好色一代勇者 〜ナンパ師勇者は、ハッタリと機転で窮地を切り抜ける!〜(アルファポリス版)

朽縄咲良

文字の大きさ
81 / 176
第七章 夜闇が言い訳をしている

鎌と大蛇

しおりを挟む
 「そ――! その……銀髪は……!」

 隊長と、護送の騎士達は、彼女のしろがねの髪を見て、目に見えてたじろいだ。
 バルサ王国最強を誇るワイマーレ騎士団を一夜にして壊滅させたのが、誰もが創世神話で聴かされた覚えのある、伝説上の存在だった筈の“しろがねの死神”だったという噂は、騎士達の間でも広く囁かれていた。
 その伝説的な災厄が、正に今、目の前で不気味に佇んでいる――。騎士達は、その表情に強い恐怖と怯えを浮かべながら、それを振り払わんと剣を握る手にグッと力を込めた。
 そんな騎士達を前にして、彼女は、彫像の如く美しい無表情を保ったまま、再度問い直す。

「……もう一度問う。この馬車に乗せられているのは、チャーか?」
「そ……そうだ! それがどうした! 我々の邪魔立てをするというのなら、例えあの“銀の死神”といえど容赦はせぬぞ!」

 隊長は、精一杯の勇気と威厳を掻き集め、大音声で叫んだ。
 彼女は、隊長の恫喝にも動じる様子は見せず、静かな声で言う。

「……私を“銀の死神”と知った上で、抗うつもりか」
「……」
「――今の私は。大人しく、その馬車を置いて立ち去るのであれば、お前達に危害を加える事は無いと保証しよう」
「……痴れ者が! 我らバルサ王国の騎士を舐めるな! たとえ、相手が“銀の死神”といえど、任務を放棄して逃散したとあらば、王国の名に泥を塗り、末代までの恥となろう! そのような恥辱を受ける事を良しとするような腰抜けは、この場には一人も居らぬわ!」

 隊長はそう叫ぶと、持っていた松明を前方へ振った。それを合図として、騎士達が騎乗のまま、一斉に前方の死神へ向けて突撃する。
 死神は、一瞬目を瞑り、小さく溜息を吐いた様だった。

「……愚かな。小さな誇りの為に、命を無駄に散らすか……」

 彼女がそう呟くと同時に、ローブで隠れた左腕の辺りが、不気味に蠢いた。
 先頭の騎馬が彼女に迫り、馬上の騎士が、彼女を脳天から一刀両断にせんと、振り上げた剣を裂帛の気合と共に振り下ろす。

「――がふっ……」

 くぐもった断末魔の声を上げたのは、銀の死神ではなく、騎士の方だった。
 馬ごと胴を横薙ぎに分断された騎士は、凍り付いた表情のまま上半身だけ宙を舞い、一拍おいて地面に叩きつけられた。
 後続の騎馬は、首を飛ばされ横倒しになった馬の死骸に進路を遮られ、棒立ちになって急停止する。乗っていた騎士はバランスを崩して落馬し、起き上がろうとした瞬間に、兜ごと脳天を真っ二つに切り割られた。

「――!」

 瞬く間に、仲間の騎士を二人も無惨に屠られ、残った騎士達に動揺が広がる。
 眼前の死神は、変わらぬ無表情で、その場で佇んでいる。彼女の左腕からは、夜闇よりも一層黒い、巨大な鎌が生えていた。

「――これで解っただろう? お前達には、決して私は斃せない。大人しく馬車を置いて去ってく――」
「ひ――怯むなぁっ! 一斉にかかって、あの死神を討ち取り、手柄とせよ!」

 懇願にも聞こえる、死神の言葉を遮るように、隊長は騎士達を叱咤し、再び松明を振り下ろした。
 その合図を受けた騎士達は、互いに目配せをすると、三手に分かれ、左右と正面から同時に死神に斬りかかろうと、騎馬を疾駆させる。

「……愚かな」

 そう一言だけ、死神は呟いた。その表情には、微かな哀しみの色が混じっていた。




 「あ……あ……ああ……」

 隊長は、言葉も出ない。ただただ目を見開いて、眼前を凝視するのみだ――。彼の前には、切り刻まれた部下達の欠片が、夥しい血の海に浸り散乱している惨状が広がっていた。
 ぶちまけられた血と肉片の中で、ひとり悠然と佇む銀髪の美女が顔を上げ、ゾッとするほど美しい、青く光る瞳で、隊長をジッと見据える。

