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第十章 Welcome to the Black Mountain
鉄扉とノック
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ジャスミン達は、シュダが大広間を立ち去った後、数珠繋ぎにされたまま仮面の者と数人の傭兵達に囲まれ、地下牢へと収容された。
「暗い~! 狭い~! 臭い~!」
縛られたまま、暗くジメジメとした狭い地下牢に押し込まれたジャスミンが、まるで駄々っ子のように喚き散らして、その不満を露わにする。
仮面の者が、苛立ちながら怒鳴る。
「ええい! 五月蠅い! 静かにせい!」
「こんな扱いされて静かに出来るかよ、コノヤロー!」
ジャスミンは、仮面の者に負けじと大声で怒鳴り返す。
「お前んトコの団長がさっき言ってたぞ! 俺達を『大事な客人』だ、って! 大事な客人サマに対するもてなしが、コレか! コレなのか、オイィッ!」
「ああ、それに関しては、団長から伝言を預かっている」
「……あ? 伝言?」
仮面の者の言葉に、ジャスミンは目をパチクリさせる。彼の表情が可笑しかったのか、仮面の者は含み笑いを堪えるように肩を震わせながら、言葉を継ぐ。
「――『そこから出たければ、早くサインして下さい』……だそうだ」
「……要するに、契約するまでは、客人という名の囚人だっていう事かい」
狭い牢の奥で、頭を天井にぶつけながら苦笑しているのはヒースだ。
仮面の者は、小さく頷く。
「そういう事だな。――で、どうだ? 観念して、我々の仲間になる気になったかな?」
「はーい……って、言いたいところだけどさ」
ジャスミンは、そう言うと舌を出した。
「何か、アイツの思惑通りに踊らされるのが癪に障るから、『だが断る』って伝えとけ」
「……愚かな。あたら若い命を捨てるか……」
そう呟くと、仮面の者はくるりと踵を返した。
「まあいい。今日いっぱいは、回答の猶予がある。一晩、そこで頭を冷やして、じっくり考える事だ。――今のような、妙な意地は張らない方が、長生きは出来るぞ」
「――ヘン!」
「イーッだ!」と、自分の口の端を引っ張り、歯を剥き出しているジャスミンの前で、重い鉄扉が閉ざされ、ガチャンと耳障りな音を立てて、閂が掛けられる。
「あ! ちょっと待て! イッコだけ聞かせろ!」
「……何だ?」
慌てた様子で、鉄扉の上に付いた鉄格子の小窓に張り付き叫んだジャスミンの声に、立ち止まり、首だけを廻らせて振り返る仮面の者。
ジャスミンは、彼にしては真剣な声色で言う。
「アイツ……アザリーは、どうしてる?」
「アザリー……アザレア様の事か?」
仮面の者の言葉に、大きく頷くジャスミン。
仮面の者は、小さく溜息と吐くと、それでも律儀に答えてやる。
「アザレア様は、随分お疲れの様子で、到着してすぐ、自室へと引き上げなされた」
「……そうか。無事なんだな……」
「――何を言っている? あのお方は、団長の一番古い配下で、一番のお気に入りだぞ」
「……分かった。もういいや。呼び止めて悪かったな」
「……貴様達が賢明な判断を下す事を、期待しているからな」
そう言い残すと、仮面の者は首を戻し、そのまま地下牢舎の廊下を去っていった。
◆ ◆ ◆ ◆
それから半日が過ぎた。既に日は落ち、地下牢の明かり取りの小窓から覗く空は、星一つ見えない漆黒に覆われている。
「……で、どうするんだよ、色男」
ヒースはイライラした口調で、地下牢の剥き出しの石壁に寄りかかって顔を伏せているジャスミンに声をかけた。
「……」
「俺ぁ、もう結構限界だぜ。縛り付けられたまんま、こんなクソ狭え地下牢に押し込まれてよぉ。寝返りどころか、寝転ぶ事すら出来ねえし、首も満足に伸ばせりゃしねえ!」
「そりゃ、コッチも同じだぜ。オッサンがバカでかいおかげでさ!」
「んだと、ゴラ!」
「あーもう! こんな所で言い争いは止めて下さいよ!」
フラストレーションが溜まっているのは、ヒースひとりだけではないらしい。先程から、三人の雰囲気は頗る悪い。
「……でも、ジャスミンさん、本当にどうするつもりですか?」
パームは、不安で眉を顰めながら、恐る恐るジャスミンに尋ねる。ジャスミンは顔を上げて、パームの顔をチラリと見て、皮肉げに口の端を吊り上げた。
「どうするって……じゃあ、折角だから、向こうさんの提案に乗ろうか、パーム?」
「ジャ――ジャスミンさんッ?」
「あーハイハイ、冗談だよ、ジョーダン!」
