴り響いていた鐘楼の鐘の音は12回。つまり、午前零時を知らせる鐘の音だ。つまり、今の時間は午前零時過ぎ……」
「俺とアンタとの契約は単日アルバイト契約だ。――つまり」
ヒースが言葉を継ぎ、豪快な笑みを浮かべる。
「アンタと俺の雇用契約は、鐘が鳴った時点で満了したって事だ。――今の俺は、タダの無職さ。……誰の指図も受ける必要の無い……な」
「う……うそおおおおおおんっ!」
チャーの顔が、大岩に圧し潰されたモリブタの様に歪んだ。そのまま、へなへなとその場にへたり込む。
「ま、悪く思うな、団長殿。これも契約だからな!」
「……な、何よそれ……あり得ない……あり得ない……ありえ……り…………」
呆然とした表情で俯き、同じ事を呟き続けるチャー。
「……さて、と」
ジャスミンが、ヨロヨロとよろめきながら立ち上がった。そして、へたり込んだまま身体を丸めて、地面に向かって何かブツブツ言い続けているチャーに向かって、ふらつきながら近づいていく。
「……じゃ、団長様よ。いわゆるひとつの“チェックメイト”ってヤツだ。――大人しく降伏してくれると手間が省けるけど」
「…………ざけ……ざける……ん……ふざ……ふざけ…………」
「……へ? ……何か言った――」
「ふっざけるんじゃないわよぉおおおっ!」
「うわっ!」
突然、丸まった肉団子……チャーが、絶叫と共に雄々しく、勢いよく立ち上がった。彼に近付いていたジャスミンは、驚いて思わず尻餅をつく。
「な――な、何だぁ?」
「何で、アタシが、このアタシがアンタ達下等庶民如きに、ココまでコケにされなきゃいけないのよッ!」
チャーの顔は、狂乱呪法をかけられたオークですら裸足で逃げ出しそうな醜悪さと迫力を湛えながら、怒りでプルプルと頬の肉を小刻みに震わせている。
「もう赦さないっ! 三下色事師も、ウドの大木も、死神女も、白塗り野郎も! みんなミンナ、粉々にしてやるうっ!」
チャーは、口から泡を吹きながら、その短い腕を高く掲げ、
『アイサムの 息吹以て大気 凍て尽くし 我が手の元にて 刃と為さん!』
厳かに聖句を唱えた。
すると、チャーの掌からみるみる白い冷気が吹き出し、空気中の水分を冷却させ、冷やされた水分は凍り付きながら凝集し、みるみる氷の刀を形作り始める。
「な――何だ、それはぁっ?」
今度は、ジャスミンが驚愕する番だった。本能的に危険を察し、素早く後ろに跳んで距離を取る。
そうしている間にも、チャーの手元で氷の刀はどんどん巨大になっていく。遂には、キラキラと輝く透明な氷で出来た、刃渡り1エイム程の巨大な大刀となった。
「……覚悟はいいかしら、ジャスミンちゃぁん?」
右手でしかと握りしめた氷の大刀をブンブンと振り回し、口の端を醜悪に歪ませながら、憎々しげにチャーは叫んだ。
「ちゃ、チャー……アンタ……そんな体格のクセして、氷術士なのかよぉっ! イメージが違い過ぎるだろうがっ!」
ジャスミンが絶叫する。
「……いや、ツッコむところ、そこかい……?」
ヒースが、思わずズッコケる。
「何よぉおんっ! アタシみたいなクールビューティー……氷術士にピッタリでしょうがあああああっ!」
チャーが猪のような濁声で吼えながら、大刀を腰だめに構えながら突貫してきた。――その図体に似合わず……速い!
「うおっ! マジでか!」
ジャスミンは、そのスピードに驚愕しながら、横っ飛びに跳んで、チャーの突進を避ける。
「――甘いわよんっ! 『アイサムの 涙集めし 氷の矢 弾雨となりて 敵を射通す』っ!」
避けたジャスミンを横目で捉えつつ、左手を掲げて、新たな聖句を唱える。
彼の左手から白い冷気が吹き出し、瞬時に、キラキラと光を反射する無数の小さな氷の矢が生成された。チャーが左腕を振ると、その矢は一斉にジャスミン目がけて飛ぶ。
「う――ああああっ!」
ジャスミンは、咄嗟に背中を向けて丸くなる。次の瞬間、氷の矢はジャスミンの背中に次々と突き立ち、彼の顔は苦痛で歪む。
チャーは、ジャスミンの苦痛に耐える声を聞いて、恍惚の表情を浮かべた。
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