好色一代勇者 〜ナンパ師勇者は、ハッタリと機転で窮地を切り抜ける!〜(アルファポリス版)

朽縄咲良

文字の大きさ
126 / 176
第十章 Welcome to the Black Mountain

感謝と告別

しおりを挟む
 「アザリー……!」

 ジャスミンは目を見開くと、牢の鉄扉の前に張り付いた。パームも、膝立ちで鉄扉の方に躙り寄る。

「――よお、姐ちゃん。どの面下げてここに来たんだい、ええ?」
「ヒースさんッ!」

 犬歯を剥き出して、皮肉を言うヒースを、戸惑い顔で嗜めるパーム。

「……ごめんなさい。でも……」
「でももヘチマも無えよな。味方面して俺達についてきて、肝心な所で華麗に裏切るなんてな。――まったく、女は怖いねえ。そうだろ、色男?」
「……それくらいにしとけ、オッサン」

 ジャスミンは、静かな口調で言った。……が、その声の響きには、微かな苛立ちと怒りが含まれているのが分かった。
 ヒースは、その太い眉を吊り上げて、尚も言い募ろうとしたが、首を振って口を噤んだ。

「――アザリー。あの団長に、何か言われなかったか? ……大丈夫か?」
「……大丈夫。――というか、、シュダ様にはお会いしていないわ」

 鉄扉の向こうで話すアザレアの声は、微かに震えていた。

「……でも、これから行こうと思うわ。――
「! ――アザリー……まさか、お前……!」

 アザレアの言葉にハッとするジャスミン。

「――記憶が……?」
「……いいえ」

 アザレアは小さな声で否定した。

「――ハッキリとは思い出せないわ。……でも、サンクトルでジャスが言ってた事や、色々な事実を組み合わせて考え直してみたら、それしか無いかなって思える答えが、解ってきた……」
「……そうか」

 それから、少しの間、二人に沈黙した。
 その沈黙を破ったのは、アザレアの方だった。

「――だから、私、これから確かめに行こうと思って。……姉様の仇が、、をね」
「! ダメだ! 一人で行くな! ここを開けろ、アザリー! どうしても行くって言うのなら俺達も一緒に――!」
「ゴメンね……」
「アザリーッ!」

 鉄扉の向こうから聞こえるアザレアの声は、か細く、僅かに掠れていた。

「……気持ちだけ受け取っておくね。――ありがとう」
「アザレアさん! ジャスミンさんの言う通りです! ファジョーロの時もそうだったじゃないですか? 僕たちがみんなで力を合わせれば――」
「……無理よ」

 パームの言葉を、この上なく悲愴な響きを持った一言で遮ったアザレアは、鉄扉の格子の窓から、顔を覗かせた。
 彼女は、潤んだ瞳で三人を見て、表情を緩ませた。

「……じゃあね、みんな。サンクトルからファジョーロ、そしてここまで……ハチャメチャで騒がしくて、大変だったけど――楽しかったわ」
「……アザレアさん……」
「少しの間だったけど、久しぶりに昔の自分を思い出したわ。――アケマヤフィトの雪の中、転げ回ったり、雪を投げ合ったりして笑ってた……あの頃の私を――」
「……」
「ねえ、ジャス……」
「……」

 アザレアに話しかけられたジャスミンは、鉄扉に寄りかかったまま、顔を伏せている。前髪に隠されて、パームからは、彼の表情を窺い知る事は出来なかった。

「色々、ありがとう。――元気でね。……あんまり女の子を泣かせちゃダメよ。パーム君を困らせるのも止めなさいね。……分かった?」
「…………何だよ、その言い方……ロゼリア姉ちゃんとソックリだな……」
「……そう、かしら?」

 アザレアは、泣きそうな、そして苦笑しそうな顔で表情を歪ませると、小窓から顔を離した。

「…… 『小さなる フェイムの分身わかれみ 隠れし火 一時後ひとときのちに 燃え上がるべし』……」

 彼女は、静かな声で聖句を唱え、牢の中に声をかける。

「――この閂は、1時間後にわ。そうしたら、ここを脱出して。貴方達の荷物は、牢舎の詰め所に置いておくから……」
「――アザレアさん!」
「……」

 パームの呼びかけに、アザレアは答えない。――その代わり、

 キィン……カラン……

 鉄扉の小窓から何かを投げ入れた。布に覆われていたは、牢の石床にぶつかると金属音を立てて転がり、布がはだけて中身が露わになる。
 ジャスミンは顔を上げ、を目に留めるや、目を大きく見開いた。

「――アザリー、これは!」
「……返すね。とっても嬉しかったけど……、今の私なんかには受け取る資格なんて無いものだから……」
「おい! アザリー! めろ! ……めてくれ」
「……」

 ジャスミンの懇願に、アザレアは言葉を返さず、静かな靴音を立てて、その場を立ち去る。
 そして、ジャスミンに届かない程の小さな声で、彼に別れを告げた。

「……ごめんね……ありがとう……元気でね……大好きだよ……」

 ――彼女の頬に、透明な真珠の粒が流れ落ちた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

事務仕事しかできない無能?いいえ、空間支配スキルです。~勇者パーティの事務員として整理整頓していたら、いつの間にか銅像が立っていました~

水月
恋愛
「在庫整理しかできない無能は不要だ」 第一王子から、晩餐会の場で婚約破棄と国外追放を告げられた公爵令嬢ユズハ。 彼女のギフト【在庫整理】は、荷物の整理しかできないハズレスキルだと蔑まれていた。 だが、彼女は知っていた。 その真価は、指定空間内のあらゆる物質の最適化であることを。 追放先で出会った要領の悪い勇者パーティに対し、ユズハは事務的に、かつ冷徹に最適化を開始する。 「勇者様、右腕の筋肉配置を効率化しました」 「魔王の心臓、少し左にずらしておきましたね」 戦場を、兵站を、さらには魔王の命までをも在庫として処理し続けた結果、彼女はいつしか魔王討伐勇者パーティの一人として、威圧感溢れる銅像にまでなってしまう。 効率を愛する事務屋令嬢は、自分を捨てた国を不良債権として切り捨て、再出発する。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

ジャングリラ~悪魔に屠られ魔王転生。死の森を楽園に変える物語~

とんがり頭のカモノハシ
ファンタジー
「別の世界から勇者を召喚する卑怯な手口」に業を煮やした堕天使・ルシファーにより、異世界へ魔王として転生させられた大学生・左丹龍之介。 先代・魔王が勇者により討伐されて100年――。 龍之介が見たものは、人魔戦争に敗れた魔族が、辺境の森で厳しい生活を余儀なくされている姿だった。 魔族の生活向上を目指し、龍之介は元魔王軍の四天王、悪魔公のリリス、フェンリルのロキア、妖狐の緋魅狐、古代龍のアモンを次々に配下に収めていく。 バラバラだった魔族を再び一つにした龍之介は、転生前の知識と異世界の人間の暮らしを参考に、森の中へ楽園を作るべく奔走するのだが……

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

処理中です...