気色ばむパームに、苦笑して首を振ってみせるジャスミン。
「ぶっちゃけ、どんだけ評価されたとしても、あの白塗りオバケの下で働きたいとは思えないよなぁ」
「で――ですよね……」
「あんなイカれたファッションセンスの塊の部下だ……って見られちゃうと、女の子にモテなくなっちゃいそうだからねぇ」
「……」
「いや、冗談だよジョーダン!」
呆れてジト目で睨むパームに、慌てて首を振るジャスミン。
「……じゃあ、何であの場で提案を断らなかったんだよ?」
ヒースが、怪訝な顔で訊く。
「あのさあ、オッサン……。あそこで即答なんかしていたら、拘束されてる上に、無ジンノヤイバ無しの俺なんかは勿論、基本戦闘力の高いオッサンや、空手でも“ミソギ”が使えるパームでも、一瞬で銀の死神に切り刻まれるだけだったぜ」
「いや、それはそれで、ハンデマッチとしては面白い――」
「だから、それは、オッサンだけだっつーの!」
「……いえ。多分、ヒースさんでも、太刀打ちできなかったと思います……あの団長には」
「あぁ?」
気色ばむヒース。だが、パームは、それにも気付かない様子で、顔を青ざめさせて、ブルリと身を震わせる。
「――銀の死神もですが……僕は、あの団長の纏う雰囲気の方が、ずっと恐ろしかった……です。人ならざるモノというか……数多の業を背負った、というか……そんな、忌まわしい、得体の知れないモノを感じました……」
「……確かに、得体の知れないナニか、っていうのは分かる気がするな……」
ジャスミンは、パームの言葉に頷いた。
「――何だよそりゃ……。まるで、アイツが人間じゃな――」
ふと、ヒースが言葉の途中で口を閉ざし、耳を峙てた。
微かに、地下牢舎の石畳を歩く足音が、反響しながら近付いてくる。
ジャスミンは、そっと鉄扉の横に行き、耳を当てて外の様子を窺おうとする。
コツ……コツ……コツ……
一定の調子を刻みながら、徐々に近付く足音。――それは、彼らの房の前で止まった。息を圧し殺しながら、縛られた状態でも可能な限り動けるよう、身構える三人。
すると、
コン……コン……コン
小さく鉄扉が叩かれた。
「……!」
三人は、暗闇の中でお互いの目を見合わせる。そして、そのまま息を殺して、向こうの出方を窺う。
……コン……コン……コン……
すると、もう一度ノックの音がし、次いで、聞き覚えのある声が、牢内に向かって投げかけられた。
「……ジャス……みんな……私よ。――アザレアよ」
「暗い~! 狭い~! 臭い~!」
縛られたまま、暗くジメジメとした狭い地下牢に押し込まれたジャスミンが、まるで駄々っ子のように喚き散らして、その不満を露わにする。
仮面の者が、苛立ちながら怒鳴る。
「ええい! 五月蠅い! 静かにせい!」
「こんな扱いされて静かに出来るかよ、コノヤロー!」
ジャスミンは、仮面の者に負けじと大声で怒鳴り返す。
「お前んトコの団長がさっき言ってたぞ! 俺達を『大事な客人』だ、って! 大事な客人サマに対するもてなしが、コレか! コレなのか、オイィッ!」
「ああ、それに関しては、団長から伝言を預かっている」
「……あ? 伝言?」
仮面の者の言葉に、ジャスミンは目をパチクリさせる。彼の表情が可笑しかったのか、仮面の者は含み笑いを堪えるように肩を震わせながら、言葉を継ぐ。
「――『そこから出たければ、早くサインして下さい』……だそうだ」
「……要するに、契約するまでは、客人という名の囚人だっていう事かい」
狭い牢の奥で、頭を天井にぶつけながら苦笑しているのはヒースだ。
仮面の者は、小さく頷く。
「そういう事だな。――で、どうだ? 観念して、我々の仲間になる気になったかな?」
「はーい……って、言いたいところだけどさ」
ジャスミンは、そう言うと舌を出した。
「何か、アイツの思惑通りに踊らされるのが癪に障るから、『だが断る』って伝えとけ」
「……愚かな。あたら若い命を捨てるか……」
そう呟くと、仮面の者はくるりと踵を返した。
「まあいい。今日いっぱいは、回答の猶予がある。一晩、そこで頭を冷やして、じっくり考える事だ。――今のような、妙な意地は張らない方が、長生きは出来るぞ」
「――ヘン!」
「イーッだ!」と、自分の口の端を引っ張り、歯を剥き出しているジャスミンの前で、重い鉄扉が閉ざされ、ガチャンと耳障りな音を立てて、閂が掛けられる。
「あ! ちょっと待て! イッコだけ聞かせろ!」
「……何だ?」
慌てた様子で、鉄扉の上に付いた鉄格子の小窓に張り付き叫んだジャスミンの声に、立ち止まり、首だけを廻らせて振り返る仮面の者。
