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第十章 Welcome to the Black Mountain
硫黄と諍い
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「おい! 着いたぞ。――降りろ」
そう言われて、荷馬車から降ろされたジャスミンとヒースは、揃って顔を顰めた。
「うぷっ……酷え臭いだな、こりゃ……」
ヒースが首を激しく横に振る。手で鼻を抓みたいところだったが、太い縄で雁字搦めにされていては指一本動かせない。
「おいおい……オッサン、屁ぇこくなよ」
「おうコラてめえ。誰の屁だって? 俺でも、さすがにここまで酷くはねえよ」
軽口を叩いてクックッと含み笑いするジャスミンをギロリと睨みつけるヒース。
「ゴホ……硫黄の臭いですね。――ダリア山は活火山ですから、至る所でガスが噴き出しているんですよ」
続いて荷馬車から降りたパームも、異臭に咳き込みながら言った。
「――こんな所に住んで、年がら年中ここの空気を吸い続けていたら、健康にも悪そうですけどね……」
「そりゃ、サンクトルなんて都会に出ちゃったら、戻りたくなくなるよねえ……」
「おい、勝手に喋るな! さっさと歩け!」
言葉を交わす三人の背後から、仮面の者が厳しい声で促した。
「あーハイハイ、すいませ~ん」
殊更に相手の神経を逆撫でする様に、お茶らけた返事をするジャスミン。
彼は、つつ……と仮面の者の近くに寄ると、ヒソヒソ声で話しかけた。
「……ていうかさ、こんな臭いところに居たら、肌も荒れちゃうでしょう?」
仮面の者は、ジャスミンの言葉に、面の奥の目をパチクリさせて、たどたどしく答える。
「……い、いや……実はな。この辺りには、いい温泉が湧いていて、おかげで肌はいつも艶々に…………って、何を言わせるのだ、貴様!」
と、我に返った仮面の者は、慌ててツッコむ。仮面に覆われた顔は分からないが、その首筋と耳は真っ赤に染まっていた。
「ほら! 無駄口を叩かずに、さっさと行け!」
「あーはいはい。……ところでさ、その温泉って、俺たちも入れるの? 一緒に入る?」
「ん――んな訳無いだろ! いい加減にせぬと、斬り捨てるぞ、貴様!」
仮面の者は、もう勘弁してくれ、という感じで怒鳴った。
◆ ◆ ◆ ◆
それから三人は、縛られたまま数珠繋ぎにされ、傭兵団本部の長い回廊を歩かされた。
「おい、オッサン! 速えーよ! もっとゆっくり歩け!」
堪りかねたジャスミンが、先頭を歩くヒースに怒鳴る。
「あ? これ以上遅く歩けってかぁ? これでも目一杯遅く歩いてるつもりなんだけどよ……」
振り返ったヒースは、不満そうに口元を歪めて反論する。
ジャスミンは、そんなヒースに向かって舌を出す。
「バカでかいオッサンの一歩は、俺たちの二歩……いや、下手すりゃ三歩分なんだよ! もうちょい、他人の事を考えて歩けっつってんだよ、このデクの坊!」
「ああ? 誰がデクだこの野郎っ!」
「あ……あの、止めて下さいよ! こんな所で、そんな下らない理由で喧嘩とか……!」
一触即発の雰囲気の二人に、辟易した声で、最後尾のパームが止めに入る。
ジャスミンは、パームの方を向き直って、今度は彼に毒づき始める。
「んだよ、後ろでお前がモタモタして、半分引きずられて重たくてしゃあないから、気を利かせて、俺がオッサンに注意してやったんじゃないかよ! エラそうな事を言うくらいなら、もっと足を動かせコノヤロー!」
「ひ……ヒドい! そこまで言う事無いじゃないですか……!」
「おい、色男……。坊ちゃんに八つ当たりするのは、ちいと違うんじゃねえのか? お前が不満を持ってるのは、俺の方だろうが?」
「いーや! そもそも、あの時コイツが逃げ遅れてあっさり捕まってなければ、こんな所で串焼き三兄弟状態にはなってないんだよ! ぜーんぶ、パームが悪いっ!」
「……スイマセン」
「違えだろ!幾らでもひっくり返せるチャンスはあったのに、碌に考えもしねえで降伏したのは、オメエだろ!」
「――あー、五月蠅い! 本当に斬り捨てるぞ、貴様らぁ!」
縛られたまま、口喧嘩し始めた三人に業を煮やして、腰に差したものを抜き放つ仮面の者。
首を竦めて、三人が口を噤む。
仮面の者は大きな溜息を吐いて、抜いたものを納めると、仮面の奥から厳しい目で三人の顔を睨みつけ、厳かに言う。
「……いいか、この扉の奥は大広間だ。ここで、貴様らはシュダ団長に御目見得する事になる。団長が貴様たちをどうするつもりなのかは知らぬが――これは、命令ではなく、善意からの忠告だ」
そう言うと、仮面の者は小さく一息つく。その吐息には、畏れによる微かな揺らぎがあった。
「団長の前では、今のような、不仲を装う様な小細工はするな……。あの方の前では、すぐに見破られるし、そういう、試されるような真似をされる事を、あの方は好まぬ……」
「……あら、バレてたみたいよ、オッサン」
「だから言ったじゃねえかよ、色男。すぐバレちまうってよ」
仮面の男の言葉に、悪戯がバレたやんちゃっ子の表情で、ニヤリと苦笑いを浮かべるジャスミンとヒース。
「……へ? 小細工って……芝居だったんですかぁ? ぼ、僕はてっきり……」
一方、蚊帳の外状態で、目をパチクリさせているパーム……。
