好色一代勇者 〜ナンパ師勇者は、ハッタリと機転で窮地を切り抜ける!〜(アルファポリス版)

朽縄咲良

文字の大きさ
123 / 176
第十章 Welcome to the Black Mountain

団長と色事師

しおりを挟む
 ギィィ……と軋む音を立てながら、大広間へ続く巨大な鉄の扉がゆっくりと開いた。
 鉄扉が開き切り、目の前に広がった大広間に足を踏み入れたジャスミン達が抱いた印象は、

「暗っ! そして、寒っ!」

 だった。
 ダリア山の上空には、どんよりとした雲がかかっていて、本部の外は昼でも薄暗かったのだが、この大広間には明り取りの窓も少なく、外の光がほとんど入ってきていない。
 仄かな青い光を放つ夜光虫を詰めたガラス管で部屋を照らしているが、光量が絶対的に少なく、大広間はほぼ闇に包まれている。
 壁や調度品も最低限の物しか置いてなく、きざはしの奥には、空の玉座がポツンと据えられていて――『大広間』と呼ぶには殺風景に過ぎた。
 そして、室内が妙に寒い。実際の気温以上に、背筋の辺りが寒く感じる。――何やら、大広間全体にただならぬ者の気配を感じる。

「……ジャスミンさん……」

 と、後ろから弱々しい声で呼ばれ、振り返ると、顔を真っ青にしてガタガタと震えるパームが、縺れる舌を懸命に動かして訴えた。

「……ジャスミンさん、ココはマズいです……。様々な怨念が……部屋いっぱいに……!」
「怨念……? まあ、そんな雰囲気はプンプンするけど……」

 ジャスミンが、パームの言葉に小さく頷き、改めて周りを見回す――。
 その時、

「やあやあ、よく来ましたね。我がダリア傭兵団は、貴方達を心から歓迎しますよ」

 玉座の後ろから、この大広間の陰鬱な雰囲気にはそぐわない明るい調子の声が、三人に向けて掛けられた。
 ただ、声の調子とは裏腹に、声自体には、底知れないゾッとする響きが感じられた。
 敏感にそれを感じ取ったジャスミンとパームの背中に、冷たいものが流れ落ちる。

「ジャスミン君に、パーム君。……あとは、ヒース君だね。会えて嬉しいですよ」

 そんな三人の表情も素知らぬ風に、ご機嫌な体で玉座に座った男は、

「はじめまして。私は、ダリア傭兵団団長シュダと申す者でございます。――以後、お見知りおきを」

 と、軽く一礼した。

「あの肉饅頭から聞いてはいたが……本当に真っ白なんだな。――正気を疑うレベルで」

 ヒースはそう呟くと、皮肉げに口角を吊り上げた。
 ――彼の言う通りだった。
 目の前に座る男は、丈の長い白い上衣を纏い、ズボンもブーツも汚れ一つない白。
 その上、顔面をも化粧でまっ白に塗りたくっており、異装としか言い難い格好をしていた。
 彼の姿で色が付いているのは、赤銅色の髪の毛と、薄く引いた青いアイシャドウ、そして紫色のルージュ……そして、厳冬の冬の湖を彷彿とさせる様な冷たい光を放つ、蒼い瞳だけだった。

「はっはっはっ、これは手厳しい。――私はこの格好が好きなものでね。お見苦しいかもしれませんが、ご寛恕下さい」

 シュダは、ヒースの挑発を笑い飛ばした。ただ――、その目は笑っていない。
 彼の目を見たパームは、唇の先まで青ざめて、小刻みに震えている。

「――ご丁寧なご挨拶どーも。……その割には、お客様を遇する扱いがなってないんじゃないっすか、団長サン?」

 ジャスミンはそう言うと、自分をきつく縛りつける太い縄をシュダに見せつけた。
 シュダは、ニコリと微笑わらい、静かに頭を振った。

「ご不便をおかけして申し訳ありませんが、私も、敵か味方かハッキリしない輩を目の前で自由にする程、お人好しではありませんので……。そちらも併せてお赦し下さい」
「ま、そりゃそうか。……つか、『敵か味方かハッキリしない』ってのは違うと思うけどな」

 要求を退けられた割には、アッサリと引き下がるジャスミンは、ジロリとシュダの蒼い目を見据えて言葉を継いだ。

「今のところ、アンタと俺達は、明確に敵なんだけどさ」
「……ははは。お伺いしているより、随分と率直に物を申される方ですね。――『天下無敵の色事師』ジャスミンさん」