「……残ったのは、お前ひとりだな」
「ひ――!」

 隊長は、情けない悲鳴を上げると、ずり落ちるように馬から下りた。そして、膝や掌が血に塗れるのも厭わず、這い蹲って死神に頭を下げる。

「……た、頼む! 馬車はお前に呉れてやる! チャーも引き渡す! だから……い、命だけは……!」
「……」

 死神は、何も言わず、這い蹲る隊長の頭を無表情で見下ろし――、
 次の瞬間、硬いブーツを履いた脚で、隊長の頭を蹴り上げた。

「ぶへあっ!」

 爪先で鼻頭を潰された隊長は、鼻血を噴き出しながら、仰向けに倒れた。

「――た……たしゅけ――」
「――お前が、もっと早くその言葉を吐いていれば、お前とお前の部下の命は長らえていたものを。――遅すぎだ」

 死神の平坦な声に、僅かに怒りの感情が混じる。
 隊長は、鼻血が流れ続けるのも構わずに、彼女の脚に縋り付く。

「た、頼む……頼みますぅ! どうか、どうか、私だけでも……!」
「ダメだ」

 隊長の懇願を、にべもなく拒絶し、彼女は言葉を継いだ。

「……もう、お前を助ける訳にはいかない。――お前は、自身の矮小な矜恃と愚かな状況判断の末に下された無謀な命令によって、無駄に命を散らした部下達の為にも、今ここで死なねばならない」

 そう言い捨てると、彼女は左腕の大鎌の刃を、頭上に掲げる。
 と、黒い霧は、瞬く間に大鎌から蠢く大蛇へと、その形を変えた。

「ひ……ひ――――!」

 隊長は、顔面を引き攣らせ、ゴキブリのように不様に地面を這いずりながら、死神から離れようと足掻く。
 だが、死神の左腕から生えた黒い大蛇は、一片の慈悲無く、彼の首筋に食らいついた。

「ただ殺すでは不十分だ……貴様は、

 そして、彼女のそう呟くと同時に、隊長の顔が恐怖と苦痛と苦悶とで歪む。

「あ……ああああ……ああああああああああぁあああっ!」

 黒い大蛇の身体が紅と蒼に光り、それと共に、彼の身体は、瑞々しい果物が干からびていくように、みるみる萎んでいく。
 やがて、隊長の断末魔の悲鳴は、掠れるように途絶えた。
 そこには隊長の姿は無く、彼が身に着けていた鎧だけが、抜け殻のように地面に転がっているだけだった――。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

事務仕事しかできない無能?いいえ、空間支配スキルです。~勇者パーティの事務員として整理整頓していたら、いつの間にか銅像が立っていました~

水月
恋愛
「在庫整理しかできない無能は不要だ」 第一王子から、晩餐会の場で婚約破棄と国外追放を告げられた公爵令嬢ユズハ。 彼女のギフト【在庫整理】は、荷物の整理しかできないハズレスキルだと蔑まれていた。 だが、彼女は知っていた。 その真価は、指定空間内のあらゆる物質の最適化であることを。 追放先で出会った要領の悪い勇者パーティに対し、ユズハは事務的に、かつ冷徹に最適化を開始する。 「勇者様、右腕の筋肉配置を効率化しました」 「魔王の心臓、少し左にずらしておきましたね」 戦場を、兵站を、さらには魔王の命までをも在庫として処理し続けた結果、彼女はいつしか魔王討伐勇者パーティの一人として、威圧感溢れる銅像にまでなってしまう。 効率を愛する事務屋令嬢は、自分を捨てた国を不良債権として切り捨て、再出発する。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

ジャングリラ~悪魔に屠られ魔王転生。死の森を楽園に変える物語~

とんがり頭のカモノハシ
ファンタジー
「別の世界から勇者を召喚する卑怯な手口」に業を煮やした堕天使・ルシファーにより、異世界へ魔王として転生させられた大学生・左丹龍之介。 先代・魔王が勇者により討伐されて100年――。 龍之介が見たものは、人魔戦争に敗れた魔族が、辺境の森で厳しい生活を余儀なくされている姿だった。 魔族の生活向上を目指し、龍之介は元魔王軍の四天王、悪魔公のリリス、フェンリルのロキア、妖狐の緋魅狐、古代龍のアモンを次々に配下に収めていく。 バラバラだった魔族を再び一つにした龍之介は、転生前の知識と異世界の人間の暮らしを参考に、森の中へ楽園を作るべく奔走するのだが……

処理中です...