好色一代勇者 〜ナンパ師勇者は、ハッタリと機転で窮地を切り抜ける!〜(アルファポリス版)

朽縄咲良

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第八章 ある日、湖上で

成果と情勢

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 「お見事でした」

 サンクトルギルド長との会談を終えて、迎賓室のソファに疲れた身体を埋めたバルサ王に、大教主はにこやかに微笑みかけた。

「見事? ああ……先程の会談の事か?」

 バルサ王は、閉じていた眼を開けて、満足げな笑みを浮かべた。

「まあ、そうだな。サンクトルの自治権を引き続き認める代わりに、我が王国軍の一旅団の駐屯と、その維持費という名目で、ギルド組合からの資金供出を認めさせる事が出来た」

 王は、グラスにカロ酒を注ぐと、グビリと一呷りする。

「――これまで自由貿易都市の特権を笠に着て、我々の介入を頑として拒んできたこの街サンクトルの扉を、ようやくこじ開ける事ができた。我が王国にとって、喜ばしい出来事だ」
「……ある意味、傭兵団のお陰でもありますな」

 大教主の言葉に、複雑そうな表情を浮かべるバルサ王。

「……皮肉か、大教主。――というか、サンクトルから救援の使者が参った時に、チャンスだと言ったのは、他ならぬお前だぞ」
「ホッホッホ。左様でしたかのう?」

 しらばっくれる大教主をジト目で睨むバルサ王。

「……とはいえ、まだ浮かれるには早いな。――まだ油断は出来ぬ」
「左様でございます。――まだ、ダリア山に拠る、本体であるダリア傭兵団の方は無傷で健在ですからな……」

 大教主は、難しい顔をして、小さく頷く。

「傭兵ども自体は恐るるに足りぬ……それは、此度のサンクトル奪回の経緯を見るに明らかだが――問題は……」
「……“しろがねの死神”と、それを従える団長――ですのぉ」

 大教主の言葉に、王は深く頷く。

「まさか、伝説の存在が、この様な形で我らの前に現れるとはな――」
「まったく……。伝説は伝説らしく、本の中で大人しくしておれば良いものを――といったところですな」
「余の言葉を先取りするなよ」
「おっと。これは、失礼致しました……ホッホッホ」

 禿げ上がった頭をポンと叩いて、剽軽に笑う大教主。と、その顔が真顔に戻る。

「……ですが、死神に関しましては、対処のしようがあるかと思われます」
「――! そうなのか?」

 大教主の言葉に、王は驚き、思わず身を乗り出す。
 深く頷き、大教主は話を続ける。

「左様……。傭兵団に銀の死神がいる事が判明してから、しばらく神殿の書庫に籠もりまして、彼女に関する神話や伝承を徹底的に洗い直した結果、導き出した……ではあるのですが」
「……何だ、ただの推論なのか」

 あからさまにガッカリした様子で、溜息を吐くバルサ王。だが、大教主は首を横に振る。

「ですが、先日“銀の死神”と一戦交えたという男の話を伺って、その推論も満更間違ってはいないのでは……と思います」
「……て、ちょっと待て! 一戦交えた……死神と? そんな男がいるのか?」

 大教主の言葉に今度こそ仰天して、ソファから立ち上がる王に、柔らかく微笑む大教主。

「ええ。正に雲を衝く大男といった風体の男でした。死神と戦った際に、脇腹を深く抉られたようですが、ピンピンしておりましたぞ」
「……信じられんな。数万年の昔に文明を一度滅ぼしたと伝えられ、あのワイマーレ騎士団すら鏖殺してのけた“銀の死神”と対峙して、その程度のケガだけで生き残るとは……」

 バルサ王は、興味で目をキラキラと輝かせる。

「その者は、まだ、この街に居るのか? 是非、一度会って話を聞きたいものだが……」
「――残念ながら、陛下がお出でになる直前に、ジャスミン殿たちと共に、既に発ってしまいまして……」
「何だ、もう居らんのか。――つまらぬ」

 王は、あからさまに落胆した様子で肩を落とした。と、ふと、大教主の言葉に引っかかりを感じた。

「……うん? ジャスミン? ジャスミンとは、確か……」
「ああ、左様でございます。書状にてお伝えした、サンクトル奪還作戦の発案者にして功労者でございます」
「……『共に発った』という事は、その者も、既にこの街には居ないのか……」

 バルサ王は、またガックリとした。

「……実は、そのジャスミンとやらにも会ってみたくて、楽しみにしていたのだがなぁ……。何だよ、どいつもこいつも……」
「……ホッホッホ、実に間が悪い事でございますのぉ。まあ、いずれ」

 大教主は、笑って誤魔化した。
 彼は、実は知っている。
 本当は、堅苦しい事と権力的なモノが嫌いなジャスミンが、

「王様の前で這い蹲って、『ははーっ! 有り難きシアワセにございますーっ!』とかするなんて、絶対にゴメンだよーん」

 と言い残して、引き留める間もなく、仲間を引き連れて出ていってしまった事を。
 しかし、それを正直に目の前でむくれている王に伝えようものなら、確実に拗ねてしまう事も察しがつく。
 そうなってしまったら、また、いじけてしまった王の機嫌を、言葉を尽くして直してあげなければならなくなる。――その手間を防ぐ為には、余計な事を言わないのが一番だろう……。

(――ああ、もう、何というか……)

 大教主は、穏やかな微笑を湛えた表情のまま、心の中で密かに呟く。

(どいつもこいつも、面倒くさいのう……)
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