好色一代勇者 〜ナンパ師勇者は、ハッタリと機転で窮地を切り抜ける!〜(アルファポリス版)

朽縄咲良

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第十章 Welcome to the Black Mountain

勧誘と交渉

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 「入団届……? おいおい、アンタ、本気で俺たちをスカウトする気なのかよ?」

 ヒースは、シュダの提案を鼻で笑った。

「ええ。至って本気です」

 シュダは、大きく頷く。

「もちろん、君達のお望みの待遇をお約束しますよ。――ヒースくん、君の最低賃金と、労働要求は確か――日給20万エィン。9時-18時勤務。残業手当は20%増し。あとは……3食保証――だったね。宜しい。全部飲みましょう」
「へえ……。俺の事を随分よく知ってるみてえじゃねえか、白い団長さんよ」

 ヒースは、感心したように口笛を吹いた。

「ええ。サンクトルから出戻ってきた部下達から、君の事は聴取済みですからね」

 シュダは、そう言うとニコリと微笑む。ヒースも、口の端を上げて獰猛な笑みを見せる――が、頭を横に振った。

「――でも、それじゃあ足りねえなぁ。本気で俺を雇うつもりなら、もう一つ条件を付けさせてもらうぜ」
「――ほう、もう一つ、ですか」

 シュダは、ヒースの言葉を聞くと、足を組み直し、玉座から身を乗り出した。

「お伺いしましょう。ヒースくん。君の望む条件とやらを」
「……俺の望みはな」

 ヒースはそう切り出すと、太い指を突き出して、シュダの座る玉座の奥を指さした。

「――そこで息を潜めてる、“しろがねの死神”とサシでりあわせてくれや」
「え――! 居るの?」
「――!」

 彼の言葉に仰天したのは、ジャスミンとパームだった。二人は、思わず後ずさる。
 そして――、

「…………」

 闇に包まれた玉座の奥から溶け出すように現れたその姿に、思わず息を呑んだ。

「……この女が……“しろがねの死神”――!」

 あの神話伝承の通りの、銀糸の如く細やかで艶やかな銀の髪に、人並み外れた美しいかんばせ、ゆったりとしたローブ越しでも分かる、肉感的なプロポーション……。
 ジャスミンは、思わずヒュウッと口笛を吹いた。

「……これは、伝説にもなるわ……」

 思わず、そんな言葉が口をついて出た。
 一方のパームは、彼女の姿を見た途端、ただでさえ青かった顔を真っ白にして、恐怖のあまり、思わずその場にへたり込んでしまう。彼女の纏う禍々しい雰囲気に、すっかり当てられて――いや、それだけではないようだ……。
 そして、ヒースは、彼女の顔を見るや、嬉しそうに舌なめずりをして言った。

「――よう、あの日に果無の樹海でまみえて以来だな、死神」
「……」

 ヒースの呼びかけに、死神は言葉ではなく冷徹な一瞥を以て返す。彼は苦笑いした後、シュダの方に向き直って言った。

「――で、どうだい。白い団長さんよ。俺の望みを叶えちゃくれないかい?」
「――私も、君とゼラの勝負には、心躍るものを感じなくはないがね。残念ながら、それは認められませんねぇ」
「へえ……それは何故だい? そんなに、俺に大事な部下を殺されるのが嫌なのかい?」
「殺される……? ゼラが、君に? ……ふ、ふふふふふ」

 シュダは、ヒースの言葉を聞くと、大袈裟に目を丸くして、皮肉たっぷりに嘲笑わらってみせた。

「――むしろ逆だよ。私は、君が彼女にのを憂慮しているのですよ」
「……何だと?」

 シュダの言葉に、ヒースのこめかみに太い青筋が浮いた。

「――じゃあ、今すぐ試してみようじゃねえかよ! 来いよ、死神ぃッ!」

 ヒースは、巨竜の咆哮もかくやという大音声で叫び、太い縄で縛られたままにも関わらず、大股で一歩踏み出す。
 その動きに合わせて、死神も無言のまま、シュダの前に立ち塞がる。黒い霧で形成された左腕が、即座に巨大な大剣へと姿を変える。
 ――一触即発!

