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第八章 ある日、湖上で
湖賊と作戦
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戸口に立っていた三人の娘は、大層美し……くは無かった。醜女と言う程でも無いが、取り立てた特徴の無い、正にこの寒村で生まれたと言うに相応しい、地味……もとい、純朴な雰囲気の娘達だった。
「……一週間前、湖賊共は、この娘達の美貌に目を付け、仕度を調えてから、明後日の晩までに湖の畔に連れてこい、と命じてきました……」
老村長は、悔し涙に頬を濡らしながら、ギリギリと歯を鳴らし、三人の娘達は、袖口を目元に当て、ヨヨ……と泣き崩れる。
「……まったく、非道い話です。いくらウチの娘が、この村一番の器量良し揃いだったとしても……三人いっぺんに寄越せなどと……!」
「……」
実際は、村から奪い取れるものがいよいよ枯渇したから、しょうがなく娘達を要求してきたんじゃないだろうか……と、アザレアとパームは思ったが、さすがにそれを口に出すのは憚られた。
そんな聴衆の内心にも気付かぬまま、すっかり気持ちの盛り上がった村長は、テーブルに頭をぶつける程深く深く頭を下げて懇願する。
「――どうか! どうか、皆様のお力を以て、憎き湖賊どもを討ち果たし下さい!」
「い……いや、私達は……」
「よし! 分かったッ!」
アザレアが言葉を濁すのを遮って、ジャスミンが叫んだ。
彼は、老村長と三人の娘達に向かって、力強く頷き、
「『天下無敵の色事師』の名にかけて、女の子を泣かす奴は赦せない! お嬢さん方……と、ついでに村長! 大船に乗った気で、この俺にドーンと任せなさいッ!」
と、拳で胸を叩いた。
パームは、苦笑いしながらも頷き、アザレアは、眉を顰めて頭を抱えた。
一方の村長と三人の娘達は、今度は歓喜の涙を滝のように流しながら、ジャスミンの足元に跪き、深々と頭を下げるのだった――。
◆ ◆ ◆ ◆
「まったく……簡単に安請け合いして……!」
村長と三人娘の感謝感激を雨霰と受けてから、ようやく部屋に戻ってくるなり、アザレアは口を尖らせてジャスミンを咎めた。
「あら――? 何だよ、何か悪い事したか、俺?」
当のジャスミンは、三人娘からの熱いベーゼで口紅まみれになった顔を濡らしたタオルで拭きながら、ケロッとした顔をしている。
「いえ……確かに悪い事した訳ではないけど……もうっ!」
アザレアは、モヤモヤした感情のやり場に困っている様子だ。
「まあ、困っている人を助けるのは当然ですし……」
「でも――肝心の湖賊の力が、どれ程のものかも分からないのに、ホイホイ引き受けるのはキケンじゃない?」
パームの取りなしに食ってかかるアザレア。
「大丈夫だって! 何せ、俺らは、あのサンクトルを傭兵達から解放した英雄様だぜ! 片田舎の湖賊の一団や二団くらい、それに比べりゃ――」
「その奢りが危険だって言ってるのよ! 魔獣遣いが混ざってるっていう敵の、詳しい戦力も分からないし、湖賊は湖の小島に居るんだから、この前みたいな奇策も通じないわよ……一体どうする気――?」
「策……? 策なら、ある程度思いついたぜ」
ケロッとした顔で言うジャスミンに、パームは驚いた顔で彼の顔を覗き込む。
「じゃ――ジャスミンさん、もう何か考えついたんですか? さっき、詳しい話を聞いたばかりなのに……?」
「まあね。――て、何だよ、お前らひょっとして、俺が何も考えずにこの話を引き受けたのかとでも思ってたのかよ?」
「…………ちょっと」
「……私は殆ど」
「うわ、ひでっ! お前ら、ひでえっ!」
顔を見合わせるパームとアザレアを前に、ショックで仰け反るジャスミン。
「――悪かったわよ、ジャス。じゃあ、聞かせてよ、アナタの作戦って言うのをさ」
「……でも、そういえばヒースさんが居ませんけど。あの人はいいんですか?」
というパームの問いに、ジャスミンは頷く。
「いいよ。どうせ、『協力してやるからカネ払え』って、絶対にこの村じゃ払えないような高額賃金を要求してきそうだし」
「まあ、あの人を雇うとしたら、湖賊に払う方がマシなくらいの出費はかかりそうですしね……」
「それに、第一、俺の考えた作戦の中に、あのオッサンが入る余地がないんだよなぁ……」
そう言うと、ジャスミンはボリボリと頭を掻き、表情を少し引き締めて言葉を続けた。
「で、その作戦っていうのはさ――」
――5分後、ジャスミンから、今回の作戦プランの詳細を聞いた二人は、何ともいえない難しい顔をしていた。
「――ああ……また、そっち系の作戦なんですね……」
パームは、そう嘆くと頭を抱えた。
「……確かに、その内容じゃ、あの顔面岩男の混ざる余地は無いわね……」
「だろ?」
アザレアの呟きに、大きく頷くジャスミン。
「……でも、大丈夫ですかねぇ……。確かにそれなら潜入までは上手くいくでしょうけど、その後が――」
「大丈夫だよ! アザリーの炎鞭にパームのミソギとハラエ、そして俺の無ジンノヤイバがあれば、きっと勝てるさぁ!」
「……その根拠の無い自信は、どっから出てくるんですか……」
