好色一代勇者 〜ナンパ師勇者は、ハッタリと機転で窮地を切り抜ける!〜(アルファポリス版)

朽縄咲良

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第十二章 アザレアBABY

クナイと煙幕

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 ――所変わって、ここは謁見の間。

 大きな広間の淀んだ空気を引き裂きながら、銀色の閃きが飛ぶ。

「うおっとぉっ!」

 ジャスミンは、間の抜けた叫び声を上げながら、無ジンノヤイバを前に突きだし、柄尻を押す。忽ち展開したピンク色の傘が、暗闇の向こうから飛来した無数のクナイを防いだ。
 すかさず、地面を蹴り、横っ飛びで壁面の調度品の陰に隠れる。

「……ちょこまかと逃げ回りおって――! 貴様、それでも男か、臆病者!」

 素早く新たなクナイを構えた仮面の者は、舌打ちをすると、音も無く床を蹴った。

「シャアッ!」

 奇声を上げ、ジャスミンに肉薄しつつ、クナイを放つ。

「おっとぉ!」

 先程と同じく、桃色の光の傘を展開して、飛来するクナイを防ぐジャスミン。
 ――と、

「油断大敵だ!」

 クナイに紛れて突貫してきた仮面の男が、黒い直刀を光の傘に向けて突き立てる。
 死角からの不意打ちに、光の傘は耐え切れず、乾いた音を立てて破れ割れた。

「――クッ! 痛ッ!」

 顔を歪めるジャスミン。無ジンノヤイバの傘を貫いた直刀の切っ先が、彼の右腕を掠ったのだ。
 ジャスミンは、苦し紛れに蹴りを放つが、仮面の男は身軽に跳びすさって、その攻撃を軽々と躱す。
 そして、懐に手を入れると、握り拳ほどの丸い玉を取り出し、ジャスミンに向かって投げつけた。

「なんだ……そりゃ?」

 山鳴りの軌道を描いて、自分の方へ近付いてくる丸い玉をどうするか――ジャスミンは一瞬躊躇した。
 次の瞬間、丸い玉は高い音を立てて破裂し、中から夥しい煙を吐き出す。

(――煙幕か!)

 ジャスミンの脳裏に、リオルスの宿屋での記憶が蘇る。咄嗟に口を押さえ、煙を吸い込む事は防げたが、たちまち周囲を白い煙に覆われ、ジャスミンの視界が奪われる。

「や――やべっ!」

 煙に紛れての奇襲の可能性に、ジャスミンは慌てて、無ジンノヤイバを楯に変化させ、眼前に構え、攻撃に備えようとする。
 が、

「――こっちだ」
「! ―――クッ!」

 耳元で囁き声が聞こえた次の瞬間、背中に焼ける様な鋭い痛みを感じる。
 ジャスミンは、くぐもった悲鳴を上げながら、前のめりに倒れ、そのままゴロゴロと転がり、何とか煙の外へと脱出した。
 背中を触ると、シャツが切り裂かれ、ぬるりとした液体の感触が――。

「もう……コソコソと! チクチクチクチク! そっちこそ、正々堂々と戦えコノヤローッ!」

 ジャスミンは、背中を押さえながら苛立たしげに叫び、晴れた煙の向こうから姿を見せた黒装束を睨みつけた。
 黒装束の仮面の者は、悠然と歩みながら、静かな声で言う。

「すまぬな。これが忍びの戦い方なのだ。恨み言は黄泉御門ヨミミカドの向こうで、好きなだけ喚くが良い」
「……死んでから文句言えってか? ――ヤ~ダね!」

 ジャスミンは、べーと舌を出すと、右手の無ジンノヤイバを真っ直ぐ突き出した。その鍔元から、マゼンタ色の光が迸り、一振りの刃と化し、仮面の男の胸元目がけて一直線に伸びていく。
 が、光の刃が仮面の男に届く直前で、蝋燭の火のようにかき消えてしまう。

「くそっ! ……ここでまた――」

 ジャスミンは思わず舌打ちし、仮面の男は、彼の様子を見ると軽く頷いた。

「なるほど……察するに、そのけったいな桃色の光には、があるようだな」
「……底?」
「要するに、桶の水と同じだ」

 仮面の者は、ジャスミンの持つ無ジンノヤイバの柄を直刀で指し示しながら、言葉を継ぐ。

「桶に溜まった水は、使えば使う程減っていく。それと同じように、その武器の力の源には限りがあって、使えば使うほど消耗していく。その内、光自体を発生させ、実体を保つ事すらできなくなるのではないか? ――そのように」
「……ご名察」

 無ジンノヤイバの特性と弱点が、早くもバレた。ジャスミンは、思わず苦笑いを浮かべる。

「……さすが、戦闘のプロだね。あっという間に見透かされちゃったよ……」
「不便なものだな。確かに、伸縮自在、剣にも盾にもなる――その柄は、持ち主貴様にとっては便利で、こちらとしては厄介極まるものだが……。光の源が枯渇してしまえば、ただの柄……」
「……」
「定まった形を持たぬ、光の刃……なるほど、それで“無刃ムジンヤイバ”か……」

 そう言うと、仮面の奥で含み笑いを漏らす。

「ふふふ……だが、『無刃ムジン』ではあっても、『無尽ムジン』では無かったという事か。面白い得物だが、使えぬならば意味が無い」

 そう呟くと、自分が手にした漆黒の直刀を愛おしげに撫でた。

「そんな役立たずモノより、伸びも形を変える事も出来ないが……某の忍刀の方が、ずっと役に立つ」
「……」

 そんな仮面の者の言葉にジャスミンは歯噛みし、彼にしては珍しい、余裕の欠片もない表情で睨みつける。
 そんな色事師の様子を、仮面の奥の瞳で冷酷に見据えながら、仮面の者はユラリと右手に忍刀を構え、左手にクナイの束を挟み込んだ。
 そして、静かな声でジャスミンに告げる。

「……では、そろそろ終わりにするとしよう。覚悟を決めよ……色事師」
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