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第九章 Lakeside Woman Blues
夢と現
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再び、冷たい川に沈んだ瞬間、一瞬にして意識を刈り取られそうになった。狂暴な冷水の奔流に、身体を散々に弄ばれたジャスミンは、上下の感覚すら失い、闇雲に腕を回すだけしか出来なかった。
たちまち、川の水の冷たさに四肢の感覚が奪われていく。
(……し……死ぬのか……)
ジャスミンは、抗いがたい睡魔を必死で振り払いながら藻掻く。
――と、
唐突に、顔が水面の上に出たのを感じた。ジャスミンは、大きな口を開けて、必死で空気を肺に取り込む。
「はあっ! ――はあっ!」
靄がかかった意識が、取り込んだ酸素によって、急激に取り払われていくのを感じる。
彼は、麻痺しかけた身体を必死で動かしながら、川面から顔を上げて、アザレアの乗っているカヌーを探す。
「アザ……アザリ――――ッ! アザリー! ……どこ……どこだっ!」
顔を巡らし、カヌーの黒い影を探すが――、どこにも見えなかった。
ジャスミンは、再びアザレアの名を叫ぼうと息を吸い込むが、
「ブグッ! ……ガボッ……」
彼の顔は、再び水の中へと沈んだ。
先程以上に苛烈な水流の撹乱が、ジャスミンの小さな身体をさんざんかき回す。
――意識が遠のく。
(ダメだ……ダメだダメだ! アザリーと、約束……約束し……したの…………に……死ね……な――)
ジャスミンの強い願いも虚しく、
彼の意識は、そこで途絶えた――。
◆ ◆ ◆ ◆
「――――夢か……」
ジャスミンは、目を擦りながら、ベッドの上で身を起こした。
彼は、窓際に寄って、外を見る。青々とした葉に、朝日を一杯に浴びる広大な豆畑が目に入った。
(……あのまま寝ちゃったのか)
ジャスミンは、大きなあくびをして、再びベッドの上に寝転がった。
(――あの日の夢を見るのも、久しぶりだな……)
彼は、先程見た夢……幼い日の記憶を思い返す。
――あの後、偶然にも下流で漁をしていた漁師たちに助けられ、介抱を受けたジャスミンは、奇跡的に息を吹き返した。
ただ、真冬のライナド川の激しい水流に揉まれながら流されたジャスミンの体力の消耗は激しく、1ヶ月以上も寝たきり生活を余儀なくされた。
やっとの事で動けるようになったのは、降り積もった雪が融け始める頃になってからで、世話になった漁師の集落を辞した後、ライドナ川沿岸の街を虱潰しに訪れては、赤毛の娘の消息を訊ねて歩いたが、足跡一つ見つからず――十年が経ち、今に至る。
「……よくもまあ、また会えたよな……」
ジャスミンは、天井をボーッと見つめながら、独りごちた。
――と、ドアの向こうがドタドタと騒がしくなった。
「じゃ、ジャスミンさん! 目を覚ましたって――!」
扉を思いっきり開け放って、真っ先に部屋に入ってきたのは、パームだった。
「……何だ、お前かよ……」
彼の顔を見たジャスミンは、あからさまにガッカリした顔をする。
その顔を見たパームは、「僕で悪かったですね……」と、ぷうと頬を膨らませる。
ジャスミンは、彼の顔を見ると噴き出した。
「悪い悪い。――久しぶりだな、パーム」
「いやあ……意識が戻って良かったです。本当に心配したんですよ……」
パームが、潤んだ目を袖で拭いながら、ニコリと微笑んだ。
「……心配してたぁ? ホントかなあ~?」
ニヤニヤ笑いを浮かべながら、意地悪な表情で訊ねてくるジャスミン。
「も……もちろんですよ! 僕はもちろん、アザレアさんなんて、朝も夜もつきっきりで――」
「コホン!」
咳払いでパームの言葉を遮ったのは、頬を赤く染めたアザレアだった。
もちろん、パームの言葉を聞き逃すジャスミンではない。彼は、ニヤリと顔を緩めて、彼女に声をかけた。
「へ~、そうなんだぁ。嬉しいねえ、そんなに俺の事を――」
「ば、馬鹿じゃないの! 違うわよ……昨日も言ったじゃない! あのまま死なれたら、私が殺したみたいになるから……それが嫌だったから……それだけよ!」
アザレアは、そう言うと、ぷいっとそっぽを向いて、部屋から出て行ってしまった。
ジャスミンは、肩を竦めておどけて見せた。
「おやおや、古い仲だって言うのに、つれないなぁ」
「……ジャスミンさん。前からお伺いしたかったんですが――」
パームが、少し真面目な顔になって、ジャスミンに訊ねた。
「ん――、何だい?」
「あの……ジャスミンさんと、アザレアさんって……どんな間柄なんですか?」
「ん……」
パームの言葉に、ジャスミンは笑顔を引っ込めて、目を閉じて考え込む。
彼の脳裏に、幼少のアケマヤフィトの事、あの雪の日の事、サンクトルでの再会の事、――そして、昨夜のこの部屋での事……が、次々と浮かんだ。