そんな彼らに、仮面の者は一際大きな溜息を吐くと、向き直って大広間への大きな鉄扉に手をかけた。
「じゃあ、開けるぞ。――くれぐれも、粗相の無いように……な」
そう言われて、荷馬車から降ろされたジャスミンとヒースは、揃って顔を顰めた。
「うぷっ……酷え臭いだな、こりゃ……」
ヒースが首を激しく横に振る。手で鼻を抓みたいところだったが、太い縄で雁字搦めにされていては指一本動かせない。
「おいおい……オッサン、屁ぇこくなよ」
「おうコラてめえ。誰の屁だって? 俺でも、さすがにここまで酷くはねえよ」
軽口を叩いてクックッと含み笑いするジャスミンをギロリと睨みつけるヒース。
「ゴホ……硫黄の臭いですね。――ダリア山は活火山ですから、至る所でガスが噴き出しているんですよ」
続いて荷馬車から降りたパームも、異臭に咳き込みながら言った。
「――こんな所に住んで、年がら年中ここの空気を吸い続けていたら、健康にも悪そうですけどね……」
「そりゃ、サンクトルなんて都会に出ちゃったら、戻りたくなくなるよねえ……」
「おい、勝手に喋るな! さっさと歩け!」
言葉を交わす三人の背後から、仮面の者が厳しい声で促した。
「あーハイハイ、すいませ~ん」
殊更に相手の神経を逆撫でする様に、お茶らけた返事をするジャスミン。
彼は、つつ……と仮面の者の近くに寄ると、ヒソヒソ声で話しかけた。
「……ていうかさ、こんな臭いところに居たら、肌も荒れちゃうでしょう?」
仮面の者は、ジャスミンの言葉に、面の奥の目をパチクリさせて、たどたどしく答える。
「……い、いや……実はな。この辺りには、いい温泉が湧いていて、おかげで肌はいつも艶々に…………って、何を言わせるのだ、貴様!」
と、我に返った仮面の者は、慌ててツッコむ。仮面に覆われた顔は分からないが、その首筋と耳は真っ赤に染まっていた。
「ほら! 無駄口を叩かずに、さっさと行け!」
「あーはいはい。……ところでさ、その温泉って、俺たちも入れるの? 一緒に入る?」
「ん――んな訳無いだろ! いい加減にせぬと、斬り捨てるぞ、貴様!」
仮面の者は、もう勘弁してくれ、という感じで怒鳴った。
◆ ◆ ◆ ◆
それから三人は、縛られたまま数珠繋ぎにされ、傭兵団本部の長い回廊を歩かされた。
「おい、オッサン! 速えーよ! もっとゆっくり歩け!」
堪りかねたジャスミンが、先頭を歩くヒースに怒鳴る。
「あ? これ以上遅く歩けってかぁ? これでも目一杯遅く歩いてるつもりなんだけどよ……」
振り返ったヒースは、不満そうに口元を歪めて反論する。
ジャスミンは、そんなヒースに向かって舌を出す。
「バカでかいオッサンの一歩は、俺たちの二歩……いや、下手すりゃ三歩分なんだよ! もうちょい、他人の事を考えて歩けっつってんだよ、このデクの坊!」
「ああ? 誰がデクだこの野郎っ!」
「あ……あの、止めて下さいよ! こんな所で、そんな下らない理由で喧嘩とか……!」
一触即発の雰囲気の二人に、辟易した声で、最後尾のパームが止めに入る。
ジャスミンは、パームの方を向き直って、今度は彼に毒づき始める。
「んだよ、後ろでお前がモタモタして、半分引きずられて重たくてしゃあないから、気を利かせて、俺がオッサンに注意してやったんじゃないかよ! エラそうな事を言うくらいなら、もっと足を動かせコノヤロー!」
「ひ……ヒドい! そこまで言う事無いじゃないですか……!」
「おい、色男……。坊ちゃんに八つ当たりするのは、ちいと違うんじゃねえのか? お前が不満を持ってるのは、俺の方だろうが?」
「いーや! そもそも、あの時コイツが逃げ遅れてあっさり捕まってなければ、こんな所で串焼き三兄弟状態にはなってないんだよ! ぜーんぶ、パームが悪いっ!」
「……スイマセン」
「違えだろ!幾らでもひっくり返せるチャンスはあったのに、碌に考えもしねえで降伏したのは、オメエだろ!」
「――あー、五月蠅い! 本当に斬り捨てるぞ、貴様らぁ!」
縛られたまま、口喧嘩し始めた三人に業を煮やして、腰に差したものを抜き放つ仮面の者。
首を竦めて、三人が口を噤む。
仮面の者は大きな溜息を吐いて、抜いたものを納めると、仮面の奥から厳しい目で三人の顔を睨みつけ、厳かに言う。
「……いいか、この扉の奥は大広間だ。ここで、貴様らはシュダ団長に御目見得する事になる。団長が貴様たちをどうするつもりなのかは知らぬが――これは、命令ではなく、善意からの忠告だ」
そう言うと、仮面の者は小さく一息つく。その吐息には、畏れによる微かな揺らぎがあった。
「団長の前では、今のような、不仲を装う様な小細工はするな……。あの方の前では、すぐに見破られるし、そういう、試されるような真似をされる事を、あの方は好まぬ……」
「……あら、バレてたみたいよ、オッサン」
「だから言ったじゃねえかよ、色男。すぐバレちまうってよ」
仮面の男の言葉に、悪戯がバレたやんちゃっ子の表情で、ニヤリと苦笑いを浮かべるジャスミンとヒース。
「……へ? 小細工って……芝居だったんですかぁ? ぼ、僕はてっきり……」
一方、蚊帳の外状態で、目をパチクリさせているパーム……。
そんな彼らに、仮面の者は一際大きな溜息を吐くと、向き直って大広間への大きな鉄扉に手をかけた。
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