121 / 176
第十章 Welcome to the Black Mountain
土産と宝物
しおりを挟む
「おい、色男。これからどうするつもりなんだ?」
ヒースが、荷馬車の天蓋に頭をぶつけて顔を顰めながら、ジャスミンに訊いた。
ジャスミンとヒース、そしてパームの三人は、きつく縛り上げられた上で、黒衣の者たちの用意した荷馬車に押し込まれた。荷馬車は夜闇に紛れて村を出発し、田舎のデコボコ道で車輪を軋ませながら何処かへと疾走している。
「どうする、って? 別にどうもしないよ~」
ジャスミンは、ヒースの問いに、涼しい顔でそう答える。
「だって、あいつらがダリア傭兵団の手の者だって言うなら、この馬車の行き先はひとつだろ?」
「……ダリア山、か」
「そゆ事」
ジャスミンは頷く。
「俺たちは元々ダリア山へ行く予定だったんだしさ。寧ろ、ちまちまと歩く手間が省けたってもんさ。わざわざ、こんな乗り心地の良い荷馬車まで用意してくれて、俺たちの事を目的地まで運んでくれるんだぜ。有り難く傭兵団サマのご厚意に甘えさせてもらおうじゃないの」
そう言うと、彼はニヤリと嘲笑った。
「で――でも! こんな拘束されたままじゃ……。ダリア山に着いた途端にバッサリとやられてしまったら――!」
そう言って、怯えた表情を浮かべたのは、先程意識を取り戻したばかりのパームだ。
ジャスミンは、苦笑しながら首を横に振った。
「いやあ、その怖れはないだろうさ」
「――そうだな。さっき襲ってきた時も、本気で俺たちを殺す気じゃなかったみてえだしな」
ヒースは頷くと、自分の身体をきつく縛り上げた太い縄を揺すってみせた。
「ご丁寧に、拘束強化術式縄まで用意してるって事は、ヤツらの目的が、俺たちの殺害じゃなくて捕獲の方だ、っていう何よりの証左――」
「た……確かに」
パームは、ヒースの言葉に納得して頷き、また首を傾げた。
「でも、そもそも何でなんでしょうか? 僕たちを生け捕りにするメリットって……?」
「そりゃ、『仲間になれ!』とでも言ってくるんじゃないの? サンクトルでの俺達の活躍を、先方さんもご存知の様だしな」
ジャスミンはそう言うと、満更でもなさそうにニンマリと笑った。
「サンクトルでチャー傭兵団が壊滅した後、脱出してダリア傭兵団に舞い戻った奴も居るだろうしな。俺達の情報が、ある程度漏れてたとしてもおかしくねえだろ」
ヒースが首をコキリと鳴らしながら、ジャスミンの言葉を補足する。本当は顎髭抜きでもしたい所だったが、両腕を縛られていて、出来ないのがもどかしい様だ。
と、彼は、冷たい眼をすると、荷馬車の前の方に顎をしゃくって示す。
「――それに、俺達の中にスパイが混じってたみてえだしなぁ」
「そ……そんな、スパイだなんて……」
パームが窘めるように言うが、彼自身考えないでもない事だったので、歯切れは悪い。
「いや、スパイなんかじゃないよ、多分」
が、一方のジャスミンの言葉に淀みは無い。
「アザリーの事は、ガキの頃から良く知ってる。サンクトルから後のあいつの行動に、後ろ暗い部分は無かったよ」
「……じゃあ、さっきのアレは何なんだよ? あれが裏切りじゃなくて何なんだっつー話だぜ?」
「……ひょっとして、まだアザレアさんに掛かった洗脳が解けていない……という事ではないですか?」
パームが、恐る恐る口を挟んだ。それに対し、
「うん。半分解けてないよ」
あっさりと頷くジャスミン。
「半分……?」
「でも、それと、今回のアザリーの行動とは、直接関係は無いんだと思う。何か、アイツなりの考えがあっての事だろうな」
「何で、そう言い切れる、色男?」
自信満々な様子のジャスミンに、怪訝な表情を浮かべて訊くヒース。
ジャスミンは、ニヤリとニヒルな微笑を浮かべた。
「何で……って、タダの勘だよ。――但し、『天下無敵の色事師』――もっとも女心に精通した男の、な」
◆ ◆ ◆ ◆
「……随分、大人しゅうございますな」
御者台に並んで座る仮面の者が、後ろに顎をしゃくって、傍らの紅い髪の女に話しかけた。
「……そうね」
アザレアは、無表情で素っ気なく答え、目を横にやる。目まぐるしいスピードで、木々が彼女達の横を行き過ぎていく。荷馬車は、漆黒の森の中を、ガラガラと車輪の音を喧しく鳴らしながら、ダリア山へ向けて疾走していた。
「……随分と長い休暇を取ってしまって、シュダ様は怒ってらっしゃるのかしら……?」
アザレアは、ボソリと独り言のように呟いた。仮面の者はチラリと彼女の横顔を見て、
「――団長はお怒りではないと思います。寧ろ、アザレア様のお帰りを心待ちにしている様子でした」
こちらも呟くように答え、後ろを指さした。
「格好のお土産もありますしな」
