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第十二章 アザレアBABY
窮地と不敵
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「シャアッ!」
仮面の者は、左手のクナイを一斉に投げ放つと、同時に力強く床を蹴る。
「くっそ!」
ジャスミンは、横っ飛びに跳んでクナイを避ける。が――、
「その動きは読んでいる!」
「ぐッ!」
仮面の者は、ジャスミンが跳んだ先に回り込んで、空中で一回転しながら強烈な浴びせ蹴りを見舞った。
仮面の者の踵が、ジャスミンの肩口に決まり、彼は絨毯張りの床へ叩きつけられる。
「――覚悟っ!」
すかさず右手の忍刀を逆手に持ち替え、仮面の者は倒れ伏すジャスミン目がけて突き刺す。
「――がッ!」
ジャスミンは、身体を裏返しながら忍刀を避けようとするが、完全には避けきれなかった。刺突を受けた左の肩口から、夥しい鮮血が噴き出す。
ジャスミンは、苦痛に顔を顰めたが、すかさず仮面の者の足元目がけて、足払いをかける。しかし、ヒットする直前に仮面の者が高々と跳躍した為、ジャスミンの脚は空振りする。
仮面の者は空中で一回転すると、ジャスミンから5エイム程離れた所へ音も無く着地する。
「……反撃する手段もないのに、なかなか粘るではないか? 思った以上に往生際の悪い男だな、貴様は」
「……それは……褒め言葉と受け取っても……良いのかな?」
仮面の者の言葉に、ジャスミンは荒い息を吐きながら軽口で返した。
そんなジャスミンの言葉に、仮面の奥で嗤い声を立てる。
「くく……半分は、そうだな」
「もう……半分は?」
「呆れておる」
仮面の者はそう言い捨てると、左手を懐に突っ込み、今度は丸い玉を取り出した。
「もう、お前の得物は只の古ぼけた剣の柄。背中と肩口に複数の負傷で、動きも鈍い。――万が一にも勝ち目は無いのではないか? 大人しくしておいた方が身の為だぞ」
「――何? ゴメンなさいしたら見逃してくれるの?」
「まさか」
仮面の者は苦笑を漏らした。
「ただ、より苦痛が少なく黄泉路へ逝ける――それだけだ。どのみち、『訊く事があるから生かして連れてこい』との、団長からの厳命がある以上、この場で殺す事はかなわぬ。――貴様も、某に四肢を刻まれてから団長に嬲られるより、死の直前までは五体満足のままの方が良いであろう?」
「何それ、意味分かんない。どっちみち死ぬのは確定なのかよ」
ジャスミンは、呆れ顔で嗤ってみせた。そして、右手に持った無ジンノヤイバの柄尻を左掌で押し込む――が、無ジンノヤイバの鍔元からは、僅かな光すら漏れ出る事はなかった。
それでも、彼の薄ら笑いは消えない。
「ま、こんな程度で諦めているようじゃ、“天下無敵の色事師”の二つ名が泣くってもんさ。ヤクザ者の女ん家の夜這いにしくじった時の方が、ずっとヤバかったぜ。パンツ一丁で強面の兄ちゃん達30人に囲まれた時のアレに比べれば……ねえっ!」
そう言い放つや、ジャスミンは床を蹴って、仮面の者に一撃食らわさんと、左拳を振りかぶった。
が、仮面の者は、この奇襲を読んでいた。後ろに跳びすさりながら、左手に持った煙玉を投げつける。
ジャスミンの足元に落ちた煙玉が弾けて、夥しい白煙を噴き上げた。
「く――クソッ! また――ッ!」
立ちこめる白煙の中で、ジャスミンの毒づく声が聞こえた。
仮面の者は、追撃を見舞わんと右手に忍刀を構える……が、仮面の奥で僅かに目を顰めた。忍刀の柄を握り込んだ際に、初撃で負った右腕の傷が痛んだのだ。
やむを得ず、忍刀を左手に持ち替え、忍び走りで、音も無く白煙の中へと飛び込む。
白煙に飛び込んだ途端、視界が真っ白に染まるが、仮面の者にとっては、そう変わるものでは無い。“氣”を感じ取る事ができるのだ。視界が奪われた状況でも、敵の位置が手に取るように分かる。
(……そこか)
目的の位置は、煙玉が爆ぜる前より、幾分移動していた。何とか煙の外へと逃れて視界を確保しようという意図が見え見えだ。
仮面の者は、氣の元を目指して足音を消しながら近付く。すぐに、ぼんやりとした影が、濃厚な煙の向こうから透けて見えた。
仮面の者は、音を立てぬように注意しながら、忍刀を腰だめで構える。
狙いは、ジャスミンの右背。絶妙な力加減で、右肺に穴を開ける程度で抑えれば、致命傷を与える事無く、彼の無力化が図れるからだ。
仮面の者は、息を整えると足を踏み出し、忍刀の切っ先を鋭く突き出す――!
