好色一代勇者 〜ナンパ師勇者は、ハッタリと機転で窮地を切り抜ける!〜(アルファポリス版)

朽縄咲良

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第十章 Welcome to the Black Mountain

信と偽

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 「さて、ご覧の状況な訳だが、どうする?」

 襲撃者は、仮面の奥から鋭い視線を浴びせながら、低い声でふたりに問う。

「大人しく武器を捨てて、我々に降るなら良し。――もし、拒否するようなら、人ふたりの死体が転がるだけだ」
「降るって……ダリア傭兵団へ、か?」

 ヒースの問いに、仮面の者は小さく頷いた。

「左様……。そう言えば、まだ名乗っていなかったか。――失礼した。某は、ダリア傭兵団のハン――」
「アンタの名前なんか聞いてないよ。ダリア傭兵団からの刺客だってだけで充分だ」
「……そうか」

 どことなく残念そうな仮面の者。

「……それにしてもさ、女を人質に取るとは、随分と汚い真似をしてくれるもんじゃあないの」

 ジャスミンは、侮蔑を込めた薄笑いを浮かべて仮面の者を挑発する。
 だが、仮面の者は、僅かに鼻白んだだけだ。

「生憎と、我々は騎士団とやらとは違うのでな。一文の得にもならん、誇りだ何だとは縁が薄いのだよ。必要とあらば、女子供だろうと平気で手にかけるし、唾棄されるような汚い手段も進んで取る」
「随分とご立派な信条をお持ちでいらっしゃいます事……」

 ジャスミンが、吐き捨てるように言う。明らかに苛ついている。先程までの、彼らしい余裕の態度は、すっかり影を顰めていた。
 と、その時、捕らわれていたアザレアが口を開いた。

「ジャス……ここは、言う事に従って!」
「……アザリー……」

 ハッとした顔で、彼女の方を見るジャスミン。
 彼女は小さく頷く。
 その顔を見たジャスミンは、「ああ……」と小さく呟き、仮面の男に向き直った。

「……分かった。パームやの命には替えられない。ここは向こうさんの言う通りにするぞ、オッサン」
「は? マジかよ、色男? 諦めるの早くねえかぁ?」

 ジャスミンの言葉に、目を丸くするヒース。ジャスミンは、横目でヒースを見て「いいから、言う通りにしろ」と目配せをする。
 そして、構えていた無ジンノヤイバの柄を、あっさりと足元に放り投げて、両手を高く上げた。

「ほらよ。これでいいかい?」
「本気かよ、色男……」

 ヒースは、不満そうだったが、大きく溜息を吐くと大棍棒を投げ捨て、ふてくされた顔で同じように両手を上げる。

「思ったより素直だが――まあ宜しい」

 仮面の者の声には、若干拍子抜けしたような響きが含まれていたが、左右に控える黒装束に合図を送る。
 黒装束たちは、弓に黒い矢を番えたまま、ジリジリとふたりへの間合いを詰めていく。
 ひとりが矢を番えた弓をふたりに突きつけながら、他のふたりがジャスミンとヒースを太い縄で縛り上げようとする。

「一応言っておくが、その縄には拘束強化術を編み込んである。いくらお前が怪力を誇ろうとも、決して千切れんからな。無駄な努力で身体の傷を無駄に増やす事は無いぞ、デカいの」
「へいへい。分かってますって」
「おいおい、随分慎重じゃないの? そんなにビビんなくても、暴れりゃしないよ」

 後ろ手に縛られながら、ジャスミンは皮肉げに嗤う。

「慎重にもなるさ……その悪知恵で、チャー副団長の分隊を壊滅させた貴様への、せめてもの敬意の表れとでも思って頂こうか」
「おやおや、俺の事をご存知か? 嬉しいね」
「当然だろう? 『稀代の策士ジャスミン』よ」
「……何だよ、その捻りの欠片もないクソダサい二つ名は?」

 ジャスミンは、大いに不満を表情に表す。

「そこは、是非とも『天下無敵の色事師』の方でお願いしたい所だがねえ」
「フン……貴様の二つ名などどっちでも良いわ。――おい、締め終わったか?」

 仮面の者は、ふたりを縛る黒衣の者に問う。黒衣の者はふたりを縛る縄の締め上げ具合を確認し、大きく頷いた。

「……良し」

 と、仮面の者は頷き返し、

「……ご協力、忝うございました――」

 そう言いながら、恭しく一礼をし、一歩下がった。黒衣の者たちも、それに倣って跪く。

「……ああ」

 と、彼らの礼に対し鷹揚に頷きながら、無表情で一歩前に出てきたのは――、

「おいおい、今更結局そうなるのかい――」
「アザリー……」

 拘束されたをしていたアザレアだった――。
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