 シュダも負けじとジャスミンの黒曜石の様な瞳を睨めつけて言う。
 少々の間睨み合った後、ジャスミンはニヤリと相好を崩した。

「……じゃ、率直ついでに、単刀直入に訊くけど。――こんな硫黄臭いド田舎の山の中まで、わざわざ俺達を連れてきたのは、一体何の為なんだい、団長サンさ?」

 ジャスミンは、ズバリと切り込み、シュダの出方を窺う。

「……何の為……ですか」

 一方のシュダは、一瞬だけ目を瞑った後、あっさりと答える。

「……一言で言えば、『会って一言お礼を述べたかった』。……それだけですかね」
「は? ……お礼?」
「ええ……お礼です」

 シュダは、ニコリと微笑んで続けた。

「貴方達が、サンクトルでチャーくんを倒してくれたお陰で、前々から私達を支援していた某国と私との繋がりが、より強固なものとなりました。チャーくんというが無くなったおかげでね」
「夾雑物……ねえ」

 ヒースが、その言葉に思わず失笑する。

「……あっちでもこっちでも、随分な言われ様だなあ、あの豚饅頭。哀れが過ぎて、逆に同情するぜ」
「まあ、私の方も、彼の排除の為にアザレアを送り込んでいた訳ですが……結果的に君達が手を貸してくれたお陰で、当初の目的を達する事が出来た訳です。――その事に対して、直接お礼を述べたかったのがひとつ」

 そう言うと、シュダは右手を挙げて人差し指を立てた。

「もう一つは……単に会ってみたかった。――サンクトルの住民を纏め上げ、それなりに統制が取れていたはずの傭兵団を壊滅に至らしめた、『希代の策士』ジャスミンとやらにね」

 そう言って、彼は人差し指に続けて中指も立てた。
 ジャスミンは、満更でもない顔で、頭をポリポリと掻いた。

「そいつはどーも。で、目出度くご対面した訳だが、これからどうしたらいいんだい? 握手でもするかい? ――それとも、そのお洒落な白無垢に、サインでも書いてあげればいいのかい?」
「はははは、そうですね。――でしたら、サインを頂戴したいですね。……ただ、この上着は私のお気に入りなもので、こちらではなく――」

 シュダは、愉快そうに笑うと、懐から一束の書類を取り出し、氷の瞳で三人を見据えながら、感情の乗らない冷徹な声で告げる。

「――こちらの、傭兵団への“入団届”の方にお願いします」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

事務仕事しかできない無能?いいえ、空間支配スキルです。~勇者パーティの事務員として整理整頓していたら、いつの間にか銅像が立っていました~

水月
恋愛
「在庫整理しかできない無能は不要だ」 第一王子から、晩餐会の場で婚約破棄と国外追放を告げられた公爵令嬢ユズハ。 彼女のギフト【在庫整理】は、荷物の整理しかできないハズレスキルだと蔑まれていた。 だが、彼女は知っていた。 その真価は、指定空間内のあらゆる物質の最適化であることを。 追放先で出会った要領の悪い勇者パーティに対し、ユズハは事務的に、かつ冷徹に最適化を開始する。 「勇者様、右腕の筋肉配置を効率化しました」 「魔王の心臓、少し左にずらしておきましたね」 戦場を、兵站を、さらには魔王の命までをも在庫として処理し続けた結果、彼女はいつしか魔王討伐勇者パーティの一人として、威圧感溢れる銅像にまでなってしまう。 効率を愛する事務屋令嬢は、自分を捨てた国を不良債権として切り捨て、再出発する。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

ジャングリラ~悪魔に屠られ魔王転生。死の森を楽園に変える物語~

とんがり頭のカモノハシ
ファンタジー
「別の世界から勇者を召喚する卑怯な手口」に業を煮やした堕天使・ルシファーにより、異世界へ魔王として転生させられた大学生・左丹龍之介。 先代・魔王が勇者により討伐されて100年――。 龍之介が見たものは、人魔戦争に敗れた魔族が、辺境の森で厳しい生活を余儀なくされている姿だった。 魔族の生活向上を目指し、龍之介は元魔王軍の四天王、悪魔公のリリス、フェンリルのロキア、妖狐の緋魅狐、古代龍のアモンを次々に配下に収めていく。 バラバラだった魔族を再び一つにした龍之介は、転生前の知識と異世界の人間の暮らしを参考に、森の中へ楽園を作るべく奔走するのだが……

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

処理中です...