「――喜んで頂けるのかしら?」
アザレアは、不安げな顔で首を傾げた。
「……そもそも、何でシュダ様は、彼らを――」
「我々には分かりかねますな。某は、団長から、アザレア様のお迎えのついでに、奴らを生け捕りにして連れてくるように……としか命ぜられてはおりませぬ故」
「そう……」
アザレアは、表情を曇らせると、左手で横髪を梳き上げた。
「――なかなか、趣味の良い髪留めですね」
「え――?」
アザレアは、仮面の者の言葉に、戸惑ったように目を丸くして、そっと横髪を留めている、銀の髪留めに指を当てた。ひんやりとした金属の感触が心地いい。
「ああ……これね」
アザレアは、つい数時間前の事を思い出して、頬を仄かに染めながら、微笑みを浮かべて言った。
「これは、私の……新しい宝物なの」
ヒースが、荷馬車の天蓋に頭をぶつけて顔を顰めながら、ジャスミンに訊いた。
ジャスミンとヒース、そしてパームの三人は、きつく縛り上げられた上で、黒衣の者たちの用意した荷馬車に押し込まれた。荷馬車は夜闇に紛れて村を出発し、田舎のデコボコ道で車輪を軋ませながら何処かへと疾走している。
「どうする、って? 別にどうもしないよ~」
ジャスミンは、ヒースの問いに、涼しい顔でそう答える。
「だって、あいつらがダリア傭兵団の手の者だって言うなら、この馬車の行き先はひとつだろ?」
「……ダリア山、か」
「そゆ事」
ジャスミンは頷く。
「俺たちは元々ダリア山へ行く予定だったんだしさ。寧ろ、ちまちまと歩く手間が省けたってもんさ。わざわざ、こんな乗り心地の良い荷馬車まで用意してくれて、俺たちの事を目的地まで運んでくれるんだぜ。有り難く傭兵団サマのご厚意に甘えさせてもらおうじゃないの」
そう言うと、彼はニヤリと嘲笑った。
「で――でも! こんな拘束されたままじゃ……。ダリア山に着いた途端にバッサリとやられてしまったら――!」
そう言って、怯えた表情を浮かべたのは、先程意識を取り戻したばかりのパームだ。
ジャスミンは、苦笑しながら首を横に振った。
「いやあ、その怖れはないだろうさ」
「――そうだな。さっき襲ってきた時も、本気で俺たちを殺す気じゃなかったみてえだしな」
ヒースは頷くと、自分の身体をきつく縛り上げた太い縄を揺すってみせた。
「ご丁寧に、拘束強化術式縄まで用意してるって事は、ヤツらの目的が、俺たちの殺害じゃなくて捕獲の方だ、っていう何よりの証左――」
「た……確かに」
パームは、ヒースの言葉に納得して頷き、また首を傾げた。
「でも、そもそも何でなんでしょうか? 僕たちを生け捕りにするメリットって……?」
「そりゃ、『仲間になれ!』とでも言ってくるんじゃないの? サンクトルでの俺達の活躍を、先方さんもご存知の様だしな」
ジャスミンはそう言うと、満更でもなさそうにニンマリと笑った。
「サンクトルでチャー傭兵団が壊滅した後、脱出してダリア傭兵団に舞い戻った奴も居るだろうしな。俺達の情報が、ある程度漏れてたとしてもおかしくねえだろ」
ヒースが首をコキリと鳴らしながら、ジャスミンの言葉を補足する。本当は顎髭抜きでもしたい所だったが、両腕を縛られていて、出来ないのがもどかしい様だ。
と、彼は、冷たい眼をすると、荷馬車の前の方に顎をしゃくって示す。
「――それに、俺達の中にスパイが混じってたみてえだしなぁ」
「そ……そんな、スパイだなんて……」
パームが窘めるように言うが、彼自身考えないでもない事だったので、歯切れは悪い。
「いや、スパイなんかじゃないよ、多分」
が、一方のジャスミンの言葉に淀みは無い。
「アザリーの事は、ガキの頃から良く知ってる。サンクトルから後のあいつの行動に、後ろ暗い部分は無かったよ」
「……じゃあ、さっきのアレは何なんだよ? あれが裏切りじゃなくて何なんだっつー話だぜ?」
「……ひょっとして、まだアザレアさんに掛かった洗脳が解けていない……という事ではないですか?」
パームが、恐る恐る口を挟んだ。それに対し、
「うん。半分解けてないよ」
あっさりと頷くジャスミン。
「半分……?」
「でも、それと、今回のアザリーの行動とは、直接関係は無いんだと思う。何か、アイツなりの考えがあっての事だろうな」
「何で、そう言い切れる、色男?」
自信満々な様子のジャスミンに、怪訝な表情を浮かべて訊くヒース。
ジャスミンは、ニヤリとニヒルな微笑を浮かべた。
「何で……って、タダの勘だよ。――但し、『天下無敵の色事師』――もっとも女心に精通した男の、な」
◆ ◆ ◆ ◆
「……随分、大人しゅうございますな」
御者台に並んで座る仮面の者が、後ろに顎をしゃくって、傍らの紅い髪の女に話しかけた。
「……そうね」
