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第八章 ある日、湖上で
宿と老人
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ファジョーロの村は、サンクトルから70ケイムほど東にある、名産のサチモ豆くらいしか取り柄の無い、寂れた農村である。
旅人向けの施設といえば、村の中央部にポツンと存在する、一階部分が二階の重さによって押し潰されそうな、廃墟寸前の居酒屋兼宿屋『レムの揺り籠亭』くらいしか無い。
「うへぇ……」
ジャスミンは、夜闇の中では幽霊屋敷かと見紛う佇まいの『レムの揺り籠亭』を見上げて、ウンザリした声を上げた。
「……『レムの揺り籠亭』とかいう、ご立派なお名前だから、どんな豪華旅館なんだと思ったら……。こりゃ、今すぐ『レムの揺り籠亭』から『ダレムの棺桶亭』に改名した方がいいぜ……」
「……贅沢言える立場じゃ無いでしょ。『3日連続野宿は嫌だ』って、ひとりで我が儘言って、こんな夜更けまで私達を歩かせたのはアナタよ、ジャス……」
呆れ顔でジャスミンを睨むアザレア。パームも、彼女の言葉に大きく頷く。
「そうですよ。この村には、他の宿屋も無いみたいですし……。屋根があるだけマシと思わないと」
「……さり気に酷い事言うよね、キミ」
ドン引き顔でパームを見るジャスミン。
「つうかよ、そもそもこんな小まい建物に、俺は入れるのかねぇ?」
ヒースは、顎髭を抜きながら、苦笑して言う。
「……入る事は入ると思いますけど……」
「朝起きたら、二階建てが平屋建てになってた――とか、ありそうだなぁ」
ジャスミンの冗談が冗談に聞こえない。
「……とにかく、お腹が空いたから、早く入りましょう。嫌だったら、村外れででもテントを張って、夜露を凌ぎなさい」
「ヘイヘイ……。メシと酒くらいは、俺の抱く予想を裏切って欲しいモンだけどねぇ……」
ジャスミンは、疲れた顔を皮肉げに歪めながら、背中の背嚢を担ぎ直して、目の前の宿屋へ向かって歩を進めるのだった。
◆ ◆ ◆ ◆
「予想通りだったなぁ……悪い意味で」
ジャスミンは、粗末な木のテーブルの皿の山を前にして、全く膨らまない腹をさすりながらボヤいた。
「いっくら、この村の特産が豆だって言ってもよぉ……。前菜からメインから、果てはデザートまで豆、豆、豆の豆づくしって……どうなのよ」
「――そうかしら? 私は、結構いいと思ったわよ。特に、メインで出てきた、『山羊肉風豆ステーキ』なんかは、結構味付けも頑張ってたと思うけど……」
「――でも、結局豆じゃん! 肉じゃ無いじゃん! 物足りないんだよぉっ!」
ジャスミンは、アザレアの言葉に対して、断固とした抗議の声を上げる。
「……充分じゃないですかね……。少なくとも、神殿で饗される午餐よりはマシ……あ、いや」
「アレと一緒にするなよ……神殿のメシは、もはやメシじゃねえ。小麦を固めて焼いた何かと、芋をぶち込んで水で煮ただけの何かだよ……」
「……でも、あれは修行の一環――」
「違えよ! アレは、修行という皮を被った拷問……いや、もはや人権侵害です!」
「ぐ……」
パーム、ジャスミンの言葉に言い返せず。
「ヒースは、一目見ただけで、ウンザリ顔でさっさと出て行っちゃったからね……」
アザレアは、遠い目で思い返す。
「ああ……『こんなモン食うヒマがあるなら、自分で蛇でも獲って、蒲焼きにして食った方がまだマシだわ』とか言ってたな……」
「まあ確かに、あの人には物足りないどころじゃないでしょうからねぇ……味も量も」
パームは、苦笑しながら言う。
ジャスミンは、興味なさげに立ち上がった。
「まあ、いいんじゃね。あのオッサンのデカさじゃ、どっちみちこんな宿屋の部屋に収まらないだろうし……。外で腹出して寝てても、獣に襲われるような心配も無いだろうしさ……」
「――もし、旅のお方……。少々、宜しいですかな……?」
「へ?」
部屋に戻ろうとしたジャスミンは、突然背後から声をかけられて、振り返った。
そこには、腰の曲がった老人が、杖をついて立っていた。
「あの……おじいさん……私達に何か用ですか?」
アザレアは、怪訝な顔をして、老人に問いかけた。
と、老人は、おもむろに膝をつき、深々と頭を下げた。
