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第六章 Fighting Fate
猛襲と窮地
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チャーは、サディスティックな笑みを浮かべると、再び左手を前に翳した。
「まだまだ行くわよおん! 『アイサムの 涙集めし 氷の矢 弾雨となりて 敵を射通す』!」
濁声で紡がれた聖句と共に、再び大気中の水分が凝集・冷却されて氷の矢となり、ジャスミン目がけて放たれる。
「――くっ!」
ジャスミンは、ギリギリまで矢を引きつけてから、横っ飛びに跳んで回避する。
氷の矢は、石畳の床に突き刺さり、高い音を立てて弾けた。
ジャスミンは、ユラリと立ち上がる。もう、その所作にも表情にも余裕は見られない。
――背中の感覚が無い。背中に突き立った氷の矢の冷気によって、感覚が麻痺してきていた。
いや、それだけでは無い。その麻痺は、徐々に彼の身体の奥底まで浸透してきている気がする。
(……このままじゃ、身体の中まで凍らされてしまう……!)
既に、吐く息まで白くなっている。
――早く、背中に刺さった氷の矢を引き抜かなければ……! ジャスミンは、背中をまさぐって何とか氷の矢を掴もうと足掻く。
「――抜かさないわよん!」
ジャスミンの動きを見たチャーは、おもむろにしゃがみ込み、左掌を石畳の床に付け、
『アイサムの 凍れる腕 地より出で 彼の者捉え 固く抱かん!』
新たな聖句を唱える。
彼が左掌で触れた石畳が、掌から放射された冷気によって真っ白に氷結した。そして、冷気はジャスミンの方に向かって、一直線に近づいていき、通過した石畳の床がどんどん真っ白に凍りつく。
ジャスミンは、みるみる近づいてくる冷気を避けようと、足を動かそうとするが――、
(……う、動かない!)
凍えた身体は、思うように動いてくれない。
遂に、冷気が逃げ切れなかったジャスミンの足元に到達した。ピキピキと音を立てながら、彼の革靴がみるみる凍りつき始めた。
「や――ヤベえっ!」
この術の狙いは、ジャスミンの脚を凍りつかせての拘束――。それに気付いたジャスミンの行動は早かった。腰に差したナイフを抜き、急いで靴紐を切断して靴を脱ぎ捨て、大きくジャンプし、まだ氷結していない床に着地した。
「――あらら、失敗しちゃったわあん。なかなか往生際が悪いわねえん」
チャーは、余裕たっぷりに嘲笑う。
――負けじと、ジャスミンも口の端を上げて微笑み、言う。
「……おいおい、酷いな、団長さん。あの靴は、女からプレゼントされたお気に入りだったんだけどさあ……。今度あの娘に会った時に、俺はどう言い訳すればいいんだい?」
「……大丈夫よん。アンタはもう誰にも会えないから――生きてはね!」
そう言い捨てるやいなや、今度は氷の大刀を振り上げ、床を短い脚で蹴って、一足飛びにジャスミンに肉薄する。
それに対して、ジャスミンは、今度はその場を動かなかった。振り下ろされる氷の刃を、最小限の動きで躱すと、手にしたナイフの刃を上にして、思い切りチャーの横腹に突き刺した。
「……もらった!」
「……………………もらったって、何がかしらん?」
「――!」
脇腹を刺されながらも、余裕の表情のチャーに、目を丸くするジャスミンは、手元に視線を落とす。
「……何だよ、そりゃ……」
思わず、呆れ声が出る。ジャスミンのナイフは、チャーの分厚い贅肉に阻まれて、突き刺さる事無くひん曲がってしまっていた――。
「いやん! いつまでもくっつかないでぇ! セクハラよぉん!」
「ぶべらっ!」
呆然とするジャスミンの胸に、とんでもなく重い肘打ちがヒットし、彼は吹き飛ばされた。
受け身も取れず、石畳をゴロゴロと転がるジャスミン。部屋の中央まで飛ばされ、そのままぐったりとして動かない。
「あーら、もうおしまいかしらん。偉そうな口を叩いておいて、大したことないのねぇん」
チャーは、ブヒブヒと下品な声で嗤い、氷の大刀に舌なめずりすると、ゆっくりとジャスミンに歩み寄る。
「さあ、そろそろトドメを刺してあげるわよぉん♪」
――と、倒れ臥すジャスミンに駈け寄る影が。
「おい! ジャス公! しっかりしろ!」
ジザスは、ジャスミンを抱き起こし、頬をペチペチ叩きながら呼びかける。だが、ジャスミンの意識が朦朧としている事を察すると、彼の腕を自分の肩に回し、担ぎ上げる。
ジャスミンを抱えるジザスの向かう先には、金庫室の扉。――しかも、
「あ――開いているっ!」
チャーは、目を疑った。
まさか、あの男……。解除不可能と名高い、相互4連結のフェルー式錠を全て解除したというのか……この短時間で!