正に忍刀がジャスミンの右背を貫かんとしたその瞬間――。
「――残念でした♪」
「!」
軽薄な声が、仮面の者の耳朶を打った。
そして、押し込んだ忍刀の手応えがおかしい事に気が付く。仮面の者は目を見開き、その手元を見る。
――彼の忍刀は、マゼンタ色の光の楯に遮られ、根元から折れ曲がっていた。
「な――! それは……?」
信じがたい状況に、仮面の奥の瞳が驚愕で見開かれる。
「貴様の……その光の武器はもう使えなかったはず――! 何故、発動できている?」
「……無ジンノヤイバが、もう使えないと言ったな?」
ギィンと金属音を立てて、忍刀が弾き飛ばされる。不意を衝かれて体勢を崩す仮面の者。
と、晴れかかった煙の間から、仮面の者の目の前に、ジャスミンの端正で軽薄な貌がヌッと現れた。彼は、ニヤリと不敵な笑みを浮かべて言葉を継いだ。
「――あれは、嘘だ♪」
「う――嘘だとッ?」
ジャスミンの言葉に、思わず茫然とする仮面の者。その鳩尾に、無ジンノヤイバの鍔元を押し当てたジャスミンは、目に力を籠めて、静かに言い放った。
「ぶっ飛べ」
そして、左掌で無ジンノヤイバの柄尻を押す。
カチンと乾いた音がした――次の瞬間、仮面の者の胸元で、目映いばかりのマゼンタ色の光の奔流が溢れ出し、その身体を真っ直ぐ後方へと弾き飛ばしたのだった。
仮面の者は、左手のクナイを一斉に投げ放つと、同時に力強く床を蹴る。
「くっそ!」
ジャスミンは、横っ飛びに跳んでクナイを避ける。が――、
「その動きは読んでいる!」
「ぐッ!」
仮面の者は、ジャスミンが跳んだ先に回り込んで、空中で一回転しながら強烈な浴びせ蹴りを見舞った。
仮面の者の踵が、ジャスミンの肩口に決まり、彼は絨毯張りの床へ叩きつけられる。
「――覚悟っ!」
すかさず右手の忍刀を逆手に持ち替え、仮面の者は倒れ伏すジャスミン目がけて突き刺す。
「――がッ!」
ジャスミンは、身体を裏返しながら忍刀を避けようとするが、完全には避けきれなかった。刺突を受けた左の肩口から、夥しい鮮血が噴き出す。
ジャスミンは、苦痛に顔を顰めたが、すかさず仮面の者の足元目がけて、足払いをかける。しかし、ヒットする直前に仮面の者が高々と跳躍した為、ジャスミンの脚は空振りする。
仮面の者は空中で一回転すると、ジャスミンから5エイム程離れた所へ音も無く着地する。
「……反撃する手段もないのに、なかなか粘るではないか? 思った以上に往生際の悪い男だな、貴様は」
「……それは……褒め言葉と受け取っても……良いのかな?」
仮面の者の言葉に、ジャスミンは荒い息を吐きながら軽口で返した。
そんなジャスミンの言葉に、仮面の奥で嗤い声を立てる。
「くく……半分は、そうだな」
「もう……半分は?」
「呆れておる」
仮面の者はそう言い捨てると、左手を懐に突っ込み、今度は丸い玉を取り出した。
「もう、お前の得物は只の古ぼけた剣の柄。背中と肩口に複数の負傷で、動きも鈍い。――万が一にも勝ち目は無いのではないか? 大人しくしておいた方が身の為だぞ」
「――何? ゴメンなさいしたら見逃してくれるの?」
「まさか」
仮面の者は苦笑を漏らした。
「ただ、より苦痛が少なく黄泉路へ逝ける――それだけだ。どのみち、『訊く事があるから生かして連れてこい』との、団長からの厳命がある以上、この場で殺す事はかなわぬ。――貴様も、某に四肢を刻まれてから団長に嬲られるより、死の直前までは五体満足のままの方が良いであろう?」
「何それ、意味分かんない。どっちみち死ぬのは確定なのかよ」