妙に自信満々のジャスミンに、不安いっぱいの表情のパーム。
アザレアは、二人の様子を見ながら、ふと思った。
(このふたり……本当に真逆の性格よね……。それでいて、案外気が合ってるのが、面白いっていうか何というか……)
「……一週間前、湖賊共は、この娘達の美貌に目を付け、仕度を調えてから、明後日の晩までに湖の畔に連れてこい、と命じてきました……」
老村長は、悔し涙に頬を濡らしながら、ギリギリと歯を鳴らし、三人の娘達は、袖口を目元に当て、ヨヨ……と泣き崩れる。
「……まったく、非道い話です。いくらウチの娘が、この村一番の器量良し揃いだったとしても……三人いっぺんに寄越せなどと……!」
「……」
実際は、村から奪い取れるものがいよいよ枯渇したから、しょうがなく娘達を要求してきたんじゃないだろうか……と、アザレアとパームは思ったが、さすがにそれを口に出すのは憚られた。
そんな聴衆の内心にも気付かぬまま、すっかり気持ちの盛り上がった村長は、テーブルに頭をぶつける程深く深く頭を下げて懇願する。
「――どうか! どうか、皆様のお力を以て、憎き湖賊どもを討ち果たし下さい!」
「い……いや、私達は……」
「よし! 分かったッ!」
アザレアが言葉を濁すのを遮って、ジャスミンが叫んだ。
彼は、老村長と三人の娘達に向かって、力強く頷き、
「『天下無敵の色事師』の名にかけて、女の子を泣かす奴は赦せない! お嬢さん方……と、ついでに村長! 大船に乗った気で、この俺にドーンと任せなさいッ!」
と、拳で胸を叩いた。
パームは、苦笑いしながらも頷き、アザレアは、眉を顰めて頭を抱えた。
一方の村長と三人の娘達は、今度は歓喜の涙を滝のように流しながら、ジャスミンの足元に跪き、深々と頭を下げるのだった――。
◆ ◆ ◆ ◆
「まったく……簡単に安請け合いして……!」
村長と三人娘の感謝感激を雨霰と受けてから、ようやく部屋に戻ってくるなり、アザレアは口を尖らせてジャスミンを咎めた。
「あら――? 何だよ、何か悪い事したか、俺?」
当のジャスミンは、三人娘からの熱いベーゼで口紅まみれになった顔を濡らしたタオルで拭きながら、ケロッとした顔をしている。
「いえ……確かに悪い事した訳ではないけど……もうっ!」
アザレアは、モヤモヤした感情のやり場に困っている様子だ。
「まあ、困っている人を助けるのは当然ですし……」
「でも――肝心の湖賊の力が、どれ程のものかも分からないのに、ホイホイ引き受けるのはキケンじゃない?」
パームの取りなしに食ってかかるアザレア。
「大丈夫だって! 何せ、俺らは、あのサンクトルを傭兵達から解放した英雄様だぜ! 片田舎の湖賊の一団や二団くらい、それに比べりゃ――」
「その奢りが危険だって言ってるのよ! 魔獣遣いが混ざってるっていう敵の、詳しい戦力も分からないし、湖賊は湖の小島に居るんだから、この前みたいな奇策も通じないわよ……一体どうする気――?」
「策……? 策なら、ある程度思いついたぜ」
ケロッとした顔で言うジャスミンに、パームは驚いた顔で彼の顔を覗き込む。
「じゃ――ジャスミンさん、もう何か考えついたんですか? さっき、詳しい話を聞いたばかりなのに……?」
「まあね。――て、何だよ、お前らひょっとして、俺が何も考えずにこの話を引き受けたのかとでも思ってたのかよ?」
「…………ちょっと」
「……私は殆ど」
「うわ、ひでっ! お前ら、ひでえっ!」
顔を見合わせるパームとアザレアを前に、ショックで仰け反るジャスミン。
「――悪かったわよ、ジャス。じゃあ、聞かせてよ、アナタの作戦って言うのをさ」
「……でも、そういえばヒースさんが居ませんけど。あの人はいいんですか?」
というパームの問いに、ジャスミンは頷く。
「いいよ。どうせ、『協力してやるからカネ払え』って、絶対にこの村じゃ払えないような高額賃金を要求してきそうだし」
「まあ、あの人を雇うとしたら、湖賊に払う方がマシなくらいの出費はかかりそうですしね……」
「それに、第一、俺の考えた作戦の中に、あのオッサンが入る余地がないんだよなぁ……」
そう言うと、ジャスミンはボリボリと頭を掻き、表情を少し引き締めて言葉を続けた。
「で、その作戦っていうのはさ――」
――5分後、ジャスミンから、今回の作戦プランの詳細を聞いた二人は、何ともいえない難しい顔をしていた。
「――ああ……また、そっち系の作戦なんですね……」
パームは、そう嘆くと頭を抱えた。
「……確かに、その内容じゃ、あの顔面岩男の混ざる余地は無いわね……」
「だろ?」
アザレアの呟きに、大きく頷くジャスミン。
「……でも、大丈夫ですかねぇ……。確かにそれなら潜入までは上手くいくでしょうけど、その後が――」
「大丈夫だよ! アザリーの炎鞭にパームのミソギとハラエ、そして俺の無ジンノヤイバがあれば、きっと勝てるさぁ!」
「……その根拠の無い自信は、どっから出てくるんですか……」
妙に自信満々のジャスミンに、不安いっぱいの表情のパーム。
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