「皆様の佇まい……、さぞや腕の立つ方々だとお見受け致しました……! ――お、お願い致しますじゃ! この村――この村を、ヤツらから――お救い下さいませぇっ!」
旅人向けの施設といえば、村の中央部にポツンと存在する、一階部分が二階の重さによって押し潰されそうな、廃墟寸前の居酒屋兼宿屋『レムの揺り籠亭』くらいしか無い。
「うへぇ……」
ジャスミンは、夜闇の中では幽霊屋敷かと見紛う佇まいの『レムの揺り籠亭』を見上げて、ウンザリした声を上げた。
「……『レムの揺り籠亭』とかいう、ご立派なお名前だから、どんな豪華旅館なんだと思ったら……。こりゃ、今すぐ『レムの揺り籠亭』から『ダレムの棺桶亭』に改名した方がいいぜ……」
「……贅沢言える立場じゃ無いでしょ。『3日連続野宿は嫌だ』って、ひとりで我が儘言って、こんな夜更けまで私達を歩かせたのはアナタよ、ジャス……」
呆れ顔でジャスミンを睨むアザレア。パームも、彼女の言葉に大きく頷く。
「そうですよ。この村には、他の宿屋も無いみたいですし……。屋根があるだけマシと思わないと」
「……さり気に酷い事言うよね、キミ」
ドン引き顔でパームを見るジャスミン。
「つうかよ、そもそもこんな小まい建物に、俺は入れるのかねぇ?」
ヒースは、顎髭を抜きながら、苦笑して言う。
「……入る事は入ると思いますけど……」
「朝起きたら、二階建てが平屋建てになってた――とか、ありそうだなぁ」
ジャスミンの冗談が冗談に聞こえない。
「……とにかく、お腹が空いたから、早く入りましょう。嫌だったら、村外れででもテントを張って、夜露を凌ぎなさい」
「ヘイヘイ……。メシと酒くらいは、俺の抱く予想を裏切って欲しいモンだけどねぇ……」
ジャスミンは、疲れた顔を皮肉げに歪めながら、背中の背嚢を担ぎ直して、目の前の宿屋へ向かって歩を進めるのだった。
◆ ◆ ◆ ◆
「予想通りだったなぁ……悪い意味で」
ジャスミンは、粗末な木のテーブルの皿の山を前にして、全く膨らまない腹をさすりながらボヤいた。
「いっくら、この村の特産が豆だって言ってもよぉ……。前菜からメインから、果てはデザートまで豆、豆、豆の豆づくしって……どうなのよ」
「――そうかしら? 私は、結構いいと思ったわよ。特に、メインで出てきた、『山羊肉風豆ステーキ』なんかは、結構味付けも頑張ってたと思うけど……」
「――でも、結局豆じゃん! 肉じゃ無いじゃん! 物足りないんだよぉっ!」
ジャスミンは、アザレアの言葉に対して、断固とした抗議の声を上げる。
「……充分じゃないですかね……。少なくとも、神殿で饗される午餐よりはマシ……あ、いや」
「アレと一緒にするなよ……神殿のメシは、もはやメシじゃねえ。小麦を固めて焼いた何かと、芋をぶち込んで水で煮ただけの何かだよ……」
「……でも、あれは修行の一環――」
「違えよ! アレは、修行という皮を被った拷問……いや、もはや人権侵害です!」
「ぐ……」
パーム、ジャスミンの言葉に言い返せず。
「ヒースは、一目見ただけで、ウンザリ顔でさっさと出て行っちゃったからね……」
アザレアは、遠い目で思い返す。
「ああ……『こんなモン食うヒマがあるなら、自分で蛇でも獲って、蒲焼きにして食った方がまだマシだわ』とか言ってたな……」
「まあ確かに、あの人には物足りないどころじゃないでしょうからねぇ……味も量も」
パームは、苦笑しながら言う。
ジャスミンは、興味なさげに立ち上がった。
「まあ、いいんじゃね。あのオッサンのデカさじゃ、どっちみちこんな宿屋の部屋に収まらないだろうし……。外で腹出して寝てても、獣に襲われるような心配も無いだろうしさ……」
「――もし、旅のお方……。少々、宜しいですかな……?」
「へ?」
部屋に戻ろうとしたジャスミンは、突然背後から声をかけられて、振り返った。
そこには、腰の曲がった老人が、杖をついて立っていた。
「あの……おじいさん……私達に何か用ですか?」
アザレアは、怪訝な顔をして、老人に問いかけた。
と、老人は、おもむろに膝をつき、深々と頭を下げた。
「皆様の佇まい……、さぞや腕の立つ方々だとお見受け致しました……! ――お、お願い致しますじゃ! この村――この村を、ヤツらから――お救い下さいませぇっ!」
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