そして、彼は目を開けると、ニコリと歯を見せて、困ったように微笑った。
「――何だろうな……うん。強いて言うなら――腐れ縁、かな?」
たちまち、川の水の冷たさに四肢の感覚が奪われていく。
(……し……死ぬのか……)
ジャスミンは、抗いがたい睡魔を必死で振り払いながら藻掻く。
――と、
唐突に、顔が水面の上に出たのを感じた。ジャスミンは、大きな口を開けて、必死で空気を肺に取り込む。
「はあっ! ――はあっ!」
靄がかかった意識が、取り込んだ酸素によって、急激に取り払われていくのを感じる。
彼は、麻痺しかけた身体を必死で動かしながら、川面から顔を上げて、アザレアの乗っているカヌーを探す。
「アザ……アザリ――――ッ! アザリー! ……どこ……どこだっ!」
顔を巡らし、カヌーの黒い影を探すが――、どこにも見えなかった。
ジャスミンは、再びアザレアの名を叫ぼうと息を吸い込むが、
「ブグッ! ……ガボッ……」
彼の顔は、再び水の中へと沈んだ。
先程以上に苛烈な水流の撹乱が、ジャスミンの小さな身体をさんざんかき回す。
――意識が遠のく。
(ダメだ……ダメだダメだ! アザリーと、約束……約束し……したの…………に……死ね……な――)
ジャスミンの強い願いも虚しく、
彼の意識は、そこで途絶えた――。
◆ ◆ ◆ ◆
「――――夢か……」
ジャスミンは、目を擦りながら、ベッドの上で身を起こした。
彼は、窓際に寄って、外を見る。青々とした葉に、朝日を一杯に浴びる広大な豆畑が目に入った。
(……あのまま寝ちゃったのか)
ジャスミンは、大きなあくびをして、再びベッドの上に寝転がった。
(――あの日の夢を見るのも、久しぶりだな……)
彼は、先程見た夢……幼い日の記憶を思い返す。
――あの後、偶然にも下流で漁をしていた漁師たちに助けられ、介抱を受けたジャスミンは、奇跡的に息を吹き返した。
ただ、真冬のライナド川の激しい水流に揉まれながら流されたジャスミンの体力の消耗は激しく、1ヶ月以上も寝たきり生活を余儀なくされた。
やっとの事で動けるようになったのは、降り積もった雪が融け始める頃になってからで、世話になった漁師の集落を辞した後、ライドナ川沿岸の街を虱潰しに訪れては、赤毛の娘の消息を訊ねて歩いたが、足跡一つ見つからず――十年が経ち、今に至る。
「……よくもまあ、また会えたよな……」
ジャスミンは、天井をボーッと見つめながら、独りごちた。
――と、ドアの向こうがドタドタと騒がしくなった。
「じゃ、ジャスミンさん! 目を覚ましたって――!」
扉を思いっきり開け放って、真っ先に部屋に入ってきたのは、パームだった。
「……何だ、お前かよ……」
彼の顔を見たジャスミンは、あからさまにガッカリした顔をする。
その顔を見たパームは、「僕で悪かったですね……」と、ぷうと頬を膨らませる。
ジャスミンは、彼の顔を見ると噴き出した。
「悪い悪い。――久しぶりだな、パーム」
「いやあ……意識が戻って良かったです。本当に心配したんですよ……」
パームが、潤んだ目を袖で拭いながら、ニコリと微笑んだ。
「……心配してたぁ? ホントかなあ~?」
ニヤニヤ笑いを浮かべながら、意地悪な表情で訊ねてくるジャスミン。
「も……もちろんですよ! 僕はもちろん、アザレアさんなんて、朝も夜もつきっきりで――」
「コホン!」
咳払いでパームの言葉を遮ったのは、頬を赤く染めたアザレアだった。
もちろん、パームの言葉を聞き逃すジャスミンではない。彼は、ニヤリと顔を緩めて、彼女に声をかけた。
「へ~、そうなんだぁ。嬉しいねえ、そんなに俺の事を――」
「ば、馬鹿じゃないの! 違うわよ……昨日も言ったじゃない! あのまま死なれたら、私が殺したみたいになるから……それが嫌だったから……それだけよ!」
アザレアは、そう言うと、ぷいっとそっぽを向いて、部屋から出て行ってしまった。
ジャスミンは、肩を竦めておどけて見せた。
「おやおや、古い仲だって言うのに、つれないなぁ」
「……ジャスミンさん。前からお伺いしたかったんですが――」
パームが、少し真面目な顔になって、ジャスミンに訊ねた。
「ん――、何だい?」
「あの……ジャスミンさんと、アザレアさんって……どんな間柄なんですか?」
「ん……」
パームの言葉に、ジャスミンは笑顔を引っ込めて、目を閉じて考え込む。
彼の脳裏に、幼少のアケマヤフィトの事、あの雪の日の事、サンクトルでの再会の事、――そして、昨夜のこの部屋での事……が、次々と浮かんだ。
そして、彼は目を開けると、ニコリと歯を見せて、困ったように微笑った。
「――何だろうな……うん。強いて言うなら――腐れ縁、かな?」
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