ジャスミンは、彼にしては真剣な声色で言う。
「アイツ……アザリーは、どうしてる?」
「アザリー……アザレア様の事か?」
仮面の者の言葉に、大きく頷くジャスミン。
仮面の者は、小さく溜息と吐くと、それでも律儀に答えてやる。
「アザレア様は、随分お疲れの様子で、到着してすぐ、自室へと引き上げなされた」
「……そうか。無事なんだな……」
「――何を言っている? あのお方は、団長の一番古い配下で、一番のお気に入りだぞ」
「……分かった。もういいや。呼び止めて悪かったな」
「……貴様達が賢明な判断を下す事を、期待しているからな」
そう言い残すと、仮面の者は首を戻し、そのまま地下牢舎の廊下を去っていった。
◆ ◆ ◆ ◆
それから半日が過ぎた。既に日は落ち、地下牢の明かり取りの小窓から覗く空は、星一つ見えない漆黒に覆われている。
「……で、どうするんだよ、色男」
ヒースはイライラした口調で、地下牢の剥き出しの石壁に寄りかかって顔を伏せているジャスミンに声をかけた。
「……」
「俺ぁ、もう結構限界だぜ。縛り付けられたまんま、こんなクソ狭え地下牢に押し込まれてよぉ。寝返りどころか、寝転ぶ事すら出来ねえし、首も満足に伸ばせりゃしねえ!」
「そりゃ、コッチも同じだぜ。オッサンがバカでかいおかげでさ!」
「んだと、ゴラ!」
「あーもう! こんな所で言い争いは止めて下さいよ!」
フラストレーションが溜まっているのは、ヒースひとりだけではないらしい。先程から、三人の雰囲気は頗る悪い。
「……でも、ジャスミンさん、本当にどうするつもりですか?」
パームは、不安で眉を顰めながら、恐る恐るジャスミンに尋ねる。ジャスミンは顔を上げて、パームの顔をチラリと見て、皮肉げに口の端を吊り上げた。
「どうするって……じゃあ、折角だから、向こうさんの提案に乗ろうか、パーム?」
「ジャ――ジャスミンさんッ?」
「あーハイハイ、冗談だよ、ジョーダン!」
気色ばむパームに、苦笑して首を振ってみせるジャスミン。
「ぶっちゃけ、どんだけ評価されたとしても、あの白塗りオバケの下で働きたいとは思えないよなぁ」
「で――ですよね……」
「あんなイカれたファッションセンスの塊の部下だ……って見られちゃうと、女の子にモテなくなっちゃいそうだからねぇ」
「……」
「いや、冗談だよジョーダン!」
呆れてジト目で睨むパームに、慌てて首を振るジャスミン。
「……じゃあ、何であの場で提案を断らなかったんだよ?」
ヒースが、怪訝な顔で訊く。
「あのさあ、オッサン……。あそこで即答なんかしていたら、拘束されてる上に、無ジンノヤイバ無しの俺なんかは勿論、基本戦闘力の高いオッサンや、空手でも“ミソギ”が使えるパームでも、一瞬で銀の死神に切り刻まれるだけだったぜ」
「いや、それはそれで、ハンデマッチとしては面白い――」
「だから、それは、オッサンだけだっつーの!」
「……いえ。多分、ヒースさんでも、太刀打ちできなかったと思います……あの団長には」
「あぁ?」
気色ばむヒース。だが、パームは、それにも気付かない様子で、顔を青ざめさせて、ブルリと身を震わせる。
「――銀の死神もですが……僕は、あの団長の纏う雰囲気の方が、ずっと恐ろしかった……です。人ならざるモノというか……数多の業を背負った、というか……そんな、忌まわしい、得体の知れないモノを感じました……」
「……確かに、得体の知れないナニか、っていうのは分かる気がするな……」
ジャスミンは、パームの言葉に頷いた。
「――何だよそりゃ……。まるで、アイツが人間じゃな――」
ふと、ヒースが言葉の途中で口を閉ざし、耳を峙てた。
微かに、地下牢舎の石畳を歩く足音が、反響しながら近付いてくる。
ジャスミンは、そっと鉄扉の横に行き、耳を当てて外の様子を窺おうとする。
コツ……コツ……コツ……
一定の調子を刻みながら、徐々に近付く足音。――それは、彼らの房の前で止まった。息を圧し殺しながら、縛られた状態でも可能な限り動けるよう、身構える三人。
すると、
コン……コン……コン
小さく鉄扉が叩かれた。
「……!」
三人は、暗闇の中でお互いの目を見合わせる。そして、そのまま息を殺して、向こうの出方を窺う。
……コン……コン……コン……
すると、もう一度ノックの音がし、次いで、聞き覚えのある声が、牢内に向かって投げかけられた。
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