「「止めろッ!」」

 鋭い制止の声が死神ゼラ巨人ヒースの動きを止めた。
 ヒースは、背後を振り返り、怒りを湛えた目でジャスミンを睨みつける。

「……何だよ。何で止めるんだよ、色男」
「止めるに決まってるだろ、この脳筋! ――お前が暴れ回ったら、数珠繋ぎになってる俺達も巻き込まれちまうだろうがっ! トサカに来たにしても少しは考えろ!」
「あ、まあ大丈夫だよ。気にするなや」
「気にするわっ!」

 一方のゼラも振り返り、シュダを無感動な瞳で睨み据える。

「…………」
「……彼らは大事な客人だよ、ゼラ。――

 シュダは苦笑しながら、ゼラに諭すように言う。

「まあ、ここは私に免じて退いてくれ」
「……」

 彼の言葉を受けて、ゼラは無言を貫いたまま踵を返し、玉座の奥の闇に溶けるように立ち去っていった。

「――さて」

 シュダは、ゼラが消えたのを見届けると、玉座に深く掛け直し、階の下に立つ三人の客人の顔を見回した。

「話を戻しましょうか、ジャスミンくん。――君は、我々の傭兵団に入る気は……無いかな?」
「……そうだなぁ」

 ジャスミンは、首をコキリと鳴らしながら、目を瞑って数瞬考える。
 そして、目を開くと、首を横に傾げた。

「……う~ん、正直迷うねえ」
「ジャ、ジャスミンさんっ!」

 そんなジャスミンの煮え切らない態度に驚いたパームが、後ろで素っ頓狂な声を上げるが、彼は意に介さず、言葉を続ける。

「迷いすぎて、すぐには決められないや。一旦保留して、じっくり考えたいんだけど、いいっすかね?」
「ふふ……まあ、いいでしょう。では、今日一日、時間を差し上げましょう。せいぜい熟考してくれ給え」

 シュダはそう言うと、穏やかな薄笑みを浮かべ、玉座から立ち上がった。後ろに向き直ろうとして、思い出したような顔になって口を開いた。

「ああ……そうそう」

 ジャスミンを見据えて、静かな声で言う。

「……で、ウチのアザレアと随分と親密になったようですね」
「! …………まあ、ね」

 ジャスミンは、ハッとした顔をした後、ニヤリと笑って頷いてみせる。
 シュダは、彼の微笑みを見ると、一瞬だけ眉を顰めたが、直ぐに表情を消してその口を開いた。

「アザレアも、君と一緒に戦える事を知れば、とても喜ぶと思いますよ。……彼女の為にも、良い判断をして頂けるよう、祈っておりますよ……ジャスミンくん」
「……ご親切にどうも。前向きに検討してみるよ、団長さん」
「では、また明日――」
「ああ~、そうそう! ひとつだけいいっすか?」

 踵を返して、立ち去ろうとしたシュダを、ジャスミンが引き止めた。「何か……?」と、胡乱な表情で振り返るシュダに、ジャスミンは訊いた。

「つかぬ事をお伺いしたいんですがね。――団長さんは、って街を知ってますか?」
「――――」

 ほんの一瞬、シュダの顔に動揺が走ったのを、ジャスミンは見逃さなかった。

「いや、変な事を訊いてスミマセン。――俺も詳しくは知らないんですけどね。以前にアザリーから聞いた地名で、どこかで聞いた事があるような無いような……って感じでモヤモヤしちゃってて」
「……私も、良くは知らないですね。――確か、アザレアの生まれ故郷だったというのと、『赤き雪の降る日』という事件があって滅びた、という……その程度だね……」
「あ~、そうだったんすか」

 ジャスミンは、大袈裟に頷くと、満面の笑みをシュダに向けて言った。

「教えてくれてありがとう、団長さん。――
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