「ふ……ふざけんじゃないわよぉん! こ、コソ泥の分際でぇっ!」
チャーは、憤怒で顔色をどす黒くし、目を剥き出して、ジザスとジャスミンの背中に向けて左手を翳す。
『アイサムのォッ 涙集めし 氷の矢ァッ 弾雨となりてッ 敵を射通すゥッ!』
ふたりに、先程に倍する氷の矢が襲いかかる――が、間一髪で、ジザスとジャスミンは、扉の開いた金庫室の中に滑り込んだ。氷の矢は、金庫室の分厚いアセテジュ鋼の扉に弾かれた。
「ち……畜生めがぁああああああっ!」
金庫室に、サヘクマムルアナブタの雄叫びもかくやというような、野太い濁声の絶叫が響き渡った。
「まだまだ行くわよおん! 『アイサムの 涙集めし 氷の矢 弾雨となりて 敵を射通す』!」
濁声で紡がれた聖句と共に、再び大気中の水分が凝集・冷却されて氷の矢となり、ジャスミン目がけて放たれる。
「――くっ!」
ジャスミンは、ギリギリまで矢を引きつけてから、横っ飛びに跳んで回避する。
氷の矢は、石畳の床に突き刺さり、高い音を立てて弾けた。
ジャスミンは、ユラリと立ち上がる。もう、その所作にも表情にも余裕は見られない。
――背中の感覚が無い。背中に突き立った氷の矢の冷気によって、感覚が麻痺してきていた。
いや、それだけでは無い。その麻痺は、徐々に彼の身体の奥底まで浸透してきている気がする。
(……このままじゃ、身体の中まで凍らされてしまう……!)
既に、吐く息まで白くなっている。
――早く、背中に刺さった氷の矢を引き抜かなければ……! ジャスミンは、背中をまさぐって何とか氷の矢を掴もうと足掻く。
「――抜かさないわよん!」
ジャスミンの動きを見たチャーは、おもむろにしゃがみ込み、左掌を石畳の床に付け、
『アイサムの 凍れる腕 地より出で 彼の者捉え 固く抱かん!』
新たな聖句を唱える。
彼が左掌で触れた石畳が、掌から放射された冷気によって真っ白に氷結した。そして、冷気はジャスミンの方に向かって、一直線に近づいていき、通過した石畳の床がどんどん真っ白に凍りつく。
ジャスミンは、みるみる近づいてくる冷気を避けようと、足を動かそうとするが――、
(……う、動かない!)
凍えた身体は、思うように動いてくれない。
遂に、冷気が逃げ切れなかったジャスミンの足元に到達した。ピキピキと音を立てながら、彼の革靴がみるみる凍りつき始めた。
「や――ヤベえっ!」
この術の狙いは、ジャスミンの脚を凍りつかせての拘束――。それに気付いたジャスミンの行動は早かった。腰に差したナイフを抜き、急いで靴紐を切断して靴を脱ぎ捨て、大きくジャンプし、まだ氷結していない床に着地した。
「――あらら、失敗しちゃったわあん。なかなか往生際が悪いわねえん」
チャーは、余裕たっぷりに嘲笑う。
――負けじと、ジャスミンも口の端を上げて微笑み、言う。
「……おいおい、酷いな、団長さん。あの靴は、女からプレゼントされたお気に入りだったんだけどさあ……。今度あの娘に会った時に、俺はどう言い訳すればいいんだい?」
「……大丈夫よん。アンタはもう誰にも会えないから――生きてはね!」
そう言い捨てるやいなや、今度は氷の大刀を振り上げ、床を短い脚で蹴って、一足飛びにジャスミンに肉薄する。
それに対して、ジャスミンは、今度はその場を動かなかった。振り下ろされる氷の刃を、最小限の動きで躱すと、手にしたナイフの刃を上にして、思い切りチャーの横腹に突き刺した。
「……もらった!」
「……………………もらったって、何がかしらん?」
「――!」
脇腹を刺されながらも、余裕の表情のチャーに、目を丸くするジャスミンは、手元に視線を落とす。
「……何だよ、そりゃ……」
思わず、呆れ声が出る。ジャスミンのナイフは、チャーの分厚い贅肉に阻まれて、突き刺さる事無くひん曲がってしまっていた――。
「いやん! いつまでもくっつかないでぇ! セクハラよぉん!」
「ぶべらっ!」
呆然とするジャスミンの胸に、とんでもなく重い肘打ちがヒットし、彼は吹き飛ばされた。
受け身も取れず、石畳をゴロゴロと転がるジャスミン。部屋の中央まで飛ばされ、そのままぐったりとして動かない。
「あーら、もうおしまいかしらん。偉そうな口を叩いておいて、大したことないのねぇん」
チャーは、ブヒブヒと下品な声で嗤い、氷の大刀に舌なめずりすると、ゆっくりとジャスミンに歩み寄る。
「さあ、そろそろトドメを刺してあげるわよぉん♪」
――と、倒れ臥すジャスミンに駈け寄る影が。
「おい! ジャス公! しっかりしろ!」
ジザスは、ジャスミンを抱き起こし、頬をペチペチ叩きながら呼びかける。だが、ジャスミンの意識が朦朧としている事を察すると、彼の腕を自分の肩に回し、担ぎ上げる。
ジャスミンを抱えるジザスの向かう先には、金庫室の扉。――しかも、
「あ――開いているっ!」
チャーは、目を疑った。
まさか、あの男……。解除不可能と名高い、相互4連結のフェルー式錠を全て解除したというのか……この短時間で!
「ふ……ふざけんじゃないわよぉん! こ、コソ泥の分際でぇっ!」
チャーは、憤怒で顔色をどす黒くし、目を剥き出して、ジザスとジャスミンの背中に向けて左手を翳す。
『アイサムのォッ 涙集めし 氷の矢ァッ 弾雨となりてッ 敵を射通すゥッ!』
ふたりに、先程に倍する氷の矢が襲いかかる――が、間一髪で、ジザスとジャスミンは、扉の開いた金庫室の中に滑り込んだ。氷の矢は、金庫室の分厚いアセテジュ鋼の扉に弾かれた。
「ち……畜生めがぁああああああっ!」
金庫室に、サヘクマムルアナブタの雄叫びもかくやというような、野太い濁声の絶叫が響き渡った。
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