ジャスミンは、呆れ顔で嗤ってみせた。そして、右手に持った無ジンノヤイバの柄尻を左掌で押し込む――が、無ジンノヤイバの鍔元からは、僅かな光すら漏れ出る事はなかった。
それでも、彼の薄ら笑いは消えない。
「ま、こんな程度で諦めているようじゃ、“天下無敵の色事師”の二つ名が泣くってもんさ。ヤクザ者の女ん家の夜這いにしくじった時の方が、ずっとヤバかったぜ。パンツ一丁で強面の兄ちゃん達30人に囲まれた時のアレに比べれば……ねえっ!」
そう言い放つや、ジャスミンは床を蹴って、仮面の者に一撃食らわさんと、左拳を振りかぶった。
が、仮面の者は、この奇襲を読んでいた。後ろに跳びすさりながら、左手に持った煙玉を投げつける。
ジャスミンの足元に落ちた煙玉が弾けて、夥しい白煙を噴き上げた。
「く――クソッ! また――ッ!」
立ちこめる白煙の中で、ジャスミンの毒づく声が聞こえた。
仮面の者は、追撃を見舞わんと右手に忍刀を構える……が、仮面の奥で僅かに目を顰めた。忍刀の柄を握り込んだ際に、初撃で負った右腕の傷が痛んだのだ。
やむを得ず、忍刀を左手に持ち替え、忍び走りで、音も無く白煙の中へと飛び込む。
白煙に飛び込んだ途端、視界が真っ白に染まるが、仮面の者にとっては、そう変わるものでは無い。“氣”を感じ取る事ができるのだ。視界が奪われた状況でも、敵の位置が手に取るように分かる。
(……そこか)
目的の位置は、煙玉が爆ぜる前より、幾分移動していた。何とか煙の外へと逃れて視界を確保しようという意図が見え見えだ。
仮面の者は、氣の元を目指して足音を消しながら近付く。すぐに、ぼんやりとした影が、濃厚な煙の向こうから透けて見えた。
仮面の者は、音を立てぬように注意しながら、忍刀を腰だめで構える。
狙いは、ジャスミンの右背。絶妙な力加減で、右肺に穴を開ける程度で抑えれば、致命傷を与える事無く、彼の無力化が図れるからだ。
仮面の者は、息を整えると足を踏み出し、忍刀の切っ先を鋭く突き出す――!
正に忍刀がジャスミンの右背を貫かんとしたその瞬間――。
「――残念でした♪」
「!」
軽薄な声が、仮面の者の耳朶を打った。
そして、押し込んだ忍刀の手応えがおかしい事に気が付く。仮面の者は目を見開き、その手元を見る。
――彼の忍刀は、マゼンタ色の光の楯に遮られ、根元から折れ曲がっていた。
「な――! それは……?」
信じがたい状況に、仮面の奥の瞳が驚愕で見開かれる。
「貴様の……その光の武器はもう使えなかったはず――! 何故、発動できている?」
「……無ジンノヤイバが、もう使えないと言ったな?」
ギィンと金属音を立てて、忍刀が弾き飛ばされる。不意を衝かれて体勢を崩す仮面の者。
と、晴れかかった煙の間から、仮面の者の目の前に、ジャスミンの端正で軽薄な貌がヌッと現れた。彼は、ニヤリと不敵な笑みを浮かべて言葉を継いだ。
「――あれは、嘘だ♪」
「う――嘘だとッ?」
ジャスミンの言葉に、思わず茫然とする仮面の者。その鳩尾に、無ジンノヤイバの鍔元を押し当てたジャスミンは、目に力を籠めて、静かに言い放った。
「ぶっ飛べ」
そして、左掌で無ジンノヤイバの柄尻を押す。
カチンと乾いた音がした――次の瞬間、仮面の者の胸元で、目映いばかりのマゼンタ色の光の奔流が溢れ出し、その身体を真っ直ぐ後方へと弾き飛ばしたのだった。
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