アザレアは、無表情で素っ気なく答え、目を横にやる。目まぐるしいスピードで、木々が彼女達の横を行き過ぎていく。荷馬車は、漆黒の森の中を、ガラガラと車輪の音を喧しく鳴らしながら、ダリア山へ向けて疾走していた。
「……随分と長い休暇を取ってしまって、シュダ様は怒ってらっしゃるのかしら……?」
アザレアは、ボソリと独り言のように呟いた。仮面の者はチラリと彼女の横顔を見て、
「――団長はお怒りではないと思います。寧ろ、アザレア様のお帰りを心待ちにしている様子でした」
こちらも呟くように答え、後ろを指さした。
「格好のお土産もありますしな」
「――喜んで頂けるのかしら?」
アザレアは、不安げな顔で首を傾げた。
「……そもそも、何でシュダ様は、彼らを――」
「我々には分かりかねますな。某は、団長から、アザレア様のお迎えのついでに、奴らを生け捕りにして連れてくるように……としか命ぜられてはおりませぬ故」
「そう……」
アザレアは、表情を曇らせると、左手で横髪を梳き上げた。
「――なかなか、趣味の良い髪留めですね」
「え――?」
アザレアは、仮面の者の言葉に、戸惑ったように目を丸くして、そっと横髪を留めている、銀の髪留めに指を当てた。ひんやりとした金属の感触が心地いい。
「ああ……これね」
アザレアは、つい数時間前の事を思い出して、頬を仄かに染めながら、微笑みを浮かべて言った。
「これは、私の……新しい宝物なの」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
事務仕事しかできない無能?いいえ、空間支配スキルです。~勇者パーティの事務員として整理整頓していたら、いつの間にか銅像が立っていました~
水月
恋愛
「在庫整理しかできない無能は不要だ」
第一王子から、晩餐会の場で婚約破棄と国外追放を告げられた公爵令嬢ユズハ。
彼女のギフト【在庫整理】は、荷物の整理しかできないハズレスキルだと蔑まれていた。
だが、彼女は知っていた。
その真価は、指定空間内のあらゆる物質の最適化であることを。
追放先で出会った要領の悪い勇者パーティに対し、ユズハは事務的に、かつ冷徹に最適化を開始する。
「勇者様、右腕の筋肉配置を効率化しました」
「魔王の心臓、少し左にずらしておきましたね」
戦場を、兵站を、さらには魔王の命までをも在庫として処理し続けた結果、彼女はいつしか魔王討伐勇者パーティの一人として、威圧感溢れる銅像にまでなってしまう。
効率を愛する事務屋令嬢は、自分を捨てた国を不良債権として切り捨て、再出発する。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ジャングリラ~悪魔に屠られ魔王転生。死の森を楽園に変える物語~
とんがり頭のカモノハシ
ファンタジー
「別の世界から勇者を召喚する卑怯な手口」に業を煮やした堕天使・ルシファーにより、異世界へ魔王として転生させられた大学生・左丹龍之介。
先代・魔王が勇者により討伐されて100年――。
龍之介が見たものは、人魔戦争に敗れた魔族が、辺境の森で厳しい生活を余儀なくされている姿だった。
魔族の生活向上を目指し、龍之介は元魔王軍の四天王、悪魔公のリリス、フェンリルのロキア、妖狐の緋魅狐、古代龍のアモンを次々に配下に収めていく。
バラバラだった魔族を再び一つにした龍之介は、転生前の知識と異世界の人間の暮らしを参考に、森の中へ楽園を作るべく奔走するのだが……
~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる
静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】
【複数サイトでランキング入り】
追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語
主人公フライ。
仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。
フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。
外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。
しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。
そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。
そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる